気骨の判決(talk)

2009・8・16放送(NHK総合
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:前年の『最後の戦犯』に次いで、2年続けてNHKの戦時ドラマ出演。 前の作品もそうだったけど、民放が作る戦争ドラマとはちょっと違う感じがしたよね。
翔:民放は、戦争ドラマでも、まず「見せること」を優先するから、どこかに華やかさとかドラマチックな要素を入れ込もうとするけれど、NHKは、「伝えること」を優先しているせいか、そういうものがあまり入り込まない、という気がする。 だから、質感が違うように感じられたのかもしれない。 
今回も、全体のトーンがすごく落ち着いていたし、最初から重厚な空気が出来上がっていたので、じっくりと「物語」そのものに入り込んで観ることが出来た。
夢:キャスティングがまた、非常にシブいメンバーだった、小林薫さん、國村準さん、石橋蓮司さん、篠井英介さん、田中哲司さん、麻生佑未さん、京野ことみさん・・ 
翔:それがまた、ことごとく私の好きな俳優さんたちで・・(笑)
夢:ほんとだね~。(笑) そこに田辺誠一さんが加わって、翔としては、キャスティングも大満足だったんじゃない?
翔:今回観直して、なおさら、本当にドラマの意図に添(そ)った素晴らしいメンバーだった、と思った。 演じ手が、余計なことを一切していない、って言ったらいいのかな・・ 非常に慎(つつ)ましく、思慮深く、虚飾なく演じている、って言ったらいいのかな・・ 小手先で役をあしらうようなことをしていない。それがすごく伝わって来たので。
夢:うんうん。
翔:そんな登場人物を、一場面一場面、カメラがじっくりと・・本当にじっくりと撮ってくれている。 だから、一人一人の感情の余韻が、場面ごとにしっかり残るんだろう、と。
夢:うん。
翔:特に、今回すごく心に残ったのは、木島(篠井英介)から伊地知(國村準)の自殺を知らされた後、西尾(田辺誠一)が「合議が始まる」と呼びに来た時の、吉田(小林薫)の表情。 彼が立ち上がるまでの数秒、ほとんど動きのない画面から確実に伝わって来る重いものがあって、何だかすごく心を揺さぶられた。 普通だったら、演出があそこまで待ってくれない。 さっさと次の場面に移ってしまうんだろうけど、あの数秒の静謐(せいひつ)が伝えたものって、すごく大きかった気がする。
夢:あのシーンは、小林さんも素晴らしかったけど、田辺さんも良かったよね。
翔:そうだね、あの、演じ過ぎない表情というのは、私も、すごく惹かれるものがあった。
田辺さんって、以前は、落ち着いたドラマでも、時々はみ出してしまうことがあったんだけど、最近はそういうことがほとんどなくて、今回の西尾という役でも、全体のトーンにしっくり馴染んでいて、そういうところも、本当に観ていて嬉しいことではあった。
夢:それでも、初見の感想の時は、まだ十分じゃない、みたいな書き方をしてたけど・・?
翔:・・・小林さんや國村さんや篠井さんと比べてしまったら・・ねぇ・・(苦笑) 
夢:まぁねぇ。(笑)
翔:小林さんを観ていると、些細な表情が本当に雄弁で、じんわりとこちらの心に沁(し)みて来るものがあるんだよね、自然と。 田辺さんは、まだそこまで行ってないんだな、と、小林さんを観て思い知らされた気がする。
夢:う~ん・・・
翔:そこまでパーフェクトに完成されてしまったら、こちらとしても何も言えなくてつまらない、ってこともあるかもしれないけれど。(笑)
夢:ふふ・・そうだね。
翔:それでも、こういう作品に呼んでもらえたことは本当に光栄だと思うし、この空気感にしっかりと馴染んで、この人独特の浮遊感を感じさせなかった、というのも、私にとってはすごく大きかった。
夢:浮遊感を感じさせない、か。
翔:そう。 田辺さん独特の浮遊感から醸し出される、掴みどころのなさ、みたいなものを一切感じなかったので。 無理のない形で表現された「確実な強さ」というのが、私にはすごく魅力的に感じられたから。
夢:なるほど。そのあたりが、『ふたつのスピカ』(drama49)で話してた「ビターな方向に少~しだけ進むことになるんじゃないか」ってところに繋がって行くのかな。
翔:この役でそこまで言っていいのかどうか、というのは、まだ分からないけれどね。 でも、こういう役をこれからもやっていくことで、また違った田辺誠一の魅力みたいなものが確立して行くんじゃないか、という気がするし、それがやがて「ビターな方向」にも広がって行くかもしれない・・という、そういう可能性を感じさせてくれた役だったような気がするので。
夢:うんうん。
翔:まだまだ、彼の中には、広がって行ける要素がたくさんある。 お笑い方向へのベクトルは、かなり伸び進んだ気がするので(笑)、次はぜひ、ビターな方向にベクトルを伸ばして欲しい、と、ひそかに願っているのだけれど・・・
夢:そうだね~。
翔:50代ぐらいになって、年齢的な渋みの中にそういうものが自然と溶け込んで来たら、すごく魅力的になるんじゃないか、って気がするけどね。
夢:うわ~、そういう田辺さん、観てみたいなぁ、ぜひ! でも、きっといつか叶えてくれそうな気がするよね。
翔:この2009年の仕事ぶりを見ると・・ね、もう 「何でもあり」 って気がするから。(笑)
夢:確かに!(笑)