『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』(第9話=最終回)感想

『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』(第9話=最終回)感想
【ネタバレあり】

すみません、最終回を観てから、
私の勝手な妄想があっちへ飛び、こっちへ飛びしていて、
なかなか感想がまとめられなくて、遅くなってしまいました。
毎回のことですが、一度観ただけでは、
物語の襞(ひだ)に隠された面白さを掴み切ることが出来ない、
3回ぐらい観て、やっと全体から伝わって来るものを捕まえられる、
そんなドラマなんだと改めて思います。

で、今回の感想は、いつにも増して
私の妄想がふんだんに入ったものとなっています。
最近は単純明快なドラマが多いので、
こんなふうに妄想を働かすことが出来るドラマに出逢えたのが
すごく嬉しいんですが、
読んで下さる方の中には、違和感を覚える人も多いかもしれません。
すみません、とまず謝っておきます。

    *   *   *

今回は、まず最初に、
谷中刑事部長(西田敏行)がいったい何を考えているのか、
彼が登場する場面ごとにそれを推察するのが楽しかったです。

中村法務大臣石橋蓮司)との電話でのやりとりで、
佐久管理官(小澤征悦)を本人の前で「しょせん駒ですから」と言い切る、
ああそうか、谷中にしてみれば 佐久も‘駒’ なんだ、と妙に納得して、
でも、少しそのことを意識から遠ざけていたら、
ふいに浮き上がって来たのですよね、
谷中が佐久に、「4日間何もするな」と言い渡した時に。

谷中は、佐久が10年前の事件を掘り返して、
犯人とされる寺山の冤罪の可能性を探っていることに危機感を覚えます。
寺山に対しては、当時検事だった現・中村法務大臣が死刑を求刑、
それまでに2件の強盗殺人事件を起こしていた男なので、
10年前の事件が冤罪だとしても死刑判決は変わらないかもしれない、
それでも、当時、寺山に対して死刑を求刑した中村への
ミスジャッジの責任追求は免(まぬが)れない。
法務大臣という立場上、スキャンダルになるのは目に見えている。

佐久が昔の事件を探り始めたことを知った中村が、
急ぎ 寺山の死刑執行命令を下した、その情報を得た谷中は、
独断専行で捜査本部をかく乱する佐久に対し、
死刑執行まで4日間何もするな、と命令を下すのですが・・

佐久が「それでは警察は人殺しになってしまいます!」
と言い返して背を向けた時、
谷中の気持ちはどんなものだったのでしょうか。
厄介なやつが首を突っ込んで来た、おとなしくしていろ、と思ったのか、
あるいは・・

私は何だか、谷中が佐久に無言のうちに託したものが
あるような気がするのですよね、
‘駒’ である佐久が それに気づいていたかどうかは分からないけれど。
(たぶんうっすら感づいていたような気もする)

穿(うが)った見方をすれば、
中村が辞任することで、また一つ上の地位が空く、
それが自分の出世に繋がる、谷中は内心それを望んでいた、
(彼は警視総監→法務大臣になる野望を持っているので)
なんてことも考えられなくはないんだけど、
その出世欲は、もしかしたらただの‘欲’ ではなく、、
彼が思う‘理想の警察’ を作り上げたいがため、
彼なりの正義を守り抜きたいがため、なのかもしれないし。

そんなことを考えながら、
「4日間何もするな」と谷中が佐久に言い渡す、
あのシーンを改めて観返してみたら、
佐久以上に何事も腹を割って話そうとしない‘大人’な谷中が、
佐久に仕掛けた、ものすごく奥深い「策」だったようにも思えて来て。


刑事部長としての命令だ」と谷中から言われた後に、
ホテルに戻って佐久が言った「やるべきことが分かりました」の意味、
谷中と通じている屋敷(塚本高史)にだけ見せた弱み、
その後の佐久の行動・・
湖玉署への移動願いを出し、ひとりで捜査本部を立ち上げ、
小原(団時朗)の立てこもり事件を利用して13係に出動要請、
彼らと共に稲葉(菅原大吉)や吉崎(三浦浩一)を追い詰めて行く、
その思い切った「策」に、いったい誰の意図が含まれていたのか、
ぼんやりと見えて来たようにも思えて。
・・いや、もちろんそれは私の想像でしかないんだけれども。


そんな谷中と佐久を観ていてふと思い出したのが、
7年前の大河ドラマ風林火山』。
初回に、谷中が、島野(田辺誠一)に武田二十四将の話をする中で、
「君はさしずめ山本勘助といったところだ」と言うシーンがあって、
その時、島野が山本勘助なら、佐久は武田信玄ということか、
じぁあ 谷中は板垣信方あたりかなぁ、なんて漠然と思ったのですが、
いやいや違うんですよね、きっと。

信玄と相容れず、何度も衝突し、
彼を廃嫡しようとして、ついには家臣団によって駿河に追放される、
親子なのに常にやるかやられるか真剣勝負の丁々発止、
しかし心の底では
彼の武将としての力量を誰よりも最も認めていた、という信玄の父・・
谷中は武田信虎なんじゃないか、と。


まぁ、いずれにしても、
谷中は単純な人間じゃないですよね。
保身もある、出世欲もある 正義感もある、その複雑な人間の深さを、
西田さんが、時にユーモアを交えつつも実に味わい深く演じていて、
本当に面白くて魅力的なキャラだったなぁ、と思います。


演じる、と言えば、
8係長・稲葉を演じた菅原大吉さんも素晴らしかった。
終盤、佐久と13係に追い詰められる稲葉の姿には、
胸にグッと迫るものがありました。

10年前の殺人事件、目撃者の証言を強引に引き出して、
同じ手口で強盗殺人を犯していた寺山が犯人であると決めつけた、
そのことを糾弾された稲葉は、
「お前たちだってやってるだろ!きれい事だけで全てがうまくいくほど
世の中甘くないんだ!」と声を荒げる、
そんな彼に佐久は、
「一番の問題は、その不正を不正とも感じない感覚、
そしてそれが当たり前のように蔓延しているこの社会です!
曲げていい真実などあるはずがない!」
と一刀両断、あいかわらず彼の言葉には濁(にご)りがありません。

寺山への死刑という判決は覆(くつがえ)らないかもしれない、
今さら10年前の事件を穿(ほじく)り返しても、
意味のないことなのかもしれない、それでも・・
正しいことは正しい、間違っていることは間違っている、と筋を通す、
真実を曲げてはならない、という真っ直ぐで正当な姿勢こそ、
警察や司法が持たなければならない、もっとも基本的で重要なもの。

「捻じ曲げた事実は悲劇しか生まない、それが真実です」
という佐久の言葉が、とても重く響きました。
 (ふと『地の塩』を思い出しました)

10年前に妻と娘を殺された小原(団)を使って一芝居打った佐久(小澤)。
その策略に乗って、彼と共に稲葉(菅原)を糾弾した13係でしたが、
でもなぁ、この策、きっと島野係長(田辺)は、
あまり気のりはしなかっただろうなぁ。
たとえそれが、事件解決のもっとも有効な方法だろうと、
誰かを騙したり、欺(あざむ)いたりすることを受け入れるなんて、
この人には出来ないんじゃないか、と。

そこが、どんな狡(ずる)い手を使っても犯人を捕まえる(真実を通す)、
という意識をきっちりと持っている佐久とは相容れないところで、
だからこそ、二人の間には、決して越えられない深い河が、
あるいは高い壁が、横たわっているような気がする。

最終回、私は、二人の心・・というか精神が、
もっと近づくのかな、と思ったのですが、
佐久に最も近く寄ることが出来たのは屋敷(塚本)で、
島野はやはり最後まで「あなた(佐久)という人が分からない」ままで・・
そのことが、何だか私はちょっと寂しい気がしたのですよね、
正直なところ。


・・だけど、前回 佐久が言った、
「誰もが真実を見る事が出来るとは言えない。
しかし真実である事は出来る」
という言葉をずっと考えていて、ふと思ったのですが。

たとえ泥まみれになろうと絶対に揺らがない、
(まぎ)れもない‘真実’ を自分の芯に持ち続けようとする人間には、
泥に沈む芥(あくた)中から
本当の‘真実’ を見つけ出してくれる人間が必要なんじゃないか、
佐久にとって島野は、そういう存在だったんじゃないのか、と。

真実であろうとする人間と、
     真実を見定めようとする人間・・

島野が佐久をホテルに訪ね、
「10年前の事件に関連があるなら私の耳にも入れて頂きたい」
と詰め寄った時、
屋敷は「水くさい って言えばいいのに」とつぶやいたけれど、
佐久と島野は、お互いに、
‘水くさい’ 距離より近くには歩み寄れないんだと思う。
友人と呼べるような親しい間柄になってはいけない、
仕事上の距離を保たなければいけない、
真逆の二人は、それ以上近づいちゃいけないんだ、と・・
「真実」を曇らせないために。

島野はともかく、佐久はそのことを知っている,、
だから、彼は、必ず相手を役職名で呼ぶし、
島野に対しても、13係に対しても、
必要以上に親密には ならない、なれない・・
距離を置くことで守ろうとしているものがあるんじゃないでしょうか。


最後に、佐久に対して、
「私にはあなたという人が分からない。
何を考えどこへ向かうのか。その先に何があるというのか・・」
という島野のモノローグがありますが、
分からないのは、何とかして理解しようとしている証(あかし)でもある。

すべてのしがらみや欲を捨てて常に‘真実’ になろうとする佐久、
そんな彼のかたくなな姿勢を忌み嫌うことなく、
反対に、(屋敷のように)彼のやり方に染まってしまうこともなく、
ただ彼を理解するために、自然体のまま、
「なぜ?」「どうして?」と疑問符を投げ続ける島野。

ん〜、だとすると、やはり 二人の距離が縮まることはないのかも。


そのあたりから もうちょっと考え(妄想)を進めて行くと、
谷中・佐久・屋敷と、島野の立ち位置は違う、ということになります。
策略をめぐらせ人を陥れることも厭(いと)わないダークな佐久、
彼と同じ側に立つ谷中や屋敷、
そんな彼らの真逆にいて、たとえ事件解決のためとはいえ、
人を駒扱いするとか、策をろうするとか、罠に嵌(は)めるなどとは
まったく考えもつかない島野・・

ダークサイドに立つ佐久とブライトサイドに立つ島野、
この二人の間にいるのが小菅(渡辺いっけい)で、
彼は、相容れない佐久と島野各々の考えや性格を理解し、
どちらのやり方も認めている。
特に佐久に対する理解度というのは、
ひょっとしたら谷中や屋敷などよりずっと深いかもしれない。
ブライトな島野の傍にいるからこそ、
ダークな佐久に引き寄せられてしまうのかもしれない・・とか。


査問委員会で、佐久副署長は何を話したのでしょうか。
いや、そもそも何の査問だったのか。
10年前の事件まで穿(ほじくり)り出して捜査を混乱させた、
事件解決のためとはいえ一般人を囮(おとり)芝居に巻き込んだ、
その責任追及でしょうか。

結局、佐久は管理官として本庁に戻ることなく、
13係も配属替えでバラバラになってしまった。
本庁に残ったのは、島野と屋敷で、
警視総監の甥(島野)と 谷中の息がかかった刑事(屋敷)だから残れた、
と考えるのが妥当なんだろうけれど・・

何だか私は、島野や屋敷を本庁に残すことを条件に、
佐久は湖玉署の副署長のまま管理官に戻らず、
13係の連中は配置換えさせられたんじゃないかと思えてならなくて。
もちろん自分勝手な妄想だけど、
裏でそんな駆け引きがあった、と考えるのも面白いんじゃないかと。w


・・いやいや、楽しかった。
こんなに妄想まみれの感想を書いたのは久しぶりです。
 (読みにくかった人ごめんなさい。再度低頭)

このドラマの一番面白かったところは、
人間も、組織も、単純明快に描かなかったこと。
その分 事件そのものの描き方が弱かった時もありましたが、
事件を起こした人間なりの犯行の理由づけはちゃんと描かれていて、
どこかしら共感出来る部分を持っているところが良かった。

あと、捜査本部で本庁も所轄もなく意見をぶつけ合って捜査をした結果、
というのが、ちゃんと犯人逮捕に繋がっている。
ひとつひとつ可能性を潰して行く、と島野は言っていたけれど、
事件の核心に迫るまでの無駄な捜査、という部分もちゃんと描かれて、
せっかく苦労して調べたことが関係ないと分かったりして、
そこがとてもリアリティがあったと思います。

最近は、警察や銀行などの企業を描いても、
その中にいる一人一人の人間の個性を単純に見せることが多くて、
「組織」としての魅力を重層的に表現してくれるドラマが少ないのですが、
このドラマは、組織の中でうごめく刑事たちを望遠で追っている感じで、
全体の空気感が素晴らしく、また潔(いさぎよ)くて、
登場する刑事たちも、警察も、すべてを好きになってしまうような
雰囲気があって、そんなところも とても好もしかったです。

また、テレビ朝日のこの時間帯の刑事ものは、
とにかく出てくる人たち皆、スーツをピシッと着こなしていて、
ワイシャツにきちんとアイロンがかかっていたり、
 (中藤(猪野学)がみんなの分もアイロンかけてくれてたのかなw)
ネクタイの締め方にもゆるみがなくて、気持ちがいいです。
以前、そのあたりがちゃんとしてなくて がっかりしたドラマもあったので、
そういうところまで手を抜かない作りに、嬉しくなりました。


回を追うごとに、
佐久管理官を演じる小澤征悦さんが役にぴったりとはまって来て、
今度はどんな策をめぐらすのか、と、毎回すごく楽しみでした。
佐久が持つ、動じない揺らがない強さを、
小澤さんがしっかり演じ切って見せてくれたから、
13係や所轄の刑事たちとのぶつかり合いが迫力あるものになったし、
逆に、佐久が抱く孤高性みたいなものもうまく浮き立って、
非常に奥の深い魅力的な人間に仕上がった、
それらは ひとえに、
小澤さんの まっすぐに役に向かう姿勢のたまものだと思いました。


田辺誠一さん演じる島野は、佐久の策に翻弄(ほんろう)される役で、
小澤さんと対等、というわけにはいかなかったけれど、
その、ちょっと控えめなところでしっかり仕事をしている島野も
私は好きでした。
何より13係のメンバーに愛されているのがいい。
島野って、基本、守られキャラですよね。
小菅が気を使って、時々露払いしていたのが面白かった。
ミズタクやエンケンにヒントを得たという(田辺tweet情報)
眼鏡にも楽しませてもらったし、
佐久の出動要請を受けてマルイラクチン走りで行っちゃうところも
微笑ましかった。
13係の皆と一緒にいる時の柔らかい雰囲気の島野も、
佐久と一緒の時の緊張した島野も興味深く、
田辺さんの新しい一面を観ることが出来たような気がしました。


佐久や島野ばかりじゃない、
小菅(渡辺)も、太田(神尾佑)も、加藤(田中隆二)も、
中藤(猪野)も、風間(篠田光亮)も、屋敷(塚本)も、谷中(西田)も、
回ごとに登場した所轄の刑事たちも、みんな好きだったなぁ。
彼ら全員で醸し出した あの空気感がたまらなかったです。

終わって1週間、明らかに『TEAM』ロス。
ぜひとも続編を!無理ならスペシャルドラマを、ぜひ!


『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』     
放送日時:2014年4月-毎週水曜 21:00-(テレビ朝日系)
脚本:吉本昌弘 監督:猪崎宣昭 ゼネラルプロデューサー:松本基弘(テレビ朝日
プロデューサー:藤本一彦(テレビ朝日) 金丸哲也(東映) 和佐野健一(東映) 
音楽:吉川清之 主題歌:加藤ミリヤ×清水将太「ESCAPE」 制作:テレビ朝日 東映
キャスト:小澤征悦 田辺誠一 塚本高史 神尾祐 田中隆三 猪野学 篠田光亮
渡辺いっけい 西田敏行  
ゲスト:菅原大吉 石橋蓮司 団時朗 三浦浩一  『TEAM』公式サイト