『三代目明智小五郎〜今日も明智が殺される〜』(最終回)感想

『三代目明智小五郎〜今日も明智が殺される〜(第10話=最終回)感想
いやいやいや、そう来ましたか。
明智小五郎」と「怪人二十面相」という
超有名で耽美な名前のイメージからは想像もつかないような、
堅実で地道な終幕でしたね〜。
でも、決して、つまらねーとも くだらねーとも思わなかった。


自分の中に、
どうしても譲れない こだわりや、かすかな夢や、信じたいと思うものや、
そういう「捨てられない大切な何か」があるなら、
それを心に抱きしめたまま、人生を楽しみましょうよ、と。

偉大なご先祖様の名前に押しつぶされそうになっても、
自分は自分でしかないのだから、
三代目としての自分を愛して、許して、信じて、
一緒にバカをやりませんか、と。


そう・・大人になっても一緒にバカをやってくれる人がいるって大事。
「まったくもう・・」って言いながら、
温かく見守ってくれる人がいるってことも大事。

     *

自分が誰かを必要とし、誰かが自分を必要としてくれている、
と気づくことは、結局、
「自分を好きになること」に繋がるんじゃないだろうか。
自分を好きになれば、少しだけ自分に誇りを持てるようにもなるだろうし、
周りの人たちに、優しい心配りが出来るようになる・・かも。


ふがいない自分、情けない自分から抜け出せなかった中五郎(田辺誠一)が
小林少女(小池里奈)の手を借りて 怪人20面相を追い続けるうちに、
三代目明智としての彼らしい誇りを得たように、
20面相こと田中よしおさん(片桐仁)も、
怪人として生きることで、三代目としての何かしらの誇りを見い出し、
もしかしたら、誰かに何かを与える存在にもなれるのではないか、と。


でもそれは、決して、初代怪人並みの大怪盗になることではなくて、
もっと自分の背丈に合った「20めんそう」でいいわけで。
それって、今までとたいして違わない生活かもしれないんだけど、
でも、気持ちとしては全然違うと思うんですよね、
自分を、そういうもの(初代とは別物の、自分なりの20面相)
として認めてあげられる、愛してあげられる、というのは。


だから、怪人20面相は、大事な黒マントを捨てなくていいし、
中五郎は、無理して「レボリューション」なんて言わなくていいんだ。
本気で、自分自身を楽しんでいいんだ、子供のように。

     *

「間違っていたらごめんなさい・・」
いつもの弱気なセリフを言おうとする中五郎をさえぎって、
「先生がそう言って間違ったことは一度もないんですよ」
と、最高の言葉を送る小林少女。

でも、彼女にとっても、中五郎は大切な存在なんですよね、
中五郎にとって、小林少女が大切な存在であるのと同じように。
そして、中五郎が20面相を必要なように、
20面相にとっても、きっと中五郎は必要な存在なんだ、と。


お互いがお互いを支え合って生きている・・
中五郎も、そしてきっと20面相も、
少しずつ、そう思えるようになって行くのかもしれない、
自分を愛し、相手をちゃんとまっすぐに求めることが出来た今この時から。

そして、20面相(田中さん)の子供だって、
ひょっとしたらどこかで彼を誇りに思う時が来るかもしれない、
そんな彼を見たら・・ね。


・・・・う〜ん、すみません、
感想が絞り切れてなくて、ピントが甘いです。
でも、このドラマは、それでいいのかもしれない、とも思います。
伝えたいテーマは、控え目にお笑いの後ろにあって、
観た人ひとりひとりが、何とな〜く感じたものがあればいい、
ぐらいの無理のなさ。

そんなゆるやかさの中での最後の収束の仕方というのは、
私にとっては、じんわりと沁みるように気持ちの良いものでした。


悪意がなく、ケレンもなく、毒もほとんどなく、
誰が観ても問題なく、悩んだり苦しんだりする必要もなく、
やさしくて、素直に面白い、と思える・・
相当ゆるいけれど、それもまた、
自然に息継ぎするためのゆるさにも思える・・
そういうドラマが、田辺さんの主演で作られたことが 嬉しくて、
ほんわりと幸せな心地にさせてもらえました。

     ***

出演者について。
三代目怪人二十面相片桐仁さん。
怪人として登場していた最初の頃は、何だか掴みどころがなくて、
正直、役自体の魅力もあまり感じられなくて、
もったいないなぁ、と思っていたのですが、
ラスト2回の、田中よしおさんとしての思い掛けない素顔が、
意外にも、ものすごくフィットしていて、
こんなゆる〜いドラマの登場人物なのに、
その心情がこちら側にちゃんと伝わって来たので、
何だか、田中さんがうんと好きになってしまいましたw。

最終回、中五郎との対決、という形にはなったし、
ライバルであるはずの中五郎から示唆を得る、という展開も、
強がっていた怪人の芯のはかなさが浮き出るような感じで、
非常に興味深く観ることが出来ました。
片桐さんの実直な存在感が、
最後になって非常に上手く生かされたように思います。


小林少女の小池里奈さん。
このキャラクターが、若いのに実にしっかりしていて、
ふわふわ浮いてるおじさん連中を相手に、
しっかり足を地に着けて立っていたのが、すごく印象的でした。
まるっきりの想像ですが、相当頭のいい人なんじゃないか、
なんてことも思いました。

以前にも書いたけれど、
この役は、ただ美人なだけ とか 可愛いだけ とか、
そういう類(たぐい)の女の子じゃ合わなかった気がします。
小池さんの、お母さんみたいな包容力が、
とっても大事だったんじゃないでしょうか。
田辺さんの中五郎とのやりとりが微笑ましかったです。


さて、中五郎の田辺誠一さん。
この役を演じている田辺さんが、とっても好きでした。
何だろう・・演じる気負いみたいなものが、まったく感じられなくて、
す〜っと自然に役に溶け込んで、
等身大の田辺誠一という人を見ているみたいな、
不思議な心地良さがありました。
何をやっても、何を言っても、中五郎はほんとに可愛くて、
アクがなくて、やさしくて、邪気がなくて、
なのに、どこかしら陰影があって、
まったくもう 好きにならずにいられない!というかw。

もっと大袈裟にも三枚目にも演じられた役なんだろうけど、
すごくナチュラルにすんなりと役に入って行った、
それは、やはり、俳優としてのいろんな蓄積があって、
この年齢になって無理なく出来るようになったことなのかな、
という気もしました。
(これからの俳優・田辺誠一が、またまた楽しみになりました)


片桐さんや小池さん、田中要次さんらと共に醸し出す空気感が
本当に微笑ましくて気持ちよかったので、
出来るなら、ぜひ同じメンバーで、続編をお願いしたいところです。


個人的には、
最終回の決着を観たところで、
改めて、最初から全部観てみたい!という気持ちが強くなりました。
何か、こういう結論に出会って初めて、
ひょっとしたら、今まで、いろんなものを見落としていたかもしれない、
というふうにも感じられたので。

なので、8月のDVD-BOXの発売が、本当に楽しみです。