『トランジスタ・ラジオ』感想

トランジスタ・ラジオ』感想

忌野清志郎プレミアムナイト第2夜、として
NHKBSプレミアムで放送されたドラマですが、
1時間という短い時間だったのに密度が濃くて、面白かったです。

清志郎さんが主人公ではなく、
彼になりすまして女の子と親しくなって行く ある高校生が主人公で、
清志郎に憧れ、彼になろうとし、ついになれなかった
その高校生から放たれる同じ高校の先輩・清志郎への視線、という、
少しひねりの入った客観的なまなざしが、
清志郎をリスペクトする気持ちに溢れつつも、
このドラマを
忌野清志郎礼讃」といったような甘ったるいものにしていなくて、
そこがとてもいいと思いました。

坂口雅彦を演じる渡辺大知くんがすごく良かったなぁ。
あの時代の空気感みたいなものを
ちゃんと体現してくれているように思いました。
考えてみたら、雅彦はほぼ私と同じ年代で、
だからなおさら
あの時代の彼に対する共感が湧いたのかもしれないけれど。

周囲が抵抗なく窮屈な大人への階段を上って行くのを傍で見ながら、
うつうつと屈折した日々を送るだけの自分・・
反抗も、反乱も、夢を掴むのも、実際に行動に移すには勇気がいる。
清志郎のフリをしても、それはただのフリでしかない。
誰にでも出来ることじゃない、
真剣に芸術を愛し、芸術に愛されることを信じて、
思い切ってその腕(かいな)に身をゆだねる覚悟を決めた者だけが、
一途に夢に向かって突っ走った者だけが、得られるもの・・

だからこそ、一層、清志郎の自由への渇望が 存在感を増して光り輝く。
昭和の野暮ったくて重い空気を切り裂いて、清志郎は果敢に飛んだ。
その鮮やかでまばゆい跳躍は、
あえて清志郎本人を真ん中に置かない、
同じように絵を描き、ギターを弾き、自由を望み、
しかし清志郎にはなれなかった、そんな雅彦の目を通して描いたから
伝わったもののような気もします。

マドンナ・永嶋美智代は中条あやみさん。
どこか ほの昏さみたいなものを持った美少女で、
この役にすごくはまっていたと思います。

お互いに嘘をついていた雅彦と美智代が、
(後姿のままの)忌野清志郎を介してその嘘を融かし合い、
やがて本当の自分をさらけ出して行く姿が、
すごく自然で微笑ましかった。

それがうまく現在の二人(リリー・フランキー原田美枝子)の雰囲気にも
重なって行ったように思います。
自然体のリリー・フランキーさん、何とも言えない味があって素敵でした。

美術の小林先生に田辺誠一さん。
清志郎の才能を認め、愛し、彼を守ろうとした人。
それは、先生自身がなし得なかったものを、
清志郎に預けようとしていたようにも見える。
彼もまた、清志郎と似ている、と自ら評した坂口雅彦と同じ側の人間、
だけど、雅彦と同じように、清志郎にはなれなかった人間・・
清志郎にはなれなかったけれど、彼を支えてくれた大切な存在・・
  (そしておそらく、清志郎をもう一人の自分として見ていた雅彦もまた、
  清志郎に共鳴した時点で、
  陰(いん)に彼を支える存在になっていたのではないか、と・・)

芸術の自由を身体全体で表現し、
規制・既成へのレジスタンスを鮮やかに成し遂げて、
清志郎は、私たちの知るあの忌野清志郎になった。
大人が認めざるを得ない、彼独特の世界を作り上げた。
それを、小林先生はどんな想いで見ていたんだろう・・
そんなことをあれこれ深読みしたくなる、
小林先生@田辺誠一になっていたように思います。

口端でなく真ん中でタバコをくわえる姿、
清志郎に対する厳しい口調、坂口に対する温かいまなざし・・
小林先生というキャラクターとしての魅力的な造形に、
ファンとして、田辺誠一を十分に満喫したドラマでもありました。

それにしても・・
小山田(@風林火山)といい、野田(@最後の戦犯)といい、
西尾(@気骨の判決)といい、岡本一平(@TAROの塔)といい、
今回といい、
田辺さんがNHKのドラマに求められているものって、
どこか一貫性があるような気がする。
体制の外にはみ出した人間・・と言ったらいいか、
ちろちろと燃える小さな火種を胸に秘めたまま、
「大人」になりそこねた(なろうとしない)大人・・と言ったらいいか。
・・なかなか興味深いです。


追記。
ラストクレジットに栗原竜平さんの名前。
若き清志郎を背中で演じていたのはもしかして・・?



「プレミアムドラマ 忌野清志郎トランジスタ・ラジオ』」     
放送日時:2015年5月3日(日・祝)22:00-22:59(NHK BSプレミアム
脚本・演出:戸田幸宏 音楽:矢野顕子 制作統括:鈴木真美 吉田宏徳 協力:ベイビィズ
キャスト:リリー・フランキー 渡辺大知 田辺誠一 中条あやみ 原田美枝子
櫻井淳子 栗原竜平 竹中直人 他
公式サイト