ハッピーフライト(talk)

2008・11公開
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

夢:かつて、田辺さんがこんなにメディアに登場したことがあっただろうか!(笑) 
翔:本当に凄かったよね、「笑っていいとも!」や「お笑いレッドカーペット」にまで出てたから。(笑)
夢:制作に絡んでいたフジテレビだけじゃなく、他のテレビ局にも まんべんなく出てたし。
翔:それはもう「矢口史靖監督」のネームバリューの賜物に他ならないと思うけど。 なにせ『ウォーターボーイズ』とか『スウィングガールズ』とか、インパクトの強いヒット作を連発していたから、次は何か、という期待は、メディア側も相当大きかったみたいで。
夢:何年も待たされてたから、なおさら、次はどういう映画だろう、っていう期待が膨らんでた、ってのもあるよね。
翔:その2作品から、新しい魅力的な若手が映画界に躍り出た ということも大きかった。 妻夫木聡くんとか、玉木宏くんとか、上野樹里さんとか、貫地谷しほりさんとか、のちに、ドラマや映画の主役を張れるようになる若手俳優さんたちを、たくさん排出したから。
夢:あ~そうだね。
翔:映画の内容も、高校生がみんなで夢中になって頑張って練習して、最後にその成果が示される、それを、実際に演じている俳優たちが同じように練習して演じる、ある意味、ドキュメンタリー的な意味合いもあって、そこに、軽い笑いがまぶしてあって、誰が観ても楽しめ、感動出来るものになっていたし。 そういう流れの上での、この映画(ハッピーフライト)に対する期待感というのもかなり大きかったんじゃないかと思う。
夢:あと、綾瀬はるかさんの魅力、ね。(笑)
翔:確かに。(笑) キャスト陣の中で、実際のところ一番ネームバリューのある(より多くの人が認識し人気もある)のは綾瀬さんだろうし、旬の女優さんを表に出して宣伝しよう、と考えるのは当然だったかもしれないけど・・・ 
夢:うん。
翔:ただ、あれだけ前宣伝に綾瀬さんを使ったわりには、彼女の役は、主役というほどの大きなものではなかったので、彼女目当てで見に来た人には物足りなさがあったかもしれないし、映画の前宣伝で 綾瀬さんのコミカルなシーンがたくさん使われたことで、 映画そのものを軽いコメディとして観るような素地が出来てしまったような気もする。
夢:うん。
翔:ANA全日空)の全面協力、というのも、この映画には欠かせなかったんだろうし、それがなければ、ここまでリアリティのある画は撮れなかっただろう、とも思うけれど、映画が公開される前から、あまりにもメディアやANA周辺のお祭り騒ぎが大きくなり過ぎて、矢口監督が持つ、いい意味での映画へのしろうとっぽい遊び心と、かけ離れてしまった印象を受けたのも確かで。
夢:・・・・・・・・
翔:全国公開の映画である以上、矢口監督の作品である以上、ヒットさせなければならない、という気持ちがあったんだろうけど、それが全体的に空回り(からまわり)してしまって、実際に映画を観た人の多くが、違和感を持ってしまう結果になったんじゃないか、と。
夢:・・・・・・・・
翔:もし、この映画が、「真面目でちょっと楽しいお仕事ムービー」として控え目に前宣伝されていたら・・あるいは『ウォーターボーイズ』の時のように、公開後に口コミで評判がひろがって行くような、そんな宣伝の仕方をされていたら・・評価は、もうちょっと違ったものになっていたかもしれない。 
そういった商業的な喧騒に巻き込まれてしまったことは、この映画にとって、少し残念なことだったように、私には思えたんだけどね。
夢:う~ん・・まぁ 翔の言いたいことも分かる気がするけど・・あたしは、普段出ないような番組にいっぱい出てた田辺さんを観て、けっこう楽しんだけどなぁ。(笑)
翔:・・・・いや、それは私も・・確かに楽しんだには違いないんだけど・・(笑)
★    ★    ★
夢:まぁ、そんなこんな、周囲の事情や思惑がいろいろあって、振り回された感があったとはいえ、映画そのものはすごく面白かったよね。
翔:そうだね。 今回観直してみて、改めて、本当によく出来た「お仕事ムービー」だなぁ、と思った。 普通は、恋愛とか事件とかの周囲に仕事がある、という感じだけど、この映画は、飛行機に携わる仕事そのものが中心になっていて、考えてみたら、そういう映画とかドラマを、今まで観たことがなかったなぁ、と。
夢:今、TVドラマや映画では、刑事ものとか医療ものがブームになっていて、そういうのもお仕事ムービーって言えるんじゃないかと思うんだけど、そういうのとは違うの?
翔:いや、全然違う。 刑事ものや医療ものというのは、ほとんど、事件や事故が最初にあって、それを解決して行く道筋の中で、警察や医療の抱える問題点や、それらの仕事に携(たずさ)わる人間の苦しみや悩み、あるいはもっと、個々のパーソナリティが持つ人間性・・等々を描こうとしてるんじゃないか、と思うんだけど、でも、この映画は、矢口さんが、登場人物ひとりひとり・・それこそほんのちょっとしか出ない人の背景まで、実に細かく設定していたにも関わらず、それそのものが映画に表立って出て来ることがなかった。
夢:パンフレット読んで、本当にびっくりしたものね、こんなに細かい設定が出来てたのか、と。(笑)
翔:でも、確かに、読んでいて、なるほどなぁ、と思わせられた。 各々が仕事をして行く中で、設定が自然と滲み出て来るように、ひとりひとりの言葉や、態度や、表情や、衣装や、持ち物や、そういいったものが、実に念入りに作り上げられていたから。
夢:うんうん。
翔:CGの使い方にしても、前2作はギャグのところで使うことが多かった・・つまり、あえて嘘っぽい作りにして笑わせる、という確信犯的なところがあったんだけど、今回は、飛行機が飛ぶシーン、タイヤが機体に納まるシーン等、実写で撮れないところをCGを使ってより理解しやすくする、という、きちんとした目的意識の中で使われていて、そういうところで遊んでいない。
夢:あ、そうか・・
翔:で、それは、登場人物も例外ではなくて。 お笑いの要素もあちこちにあるんだけど、出て来る人間がギャグとして笑わせる、ふざけて笑わせる、というところは、まったくなかったように思う。 ここにある「笑い」は、すべて仕事との関係上にあって(未熟さゆえのアクシデントとか、熱心さゆえの空回りとか)、「笑わせよう」という気持ちが先立った感じはほとんどしなかった。
夢:う~ん・・・
翔:唯一、と言ってもいいぐらい意図的に「笑わせよう」としていたのが、綾瀬さんがお客(笹野高史)のカツラを直すシーンだったと思うんだけど、そこばかりがTVで流れたものだから、そういうおふざけ満載の軽くて面白い映画だと思った人も多かったわけで。
夢:実はあたしもそう思った。(笑)
翔:やはり、宣伝段階で、映画のどこをアピールするかを間違えていた気がするんだなぁ・・
夢:・・・そうかぁ・・・
翔:この映画の中で 仕事に携わっている人たちは、皆、仕事に対する、真面目さ、熱心さ、愛情、が根底にある。 どんなチャランポランなヤツでも、おっちょこちょいでも、我が強くても、気弱でも、その一番大切なものがちゃんと伝わって来たし、仕事の緊張感と、フッと気を抜く弛緩のバランスが絶妙だったように思う。
  だから、鈴木(田辺誠一)にしても、あんないい加減なヤツがパイロットでいいのか、という怒りや不満はあるかもしれないけれど、多少笑いの要素を入れてあるとしても、それは誇張じゃない、逆に、もっともリアルな姿なんじゃないか、と、今回観直して、改めて感じたところで。
夢:うん。
翔:だって、パイロットが、全員、一点の非の打ち所もない人しかなれないとしたら、それこそ怖いよね。 ファジーな部分、ゆとりを持った部分、が、緊張した部分とうまく噛み合えることが、プロと言えるんじゃないか、と思う。
夢:うんうん。
翔:一流のエンタティンメントとして楽しく観せ(魅せ)ながら、きっちりと伝えたいことは伝えて行く・・・そのあたりを、矢口監督は、前2作よりもずっと丁寧に、深く、きっちりと表現していたんじゃないか、という気がするんだけどね、私は。
★    ★    ★
夢:さて、そんな中での田辺さん。
翔:もう、顔の丸さ加減から何から、パーフェクト! だった。(笑)
夢:顔の丸さ!(笑)
翔:あごのあたりがふっくらしてて・・
夢:そうそうそう!(笑)
翔:でもね、田辺さんがツイッターで、役によって体重を10キロ程度の振り幅で増減させている、と書いていたことがあって、それを読んだ時に、文字通り「役の輪郭」まで変えて来る、そういう外側からの役作りが、抵抗なく自然と行なわれていることに、何だか鳥肌が立ってしまって。 
で、この鈴木にしても、どこかぼっちゃん臭さが残ってる・・甘さや、浅さや、軽率さや、そういうものを持っている・・その雰囲気が、もう、その輪郭や全体のシルエットから すでに滲み出ていて、きっちりと 矢口監督の求める「鈴木和博」になっていたのが、本当にすごいと思ったから。
夢:ファンとしては、決して嬉しい「輪郭」じゃなかったけどね。(笑)
翔:ファンはね、私もそうだけど、いつも、ビジュアル的に美しいものを求めてるんだよ。 これはもうどうしようもないことで、そういう考えを改めなければならない、とも思わないし、逆に、田辺さんに美しいものだけを求めることは出来ないしね。
夢:もう、本当に、悔しいくらいどんどんオモシロ系に行っちゃうんだもんなぁ。 あの容姿を持っていて、何故?という、ファンとしての欲求不満は確実にあるけどね。
翔:いや、だから、そこで収まらないのが、田辺誠一という俳優の魅力でもあるわけだし・・
夢:もったいない、とは思わないんだよね、翔は。
翔:思わない。 だって、求められれば、ちゃんと柿崎みたいな「いい男括(くく)り」のところに戻って来てくれているんだから。
夢:そうかぁ・・・
翔:だから、私にとっては、あの柿崎(@肩ごしの恋人)という役はすごく大きかったんだよ。 ビジュアルはもちろん、心の揺れや表情を すご~く繊細に表現してくれたことも含めて、あんなふうに柿崎を演じることが出来るんだ、という確認が取れている、というところで。
夢:なるほどね~。
翔:この鈴木にしても、今話した 外見 ってところだけじゃなくて、中身の作り方がまた見事で、本当にこんなヤツの操縦する飛行機に乗って大丈夫なのか、と、観客にかなりの不安を持たせた、というのは、矢口監督の狙い通りだった、ということじゃないかと。
夢:不安持たせ過ぎ、って気がしないでもないけどね。あんなコーパイいないぞ!って、ちょっとしたバッシングもあったし。
翔:でも、どこか考えが甘い鈴木にしても、要領よくやろう、とは思ってるけど、決して逃げようとしているわけではない、そういうところがちゃんと感じられるように描かれていたのは確かだと思うし・・
夢:・・・・・・・・
翔:まぁ、田辺さんだけじゃなくて、例えば綾瀬はるかさんの役にしても、誇張が入り過ぎている、と思った人が多かったみたいだけど。 でも、さっきも言ったように、同じコーパイでも、同じCAでも、本当にいろんな人が居る・・全員がパーフェクトな性格で、一部のスキも乱れもなくて、何も失敗をしない・・そんな職場なんてないでしょう。
夢:・・・・・・・・
翔:いろんな人がいるんだ、いていいんだ、パイロットもキャビンアテンダントも、みんな人の子で、間違いをすることもあるけど、それをフォローするシステムがきっちりと出来上がっている、そういう多くの人たちの手を借りて飛行機は安全に飛ぶ・・・その、認め、助け合う「協調心」と、ほんのちょっとした「ゆとり(遊び心)」と、自分の持ち場に対する「プライド」と「愛」が、それぞれの職場できっちりと「仕事」として昇華されて行く、そのあたりがすごく気持ちよく描かれていたように思うから。
夢:う~ん、なるほど。
翔:訓練も、上司やお客さんに怒られることも、みんな無駄じゃない、自分の肥やしに換えられる、そういう人こそが、プロになって行くんだろうと。
夢:うんうん。
翔:それって、どんな職場にも当てはまることなんじゃないかなぁ、と思う、それこそ、俳優という職業にも。 そして、矢口さんは、自分の映画に、そういう人を選ぼうとしてると思うんだけどね。
夢:そうかぁ
翔:映画監督というのは、基本的に、自分の作品ありき、なわけで、インタビューなどで矢口監督の映画の作り方を聞くと、自分が作り出した役にあてはまる俳優をオーディションで見つける、という、こだわりぶりで。 だから、俳優の個性よりも、役の個性を大切にして、よりリアリティを感じさせるキャスティングになっていたんだと思う。
夢:派手さはないけれど、ね。(笑)
翔:確かに。(笑) だけど、俳優の人気に頼らないで、自分の想いをそのままの形で伝えたい、という監督の気持ちも、すごくよく分かるんだよね。それはもう監督の姿勢の問題なわけだから。
そういう意図が、このキャスティングには色濃く出ていたように思うし、監督の思い通りの色に染まって役を演じようとすることで、俳優それぞれの その人らしさや 魅力が、逆に、ちゃんと出ていたようにも思う。
夢:うん。
翔:そんなふうに考えると、矢口監督に選ばれて、鈴木和博という役を、おそらく監督の思惑どおりに、あるいはそれ以上に、自分にピッタリとフィットさせて演じた 田辺誠一という俳優に、私はまたも降参の白旗をあげざるをえなかったわけで。
夢:丸顔でも?(笑)
翔:いやいや、だからこそ。(笑)
夢:そうかぁ、なるほどねぇ・・・
翔:自分が役をどう演じたいか、ということより、まず、監督がこの役を通して伝えたいものは何か、というところに心を砕いて、その想いに添って演じようとする、その、監督とのコミュニケーションやリスペクトが、すごくいい形になって出ていたように思うんだよね、田辺さんだけじゃなくて、すべてのキャストに、そして、作品全体に。
夢:うんうん。
翔:そういう作品に、主役として参加出来たことは、本当に大きな財産になったんじゃないか、という気がする。 映画をイベントとして扱った中で、いろんなことをさせられた・・数え切れないほどのメディアに出たり、飛行機を引っ張ったり・・なんてことも、決して無駄ではなかったのかもしれないし。(笑) 
夢:そうだねぇ、これほどのお祭り騒ぎなんて、もう二度とあるかどうか分からない体験だものね、田辺さんにとっても、そしてあたしたちにとっても。(笑) 
翔:(笑)
夢:それに、「主役」って、本当に素敵な響きだしさ。(笑)
翔:確かに。 やっぱりいいよね、たまには・・主役・・・
夢:うんうん!!