約三十の嘘(talk)

2004・12公開
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

夢:しかし、ものすごいメンバーだね、改めて観ると。 
翔:椎名桔平さん、妻夫木聡くん、中谷美紀さん、八嶋智人さん、田辺誠一さん・・・それぞれしっかりひとりで作品を背負える人たちばかり。
夢:最初のシーンから素敵だったよね、妻夫木くんと田辺さんが駅のラウンジみたいなところで話してて、その隣で 椎名さんが のど飴舐めてる、っていう・・・(笑)
翔:なんて豪華な・・・!(笑)
夢:あたしとしては、一度妻夫木くんと田辺さんが絡(から)んだところを観てみたい、と思っていたので、すごく嬉しかった。 前回共演した『さよなら、クロ』じゃ、ほとんど絡みのシーンがなかったから.
翔:でも、『さよなら・・』の時の三枝先生と高校生の木村くんじゃ、絡んでも、さほど心惹かれることはなかったかもしれないけどね。 この映画の、洒落(しゃれ)た感じ、上質な感じ、の中で、ふたりが並んでるからいいのであって。
夢:ああ、そうだね、確かにそれは言えてるかも。(笑)
翔:そういう、映画全体の質感・・・ベルベットの肌触りみたいな、触れ心地の良い感じ、というのは、実は、中谷美紀さんがメンバーの中心にいることで醸(かも)し出されているんだな、と、今回観直して、改めて感じた。
夢:うんうん。
翔:あと、あの列車内の雰囲気ね。 ゴージャスというんじゃないんだけど、すごく洗練されていて、調度とか小道具とかも凝(こ)っていて・・・
夢:一度乗ってみたい、と憧れるような作りだったよね。
翔:そうだね。 考えてみたら、しばらく、こういう 全体的に高級感漂う作品にお目に掛かっていなかったなぁ、と。(笑)
夢:ああ・・・そうかぁ。(笑)
翔:なんだかそれだけで、ある程度の満足感が得られてしまったんだけど。
夢:中身はどうでも?
翔:いや、どうでもいい、というわけじゃないけど(笑)、でも、そういう「外見」とか「雰囲気」っていうのも、軽く見ちゃいけない、というか、とても大事だ、とも思うので。
夢:なるほどね~。
翔:そういう美しい空気を醸(かも)し出している映画に、田辺さんが出演している、ということが、単純に嬉しかった。 それは、初見の時より、今回の方が、さらに強く感じたことでもあるんだけれど。
夢:うん、何か、分かる気がするわ。
★    ★    ★
夢:で、改めて、この豪華メンバーについての話に戻るけど。
翔:はい。
夢:初見の時の翔の感想って、かなり辛口だったよね。
翔:なんだかものすごくもったいない気がしたから。 これだけのメンバーを集めたのなら、何か、もうちょっとこちらにガツンとぶつかって来るものがあっても良かったんじゃないか、って。
夢:うんうん。
翔:俳優それぞれが、基本的に持ち合わせている個性とか、色とか、を、大切にしてくれたのは分かるし、そこで勝負することも、とても大事なことだとは思うけど・・・
夢:うん。
翔:これだけのメンバーなら、もっともっと追い詰めて、いじめて、新しい何かを引き出すことも出来たんじゃないか、と思うんだよね。 個性と個性をぶつけ合って、練り上げて、そういうところから、今までとは違った彼らの魅力を、画面の中に溶け込ませてあげることも出来たんじゃないか、と。
夢:うーん・・・・
翔:たとえば椎名桔平という俳優に対する私のイメージから、あんまりはずれることがなかったんだよね、志方という役は。 それは他の出演者に対しても同じだった。 「あっ!やられた!」とこちらが屈するほどの、新鮮で強烈な何かを受け取ることが出来なかったことが、とても残念だった。
夢:・・・・そうか。
翔:ただ、逆に考えれば、俳優の本来の魅力さえ、発揮させられずに終わってしまう作品だってたくさんあるわけだから、ひとりひとりの個性や持ち味をしっかりと見せてくれた、という点では、よかった、とも思っているんだけど。
夢:それぞれが魅力的だったことに違いはない?
翔:それは確かに。 まぁ、かなり淡白ではあれ、ね。
★    ★    ★
夢:ストーリーとしてはどうだった?
翔:ミステリーとして観ると、非常に物足りない。 宝田(中谷美紀)を除いて、それぞれが、誰かと組んで、7000万円全部を横取りしようとしているわけだけど、その動機が、すごく弱い気がする。 皆が皆、どうしても金が欲しい!という貪欲さが希薄で、だから、ハラハラすることもないし、最終的にお金がどうなったか、という興味も、あまり湧かない。
夢:うん。
翔:むしろ、誰と組んだか、という方が、興味深かった。 でも、志方(椎名桔平)が最初にパートナーを組んだのが佐々木(妻夫木聡)だった、というあたり、どうして佐々木は志方を誘ったのか、志方はどうして佐々木の誘いに乗ったのか、というのが、やはりよく解からない。 宝田への気持ちに踏ん切りをつけたかった、だから、あえて、同じような想いを抱えていた佐々木の誘いに乗った、ということなのかもしれないけれど、そのあたりの「どうして?」という思いが、どうも晴れないし、いまいちピンと来なくて。
夢:うんうん。
翔:さらに、佐々木さえも裏切って、最後には今井(伴杏里)と逃げようとする志方の、心の中というのが、どうも掴み切れない。 それは、志方ばかりじゃなく、他のメンバーも一緒で。 その「読み切れなさ」に詐欺師の詐欺師たる所以(ゆえん)がある、と言われれば、確かにそうなんだろうけど、でも、お互いに本当の心は隠している、としても、画面のこちら側で観ている私たちには、それが伝わってくれないと、すごくもどかしい感じがするから。
夢:・・・・・・・・
翔:ラスト近く、宝田が志方に想いのたけをぶつける、「今だけ」と言って、彼女は彼にキスをねだり、ふたりはキスして、そしてまた、彼らはチームをやりなおそうとする。 
夢:・・・・・・・・
翔:男と女として愛し合うよりも、チームの一員としての繋がりを選んだ、ということなんだろうけど・・・それほど、このチームは魅力的だった、ということなんだろうけど・・・
夢:正直、そこまでの魅力を見せてもらってない感じがしたよね。
翔:うん・・・・ただ・・・・・
夢:え?
翔:メンバーそれぞれの距離感みたいなものを読んで行くと、なかなか面白いようにも思える。
夢:それはどういう・・・?
翔:たとえば久津内(田辺誠一)。 ただ頼りない、詐欺師に向いていない男、にしか見えないんだけど、メンバーとのやりとりを聞くと、実は志方でさえ、彼に一目置いていることが分かる。
夢:あ、そうなの?
翔:「久津内さん」とか「あんた」とか言うんだよね、志方は。 で、久津内は「志方」とか「おまえ」って言ってるんだよ。 で、それが、言葉だけかと思うと、ラスト、ちゃんとみんなをまとめていく久津内の姿が見えるわけで。
夢:うーん・・・・
翔:後から入った横山(八嶋智人)は別として、志方・宝田・佐々木という、複雑な三角関係の中に、何の違和感もなく存在している久津内を見ているうちに、実は、彼なりの魅力を十分に備えているんだ、このチームには必要な存在なんだ、ということが納得出来て来る。
夢:・・・・・・・・
翔:それは、他のメンバーにしても同じなんだよね。 宝田が、自分の志方への想いを抑えてまで、チームとしての存続に賭けたのは、そんなふうに、チームの中のそれぞれのポジションに見事に嵌(は)まっている彼ら、誰一人欠かすことの出来ない彼ら、を、すごく愛していたからなんじゃないか、と。
夢:・・・・・・・・
翔:初見の時に、「どうして彼らは組まなければならないんだろう、どうしてひとりでは やっていけないんだろう」というところで、悶々としたんだけど、結局、彼らは、とても危ういバランスの上に立ってチームを作っている、だからこそ離れられないのかもしれないなぁ、と、そんなふうにも思った。
夢:・・・・・・・・
翔:久津内が言ったように、彼らにはそれぞれ何かが欠けている。 その欠けた何かを埋めるのは、少なくとも今の彼らにとっては、恋愛じゃないのかもしれない。 正直、そのあたりは、きっちりと描けているとは思えないし、また集まって、それでどうなるんだろう、というのも、不透明ではあるんだけど、とりあえずこの調子で行ってみようよ、という、緩やかな前進でも、前進には違いないんだろうな、って。
そんなふうに観始めたら、さっき私が言った、「これだけのメンバー使うんなら、もっと彼らの新しい魅力を引き出して欲しかった」という部分での物足りなさが、何となく中和されたような気もして。
夢:中和・・・・
翔:そう。 演じる俳優としても、派手に魅力を際立たせる必要がない、ナチュラルなところで勝負している、だからこそ、「みんなでいること」の居心地の良さ、無理のない気持ちの良さ、にも繋がったんじゃないか、と、そういう気持ちに、最後には なってしまった。 初見の感想とは大分違ったものになってしまったんだけどね。(笑)
夢:・・・それは、翔にとって、妥協ではないの?
翔:うーん・・・監督と俳優さんたちに、うまく丸め込まれたのかもしれない。(笑) でも、それも心地良いじゃないか、という、ちょっとしたタメ息まじりの安穏に包まれるのも、またいいのかな、という気もするので。        
 それは、映画館で観た時点じゃなく、ある程度時間が経って、DVDとして観直してるからこその感想、なんだろうな、とも思うけれども。(笑)
夢:なるほどね~、結局、甘々になってしまってる気がしないでもないけどね~(笑)
翔:・・・・・・(笑)
★    ★    ★
夢:さて、久津内を演じた田辺さん。 翔は、初見の時、あの情けなさに かなりめげてたみたいだけど。(笑)
翔:情けないのは情けないんだけど、まぁ、久津内はそういうキャラだからね。 それよりも、テンションがちょっと高過ぎるんじゃないか、というのが気になった。
夢:そうか。 で、今回観て、どうだった? 
翔:うん、あまり気にならなかった。
夢:その変化というのは、どうしてだろう、田辺さんに対しても甘々になってるのかな。
翔:うーん・・・赤井豪(@スクールデイズ)を観てしまったので、ちょっとぐらいトーンが高くても、全然平気な体質になってしまって・・・・(笑)
夢:体質変わっちゃったんだ! ―― 恐るべし、赤井豪!(笑)
翔:まぁ、赤井豪のせいばかりじゃなく、実際に映画を観てから今回DVDを観るまで、いろんな田辺作品に出会って、こちらの許容範囲が自然と広がっていたせいでもあるんだろうけど。
夢:うん。
翔:あと、さっきも話したけど、久津内は久津内なりの存在意味みたいなものが、ちゃんとあったんだなぁ、って、そこのところを納得出来たのが大きかった。 初見の時は、そもそも、いったいどこが良くて、志方や宝田は、久津内をメンバーに入れたんだろう、と思ったりしていたので。(笑)
夢:とことん詐欺師には向いてないものね。(笑)
翔:まぁ、役まわりは役まわりとして、仕方ないことなんだろうけど。 だけど、私の心の別なところで、これだけのメンバーが揃っているなら、もっとかっこいい田辺を見せてもいいはずだ、と思ったのも事実で。(笑)
夢:うんうん。(笑)
翔:でも、女性陣のかっこよさとはウラハラに、男性陣は、志方にしても佐々木にしても横山にしても、みんなどこか情けないところを持っている、そういうふうに描かれているんだなぁ、って、そう思ったら、なんだか妙に納得してしまった 
夢:・・・・ああ、そう言えばそうかぁ・・・
翔:みんな情けなかったんだよ、田辺さんだけじゃなくて、椎名さんも妻夫木くんも八嶋さんも。
夢:なるほどね~。 ちょっと諦(あきら)めがつくかな、そう思うと。(笑)