ヒットメーカー阿久悠物語(talk)

2008・8・1放送(日本テレビ系)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
   

夢:いや~やっぱり面白かったわ、このドラマ。
翔:ものすごく歯ごたえがある、というか、しっかり作られている、というか、フォーカスがきちんと絞られていて、安心して観ていられた。
夢:そうだね。
翔:「ここを観て欲しい」という部分が、作り手側にちゃんとあった気がする。 だから、スジがきっちりと通っているように感じられたんじゃないかと思う。
夢:うん。
翔:今回、このドラマを観直して思ったのは、今この時代に生きている私たちは、何か、決定的なものを失いつつあるんじゃないか、ということ。 便利になって、楽になって、単純になって、だけど、そういう中で、必死になって、がむしゃらに喰らいついて、権力や時勢に逆らってでも、噛み付いてでも、自分の信じる何かを認めさせたい、という、「情熱」のようなものが・・そういう歯ごたえのある「精神」みたいなものが・・今は希薄な気がするんだよね、世の中全体の空気として。
このドラマは、そういう「今の人たち」に、ノスタルジーだけではない、強くて熱いメッセージを伝えているような気がしてならなかった。
夢:そんな 何かしらのメッセージを持たせつつ、実在の人物をドラマ化する、しかも、エンタティンメントとして成立させる、というのは、難しかったんじゃないかとも思うんだけど。 今回は、当時の映像も交えて、ということだったから余計に。
翔:実際の映像を、ドラマ部分とどういうふうに絡(から)めるか、というのは、本当に難しかったと思う。 だけど、金子修介さんの演出は とてもスムーズで、すんなりと 気持ちよく 楽しんで観ることが出来た。
夢:うんうん。
翔:私たちは、『スター誕生』をリアルで観ていた世代なので、山口百恵さんとか、ピンクレディーとか、あの当時の彼女たちが歌ったり話したりしているのをTVを通して何度も観ていたから、その役を他の人がやる、ということで、かなり違和感があるかなぁ、と覚悟していたんだけど、ほとんど引っ掛かることがなかったものね。(笑)
夢:(笑)何なんだろうねぇ・・そのあたりの「納得させられてしまう感じ」っていうのは・・・
翔:まずは、監督を初めとするスタッフの情熱だと思う。 セリフだけでなく、動きだけでなく、「あの時代の空気を伝えたい!」という強い想いが、画面を通してひしひしと伝わって来たし、アイドルと呼ばれた彼女たちの周囲にあるもの・・たとえば、衣装、メーキャップ等から、スタジオセット、壁に貼ってあるポスターに至るまで、細部までとことんこだわって作られていて、観ていて本当に楽しかった。
夢:うん。
翔:時間制限があるから、アイドルたちひとりひとりを、深いところまで丁寧に掘り下げて描くことは出来ていないし、正直もうちょっと突っ込んで描いて欲しかった、と思うところもあったんだけど、ドラマ全体の空気の密度が濃いから、そのあたりの弱さも、全部カバーされてしまっていた。
夢:なるほど。
翔:そんな彼女たちをアイドルに育て上げようとする人間たち・・・その軸になる「阿久悠」という人物も、周囲の人たちも、非常に魅力的だし、彼らが生きたあの時代がまた、ものすごく熱を帯びて、新しい何かを生み出そうとするエネルギーに満ちていた。 そういった「時代の熱い空気」を、田辺誠一さんを始め、及川光博さん、内田朝陽さん、池内博之さん、榊英雄さん、黄川田将也さん、青山草太さんら20~30代の俳優さんたちが見事に作り出していたことが、本当に興味深かった。
夢:そうだね~。
翔:スタッフの情熱の渦に、役を演じた彼らも進んで飛び込んで、さらに大きな渦を作って、全体でうねりのようなものを生み出して・・その相乗作用みたいなものが心地良かった、と言ったらいいか。
夢:うん。
翔:その「熱」の中心にいたのが、田辺さんだったわけで。
★    ★    ★
夢:阿久悠さん役を田辺さんがやると聞いた時は、本当にびっくりした。 ビジュアルからしてまったく違うし。でも、実際に観たら、まったく違和感なかったよね。
翔:私たちのように、リアルにあの時代を経験している人間にとって、阿久悠さんがどんな人物か、というのは、その容姿にしても、考え方や生き方にしても、まだ記憶の中にしっかりと残っている。 そういう私たちが観ても、本当に自然とすんなり入り込んで行けた。
夢:うん。
翔:田辺さんって、マンガ原作のドラマで役をもらうことも多くて、そういう作り物めいた世界で 役の心情にリアリティを持たせるのがすごく上手(うま)い。
夢:うんうん。
翔:マンガの登場人物を演じる場合は特に、その役にどう近づいて行くか、役の何を捉え、何を演技の中に溶け込ませて行くか、そのアプローチが真摯で真剣でなければ、視聴者(観客)は嘘くささを敏感に嗅ぎ取ってしまう。 そうならないために、自分が演じている役を強引に納得させてしまう必要があるんだよね。
夢:うん。
翔:で、今回の阿久悠という役は、実在の人物だけど、視聴者それぞれの中にイメージが出来上がっている、という点では、マンガのキャラを演じるのと近い感覚があるんじゃないか、と、私は最初そう思ったんだけど・・・でも、ひょっとすると違うのかな、と。
夢:え?
翔:田辺さんって、マンガキャラを演じる場合、ビジュアル面で、ある程度 視聴者を納得させてしまうことも多い。 沢木晃にしろ、速水真澄にしろ、滝川幸次にしろ、蓮實滋人にしろ、遠峰一青にしろ、少なくとも「見た目」で、原作ファンから大きな不満が出ることは あまりなかったように思うんだけど。
夢:そうだね。
翔:たぶん、スタッフにとっても、そのあたりの狙いがけっこう大きいんじゃないか、という気がする。 とりあえず ビジュアルを重視して、役に似た風貌の田辺さんを使う、という考えも、少なからずあるんじゃないか、と。 原作ファンをある程度納得させる、というのは、かなり重要なことには違いないから、スタッフの思惑というのも分からなくはない。
夢:うんうん。
翔:ただ、田辺誠一という俳優さんは、ちゃんとおとなしくそこで・・マンガの中で出来上がってしまっているキャラと同じところで・・収(おさ)まっている俳優さんじゃなかった。(笑)
夢:・・・・・・・・
翔:実際に役を演じている田辺さんを観ていると、そのキャラクターのイメージを、どこかで裏切っている。 見た目は似ているのに、中身は別物になって行くんだよね、いつのまにか。
夢:ああ・・・確かに。(笑)
翔:マンガを実写化する、という非現実的な世界の中で、田辺さんが作り上げたキャラクターが、そうやって原作を裏切って行くことで 現実味を帯びて来る・・ 観る側が、三次元の人間として素直に共感を寄せられるような「人間らしさ」が芽生えて来る・・ そのあたりというのは、田辺さんのファンとしては、非常に面白くもあり、興味深いところでもあるわけで。
夢:うんうん。 
翔:あ、もちろん、裏切る、というのは、悪い意味じゃなくて、その役をリスペクトした上で、演じ手として役をさらに掘り下げる、ということだと考えていいと思うんだけど。
夢:うん。
翔:で、今回の阿久悠さん・・・私は、今話したみたいなマンガキャラ的アプローチで役作りをするのかと思っていたんだけど、今回はそういう意味での「裏切り」はなくて、極力みんなが抱いているイメージに近い形で役の輪郭を作り、気持ちを入れて行ったように思う。 
夢:・・・・・・・・
翔:スタッフにしても、田辺誠一阿久悠役に抜擢するには、それなりの不安もあったはずなんだよ。 本人とまったく似ていない、というリスクを科(か)した上で、それでも田辺さんを使いたいと思った、そのあたりの経緯というのも、すごく興味深いんだけど。
夢:それは、あたしもすごく興味があったなぁ、演出の金子修介さんや、キャスティングプロデューサーの吉川威史さんの存在も含めて。
翔:そうだね。 そういうスタッフの期待に応えるべく、田辺さんが、演じ手として阿久悠さんに肉迫して行く・・ 外見を似せるのが難しい中で、阿久悠さんの「気持ち」を 裏切らずに作って行こうとする・・ そういった、「観る者を裏切らない‘役の気持ち’の作り方」 を揺らぎなく確実にしたことが、また、さらに、田辺誠一という俳優の間口を広げたんじゃないか、と、そんなふうにも思うんだよね。
夢:・・・う~ん、あたしにはちょっと難しい話だけど・・(笑)
翔:ああ・・ごめん・・・
夢:いえいえ、いつものことだから。(笑)
翔:(苦笑) たぶん、田辺さんって、イマジネーション(想像力)がすごく豊かな人なんじゃないか、と思う。 だから、ひとつの役を与えられた時に、その背景にあるものを、いろんな角度から、たくさんたくさん想像して、人物像に肉付けして行って、役を作り上げているんじゃないか、と。
夢:うんうん。
翔:天才肌の俳優さんというのは、たぶん、そんなことをしなくても、閃(ひらめ)きで役を瞬時に捉えることが出来るんだろうと思う。 いつも、どんな時も、どんな難しいものでも、役が、自分の中に、自然とストンと納まってしまう、みたいな。
夢:・・・・・・・・
翔:だけど、田辺さんはそうじゃないと思う。
夢:天才じゃない、と。(笑)
翔:・・・失礼なことを言ってるように聞こえてしまうかな・・(苦笑)
夢:いやいや、面白いよ。あくまで 翔の妄想、ってことだからね。
翔:そう受け取ってもらえると話しやすい。
夢:うん。で?
翔:イマジネーションの豊富さ、というのは、田辺さんは、若い頃から持っていたと思う。 
夢:俳優だけじゃなくて、監督をやったり、クリエーターとして物を作ったり、というのも、そういうところから来てるのかな、もしかして。
翔:そうだね、そういうふうに いろいろなことをやって、しかも一定の評価を得ている、ということでも、それを窺(うかが)い知ることが出来るわけだけど。 俳優としても、そういったイマジネーションを生かして役作りをしていたんだと思う。
夢:うん。
翔:ただ、若い時には、それを演技に十分に生かすだけのスキルがなかった。
夢:スキル・・・技術ってことね。 翔は、以前にもそんなこと言ってたよね。
翔:うん。 だから、すごく頭でっかちに役を捉(とら)えていたことも多かったように、私には感じられたんだけど。
夢:だけど、今は違う、と。
翔:数年前ぐらいから、豊富なイマジネーションに演技力が追いついて、観ていて不安になることがなくなって・・・
夢:うんうん。
翔:で、このドラマの頃には、さらにステップアップして、どんな無理難題にも高いレベルで対応出来る、そういう俳優さんにシフトしつつあったんじゃないかなぁ、という気がして。
夢:どんな無理難題にも高いレベルで対応出来る・・かぁ・・
翔:俳優・田辺誠一にとっての2007~2008年というのは、そういう 「確実な力」 を手に入れた年だったんじゃないか、と・・
夢:・・・・う~ん・・なるほどね~・・面白いよ、翔のその妄想。(笑)
翔:2008年以降の役のラインナップを考えるとね、そんな幸せな妄想を抱いてもいいのかな、って気がするので。(笑)
夢:うんうん。
翔:繊細さと、力強さと、相反するものを内在させて、役によって自由に強弱をつけられるようになった・・そんな田辺さんには、もう怖いものはないんじゃないか、という気がするし、だからこそ、田辺さんの俳優としての現在、そして、これからというものに、ますます強く惹かれてるんだよね、今の私は。
夢:・・・いや~「田辺ラブ」だねぇ! 常に田辺さんにケンカを売ってた翔が、ついにその魅力の前に平伏(ひれふ)した、って気がするけど。
翔:・・・・・いや、もう 昔から何度も平伏してるけどね・・(苦笑)
夢:あ!・・そりゃ確かに!(笑)
翔:・・・全面降伏してるみたいで、何だか照れくさいやら悔しいやら・・
夢:うははは~~! まぁ、また辛辣な翔が戻って来る時もあるんじゃないか、って気もするけどね、案外早い時期に。(笑)
翔:あ~、もう、肝心のドラマトークが・・。 ミッチー(及川光博)や金子監督の話もしたかったのに・・・
夢:まぁ、いいじゃないの。 このドラマに関しては、初見の時に、すごく詳しい感想を書いてるから、それを読んで下さい、ってことで・・
翔:すみません・・・(苦笑)
夢:はいはい、早く『ハッピーフライト』のトークに行こう!(笑)
翔:・・・・・了解です。(笑)