1999・8・4月放送(NHK総合)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
夢:2度目のNHK出演。(1度目は『徳川慶喜』の「藤田小四郎」役)
翔:さらに、今回「初主演」という事で、まずは「おめでとうございます」と言っておきましょう。
夢:田辺さんの役は、リストラに遭(あ)った駅伝ランナー、という事だったけど、どう思った?
翔:実力があって、「走りたい」という意欲もあって、なのに走れない、今まさにピークのランナーの切なさって、いったい、どれ程のものなんだろう。 しかも、そのピークも、せいぜいあと半年しか持たない。 実業団が、若い伸び盛りの選手にしかお金を出さない、というのも正論だし、中途半端な終わり方をしたくない、という一伴(田辺誠一)の気持ちも、よく分かる。
夢:「今やらなければ!」という思いが、焦りになって、周りの人達と衝突してしまう、って、誰でも経験し得る事だものね。
翔:走り続けてきた人間が、立ち止まらなければならない時、「こわい・・」って、素直に打ち明けられる相手がいるって、なんて幸せな事だろう、と思う。
夢:弱音を吐く田辺さんが、いじらしかったし、奥さんの牧瀬里穂さんが、それをやさしく受け止めてて、すてきな夫婦だなと。
翔:結局、「どこで走るか」じゃない、「まず走ること」が大事、という事に気づいて、また走り出すんだけど・・・ 一伴くん、走ってる時、ニヤニヤし過ぎだってば!と、ちょっと突っ込みを入れたくなってしまいました。
夢:あたしは、久しぶりに、田辺さんを、お日様の下で見たなぁ・・・と。(笑)
翔:ああ、ほんとだね。 ここのところ、太陽を浴びると溶けてしまうんじゃないか、みたいな役、多かったから。(笑)
★ ★ ★
夢:翔、今回の「井野一伴」役って、あんまり気に入ってない?
翔:・・・どうして?
夢:なんとなく、会話が弾まないような気がする。
翔:いや、これも、田辺さんの中では、とても大事な役だとは思う。
「一伴のような 熱血漢の役を 得られたことは、驚きであると同時に、とても うれしいことだった」と『TVステラ』にも書いてあったけど、今までと違う役柄を演(や)る、って、俳優としての「引き出し」を増やす為には、とても重要なことだし。 だけど・・・・
夢:だけど?
翔:夢は、観ていて面白かった?
夢:うん。「普通」の田辺さんが観られて、面白かった。
翔:普通・・・ね。 確かに、それはそれで良かったと思うけど・・・
夢:何か不満?
翔:何故か分からないけれど、こういう、本当にリアリティのある役って、どうも、観ているこちらが、ものすごく照れくさく感じてしまうから。
夢:照れくさい?
翔:田辺さんって、今まで、TVでしか存在しないような役が多かったじゃない? 現実には いそうもない人物、TVの中でしか生きられない人物・・・ そういう、言わば「生活感」のない人物を観るのに慣れてしまっていたから、逆に、どこにでもいそうな人、街のどこかですれ違いそうな人、って、なんだか、観ていて、妙に こそばゆい感じがしてしまって・・・
夢:ふぅん・・・あたしは、そんなふうには思えなかったけどな、どうしてそんなふうに思ったんだろう? 一伴が、実際には、田辺さんの柄(がら)ではない、ということ?
翔:いや、現在の彼が表現出来るナチュラルさ、というのは、十分見せてもらった、とは思う。
夢:でも、物足りない?
翔:いずれまた絶対にやって欲しい役柄であるのは確か。 田辺さんにとって、すごく意味のある事だと思うし。 でも、今演じるには、まだ、何かが足りない、という気がする。
夢:それはいったい何だろう?
翔:「裸の自分」を出してしまうことへのこだわり、かなぁ・・・
夢:裸の自分?
翔:作らず、気負わず、サラッと自分を見せること、って、田辺さんの最も苦手とする部分のような気がするんだよね。 きちっと役を理解して、把握して、きちんと自分の中で組み立ててからでないと、表に出せない、出来上がったものでないと、安心して見せられない。
夢:うーん・・・でも、それって、けして悪いことじゃないように思えるけど。
翔:そうだね、悪いことじゃない。 でも、今回のような役は、自分の頭で考えて、それを表現する、というより、そういうことを感じさせずに、自然に演じるということが大事だと思う。
それを簡単に出来る俳優さんと、出来ない俳優さんがいる。 で、田辺さんは、出来ない俳優さんなんだよね、まだ。
夢:まだ・・・ね。
翔:もちろん、だからこそ、この時期に、この役をやった意味も、大きいものがあったには違いない、とも思うけれどね。
普通の人・・・・飾らず、装わず、素直に泣いたり喧嘩したりする、その普通さ加減を、すんなりやってのけてしまう俳優と、どうしても、作らなければならない俳優・・・。 作らなければならなかった田辺さんが、たぶん今、彼にとって一番難しい役をやった、そのことに対して、敬意を払いたいとも思うし、このチャレンジが、のちのち彼の大きな財産になるんじゃないか、という気もするから。
夢:物足りない部分があったにせよ?
翔:物足りない部分があったからこそ。
★ ★ ★
夢:「私のイチ押し」ですが・・・。
翔:奥さんのおなかに耳を当てて、「こわいんだ・・・」とつぶやくところ、かな。
夢:ああ、あたしも同じだ。