パルス・オブ・東京(talk)

2000・3放送 (BAY-FM)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。 

  夢:なつかし~い。 これ、いつ放送になったんだっけ?
  翔:『月下の棋士』が終わる頃・・・2000年3月。 ちょうど『DOG-FOOD』のビデオが発売される、というので、その宣伝も兼ねて、ということだと思うけど。
  夢:そういえば、『はなまるカフェ』(Talk.2)も、そうだったよね。
  翔:TV・ラジオ・雑誌、と、随分たくさん出てたよね、あの頃。 エッセイ『眠らない羊』も出たばかりだったし。
  夢:売れっ子クリエーター、みたいな。(笑)
  翔:トーク会やら握手会やら、イベントも多かった。
  夢:なんとなく、このまま「クリエーター街道」を突っ走っちゃうのかな、という不安、なかった?
  翔:・・・直前に『月下の棋士』を観ていなかったら、ひょっとしたらそんな気持ちになっていたかもしれないけど。
  夢:うんうん。
  翔:滝川幸次を観て、田辺さんにとって、映画を作ったりエッセイを書いたりするのと同様に、俳優でいることも掛け替えのないものになっている(なりつつある)、と確信出来たから、不安にならないでいられたと思うし。
  夢:もちろん、クリエーター・田辺というのも、翔としては好きだったわけでしょ?
  翔:そうだね。 でも、やはり一番は俳優・田辺なんだ、という気持ちは、時間が経つにつれ、どんどん強くなっていて。 だから、このトークにしても、最初に聴いた時と 今(2002年10月)とでは、捉え方が違う気がする。
  夢:なるほど。
★    ★    ★
  夢:さて、肝心のトークですが。
  翔:ラジオトークというのは、TVとはまたちょっと違った良さがあるよね。
  夢:うん。「あれ、田辺さんの声って、こんなに甘かったっけ?」とか。(笑)
  翔:「こんなに一生懸命言葉を選んで話すんだ」とか・・・話だけに集中できるから、普段感じないことを感じられる。(笑)
  夢:そうだね。
  翔:聞き手の大桃美代子さんも、ちゃんと田辺さんの作品を読んだり観たりして訊いているから、的をはずさないし、だから、田辺さんも気持ち良く話せてる感じだった。
  夢:大桃さん、良かったよ。
  翔:ヤッくん薬丸裕英・はなまる司会者)のつっこみ気味の訊き方も面白かったけど(笑)、彼女は、何に対してもすごく興味を持ってるような訊き方だったから、きっと田辺さんも気持ち良く話せたんじゃないかと思う。
  夢:まずは『DOG-FOOD』裏話、みたいなところからスタートしてるけど・・・
  翔:やはり、「結果を出す」って、大きいことだな、と思った。
  夢:「ベルリン映画祭出品」という?
  翔:そう。 ただ「映画を作ってます」だけじゃ、自己満足で終わりかねない。 ベルリン映画祭という晴れの舞台に乗った、という勲章は、水戸黄門の印籠みたいな威力がある、いい意味で、ね。
  夢:うん。 まぁ、話の内容は、『眠らない羊』にも書かれてるようなことではあったけど。
  翔:でも、たとえば『羊』や雑誌インタビューとかで活字になったのを読むのと、こうして、本人の声で語られるのとでは、やはり伝わるものが違うと思った。 微妙なニュアンスが、ね。 あと、夢も言ってたけど、聞き手のうまさ、みたいなものもあるし。
  夢:うんうん。 
  翔:『羊』の話から、メンズノンノのモデルに応募した頃の話になった時、当時の彼女は、そのことをどう思ったか、ということを、大桃さん、かなり食い下がって訊いていた。(笑) 田辺さん、タジタジになりながらも、結構素直に話してくれて、この辺のやりとりは面白かった。
  ドロドロしたのを小説に書いてみる気はないですか、という質問に、あります、と即答したり。
  夢:「田辺さんて、まじめな方なのか、不真面目なのか、よくわからないですね」なんて、普通、本人を前にして言えないだろう、と。(笑)
  翔:それをまた、田辺さんが「あ、そうですか」なんて。(笑)
  夢:モデルから俳優になりたいと思った経緯みたいなものも、なるほど、と思ったし。
  翔:速水真澄という、紫のバラ持ってくるっていうとんでもない役を、本当になりきってやってた、そのコツみたいなのを訊かれて、「まずその役を好きになること」と。
  この辺では、映画の話の時同様、田辺さんの「話したいモード」炸裂、という感じだった。
  夢:「歴史上の人物も、架空の人物も、まず成立させてあげたい、というのがあって」
  翔:「次に、その人との共通点、共感出来るところを探して」って。
  夢:なんて律儀な人だ、と。
  翔:本当に。 仕事に対しても、聞き手に対しても、一生懸命で。
  ただ、当時は、その律儀さが好もしかったのだけど、だんだん、そういう部分が、俳優として、足枷(あしかせ)になってるんじゃないか、と、そんなふうに思えて来たりもしたけど。
  夢:どういうこと?
  翔:田辺さんのまじめさ、律儀さ、というのは、人として、すごく大切な要素だとは思うんだけど、同時に、あまりにまじめ過ぎると、俳優として、どこかカラを破れない、ということもあるんじゃないか、と。
  夢:ふ~ん・・・・・
  翔:逆に、そのまじめさ、律儀さ、によって救われている部分もある、とも思うし・・・・・うーん、だからどうだ、と、うまく言えないんだけど。
★    ★    ★
  夢:翔がこのトークの中で一番印象に残った言葉は、「ピークを作らない」だそうだけど?
  翔:大桃さんの、「仕事があったりなかったり、売れたり売れなかったり、という過酷な中での、自分の平静ラインの保ち方って、どうしてるんですか?」という問いに対する応えが、「ピークを作らない」というものだったんだけど。
  夢:大桃さんは、この応えにピンと来なかったみたいだったよね。
  翔:「ピークを作らない」って、言葉だけを素直に受け取れば、全力を出し切らない、と取られてしまう可能性がある。
  夢:あたしもチラッとそう思った。 もちろん、田辺さんはそういう人じゃない、とも思ってたけど。
  翔:たぶん、田辺さんは、「常に100%の力でぶつかって行く。そうやって全力でぶつかって初めて、その先の、さらに新しい何かへの扉が開く。 現状に満足しない、新しいものを追い求めて、さらに上を目指そうとする。 いつもそういう気持ちでいたい」 ということを言いたかったんじゃないか、と。
  夢:うーん・・・なるほどねぇ。
  翔:この、「ピークを作らない」という言葉を、実は今、一番実感している自分(私)がいて。
  夢:?
  翔:とにかく、ひとつ役を演じるたびに、どんどん新しい田辺誠一を見せてくれている、と、そういう気がするので。 この1年だけでも・・・・
  夢:草杖(@おらが春)、高嶺(@プリティガール)、石井(@張込み)、進藤(@眠れぬ夜を抱いて)、中林(@夢のカリフォルニア)、村井(@結婚泥棒)、東(@ナイトホスピタル)・・・・か。 ん~すごいね!
  翔:どれひとつとして、同じ色合いの役がない。 しかも、俳優・田辺としては、着実に何かを掴みつつ前進し続けている。 それって、ものすごいことだと思う。
  夢:そうだね。
  翔:このまま、ピークを作らないままで突っ走ったら、いったいどこまで行ってしまうのか、ものすごく興味がある。 ・・・でも、それはきっと、永遠に続くものじゃない。 いつかはスピードを緩めなければならない時が来るんだろうけど。
  夢:・・・・・・・・
  翔:いつまでも続かないと知りつつ、走り続ける・・・つまづいても、また起き上がり、また走り出す・・・今の田辺さんを観ていると、それだけの愛情を「俳優」という職業に対して抱いている、と、そんなふうに感じられるから・・・
  夢:ますます好きになって行く?
  翔:そうだね。(笑)
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  夢:目標は、笠智衆さん、だそうで。
  翔:いいですねぇ、私も好き。 この話を聴いてから、おじいちゃんになった田辺さん、というのが、時折脳裏をかすめるようになって・・・・(笑)
  夢:『不思議屋博物館』(Radio drama1)の時も言ってたね。(笑)
  翔:田辺さんがおじいちゃんだったら、ちゃんとしたラブストーリーみたいなのも、出来そうな気がするよね。
  夢:どっちにしろ、まだまだず~っと先の話だけど。(笑)
  翔:それまで、私たちは、どれだけの「俳優・田辺誠一」を堪能出来るんでしょうか。