今さら『刑事7人』(シーズン9)感想

2023年6月からTV朝日系で放送された「シーズン9」の、今さらながらの感想です。

今回は、メンバーそれぞれが専従捜査班で刑事を続けて行くことへの悩みを抱えている、という設定。青山(塚本高史)は英語の勉強を始め、海老沢(田辺誠一)は妻のファンシーショップを手伝い、路敏(小瀧望)は内調への移動を打診され、そして天樹(東山紀之)も「刑事を辞めようと思っている。理由は身体の問題、キャリアの問題‥刑事に没頭する日々は終わりにすると決めた」と日記に記します。

《ポリス浄化ぁ》という警察の内部告発がネットに投稿され、その容疑者の一人に片桐(吉田鋼太郎)の名が。拓海(白洲迅)は、正木主席監察官(山田純大)から片桐の内偵をするよう命じられます。
(捜査班室でのメンバーのわちゃわちゃの会話に和みます。今回は、こういうのが あまりなかったのが ちょっと寂しかった)

江戸川区で殺し。被害者の下松(宮川一朗太)が元刑事だったことが分かります。
解剖後、海老沢(田辺誠一)が堂本(北大路欣也)に刑事を辞めようか相談するんですが、眼がきゅるんきゅるんして、信頼している相手を前にしたワンちゃんみたいでかわいかった。(田辺さん、最近目上の人に絡むようなこういうポジションあまりなかったので何だか新鮮)

10年前、江戸川区の火災で山岡夫妻(山口大地篠原真衣)が死亡、平成最大の殺人鬼と呼ばれ2か月前に死刑執行された鶴見達男(柳憂怜)からその事件の自供を引き出したのが下松元刑事だったことが判明します。
鶴見関連の3件の強殺事件のうちこの事件だけ手口が違うことに疑問を持つメンバーたち。

唐突に挟まれる、地震、がれき、火事の描写‥そして、盲目の望月和沙(山崎紘菜)という女性を片桐が気にかけているのはなぜか‥今のところ謎が多過ぎて、観ているこちらとしてはなかなか思考が追いつかない‥

下松殺しの最も有力な容疑者だった宝来の他殺死体が発見されます。
和沙から電話をもらい、会いに行く天樹。火災事件の時 現場にいた和沙が、それ以後何度か命を狙われたのに警察は取り合ってくれない、と、夫の修斗堀井新太)は不信感を募らせます。
路敏が、《ポリス浄化ぁ》に晒(さら)された動画の4人全員が10年前の火災事件に関わっていることに気づき、片桐がその事件を担当していたことも分かりますが、メンバーは片桐から「事件には近づくな」と釘を刺されます。‥でもまぁ 素直に言うこときいて おとなしくしてる人たちじゃないですよね。

天樹の同期でもある鑑識の岡崎(藤本隆宏)は、当時を思い出し、火災で物証がほとんどない中、何度も現場に足を運んで鶴見の毛髪を見つけた、と。
堂本の解剖により、下松と宝来殺しの犯人は別人、左利きと右利きであることが判明。

下松殺しの犯人は浜崎修斗。下松は10年前の火災事件の犯人を知っているはずで、その話を聞きたかっただけ。もみあって下松が持っていたナイフで刺してしまった、と言う修斗に、天樹は、「あなたはなぜ10年前の事件の真相を知ろうと思ったんですか。《ポリス浄化ぁ》もあなたですよね、どうやって警察内部の情報を手に入れたんですか」と尋ねるも、彼は答えません。

上部からの命によって、新専従捜査班は本件の捜査からはずれることに。
とは言え、あっというまにひとつの殺人事件が解決。早かったですね。
ここまではいつもの『刑事7人』という感じなのですが、実はまだこの先に深い事件の真相が隠されていた、と。捜査班は、捜査をはずされた宝来殺しを最後までずっとひきずることになります。

池添(有薗芳記)という男が自宅庭で殺されます。
ピッキングして盗みに入った近藤という男が疑われますが、証拠がない。実証する物が何もないと言われた鑑識の岡崎がもう一度近藤の家を捜査、被害者の血痕を見つけます。
証拠を突きつけられ、近藤は自分が殺したと自白。しかしその証拠は岡崎によって捏造されたものでした。
「本当に池添さんの血痕はあったのか⁉」と岡崎を問い詰める天樹ですが、「あったからこうして解決したんだ。近藤は自供もした、紛れもない犯人だ。おまえの生ぬるい正義で近藤を捕まえることが出来たのか」と逆に問われ、答えられなくなります。

岡崎が証拠を捏造した、と《ポリス浄化ぁ》に晒されます。あいかわらず警察内部の情報が筒抜けになっています。
そんな折、弁護士の末永(朝倉伸二)が殺される新たな事件が。
8年前の大量毒殺事件(通称・レモネード事件)、岡崎がその証拠を見つけたのですが、犯人とされた福地陽子(須藤理沙)は最後まで否認を続けるも獄中死、その弁護をしていたのが末永でした。
陽子の逮捕以来いじめに遭っていた息子・俊介(深澤嵐)が、殺される直前の末永と会っていました。
「優しくて頑張り屋の母親だったのに、本当のことを誰も報じてはくれなかった。世間は疲れ果てた母を追い詰め、おかしなまねをさせて喜んでいただけだった。《ポリス浄化ぁ》の動画がありもしない証拠をでっちあげた岡崎を告発してくれた。調べると言った末永さんが殺されて、今度は僕が疑われて‥警察は俺を捕まえて岡崎がやったことを見逃すんだろ! 母はもう帰ってこない。せめて母の無実だけは晴らしてやりたい」
俊介の言葉を重く受けとめ、8年前の事件を調べ直すメンバー。走り回って地道に調べるのがいいです。(あいかわらず「地道」が好きな自分)
やがて、恋人との仲を邪魔されたと思い込んで犯行に及んだ真犯人が捕まります。
う~ん、このあたりはちょっとあっさりし過ぎな気もしますが、重要なのは、誰が真犯人かではなく、獄中死した福地陽子が冤罪だったことであり、どのような経緯で彼女に罪がかぶせられたのか、ということなので、仕方ないのかな。

岡崎は天樹に「おまえは悔しい思いをしたことはないか、証拠さえあれば犯人を逮捕出来るのに、犯人はすぐそこにいるのにどうすることも出来ない。だから俺は‥」と言いますが、天樹は「その正義は間違っていた!おまえは取り返しのつかないことをしたんだ!」と糾弾。
天樹は、岡崎の部屋に盗聴器が仕掛けられているのを見つけていました。「おまえは何者かに監視されていた、お前の正義は危険だと判断されていたということだ。10年前の事件も本当に鶴見の仕業だと言えるのか、答えてくれ、岡崎!」しかし無言の岡崎。

岡崎が捏造した証拠は、彼個人の欲や悪意によって生まれたものではない、あくまで真犯人を逃げられない立場に追い込むためのものであり、不正を糺(ただ)したい、という気持ちからのものだった‥だとしても、結果として、8年前の事件で罪のない福地陽子を犯人としてでっちあげ、彼女とその家族を不幸のどん底に陥れることになってしまった。
本来「法律のみが罪を裁くことが出来る」とされる領域に、自分勝手な正義感を振りかざして土足で踏み入った岡崎は、自分もまた、大きな罪を背負うことになったわけです。

――岡崎を観ていて思ったこと。少し話が逸れますが‥
自分の内から湧き出る正義感が、本当に歪(ゆが)みなく正しいものなのかどうか、自分でジャッジするのはとても難しいですね。自分の考えや行動は常に正しい、という自信は、違う角度から見れば、どこかに驕(おご)りの気持ちがある、とも言えるかもしれない。
実際、過去に似たような事件があって、その時の、犯人を過剰に攻め立てるマスコミにも、それに便乗して好き勝手なことを言っていた(自分を含めた)世間の無責任さにも苦い思いがあったのを思い出しました。

今、いつでもどこでも自由に自分の考えや気持ちを発信出来る私たちも、自分は正しい、という考えに常にクエスチョンの気持ちを持たないと危うい気がします。
当事者でない者が公の場で自分の考えを発すること・・そこまでは言論の自由の範囲内であったとしても、そこから自分の想像だけで事実と決めつけたり、まして相手を安易に糾弾し追い詰めることは、正義でも何でもない。
本当の正義=個人が抱く正義感、ではないのですよね。
さまざまな事件ごとに湧き上がる直接関係ない人々の無責任な正義‥SNSやいろんなところで、それは今も続いている‥ここまで何度も繰り返された「正義とは何か」という天樹の問いは、彼自身だけでなく、観ている側にも投げかけられている、重い問いでもある気がします――

岡崎が自殺したと監察官の焼津(泉澤祐希)から上司の正木主席監察官に連絡がもたらされます。正木は、遺書があればすぐ処分しろと焼津に命じます。

鶴見の日記が消えていたことを知るメンバー。
《ポリス浄化ぁ》に名前が晒される片桐。しかし、当の片桐は意に介した様子もなく、痴漢事件を調べるようにと。何か意図があるはず、と関係者を当たるメンバーたち。
すると、痴漢事件で捕まった水島(小松和重)が、利根川開発に勤務していたことが分かります。10年前の事件と関連があるのでは?と疑う天樹たち。
片桐が休暇中に会っていた男、10年前に刑事を辞めた里中(酒向芳)。彼から利根川開発の情報を買う片桐。
天樹は里中と会い、刑事を辞めた理由を聞きます。「触れてはならないものに触れてしまった。誰かにとって水島は不都合な人間だった。それが何かは分からない。10年前の事件をあんたたちに捜査させるわけにいかないのは、あんたたちに調べさせれば俺みたいに飛ばされたり、へたすれば殺される恐れもあるから。あいつなりにあんたたちを守りたいんだよ」と。

10年前の火災事件、捜査本部が解散した矢先、何度も調べたはずの火事の現場で岡崎が鶴見の毛髪を見つけ、鶴見は自供。
里中は納得出来ず疑問を呈しますが、直後に移動の辞令が下ります。里中は辞表を出し、同じ疑問を抱いていた片桐は刑事として留まる覚悟を決めたのだ、と。
片桐から「触れてはいけないものに触れてしまった以上、後戻りは出来ないぞ」とクギを刺される捜査班のメンバーたち。

水島釈放。10年前、火事があった土地の買収の件で、何かあったらしいが詳しいことは分からないと。
片桐は《ポリス浄化ぁ》の首謀者ではなかった。なぜ彼を内偵しなければならないのか、正木に切り込む拓海。しかし、この先も監視を続けろと言われるのみ。

このあたりから、シーズン9全体を貫く一つのドラマに一気に練り上げられていく感覚がありました。
いつもなら、メンバーの誰かがそれぞれメインになる回があって、ちょっと空気が緩むというか、柔らかになるというか、色味の違う空気が生まれていて、観ているこちらもうまく息継ぎが出来ていたように思うのですが、今回のシーズン9は、一貫して緊迫した重い空気に覆われていて、正直しんどかったけれども、いつもと違った観応えもあったように思います。

天樹がある裁判で出会い、自分に似た危うさを持っているようで気になっていた井出孝也(田中樹)が遺体で見つかります。彼は鶴見の裁判を担当した秋下検事(浜田学)と中澤判事(奥田達士)の裁判を傍聴していました。
孝也の出身地・茨城に向かった天樹。12年前の大規模災害でそこには何も残っていませんでしたが、展示されていた写真に手掛かりが。

井出孝也の過去。
災害で母を失い、離婚していた父からは自分を引き取れないと言われ、死のうとした時、傘を差し出してくれた和沙‥
山岡夫妻、望月和沙、浜崎修斗、井出孝也‥彼らは家族を震災でいっぺんに失っており、やまお食堂‥皆そこで出会っていました。
私、実はここで何気なく画面に映り込んで来る一人の少年が気になったのですが‥のちのち関わって来ることに。

「味噌汁、どう?」と尋ねる山岡、家族になれるかどうか問われていると感じた孝也は「おいしい」と。おいしかったけど、お母さんのと全然違う味だった。お母さんの変わりはいない。
‥このあたりは、突然妻と子を失った天樹の喪失感と繋がりがある感じですね。天樹が孝也にシンパシーを感じたのも、むべなるかな。

山岡夫妻が東京に戻るのをきっかけに 和沙・修斗・孝也も上京、山岡の店を手伝いますが、食堂が火事になり、山岡夫妻殺人の犯人として鶴見が死刑に。その2か月後、修斗が下松を殺すという事件が。

報道で事件を知った孝也は、夫妻殺しの裁判を担当した秋下と中澤を追及、しかし、中澤から再審は難しいと言われます。
「死刑が終わってるから?」と尋ねますが、「再審に足るだけの証拠を集めるのが難しい。現場に行けば分かります」と言われ、8年ぶりに現場を訪れると、開発が進んでいて まったく違う場所になっていました。
昔自分がいた場所が分からない。そのことは、今自分がどこにいて何をすべきかも分からなくさせた。無意味に生きるだけの時間は長い‥という言葉が、孝也の行き場のない浮遊感を表しているようで、なんとも切ない。(田中樹さんの全身から伝わる空気の色がずっと ぶれなくて、なおさら苦しかった)

孝也のいた詐欺グループのリーダー三沢を逮捕。しかし、孝也殺害についてはシロ。
迷宮入りになるかもしれないけれど、堂本に まだやるんだろ、と言われる天樹。
「父親には見捨てられ、母親を災害で亡くし、頼った夫婦は殺され、自らはチンピラに落ちて、最後は命さえも奪われた、そんな男に俺はメスを入れた、何のためだ、なんで死ななきゃならなかったのかを知る為だ。なんで死ななきゃならなかったのか、というのは、何のために生きたのかを分かってやるってことなんだ。固く握りしめた掌に深く爪が食い込んでいた、強く奥歯をかみしめた痕があった、最後の最後まで何か強い思いがあった証拠だ、何かを成し遂げたかったと思う証だ。その思いが何だったのか、被害者に寄り添ってそれを探り出し、生かされてきた命の尊さを見つけてやるのが、刑事の仕事なんじゃないのか?」—――堂本のこの言葉が、シーズン9全体を通じた天樹の疑問へのひとつの答えにもなっていた気がします。

《ポリス浄化ぁ》の正体をつきとめる、と正木に宣言した拓海。
出世の最短ルートと言われる内調移動を蹴る路敏。最短ルートなら自分で見つけると。
班全員、警察人生終わるかもしれないリスクを背負い、討ち死に覚悟で事件を追うことに。‥うーん、このあたりはちょっとかっこよすぎたかなぁ・・

3年前、雑踏の中で犯人の声を聞いた、という和沙。
その場に立つ天樹、ラジオの音声。当時の番組を和沙に聞かせると、その声にまちがいないと。
そこから、利根川開発創始者利根川巌(山田明郷)の次男・寛二(阿部進之介)が浮かび上がります。会社は、下松や やまお食堂とも関わりがありました。
寛二に会って任意同行を求めますが、「記憶の中の声‥それって証拠になるんですか。令状あります?」と言われ、引き下がざるをえません。
しかも、亡くなっている父親は、警察上層部とも繋がりがあったことが分かります。

巌の長男・宗一(渡辺大)は、現・利根川開発の社長ですが、巌の妻の連れ子で、巌がかわいがっていたのは寛二の方。寛二は、入社早々やまお食堂があった土地の開発に携わり、リバモ江戸川を建設するため、地権者との交渉をしていました。

≪ポリス浄化ぁ・最終回≫は鶴見の冤罪について。山岡夫妻を殺したのは鶴見じゃない、証拠のノートがある、と。
その頃、和沙を見守るもう一人の人間の存在に気づく天樹。
足で捜査を続けるメンバー‥そこに重なる「永遠に終わらないパズルはない。途方もない作業だと何度心を折られたとしても、その手を止めなければ、ピースはひとつひとつ繋がって行く。完成に近づけば近づくほどその勢いは増して行く」という天樹の声。

地道な捜査によって、利根川開発所有の空き店舗で宝来の遺体から発見されたものと同じ絨毯の毛や孝也が握っていたストライプのビーズが見つかるも、宝来や孝也を寛二が殺したという明確な証拠にはならない、と片桐。

捜査班室に盗聴器をしかけていた焼津に、天樹は逆に罠をかけ、彼をおびき寄せます。
焼津は不当な捜査の監視のため、と言いますが、実際は山岡夫妻の復讐のため情報を集めようとしていました。彼も震災当時両親を失い、やまお食堂を手伝っており、山岡夫妻は恩人でした。
和沙は火事を引き起こしたことで山岡夫妻を自分が殺したのでは、と焼津に相談。
警察官になり、鶴見の日記を手に入れた焼津は、鶴見はあの事件の犯人ではなく、担当していた捜査員の誰かが嘘の供述をするように仕向けた‥と修斗に話し、やがて《ポリス浄化ぁ》が生まれることに。

青山たちは利根川寛二を見つけ、土地買収交渉について尋ねます。 山岡を殴ったことは認めるも、犯人はとっくに捕まって死刑になってる、なんで今さら‥という寛二に、われわれはあなたが犯人だとは思っていない、と。

山岡夫妻を殺したのは寛二の兄・宗一。
寛二の暴力沙汰が公になれば利根川開発の信用は地に落ちる。結果を残さなければならなかった宗一は、やまお食堂に向かった。警察に通報するつもりだった夫妻を殺し放火、すべての罪を寛二になすりつけられると踏んでいた。
父である巌社長は警察の正木に働きかけ、隠蔽に動いた。
利根川の後ろ盾で出世した正木は、自分の観察下にいた下松に、同じ時期に逮捕された鶴見に罪を着せることを命じる。
宗一は、汚れ仕事をさせていた宝来が自分を訪ねて来たことで彼を殺害、孝也も殺した。
和沙の持っていた山岡のリストバンドから宗一の汗が検出。
宗一は寛二も殺すつもりだった。
‥パタパタパタとスピーディに謎が解けて行きます。

「和沙は光を失い、修斗は捕まって孝也は殺された。俺だけが無傷でいいはずがない。この手で親父さんたちを殺した人間を、それを隠蔽した人間の命を奪わないと」と言う焼津に、「孝也さんは丸腰だった。彼が命を賭してまで成し遂げたかったのは、10年もの間復讐に囚われ続けているあなたを止めること。山岡さんや仲間たちが繋いでくれたその命をあなたはもっと大切に生きなきゃいけないんです」と天樹。そうか、孝也は焼津の行動を止めたくて動いていたのか‥

こうして10年越しの事件は解決。
震災が絡んでいるせいか、正直、私には重くてちょっとしんどかった。
特に、孝也が、やまお食堂があった場所に行っても何もなくて、「昔自分がいた場所が分からない。そのことは、今自分がどこにいて何をすべきかも分からなくさせた。無意味に生きるだけの時間は長い‥」というモノローグはズシンと響きました。
でも、ドラマとしてその重み(喪失感)が表現出来ていたのは良かったことだと思うし、単純に悲しいとか辛いとか軽々しく声高に扱ってもらわないで良かった、とも思います。

結局、天樹は刑事を辞め、捜査班のメンバーの前から姿を消します。
そして、畑仕事をする天樹の姿——

最後に来た男は誰なのか‥という疑問は残りますが、この放送以降の東山さんの立場を考えると、軽々に続編を作るとは考えにくいでしょうね。天樹自身は、今後、刑事という重荷を下ろしたことで、逆に何かを掴むことになるのではないか、とも思うのですが、それを見届けることが出来ないのが残念です。
個人的には、天樹不在となった新専従捜査班にアメリカからキャリアアップして帰って来た水田環(倉科カナ)が着任‥なんてことにはならないだろうか、と思ったりもするのですが‥

田辺さんのファンとしては、年を追うごとに、海老沢という役にも、チームにも馴染んで来ていたように思うので、もう少し続けて欲しかったです。子供どころか孫までいる設定だったり、楽しそうな家族でもあったので、そのあたりのエピソードを広げる機会が得られなかったことが心残りでした。
昨年から捜査班に入った路敏の活躍ももっと観たかったし、毎回のエピローグでのみんなとのわちゃわちゃ飲み会も、出来ることならもうちょっと観ていたかったなぁ。


『刑事7人』(シーズン9)    
放送:2023年6月7日 - 8月9日 毎週水曜 21:00 - 21:54 全9話 TV朝日系
脚本:森ハヤシ 吉本昌弘 徳永富彦  
監督:兼﨑涼介 柏木宏紀 星野和成 宗野賢一 
音楽:奈良悠樹
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子テレビ朝日
プロデューサー:山川秀樹(テレビ朝日) 石田奈穂子(テレビ朝日
和佐野健一(東映) 
制作:テレビ朝日 東映
出演:東山紀之 田辺誠一 小瀧望 白洲迅 塚本高史
山田純大 泉澤祐希 山崎紘菜 堀井新太 田中樹 
吉田鋼太郎 北大路欣也 他
公式サイト

今さら『らんまん』感想

2023年4月3日からNHKで放送された朝の連続テレビ小説『らんまん』の、今さらながらの感想です。

2023年度前期・朝の連続テレビ小説
日本の植物学者・牧野富太郎をモデルとした、長田育恵さんのオリジナル作品。
主人公の槙野万太郎を神木隆之介さん、その妻・寿恵子を浜辺美波さんが演じました。

まず、脚本が本当に素晴らしかった。朝ドラは長編なので共同脚本ということもあったりするのですが、この作品は最初から最後まで長田さん一人で書き切っており、それゆえの、ブレのなさみたいなものが、ドラマの芯としてしっかり出来上がっていたような気がします。

また、朝ドラで主人公が男性というのは少ないのですが、この作品に関しては、万太郎の一途に前に進む力が半端なくて、その推進力に吸い寄せられるように集まった人たちがそれぞれ自分の物語を紡(つむ)ぐ、と言ったらいいか、槙野万太郎という木を取り囲み、その木を育みながら自分自身も成長して行く人々を描くことで、ひとつの大きな「らんまん」という世界を作り上げて行ったように思います。
寿恵子が 主人公である万太郎と肩を並べるようなヒロインとしての魅力を発揮したのをはじめ、姉である綾夫婦をはじめとした実家の人々、研究室の先生や仲間たち、長屋の人たち、草花の採集や本の制作に手を貸してくれた人たちみんな、それぞれに個性的で惹かれるものがあり、ドラマがあり、深みがあって、観ているこちらも一人一人に素直に感情移入することが出来た、それが本当に嬉しかったし楽しかったです。


序盤、大政奉還の頃、ということで、勝手に『青天を衝け』(2022年の大河ドラマと繋げて観ていました。(万太郎の子供時代を演じていたのが青天で渋沢栄一の子供時代を演じた小林優仁くんだったのも嬉しかった)
そのせいか、初週からグッと引き寄せられるものがありました。
子役たちが非常に良い味を出していたのですが、特に酒造りに惹かれながら女というだけで蔵に入らせてもらえない綾(高橋真彩)の気持ちが非常に鮮明で、何度も感情移入してしまいました。
身体の弱い万太郎の世話係を引き受けながら、密かに綾を慕う竹雄(南出凌嘉)も切なかった。

幼い頃から草花が好きだった万太郎(小林優仁)は、学問所である名教館に通わせてもらい、花に名前があることを知り、学ぶことの意味を知ります。さらに、学頭の蘭光先生(寺脇康文)から、「文字の知識を超えて本物を手に取って初めて自分だけのもんに出来る」と教えられ、見た目、匂い、手触り、味‥そういう確かめ方もある、と気づきます。
時代は大きな変革期。「身分がなくなった時、残るのは己(おのれ)じゃ、道を選ぶのは己じゃ」という言葉が幼い万太郎の心に響く中、そこからいよいよ大人キャストへ‥

第3週は、私にとって神週でした。
早々に名前が出る里中先生(いとうせいこう)と野田先生(田辺誠一)に、きゃ~っ♡とワクワクが止まらず。

東京の勧業博覧会に峰屋も出品することになり、めずらしく乗り気の万太郎(神木隆之介)。実はそれには理由があって‥
博覧会のために竹雄(志尊淳)と上京した万太郎は、本当の目的である博物館へと向かいます。
あれ‥野田先生と万太郎って、こんなに早く出会ったんだっけ‥
ともあれ、そこで「標本」の存在を知った万太郎。標本を’ぶーちゃん’と’たまちゃん’と言う野田先生が、めっちゃかわいいくてキュートでたまらない。相棒の里中先生もかわいい。ああ、癒される‥ そんな二人に万太郎が加わって、もう大盛り上がり!
そんな3人のわちゃわちゃに入れない竹雄がまた‥ん~ほんと切ない。

「草のことは遊びです」と言う竹雄に、一瞬にして厳しい表情になる万太郎。「私は若にお仕えしてるんじゃなく峰屋の当主にお仕えしちょるんやき」と竹雄。二人のあいだにちょっと亀裂が入ってしまった感あり‥で苦しくなる。
でも結局 万太郎に顕微鏡買ってあげちゃうんだよなぁ‥このあたり、ほぼ主役な竹雄。(うん、竹雄も大好きよ、私)
で、結局仲良く牛鍋食べる二人‥でしたが‥
支払した後、突然姿を消す万太郎。子供の頃のトラウマがあって、懸命に探す竹雄。
わざと隠れてふざけておどかした万太郎に、「困っちゅうがですき。わしは峰屋の番頭の息子。わしがお仕えしゆうがは、峰屋のご当主じゃき。けんどこんなに腹が立ってぐちゃぐちゃになるがは、あんただからやき。子供のころ、わしが二度と離れん誓うたがはあんただからやき」と本気で怒る竹雄。「ごめんちゃ‥ちゃんとした当主になれんで。わしやち分かっちゅうがじゃ‥」と万太郎。
いやもうここは泣けましたね。
主従関係でありながら、身分を超えた親友でもある二人‥それぞれに、自分の立場に苦しみ、もがき、気持ちをぶつけ合う‥
その後、最後にもう一度だけ‥と、博覧会場の出店に行き、最初に会場に行った時に言葉をかわして気になったけれど もう二度と会えないだろう、と思っていた寿恵子(浜辺美波)を見つける万太郎。「若、行って来てください。ご縁があったいうことですき」と送り出す竹雄。
ぐちゃぐちゃになった二人の心に一筋の光が射すような、この時の寿恵子の笑顔がもう本当に素晴らしかった!
気持ちを伝えず戻った万太郎は、ため息をついて、「東京は遠すぎる、もう来ることもないき」と。
そこに追いかけて来てお土産を持たせる寿恵子‥いやもう、この微(かす)かにかろうじて繋がった細い糸に、私も本当に縋(すが)りたくなりました。

佐川に戻り、祖母・タキ(松坂慶子)に、植物研究をやめる、と言う万太郎。植物学はこの国はまだほんの赤子。あまりに情けのうて嫌いになりました、と。
竹雄は、「若が峰屋を放り出したら、わしらはどうしたらえいがですか。若はわしらを捨てるがですか」という東京でぶつけた言葉が万太郎を追い詰めたのでは、と悩みます。ほんといい奴だ。
今度こそ真面目に峰屋の仕事に励む万太郎。
竹雄の言葉から、万太郎の本心を読むタキ。そして、綾(佐久間結衣)と万太郎に、二人が本当の姉弟ではないと語り、夫婦になれ、と。(ここで、母・ヒサ(広末涼子)が生きていた時のタキとの会話の不自然だった意味を悟る私)
「犠牲になるがはわし一人でたくさんじゃ」と、竹雄に告白を勧める万太郎。「今言わんと姉ちゃんはどうなるか分からん」「わしは奉公人!お嬢様とは立場が違いますき」「おまんがただの奉公人やったらこんなことは言わん。おまんじゃき!ずっと一緒に育って来た。東京で言われたことをそっくり返すわ」東京でのやりとりの返歌みたいになっていて、胸に迫ります。

新しい酒造りに力を貸してくれた幸吉(笠松将)に好意を持っていた綾は、彼に会いに行くも嫁がいることを知り、行方不明に。足取りを追って高知に向かう万太郎と竹雄。
そこで、「われらは皆自由と言う権利を持つ」と熱く演説する早川逸馬(宮野真守)に出会い、自由とは何かを尋ねる万太郎。「誰でも自由に生きる権利があるんやったら、当主でもおなごでも望んだ道を好きに生きられるがじゃろうか」と。

逸馬の紹介でジョン万次郎(宇崎竜童)と会い、「一生は短い、後悔はせんように」という言葉を貰った万太郎は、「植物学が好きながじゃ、諦めたらきっと後悔する。わしの命がついえてしまう。わしが生まれてきたがは峰屋のためじゃない、植物学のためながじゃ」と綾と竹雄に打ち明けます。そして、「自分は峰屋のために生まれて来た」と言い切る綾と、お互い選んだ道を悔やまないこと、と約束。「お二人は前だけ向いちょってください。後ろはわしがおりますき」という竹雄。手を繋ぐ三人が、数日前よりグンとたくましくなったように見えます。

佐川に帰った万太郎は、タキに、「わしを勘当してください。東京に行かせてください。わしに出来ることを果たしたい、何者がかになりたいがよ」と宣言します。
綾が、峰屋を継ぐという決意表明をしたのも、気持ちよかった。
万太郎からは一人で大丈夫と言われ、綾からは万太郎を助けてやってと言われ、居場所を見失いそうになる竹雄。
この先はおまんが自分で決めたらええ、とタキ。
何もない自分だけれど 子供の頃から持ち続けた二つの大切な想いがある、と気づき、綾に「好きじゃ」と告白する竹雄。そして「わしにとって一番大変な道を選びましたき」と万太郎についていく竹雄。
いや~好きだわ、竹雄。(何回目?‥いや実はこの先も何度もw)

上京後、いろいろあって、十徳長屋におちつく万太郎と竹雄。長屋の人たち、落語に出てくる人みたいで、みんな魅力的。
中でも、彰義隊の生き残り・やさぐれ倉木(大東駿介)がいい。
たかが雑草にどうしてそこまで‥という倉木に、「雑草という草はないき。名が見つかってない草なら、わしが名付ける。草花に値打ちがないらぁ人が決めつけな!どの草花にも必ずそこに生きる理由がある、この世に咲く意味がある」という万太郎の言葉に心動かされる倉木。
その後、ぼろ長屋で「峰屋は若の財布じゃない」を唱和する竹雄と万太郎が、なんともかわいい。

一方、後に万太郎の妻となる、和菓子屋「白梅堂」の看板娘・寿恵子が、八犬伝オタクで大の馬琴好き、という設定がこれまた秀逸。“推し”なんて言葉が、この時代、このシーンで出てくるとは!

田邊教授(要潤)のはからいにより東大植物学研究室に通うことが許された万太郎は、学生の波多野(前原滉)と藤丸(前原瑞樹)に出会います。
大学に入るのも大変だったし、い続けるのも大変、(小学校中退で簡単に教授に受け入れられた)あなたとは違う、と波多野。よそ者、と呼ばれ、皆からうっとおしがられるようになる万太郎。
西洋料理屋「薫風亭」の給仕として働き、女性客の人気者になっていた竹雄は、万太郎の愚痴を聞いて、「若は峰屋を捨てたがじゃないですか。研究室のお人らはさぞご苦労されて大学の門をくぐられたがでしょ。けんどわしは、捨ててきたもんの重さなら若はひけをとらんと思っちょります。若は覚悟をもってここにおるがでしょ」スパッと切れ味鋭いことを言います。その言葉に救われる万太郎。

不完全な標本から1枚の紙に草花の一生を描く万太郎、興味を示す田邊教授。
長屋の住人・堀井丈之助(山脇辰哉)の助言で、植物学の雑誌作りを目指すことに。
日本中の植物の名を明かし、植物図鑑を作るという夢を見つけた万太郎。

一方、寿恵子は、鹿鳴館に行って玉の腰に‥と言う叔母・みえ(宮澤エマ)に、「なんで女の幸せが男の人にしかないの?」と鋭いツッコミ。
寿恵子の母・まつ(牧瀬里穂)も「男にすがって生きて行くような娘にだけはしたくない」と言います。
高藤(伊礼彼方)主催の音楽会。寿恵子のドレス姿を見て 改めて好きという想いが募る万太郎、そこからの恋バナ、万太郎の背中を押す長屋の女性たち(りん/安藤玉恵・えい/成海璃子・ゆう/山谷花純)が自然でいい。

「この国で植物学を始めるという一刻を争う仕事、わしは全力で走ります。出来るだけの速さでまっすぐ走って、お嬢様を迎えに来ます。間に合わんかったら、ご縁がなかったもんときっぱり諦めます」
万太郎なりの背水の陣、それが高藤と対等に争える権利であり、唯一の武器だとでも言うように。
そして大畑印刷所にたどり着きます。

本物に見えるくらい正確な図版を作るため、大畑印刷所で働き、技術を教えてもらう万太郎。本気度マシマシです。
印刷所で働くことを反対する竹雄に、前に進みたい、と頭を下げる万太郎。
「若が前に進みたいがは分かります。けんど、張り詰めちょったら速う走ることらあ出来ません。健やかに楽しう笑いゆう方がよっぽど速う遠くまで行ける。若のえいとこは、にこにこしゆうところです。若が笑うたらみんなぁ笑顔になる。誰のことも幸せに出来る。ほんじゃき、ちゃんと寝て食べてピカピカ笑うとって下さい。それが若の全速力ですき」
いやぁここすごく好き!竹雄は万太郎の長所も弱点もみんな知ってるんだよなぁ。
若竹コンビ好きだったな、ほんと。

万太郎を待つ寿恵子。まつは「男の人のためにあんたがいるんじゃない、あんたはあんた自身のためにここにいるの」と。

格式のある白川家へ養女の話。跡継ぎを産めない妻を離縁の上、寿恵子を妻にするつもりの高藤に、ひるむ寿恵子。
竹雄が万太郎に知らせますが、「今のわしは何も持っちゃあせん、何者でもない。あの人が欲しいらぁどうして言える⁉ わしは植物学者として寿恵子さんを迎えに行きたい」「何をもって植物学者と言えるがです。店を構えるわけでもない、ただ名乗るだけのことですき」「名乗るき、わしがわしを認めたら!」
「わしがわしを認めたら」――植物学を愛し寿恵子を愛するがゆえの、自分への妥協を許さない固い意志に、万太郎らしい筋の通った強さを初めて見た気がします。

ようやく納得のいく1枚が刷れ、万太郎は植物学会報誌の図版の印刷を正式に注文、雑誌が完成します。
画家の絵じゃない、植物学者の絵です、と教室の画工・野宮(亀田佳明)は言いますが、自分が雑誌作りを思いついたからこそ、と、手柄横取りの田邊。文句も言わずうなづく万太郎。
大畑夫婦(奥田瑛二鶴田真由)に仲人を頼む万太郎。
鹿鳴館で高藤と舞踏を披露する寿恵子。「日本はすぐに一等国に駆け上がる。私たちこそが民草を導いていくのです。寿恵子さん身分は気にしないで。あなたは生まれ変わる」と高藤。
「どうして生まれ変わらなくちゃいけないんですか。私のままでなぜいけないんですか。私好きな人がいるんです、だからもう行きます」と会場を後にする寿恵子。

「花が日差しを待つように、水を欲しがるように、わしという命にはあなたが必要ながです!わしと生きて下さい!」万太郎の一世一代のプロポーズ、一途で熱くてかっこよかった。
未だ何者でもない万太郎ですが、大冒険好きの寿恵子には はまったんでしょうね。「私、性根をすえなきゃ。あなたと一緒に大冒険を始めるんだから。図鑑必ず完成させて下さい。完結した物語は生き続ける、完結してなけりゃだめなんです」と。

峰屋に結婚の挨拶に来た万太郎たち。
病を隠して寿恵子とカルタをするタキ。
「万太郎さんと添いたいと願ったのは私でございます。よろしくお願い致します」と寿恵子のまっすぐな眼差し。
誰かに勧められたわけでもなく、万太郎から求められただけでなく、自分の意志で、ってことなんだよね。彼女もまた、自分の志をしっかり持っている人、それをきちんと表現出来る人です。

万太郎と主従関係でなく相棒になった竹雄は、「綾さんのことも主とは思わん。草花が好きすぎる万太郎の姉様で、酒が好きすぎる槙野綾さんじゃ。わしは、ただの槙野姉弟が好きすぎる井上竹雄じゃ。あんたのことが好きなただの男じゃ。大奥様も、万太郎も、あなたがじゃき託せるがじゃ」と。それに対して「井上竹雄‥呼んでみただけ」って言う綾、ここの二人の空気感、最高だったなぁ!

峰屋と馴染みの仙石屋の桜の病を、みんなの手を借りて調べます。自分は一人じゃないということを、身をもって悟り始める万太郎。野田先生の登場も嬉しかったな。

酒蔵の組合を作りたい、と奔走するも、女の蔵元・綾にとっては前途多難。夫婦になろうか、と竹雄に弱音。「しんから欲しい言葉じゃけんど、今の綾様から欲しくない。まっすぐに造りたい酒を貫く、それで滅びるんじゃったら滅んだらえい。はっきり言うとく、あなたは呪いじゃない、祝いじゃ。わしはそういう飲んだくれの女神さまに欲しがられたいがじゃ」いやぁもうもう竹雄~~っかっこいい! そして綾が「竹雄‥めんどくさいき‥」って~w 二人さいこーっ‼(思わず感嘆符連発w)

寿恵子の母・まつと文太(池内万作)、大畑夫妻がやって来ます。
万太郎と寿恵子の祝言
峰屋の一切を綾とその伴侶となる竹雄に譲る所存、と宣言する万太郎。
反対する親戚たちに、タキは、「家ちゅうがは何じゃろう。血筋・金・格式‥それよりも今ここにおるおまんらの幸せが肝心ながじゃ。この先を健やかに幸せに生きて行く、家の願いじゃのうて己の願いに生きていくことが‥この先は本家も分家もなく手を取りおうて商いに励んでほしい」と頭を下げるタキ。

万太郎、おまんはわしの希みじゃ、とタキ。
仙石屋の病気の桜、今は手の施しようがない、と万太郎。タキは、天寿がありますきのう、と自分の姿を重ねるようにつぶやきます。
若い枝で接ぎ木した病の桜が、若い者たちに後を託したタキの姿に被る――タキの死。
前編完結。という感じでした。改めて、タキの存在は大きかったです。

東京に戻り、田邊教授宅へ結婚の報告に行く二人。
教授の後妻・聡子(中田青渚)と友達になる寿恵子。
一方万太郎は、田邊から、「きみは植物と巡り合うことが出来る、しかし決して自分の手で発表出来ない」と言われます。
「学会には学歴という壁があり、東京大学に入るか、留学するか、しか道はない。だから私のものになりなさい。私のために新種を発見して来なさい、おまえは私にすがるしかない!」と。
一方、聡子から語られる教授の一面は、かわいらしい枕のエピソード。
この二面性が教授の複雑さを物語っているんじゃないかと。
出世欲や名誉欲といった単純なものじゃない。さまざまな才能があって、それを認められているのに、万太郎のように、これ、という一途に突き進めるものが見つけられない、その飢餓感のようなもの、満たされないもの‥
田邊の厳しい言葉に打ちひしがれる万太郎。こんなに植物を愛して、その研究にすべてを捧げているのに‥一方で ひどいと思いながら田邊の気持ちも無下には出来なくて‥なんだかこちらも胸が痛くなりました。

(教授という)岩に穴をあけるのは一人じゃなくてもいいんでしょ、と寿恵子。
アメリカに留学するため万太郎に挨拶に来た名教館時代の学友・佑一郎(中村蒼)も、万太郎の苦境を知り、「博物館を訪ねてみろ、訪ねて行く先があるゆうことも自分の財産(たから)じゃき」と励まします。
博物館の里中に、「わしが学者として認めてもらえる道はないがですか」と尋ねる万太郎。里中から、本を出せばいい、と言われ、天啓を受ける万太郎。

止めるだけじゃなくて背中も押したい、自分に何が出来るか、と考える寿恵子。
万太郎さんの図鑑見てみたい、私も一緒に叶えたい、石版印刷機を買うことは出来ないか、と大畑夫婦に相談する寿恵子。
峰屋から預かったお金を使ってしまったらもっと苦しくなる、でも、今、万太郎さんが入用なら‥
このあたり、ほんとに思い切りがいい。冒険家だよね、寿恵子は。
波多野・藤丸と一緒に長屋に来た大学の講師・大窪(今野浩喜)も、研究に参加したい、初めて植物学を学びたいと思った、と。
万太郎が大窪と共同研究することを、徳永助教授(田中哲司)が許します。
怒る田邊に、「情けを受けたのはこちら。槙野はこれが植物学教室の実績となってもいいと譲ってくれたんです」と徳永。
大窪と苦労して新種ヤマトグサを発見する万太郎。
1か月後、石版印刷機が届きます。版元に払うお金が必要だからとドレスを質に入れる寿恵子。
倉木も、「おまえもおまえの戦をしてるんだろう?」と、万太郎が引っ越して来た時に預かった 100円を渡します。「施しじゃねえぞ、お前が戦うためにその金を渡すんだ。俺は万太郎に救われた」と。

トガクシソウを伊藤孝光(落合モトキ)がイギリスの雑誌に発表、田邊の名を冠した学名が発表出来なくなり、田邊は、植物学者としての唯一の拠り所を失ってしまいます。
「そこまでして新種発表とか名付けとか競わなきゃいけないんですか、誰が発表したって花は花じゃないですか、僕はそんな争いしたくない‥」と藤丸。優しいんだよね、彼は。
「辞めたら勘当される、大学どころか親も失うよ、けど俺、これ以上あそこにいたら窒息するんだ、万さん助けてよ‥」と言う藤丸に、「自分の特性を探す、徹底的に人のいないところを探す。人がいなければ争いにはならんき。弱さもよう知ったら強みになる」と万太郎は休学を勧めます。「藤丸くん、逃げるんじゃなくて、探しに行くんだね」と ゆう。

図譜第2集が出来上がります。野田先生・里中先生~大喜び。あいかわらず癒されるなぁ、この二人。
田邊は野宮に万太郎レベルの植物画を求め、それが出来ないなら出ていけ、と言い放ちます。
途方に暮れる野宮に波多野が手を差し伸べて握手するシーンがとっても素敵だった。
今は見えない物をいつか描く、万太郎にも出来ないことをやろうとする‥波多野が藤丸のいない寂しさに押しつぶされそうになりながら、野宮と手を繋ぐのが、なんとも胸アツでした。
こういうところ(主人公に直接絡まないサイドストーリー)が本当に深いんだよな、この脚本。

万太郎と採集旅行に行った藤丸。「万さんにとっての‘名付け’は教授や伊藤家の孫とは性質がまるで違う。万さんはただ愛したいだけなんだ」と悟ります。
「この教室には顕微鏡の奥の世界を精密に描ける画家が必要。植物画家として槙野を雇って欲しい」と改めて田邊に直訴する野宮。
万太郎が偶然見つけたムジナモを研究室に持って行くと、田邊から、植物画もつけて論文を書くように、と勧められます。
お、やっと歩み寄ることが出来たのか、とホッとしたのに‥
ムジナモを載せた雑誌に、田邊の名がない。教授と共著の形にしなければならなかった、と大窪。
自分が万太郎に負けたこと、周囲の者が皆それを認めていること‥プライドをズタズタにされた田邊は、万太郎を植物学教室出入り禁止にしてしまいます。
う~ん、もう!何で肝心な時に田邊の一番痛いところをつついてしまうのかなぁ、万太郎は!
でも、これこそが、万太郎と田邊の対比として鮮やかに描き切ったところなんじゃないか、と思いました。二人がいったい何を望み、大事にしているのか、何が見えて、何が見えていないのか‥

「標本も世界各地から集めた書籍も私でなければ集められなかった。すべて東京大学のもの。君は土足で入って来た泥棒だよ。君の土佐植物目録と標本500点は大学に寄贈しなさい。教室の資料を使って本まで出したんだから、清算しなければ」と田邊。
万太郎は「日本で植物学をやるにはここに来るよりほかありません。東京大学が日本の植物学の心臓ですき」と、田邊に植物図鑑を出したい夢を語ります。すると、田邊は、自分も同じことをしようとしていた、君の夢とぶつかる、だから出入りを禁ずる。刊行をあきらめ私に尽くすなら考えてもいい、と。
万太郎の志を捻(ひね)りつぶし、「何物にも縛られない、私の魂は自由になった」と言う田邊が、何とも痛々しくて息苦しい。

どん底の万太郎は、どんな時もきれいな花が咲いちゅう、と、里中・野田に相談。博物館に通いたいと願い出ますが、大学と博物館は協力関係にあるから出来ない、と里中に言われます。
失意のうちに帰ろうとする万太郎に、野田が、「本当にね、君が好きだよ。だから友として言わせてくれ。君の才能を評価する人はほかにもいる。君を高く評価している人がいるんだ。ロシアのマキシモヴィッチ博士だ。君はまだ若い、いくらでも羽ばたける」と言います。「寿恵子は身重で幼い子もいる」と帰ろうとする万太郎に、「槙野くん、やめるなよ」と里中先生。
この3人のやりとりが、かすかな希望の光を生み出してくれたようで、何も解決してないんだけど、なんだか救われた気持ちになりました。佑一郎が言うように、相談出来る相手がいるだけでも救いになるんですね。
そしてマキシモヴィッチ博士からの手紙。ロシアに行きたい万太郎。寿恵子がこの大冒険に乗らないはずがない。条件として、ここで出産、母親に会う、私たちを離さないで、と。

佐川では、峰屋が酒を腐らせ、のれんを下ろすことに。
今までさんざん悪態をついていた親戚たち‥豊治(菅原大吉)は、「おまんは女の身で蔵元となった。けんど腐造は誰が蔵元じゃち起こったろう。おまんはこの峰屋を殿さまの酒蔵・峰屋のままで幕を引いた。ばあ様もご先祖もさぞ喜んじゅうじゃろう」
息子の伸治(坂口涼太郎)も「達者でのぅ」と、綾と竹雄を抱きしめる。ああもう、分家の連中にここまで泣かされるとは‥涙涙。

マキシモヴィッチ博士が肺炎で亡くなったという報せ。
絶望の底から、自分のコレクションを作る、という新たな夢を見出す万太郎。渡すものは全部渡してまた一から始めればいい、と寿恵子。

峰屋で腐造を出した詫びに綾と竹雄が来ます。「思いっきり挑んだ、やりたいことをやった、これはその結果じゃ」と綾。
綾と寿恵子が、お互い八犬士みたいだというのが素敵。二人ともりりしくてかっこいい。元気になってよかった。
綾たちが帰り、万太郎も採集旅行に出かけます。

田邊がモデルの小説が新聞に載り、心配で聡子を訪ねた寿恵子は、家に石を投げられるところを見ます。
なんで?と尋ねる田邊の子供たちに、「あの人たちはね、本当のことなんて何一つ知らないのよ。知らないのに、人に石を投げつけてるの。そんな人たちとお父様やお母様、どちらを信じる? 私はね、お父様がどれだけご立派か、お母様がどれだけお優しいかよーく知ってる。やましいことなんて何にもないのよ」と寿恵子。
このあたりは、いまのSNSにも通じる話ですよね。
帰宅した田邊は「こんな機会があれば聡子につけいることが出来る。槙野のために来たんでしょ」と。どんどん卑屈になっていくのが切ない。
「槙野に御執心なのはあなた様ではございませんか。あなたには腹が立っても、聡子さんへの気持ちは変わらない」ときっぱり言う寿恵子がかっこいい。
世間などこちらから捨てなさい、という田邊に、それでもおすえさんは私の友達です、と初めて抵抗する聡子。

植物採集旅行中、出会った山元虎鉄(寺田心)から珍しい植物を教えてもらう万太郎。植物の縁が生まれます。虎鉄からその先生、さらに縁が繋がり、多くの植物が送られてくるように。
丈之助から草花の名前を教える、という新聞広告を載せてみては、という提案。
長屋にも変化が。
丈之助が職を得て出て行き、ゆうと福治(池田鉄洋)が一緒になり新居へ、倉木一家が運送の仕事が決まって社員寮に。

そして3年後。子供が2人に。
借金取り(六平直政)が来ますが、「すべての植物を修める者がここにいるんです」と口車にのせ、さらに金を調達する凄腕を見せる寿恵子。万太郎が‘軍師’と言うだけあります。さながら諸葛孔明
一方、田邊は、帝国大学理科大学教頭の他、校長を二校掛け持ち、政府の仕事などもあって多忙を極めますが、後ろ盾の森有礼橋本さとし)が暗殺されるという事件が。

佑一郎が訪ねて来ます。農学校の教授になる佑一郎、すごいと言う万太郎に、「おまんじゃち凄いろう、昔からいっぺんじゃち草花に優劣をつけちゃあせんじゃったろう」「それぞれがそれぞれに面白いき」という万太郎に、「そう考えられることあたりまえじゃないき、この先もずっと変わりなよ」と。

文部省が突然女学校を廃止。校長である田邊には何も知らされず。荒れる田邊に、聡子が「旦那様は精いっぱい働かれました。でもそれがやりたかったお仕事ですか。今やっと旦那様の学問に戻れるのではありませんか。旦那様の好きなシダは、地上の植物たちの始祖にして永遠。旦那様が始めた学問には続く人たちがいます。あなたが始めたんです!」と強い信頼に満ちた言葉。聡子ありがとう、と植物学に戻る田邊。
田邊は学内の争いに敗れますが、「西洋の植物学者諸氏に告ぐ。もはや日本の植物学は貴殿らに後れをとるものではない、今後は日本人自らが自分で学名を与え発表するとここに宣言する」という日本の植物学史上に残る宣言を発表。

万太郎と田邊が、同じ花にめぐり合います。
二人とも、果実の標本がいる、と。
先に果実を手に入れた田邊が、新属新種であるとつきとめます。
「おめでとうございます、田邊教授」と万太郎。彼は祝福することが出来たんですね。
そして田邊は、やっと本当にやりたいことに全力でぶつかることが出来たんですね。

田邊溺死の新聞記事。
聡子が長屋に来ます。
「旦那様はお顔の広い方でしたけれど、お心に残っているのは槙野様だと。旦那様は生きようとされていた、私たちと」という言葉に何だかほっとしました。

寿恵子が、みえ叔母の料理屋で仲居で働くことを条件にお金を借りることに。
岩崎弥之助皆川猿時)とか『青天を衝け』を思い出すようなメンバーが出て来て、勝手に懐かしい気持ちになりました。
万太郎は、田邊の後に教授になった徳永から大学への誘いを受けます。

明治26年、万太郎は、7年ぶりに助手として迎えられ、植物学教室に戻ります。
徳永にドイツのことを聞くと、ドイツの植物学の中心は顕微鏡を使った解剖学だ、と。
大窪は、「野宮は今や顕微鏡の奥、倍率900倍の世界が描けるただ一人の画工兼植物学者だ。地べたを這いつくばる植物学は終わったんだ」と言います。
万太郎が台湾への学術調査団に推薦されます。「景気が良くなって研究費が増えるのはいいが、国のために働け、と言われる、だが私は君を選びたい」と、彼を推薦した里中先生。緻密な顕微鏡の世界だけじゃなくて、万太郎の泥臭くて熱くてがむしゃらな探求心も必要なのだ、と信じたかったのかもしれないです。

虎鉄(濱田龍臣)が、万太郎の助手になりたいと上京して来ます。
岩崎の紹介で、渋谷に待合茶屋を持たないか、と、みえから寿恵子に話が来ます。万太郎が大成すると信じているなら、あんたも一緒に駆け上がってみなさいよ、と。
3か月後、台湾から戻って来ると、万太郎は持ち帰った植物調査の報告書をまとめ始めます。
「わしは植物学に尽くす、ただそれだけ、この旅で、やるべきことがよう分かりました。わしはどこまでも地べたを行きますき。人間の欲望に踏みにじられる前に、すべての植物の名前を明らかにして、図鑑に永久に刻む」と。

綾と竹雄がやって来ます。
万太郎の身体を心配する竹雄に、「人間の欲望と競いゆう。わしは早(はよ)う日本中のfloraを解き明かさんといかん。この国のすべての植物を標本にして保管する。そして図鑑に永久に刻む」と、決意をきっぱりと告げる万太郎。
竹雄も、綾の夢を叶えたい、と。屋台で新しい商いを始める綾たちに、「酒造りの研究、俺がやりたい。必要とされるのいいなって。俺の今までの時間、何もなかったとは思いたくない、俺だって、何か果たしたくて」と藤丸が二人の夢に手を貸すことに。

万太郎は、波多野から、野宮が研究室を辞める、と聞かされます。野宮がイチョウの精虫を発見、波多野は論文を書け、と勧めたが、第一発見者が元画工、ということで、世界よりむしろ国内で認めないという声が大きくなったことで、辞めることに。
「農科大学の教授の話を僕は受けた、僕は野宮さんを見捨てたんだ」と自分を責める波多野。
野宮は、波多野に、「君が見たいと願うものを俺も見てみたかった、それだけだったんだよ。ここまで連れて来てくれてありがとう」と。
もう、この二人もとってもいいんだよなぁ!彼らが画面に出ていない時でも、彼らは彼らの時間をちゃんと生きている、苦悩しながら、夢を見ながら‥ワキの人たちにも、それぞれちゃんとドラマがあるところがとても好きです。
長屋に来た野宮が、新しい印刷機のことを聞いた、と話すと、誰よりもまず寿恵子が「私が欲しかったのそれです!」と興味を示します。

ここから寿恵子のターン。
渋谷のお店、古くて汚い、どうするか、歩いて観察して‥万太郎さんならきっとそうする、行こう、渋谷が私の横倉山になるまで――このあたりはもう、寿恵子の大冒険!って感じですよね。
そして、万太郎が採集旅行から帰って来ると、人と人とを繋ぐお仕事をこの町でやってみたい、と。

綾と竹雄が屋台を始めて5年が経ちました。
農科大学の波多野の教室に居候させてもらっている藤丸は、清酒酵母が発見されたこと、大学に醸造の教授が誕生したこと、「これから醸造の研究は飛躍的に進むはずです」と二人に話します。
「この先、根拠のない迷信は消え失せて行く」と万太郎。おなごは酒蔵に入っちゃいかん、と言われた少女時代を思い出して涙する綾。

南方熊楠という人物から、新種だと言って植物が送られて来ます。それは新種ではありませんでしたが、その熱量に万太郎は感動します。
しかし、深入りするんじゃない、と徳永の忠告。南方は正規の留学をしたわけでもなく学位もない、と。寿恵子が水商売をしていることにも大学側が難色。だからもう目立つな、と。
うーん、まだそんなことにこだわってるのかぁ‥

寿恵子が、早川逸馬と出会います。そして万太郎と再会。「自由とは己の利を奪い合うことじゃない。それやったら奪われた側は痛みを忘れんき。憎しみが憎しみを呼んで、行きつくところまで行くしかのうなる」と逸馬。「おまえだけが自由の極みじゃったのう、一人自分だけの道を見つけて‥」 しかし万太郎は、「大学の身分があるき、どこへ行ったち信用してもらえる‥心が騒ぎゆうがです」と大学の肩書を持つ自分に疑問を持ちます。「身分は大事か?わしは信用したがじゃ。たとえおまんが誰じゃち、その目だけで十分じゃったき」
そして、逸馬の紹介で資産家の永守(中川大志)と出会い、支援を申し出られます。
「伯父はこの国が世界に引けを取らない文明国になることに尽力していた。後を継いだ私には伯父の意志を継ぐ責任があります。陸軍に入る。憂いのないうちに伯父の意志を形にしておきたい」しかし万太郎は、永守が帰るまで待つ、と。先を照らす約束があるがはええのう、と逸馬。

綾たちと藤丸が沼津に移ることに。波多野と藤丸の別れ。「頑張るよ、自分で考えて‥試し続ける‥波多野がそうして来たみたいに」 波多野が、自分で染めたうさぎの手ぬぐいを渡すと、「語学の天才なのにさ、農科大学の教授様なのにさ‥へただな‥」
もう、観てるこっちが泣き笑いになっちゃうほど、このシーンめちゃくちゃ好きだった。綾と竹雄と万太郎と寿恵子が酒を酌み交わし、こぼした酒を拭いたのが峰屋の屋号を染めた手ぬぐいだったところも。

合祀令によって年明けから伐採の始まるという神社の森で見つけたツチトリモチ。「この子ををどうしても世の中の人々に伝えたい。発表するには大学の身分じゃと障りがある。ほんじゃき‥大学を辞めたい」と寿恵子に告げる万太郎。「わしは大学の人間である前に植物学者じゃ。人間の欲がどういう植物を絶やそうとしているのか、それを世の中の人々に伝えたい」

伐採でこれだけの植物が喪われようとしている、と、ツチトリモチを含めた熊野神社の森のfloraをまとめたものを徳永に提出し、さらに辞表を提出。「日本植物誌図譜と熊野のfroraを各所に送る。それは私一人の行動です」と、迷惑のかからないよう大学を去る万太郎に、徳永が、「この雪の消残る時にいざ行かな」と万葉集の一句を詠むと、「山橘の実の照るも見む」と下の句を返す万太郎。
(この雪が消えてしまわないうちに、さあ出かけよう。
やぶこうじの実が雪に照り輝くさまも見よう)

万太郎をしっかり認めてくれていた徳永。

明治の終わり、万太郎の娘・千歳(遠藤さくら)が虎鉄と結婚。
永守家の援助によりやっと図鑑完成間近となるも、関東大震災に見舞われます。
命からがら渋谷に逃げ延びた万太郎一家。
生きて根を張っちゅう限り花はまた咲く、と希望を捨てない万太郎、また一から図鑑を作り始めます。
「あなたは特別だから書けてあたりまえ、って思いたくない」と寿恵子。「わしは偉くも何ともない。こんな時にも生きちゅう植物を見たらほんまに嬉しくなったがじゃ。その嬉しさを誰かに渡して行きたい。きっと馬琴先生もそうだったのかもしれん。目が見えんようになっても頭の中に八犬士らがおって、その生き方、たどり着く場所、すべて見えちょった。その光景をみんなに渡したかっただけなのかもしれん」と万太郎。ようやくたどり着いた境地、ですね。
寿恵子は、自分の大願を果たすため店を売り、郊外に土地を買います。ほんと思いっきりがいいです。母や叔母の血を継いでるんだなぁ、と思う。

昭和33年夏、私・藤平紀子(宮崎あおい)を万太郎の娘・千鶴(松坂慶子)が出迎えます。遺品整理の手伝いをしてほしい、と。
紀子は、標本の判別、こんな重大な仕事とても‥と一旦は断りますが、「この標本、関東大震災や空襲から守って来たってことですよね。それを考えたら‥私帰れません。私も戦争を生き抜きました。次の方に渡すお手伝い私もしなくちゃ」と、千鶴と共に標本の整理を始めます。
ここに、万太郎の死後のエピソードをはさむことで、「誰かに渡す」というバトンが繋がったわけですよね。
こういうところも心地良いな、と思います。

昭和2年、帝国学士院会員選任された波多野が、万太郎に、理学博士にならないか、と話をもって来ます。大学を出ていなくても審査機関を通ればなれる。徳永名誉教授と波多野が推す、と。しかし万太郎は断ります。「大学にはさんざん不義理をしてしもうた。それにまだ成し遂げちゃあせん。日本中の植物を明らかにして図鑑にする、20歳に決めたわしの仕事じゃ。けんどその仕事さえ成し遂げちゃあせん」
「万さんは最高峰の植物分類学者なんだよ」と波多野。「槙野万太郎は自分の意志でここまで来たと思ってるんでしょ。傲慢だ。槙野万太郎は、時代なのか摂理なのかそういうものに呼ばれてここにいるんだ。僕と野宮さんも世紀の大発見をした。けどなんでその役目が僕らだったのかは分からない。けど僕は引き受けることにした、称賛と引き換えに学問に貢献する立場と義務を。理学博士になるんだ、槙野万太郎」と一歩も引きません。
寿恵子も、「理学博士が満を持して植物図鑑を出すとなったら、売れるじゃないですか、売れに売れて売り切れ御免の大増刷ですよ。理学博士になって下さい、そしたらこの国の植物学にあなたの名前が刻まれるでしょ。永遠に」いやいや、笑っちゃうけど、でもこれが寿恵ちゃんらしい背中の押し方なんですよね。

万太郎の講演。「植物にも人にもあらゆる生き物には限りがある。出会えたことが奇跡で、今生きることが愛おしゅうて仕方ない」と。
図鑑の完成を目指す万太郎は、力を貸して欲しい、と野宮に手紙を送り、解説文を虎鉄に頼み、佑一郎も図鑑の索引づくりを手伝い、丈之助まで。他にもいろんな人たち(急にムロさんが出て来てびっくりしたw)が手を差し伸べて、悲願に至る最後の坂を上って行きます。
病に臥せっていた寿恵子もまた、「差し入れ お母ちゃんが作りたい、そうしたらお母ちゃんも研究の一員になれたみたいでしょ」と言うのも彼女らしい。

竹雄と綾が新しい酒をもって万太郎の家に来ます。「輝峰」と名付けた、と。
みんなで飲む。明るい酒。こちらもやっと一歩踏み出せそうですね。

縁側で出来上がった日本植物図鑑を寿恵子に見せる万太郎。
そこには、池田蘭光、里中芳生、野田基善、田邊彰久、徳永政市、大窪昭三郎、波多野泰久、藤丸次郎、堀井丈之助、山元虎鉄、野宮朔太郎、の他、子供たち(千歳、百喜、大喜、千鶴)と寿恵子、そして幼くして亡くなった園子の名まで‥
ここは本当にジーンと来ました。図鑑に名前を入れなかったために田邊を怒らせた万太郎が、今、こうしてすべての人たちの名前を記す‥言葉は変かもしれませんが、万太郎の成長‥というか、心の広がりを見せられている気がして‥

3206種の草花‥らんまんですね、と寿恵子。
最期に加えた新種、スエコザサ、と名付けた。寿恵ちゃんの名じゃ、と。
じゃあ私、万ちゃんと永久に一緒にいられるんですね。
そして、
「約束ね、私がいなくなったら、いつまでも泣いてちゃだめですからね。万太郎さんと草花だけ。草花にまた会いに行ってね。そしたら、私もそこにいますから、草花と一緒に私もそこで待ってますから」

すっくと立っている花たち。そこに寿恵子の姿‥そして‥おまん誰じゃ‥万太郎の変わらない問い‥‥

――いやぁ、面白かった!
神木さんは本当に自分が演じる人物の芯をはずさない。今回も、槙野万太郎がそこに確かに生きていると思わせられた‥嘘のない真実のものとしてしっかりとこちらに伝わってきたように思います。あいかわらず凄い人だなぁ!
浜辺さんはいつもキラキラしていて、凛として涼やかで、何度その笑顔に救われたことか。一途な馬琴推しの姿に、長年推しのいる自分も力をもらいました。
また、志尊さん・佐久間さんはじめ 周囲の人々の生きざまがとっても鮮やかにくっきりと描かれていて、役にハマった俳優さんたちが、その生きざまを見事に表現してくれていたことに胸いっぱいになりましたし、総じて男性陣が優しく、女性陣がりりしくて、何だかそれも新鮮でした。
特に、序盤の綾と竹雄、中盤の田邊と聡子、終盤の波多野と藤丸と野宮‥もう彼ら一人一人の行為や言葉が好きで好きでしょうがなかった。

そんな中、出番としては本当に少なかったのですが、博物館の野田先生を演じた田辺さん、ファンとしてだけでなく、このドラマに思い入れを持った人間として、愛さずにはいられなかったです。
神木さんとは何度も共演しているのですが、あいかわらず この二人だからこそ生まれる距離感や醸し出す空気感が絶妙で、ほんとに楽しい。
特に14話は、田辺さんの独壇場と言うか、やりたい放題と言うかw、個人的に野田劇場と言っても過言ではなかったように思います。ほんと、こういうのがたま~に来るから、田辺推し辞めらんないのよねっ!
あと、88話。万太郎が大学の出入りを禁じられ、博物館の里中や野田に相談に来たところ。「本当に君が好きだよ、子供のころ私たちが手掛けた図を見てこの道に進んでくれた。いとおしいに決まってる。だから友として言わせてくれ」のところね。これ、万太郎のどん底の気持ちをどれだけ救ってくれたか!と思って、また田辺さんの表情がとっても雄弁で、一人でじんわりと胸を熱くしながら観ていました。
田辺さん、本当に「らんまん」の空気にしっくりと融(と)け込んでいるなぁと‥ファンとして、とっても幸せな時間をいただきました。嬉しく楽しかったです。


連続テレビ小説『らんまん』
放送2023年4月3日-9月29日 8:00-8:15 NHK
作・脚本:長田育恵 
音楽:阿部海太郎  オープニング:あいみょん「愛の花」
演出:渡邊良雄 津田温子 深川貴志 石川慎一郎 渡辺哲也
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子 浅沼利信 藤原敬
制作・著作 – NHK
出演:神木隆之介 浜辺美波
志尊淳 佐久間由衣 要潤 中田青渚 田中哲司 
寺脇康文 中村蒼 宮野真守 牧瀬里穂 宮澤エマ
今野浩喜 前原滉 前原瑞樹 亀田佳明   
安藤玉恵 大東駿介 奥田瑛二 鶴田真由 濱田龍臣
いとうせいこう 田辺誠一 広末涼子 松坂慶子 他
ナレーター:宮﨑あおい

今さら『女王の法医学 ~屍活師~3』感想

2023年7月3日20:00からテレビ東京系で放送されたドラマ『女王の法医学 ~屍活師~3』の、今さらながらの短め感想です。

今までの3作の中で、この作品が一番面白かったです!
過去2作は、田辺誠一さんのファンなのでどうしても村上刑事に目が行ってしまって、桐山ユキ(仲間由紀恵)との関係性を中心に観ていた感が強かったのですが、今回は、あまりそこに気を取られなくて済んだ、というか、二人の(おそらくは本来の)距離感がやっと掴めたというか、すごく自然な形で自分の中でストンと腑に落ちたところがあって‥
私が一番好きだったはずの村上のユキへの不愛想で嫌味な対応というのが 今回はまったくなかったのですが、もうそれで正解!と思いました。

最初の事件ではユキが施したクリッピング術が、二つ目の事件では自分のせいで愛する人を喪(うしな)ったと責める結衣の姿を通して 過去のユキが背負ったものが、それぞれ浮き彫りになり、やがて過去の村上理の死の輪郭が浮かび上がって来る‥そのあたりの、二つ事件とユキとの関連性が物語に無理なく溶け込んでいて、すんなり感情移入出来た気がします。
つい欲が出て、ユキの手術のせいではないかもしれない 村上理の死の謎、とか、その背後にあるもの、とか、今後この物語の核心に迫るような伏線が撒かれていたのではないか、と、勝手に解釈。
(その流れで、教授が車椅子なのはなぜか、とか、つい横道に逸れてしまったり)
それもこれも、そういう深読みをしたくなるような内容だったから、なんですよね。

今回、ワンコ(松村北斗)の存在が非常に重要だったのですが、そのプレッシャーに見事応えた松村くんに拍手。
ユキへの不信感をぬぐえない村上に、「村上さんや御両親はもちろんですけど、婚約されてた桐山先生も辛かったですよね。結婚を約束してた人を、好きな人を手術で死なせてしまったなんて‥」と言って、ユキ自身も傷ついたことに思いを馳せさせたり、人間の感情も大事だと言ったり‥
で、丹羽教授(石坂浩二)がユキに言った、「私だけかな、犬飼一くんがどこか村上理くんに似ていると思うのは。まっすぐで、感情を大切にするところがね」という言葉で、何だかもうすごく合点が行ったのですよね。
中途半端に感じられたユキに対する村上の立ち位置も、私が勝手に(田辺さんのファンとして)こうあって欲しい、でも何だかそうじゃないのかも‥といった憶測が生んだもので、教授の言葉によって、ユキとワンコのバディとしての親和性が(今回ワンコが成長したおかげで)より納得行く流れになった気がします。
村上ファンとしても、中の人(田辺さん)ファンとしても、ユキと距離が離れたと感じられることが寂しいとは思わなかった。むしろ、そのことで、村上と弟・理とユキの距離感が、私の中で、気持ちよく落ち着いた、と思えたので。

事件については、結衣役の徳永えりさんが抜群の存在感‥というか、むしろあまり役として前に出ない、その控えめな感じがこの役に見事に嵌(はま)っていて、素晴らしかったです。
てか、前回といい、ワンコ 事件に巻き込まれ過ぎ。(まあそれも、TVドラマ全般によくあることではあるんだけどw)

友人・亮平(佐野岳)と結衣の結婚2次会に呼ばれたワンコ。
亮平の毒物死。自殺なのでは? 研究を続けたかったのに大学を辞めて自分の父親の会社に入ることになって、追い詰めてしまったのでは?と思い詰める結衣。
そんなことない、ときっぱり否定するワンコ。
私が彼を殺した‥という結衣の言葉に、村上の弟を殺してしまったと思い詰めた自分を思い出すユキ。

自殺じゃないというワンコに、解剖しても何も異常は見られない、今分かってる事実はそれだけ、ワンコの気持ちは関係ない、とユキ。
「生きてる人間の気持ちも立派な判断材料ですよ。自殺じゃないのに自殺のまま処理されたら亮平くんは無念のまま死んで結衣さんは好きな人を死なせたってずっと苦しみますよ。それがどれだけ辛いか先生が一番よく分かってるじゃないですか‥」と口走ってしまい、ユキに無言で詰め寄られ、謝るワンコ。 
ここで丹羽教授の出番。「桐山くん、今の謝罪を受け入れるかな?」「‥はい」「犬飼くん、我々は私情を挟まず解剖によって判明した事実のみから判断する、それが法医学者だ。さらに君は事件には関係のない言うべきではないことまで口にした、次はないことを覚えておきなさい」と きつくお灸をすえる名裁(さば)き。
この時ワンコが壊した鉢植えから、ビールをこぼした件に繋げる、ワンコとユキの連携も良かった。

「結衣さんを疑ってるんですか」と言うワンコに、「全員を疑うのが仕事だ」と結衣に会いに行く村上。
話を聞く村上の 結衣を見る眼差しが、優しくて、痛ましい思いもあって、でも、疑いの色も少し含んでて‥法医学者が解剖によって判明した事実のみから判断するのと同じように、刑事もまた 示された事実のみから真相を探り出そうとする、その上で村上は生きている人の気持ちも汲み取ろうとしている‥感情を大切にしようとするのは、理やワンコだけじゃない‥と、私には何だかそんなふうに思えました。(多分にファンとしての贔屓目(ひいきめ)を含んでいるかもしれませんが)

ワンコに 亡くなった村上理のことを話す教授。「二人とも優秀な医師だった、桐山くんは脳外科医として村上くんは病理医として。村上くんと一緒にいる時の桐山くんはいつも笑顔だった。愛する人を死なせてしまった‥あの時の桐山くんの姿は今でも忘れない、味覚障害になるほどのダメージを受けたんだからね。もう10年になるかねぇ‥」
その味覚障害を少しずつ自覚し始めているユキ。ゆっくりとですが、彼女も変わろうとしているのかも‥

辛いせんべいをユキに無理やり食べさせられて、辛すぎるから中和しないと、と甘いものを探すワンコ。中和という言葉からヒントを得るユキ。
一方、村上も、SNSの写真から亮平の同僚・沙也加(高田夏帆)を疑います。
ユキは、アコニチンとテトロドトキシンを使って死亡を遅らせたのではないか、と推察。
この時の法医学室みんなで言葉を継いで行く説明が分かりやすかったです。

沙也加を訪ねた結衣、二人の会話の緊張感が、キリッとしていてすごく良かった。
亮平を好きだった二人の、想いたけのぶつけ合い、沙也加が淹れた紅茶‥
何かあるんじゃないか、と目が離せなかったです。

一方で、真相に近づいて行くユキたち。
ユキに、タダスと初めて名前呼ばれて張り切る林田匡(小松利昌)がかわいい。
猫の手→犬の手→ネズミと繋がるのも面白い。しかもそれを言ってるのがユキってことで、なおさらツボに入ってしまいました。
そして村上たちも‥そこから真犯人に繋がる流れ‥

亮平の手が荒れていた原因は、陶芸で使われる釉薬。亮平は、結衣のために内緒で陶芸教室に通っていたのですね。
「あなたに会えて彼は幸せだった」というユキの言葉、そっくりユキに送りたい、と思いながら聞きました。

「あの時、村上理くんのご遺族が納得出来ず、私は解剖を勧めたんだ。そうすれば、亡くなった理くんが何か教えてくれると思ったから。どんなに難しい手術でも、君が自信をもって臨んだのなら、成功するはずなんだ。ひょっとして解剖に何か見落としがあったんじゃないかと今でも‥」と話す教授に、
「私が彼を死なせたんです。解剖でそれがはっきりして良かったと思ってます。」とユキ。
でも‥やっぱり何か裏がありそうだよなぁ‥こりゃ続編あるよね きっと、と期待してしまう私。
(ちなみに、教授の言葉にかぶる たばこを吸う村上の横顔が、私的に一番の萌えポイントでした)

エピローグ。
解剖室で遺体を前にああでもないこうでもないと悩むワンコ。
「いつか犬飼くんも真実を見ることの出来る法医学者になるかもしれない」という教授の言葉を思い出したものの、道は長そうで、まだまだワンコか‥とため息交じりのユキ。
そして「屍は活ける師なり」と言うユキの、あいかわらず美しいまなざし・・余韻の残るラストシーンでした。

くどいようですが 改めて‥続編(あるいは連ドラでもOK)を待っています。


『女王の法医学 ~屍活師~3』
放送2023年7月3日20:00-21:54 テレビ東京
原作:杜野亜希「屍活師」 監督:村上牧人 脚本:香坂隆史
チーフプロデューサー:中川順平(テレビ東京
プロデューサー:黒沢淳(テレパック)、雫石瑞穂(テレパック)、山本梨恵(テレパック
制作:テレパック 製作:テレビ東京 BSテレ東 テレパック
出演:仲間由紀恵 松村北斗SixTONES
徳永えり 佐野岳 高田夏帆 飛永翼 中村靖日
新実芹菜 小松利昌 石坂浩二 田辺誠一 他

今さら『それってパクリじゃないですか?』感想

2023年4月から日本テレビ系で放送された連続ドラマ『それってパクリじゃないですか?』の、今さらながらの短め感想です。

知財部」というのは聞き慣れない言葉ですが、会社の知的財産を守るための部、とのこと。
月夜野ドリンクの開発部から知財部に異動になった藤崎亜希(芳根京子)が、親会社から来た弁理士・北脇(重岡大毅)と共に、会社の知財を守るために奮闘する物語‥なのですが‥
う~ん、最初のキラキラボトルのアイデア盗用から始まって、特に前半は身近に感じられない問題や難しい交渉ごとが多くてピンと来なかったりして、なるほどとは思っても、話にすんなり入り込めないところがあったのが残念でした。

でも、2話のパクリとパロディとの違い、というのは、よくある話でもあり、興味の持てたところで、「許すべきか許さざるべきかなんて、所詮はその時々の世間の感覚、気分で決まるものなんです」という北脇の言葉から、結局つかみどころがしっかりしてるわけじゃなくてあいまいなんだなぁ、だからこそ線引きが難しいってことなのね、と、なんとなく納得もして。そのあいまいさの中で、会社として、相手の会社とウインウインの関係になるよう業務委託という道筋をつけた、というのは、いい着地点だったように思います。

私としては、どちらかと言うと、専門的な話よりは、亜希の友人・ゆみ(福地桃子)の「ふてぶてリリィ」の著作権問題とか、月夜ウサギ(9話)とか、自分たちに近しいものとして、もう少し深く知りたいところではありました。
20数年前、私がHPを作り始めた頃は、著作権に対して今よりずっと縛りがきつかったように思うのですが、最近は、SNS等のタレントの画像とか 皆さん割と自由に使っている気がするので、そういうのはどうなんだろう、まったく問題ないんだろうか、私がそのあたりのことに疎いだけ?‥と、個人的に常々疑問に思っていたところではあるので、そんな身近な問題も取り上げて欲しかった気がします。

・・と、まぁなかなか取っつきにくい題材ではあったのですが、後半は、ドラマ全体に深みが出て来て、芳根さん・重岡さん他のメンバーも役にしっくり馴染むようになり、面白くなって来ました。
亜希と五木(渡辺大知)をひそかに応援する北脇、北脇とゆみをひそかに応援する亜希の、本人以上のドギマギぶりが可愛いかった。

7・8話のパテントトロール問題、猫腕輪がうまく使われていたり、芹沢(鶴見辰吾)と戦うメンバーのシャキッとした味わいも、チームワークが出来上がって来た感があって良かったです。
あと、常に会社のフロアでたくさんの人が働き、何かあるとサッと集まって協力する様子も観ていて楽しかったです。

9話から最終話にかけて。
特許案件で先を越されたハッピースマイルに乗り込む熊井(野間口徹)と亜希。
知財部長の田所(田辺誠一)の握手を突っぱね、「社員全員の商品に懸けた願いをむげにしたくはありません!」と啖呵を切る熊井がかっこよかった!
このあたりは、取っつきにくい内容ではあっても、観る側を引き込むような勢いみたいなものがあって、共感しやすかったです。

全体的に、亜希は、もうちょっと大人な感じでもよかったんじゃないかと思いました。芳根さんの眼がいつもキラキラしていて素敵だったのに、キャラが追い付いていない感じで、前半は何だかしっくり来なかった。
終盤、ふわんふわんして掴みどころのなかった亜希がおちついて来たあたりから、ストーリーにも重みが出て来て、面白くなった気がします。

北脇は、つっけんどんだけど最初から冷たい感じがしなかった。
少しずつ表情が豊かに、可愛くなって来て、亜希といい意味で丁々発止って感じになって行く、その流れがすごく自然で、途中から北脇のツンデレぶりが面白くなっちゃって。ようやく口角あげるようになったか、ほほえむようになったか、笑うようになったか‥と、その時々の変化に何だかすごく惹かれ、同時に、重岡大毅という俳優さんにも(ついでに流れで彼の所属するグループにも)興味を持つようになりました。
(ふと『正直不動産』の永瀬(山下智久)を思い出したのですが、でも、持っている空気感がやっぱりちょっと違ってて、その違いに興味が湧きました)

亜希と北脇との距離がいい感じで縮まって、きゅるんきゅるんとかぽわわわ~んとかの擬音語がうまく潤滑油になって、しかも、安易に恋愛感情抱く展開にはならなくて、ある程度の距離を保ったまま最後まで行き着いたのは、私としては、すごく好感が持てました。北脇の「たわわわ~ん」で終わるのも微笑ましかったです。

脇では、福地桃子さん、野間口徹さん、ともさかりえさん、渡辺大知さんあたりがいい味出してました。
常盤貴子さんは、あくまで私個人の印象ですが、キャラクターがきちんと出来上がって魅力的に見えるまでに時間がかかってしまったような気がして、もったいなかったです。

田辺さんはライバル会社の知財部の弁理士で、けっこうズルい手を使って月夜野に揺さぶりをかけたりするのですが、ラスボス感はなく、最後の特許案件にしても、自分の部下が起こした問題に対し、(たとえ腹ではどう思っていたとしても)こちらが悪かったと思えばきちんと詫びることが出来る、大人な対応が出来る人、という感じでした。田所、ビジュアルもとても良かった、イケオジでしたね。
ただ、もうちょっと出番があれば、北脇の好敵手にもなりえたんじゃないか、と思うのですが、そこまで描いてもらえなかったのは、ファンとして残念ではありました。
重岡×田辺の本格的ながっぷり四つ、観てみたかったです。


『それってパクリじゃないですか?』
放送:2023年4月12日-6月14日毎週水曜22:00-全10回日本テレビ
原作:奥乃桜子  脚本:丑尾健太郎 佃良太
演出:中島悟 内田秀実 鯨岡弘識  音楽:富貴晴美 
オープニング:ジャニーズWEST「パロディ」 エンディング:AARON「ユニーク」
チーフ・プロデューサー:三上絵里
プロデュース:枝見洋子 森雅弘 岡宅真由美(アバンズゲート)
制作(協力):AX-ON アバンズゲート 製作:日本テレビ
出演:芳根京子 重岡大毅
渡辺大知 福地桃子 朝倉あき 豊田裕大 秋元真夏 高橋努
相島一之 赤井英和 野間口徹 ともさかりえ 田辺誠一 常盤貴子 他

今回より「ジャニーズ」のカテゴリーは外させていただきました。ご了承下さい。

今さら『七人の刑事』(シーズン8)感想

2022年7月からTV朝日系で放送された「シーズン8」の、今さらながらの短め感想です。

今回は、全体を通して、新加入の坂下路敏(小瀧望)の成長譚、といった趣(おもむき)になっていました。
「汗をかかないで解決した事件はひとつもない」、「真似しろとは言わない。ただ、いいところは盗めばいい、それが新人の特権だ」、「路敏は人に期待しすぎ。それは人に甘えてるってこと」等々、各回ごとにメンバーからかけられる言葉が、彼のかたくなな心を少しずつほぐして行ったように思います。

一方で、初回終了と共に水田環(倉科カナ)がアメリカに行くことに。このチームの中での環のシャキシャキした味わいが私は好きだったので、彼女が抜けるっていうのはちょっと残念でしたけれども‥

そんな中、我が推しの海老沢(田辺誠一)が、何だかすっかり肩の力が抜けた感じがしたのは贔屓目(ひいきめ)でしょうか。(田辺さんって、こうなるまで時間がかかったりするけど、こうなると強いのよね~・・ってのは、あくまで20数年間この俳優さんを観て来た私の単なる主観です、すみません😓)
初めてシン専従捜査班にやって来た路敏に対して、「いい子だ!」を実感込めて何度も繰り出すエビちゃんがめちゃくちゃツボに入ってしまい、思わず吹き出してしまった私。いや~エビちゃん最初からリラックスしまくってます。

マジンガ-ZからのドラゴンボールZってのも良かったな~。メンバーの関係性もますます練れて来て、それぞれ気心が知れて、アドリブ込みで好きなこと言ってる感じが何とも楽しい。
周りで好き勝手にやってても、ちゃんと天樹(東山紀之)が揺らがずにいてくれるし、事件になれば全員一気にシリアスモードになるので、心配ない。
青山(塚本高史)の一歩引いたところでの安定感、片桐(吉田鋼太郎)の自由さ、堂本(北大路欣也)の実直さ、も、変わりなくて嬉しい。

路敏のコスパ重視の姿勢も新しくて面白いです。生意気なところはあるけど、最初からちゃんと他のメンバーの彩度に馴染んでいて浮いていないのがいい。‥ん~でも、逆に馴染み過ぎてる感じもするので、今後、もうちょっと彼なりの個性が出てくれば、もっと味わい深くも面白くもなるんじゃないかと。
終盤にかけて、彼の隠された部分も明らかになって来て、人間味がじわっと沁み出てきたところで、
「恩人を失って辛かったんだろ、悔しかったんだろ、そういう思いを一人で抱え込んでないで俺たちにも話してくれよ」(拓海)
「ランチの誘い断ってもいいし、飲み会に来なくてもいいよ。でも抱えてることがあるならちょっとぐらい話して欲しかったな」(青山) 
「世代も時代も違うけどさ、おまえより長く生きてる分、少しは頼りになると思うんだけどな」(片桐) 
「おまえがどう思ってるかわかんないけど、少なくとも俺たちは仲間だと思ってるからさ」(海老沢)
とメンバーからの温かい言葉。
その後、初めて”あっけし”の飲み会に来て、一気にキャラ変して陽気な酔っ払いになって行く路敏くん‥うん、可愛かったです w
そして、今回、拓海にも癒(いや)されました。息詰まるような事件も多い中、環がいない分、拓海の明るさ‥と言うか、和(なご)やかさ‥と言うか、片桐とは違った自由さ(縛りのなさ)みたいなものに救われたところも。
8話など、路敏との相性も良く、これからの二人が楽しみになって来ました。

それぞれの事件については、ある程度パターン化されて来たかな、という感じ。
海老ちゃんと子供、拓海とアウトドア、など、メンバーそれぞれメインの回の色味みたいなものがあって、それが全10回のドラマに幅を持たせているとも思えましたが、事件そのものの意外性だったり動機の深みだったりというところが、ちょっと物足りなかった気もしました。
中では、6話の、一見かかわりのなさそうな3つぐらいの事件が少しずつ絡み合って繋がって行くのが面白かった。2話や3話の、全員で走り回ったり這いつくばったりして汗をかきながらヒントを見つけて行くところも好きでした。

登場人物については、4話の片桐仁さんがあまりにももったいない使い方だったなぁ、と。事情聴取を田辺さんエビちゃんがやってたのですが、共演もいろいろある二人なので、あれやこれや思い出して、懐かしかったです。
4話には、他に、マギーさん、宮崎吐夢さん、宍戸美和公さん等々、惹かれるメンバーが揃ってましたし、5話の西岡徳馬さん、田山涼成さん、松原千恵子さんのトリオも味わいあったし、池田成志さんも印象的だったし、観月ありささんも普段とちょっとイメージの違う役で、なかなか興味深かったです。

心残りとしては、片桐の奥さん(安藤玉恵)に出て欲しかったなぁ。
エビちゃんについては、3世代(ひょっとして義理のお父さんもいたら4世代?)家族のエピソードとか、昇任試験とか、ちょこちょこ出ていたネタに今回ほとんど触れられなかったのが寂しかった。試験っていったいいつまで受けられるんだろう‥?


『刑事7人』(シーズン8)    
放送:2022年7月13日 - 9月14日毎週水曜 21:00 - 21:54 全10話 TV朝日系
脚本:森ハヤシ 吉本昌弘 吉高寿男 小西麻友 徳永富彦  
監督:兼﨑涼介 安養寺工 宗野賢一 柏木宏紀 大山晃一郎 
音楽:奈良悠樹
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子テレビ朝日
プロデューサー:山川秀樹(テレビ朝日) 石田奈穂子(テレビ朝日
和佐野健一(東映) 
制作:テレビ朝日 東映
出演:東山紀之 田辺誠一 小瀧望 白洲迅 塚本高史
倉科カナ 吉田鋼太郎 北大路欣也 他
公式サイト