『BORDER』感想

『BORDER』感想 【ネタバレあり】

岡田准一さん主演の人気ドラマ『SP』の原案・脚本を担当した
作家・金城一紀さんが、このドラマでも原案・脚本を担当、
かなりの意欲作に仕上がっています。


ある事件に巻き込まれて頭に弾丸を受け、
その弾丸が頭部の奥に残ったせいで死者と話が出来るようになった、という
主人公=石川安吾の人物設定を聞いて、
その特殊能力を使って事件を解決して行く話なのかな、と思ったら、
そんな単純なものではなく、
もっとずっと深みのある、重いドラマで、
観ている側は、石川(小栗旬)の内面に深く入り込んで蝕(むしば)んで行く
得体のしれない‘何か’ を、ただ黙って傍観するしかない、というか、
事件が解決しても、まったく気が晴れない、というか・
だから、はっきり言って、事件解決後の爽快感のようなものは皆無。

それでも、この独特の世界観には妙に惹かれるものがあり、
観始めてすぐ やみつきになった 私みたいな人も
多かったのではないでしょうか。


こういう「人間の精神」とか「意識」に関わるドラマというのは、
中途半端に作ると、すごく安っぽいチャチなものに
なってしまいがちなのですが、
このドラマは、石川が毎回(精神的に)ぎりぎりのところに追い込まれて行く
その度合が半端じゃなくて、
小栗さんがまた余分なものを削ぎ落として削ぎ落として、
切れ味鋭い眼光と淋しげな背中でそれを表現してくれるものだから、
観ているのが切ないやら、苦しいやら。


上司(遠藤憲一)も同僚も(青木崇高)も完全に傍観者に過ぎなくて、
唯一、類まれな観察眼と勘を持つ検視官の比嘉(波瑠)だけが、
少しだけ彼に近づくことが出来る存在で。

とにかく、石川は常に一人、なのですよね。
情報集めに協力する人材には魅力的な人たちが揃っているけれど、
古田新太滝藤賢一野間口徹・浜野謙太)
それも、彼を遠くから取り巻く存在に過ぎなくて。

死者の声を頼りに事件の真相を暴くけれども、
必ずしも毎回犯人が捕まるわけではない、
あるいは、犯人が捕まっても負の連鎖は断ち切れない。
しかも、もう被害者は死んでいて、
火葬されればその姿も石川の前から消えてしまう。
その虚(むな)しさたるや・・


最終回、絶対的な悪・アンドウ(大森南朋)と一人闘う石川。
「悪が存在してこそ正義も存在する。
私は絶対的な悪をなす、
あなたは中途半端な正義を実践しようとして常に私に敗北する」
そんな予言めいたことをアンドウに言われた石川は、
絶対的な悪に勝つにはどうしたらいいか、赤井(古田)に尋ねます。
赤井は、相手がしくじるのをじっくり待つしかない、と言いますが、
死者の声を聴き、より死者の痛みを感じてしまっている石川は、
再びアンドウと対峙、そして・・

このラストをどう取るか・・
正義が悪に勝つには、悪を排除するしかない。
悪を永遠にこの世から排除するには滅ぼすしかない。
しかし、悪を滅ぼした(殺した)瞬間、
正義は、悪の領域(殺人)に足を踏み入れてしまうことになる、
この石川のように。

「こちらの世界へようこそ」
石川にだけ見えるアンドウが石川の背中からそう語りかける、
絶望に打ちひしがれた石川の横顔を捉えて闇――

この終わり方が非常にインパクトがあって、
観終わった後、画面を見つめたまま しばらく固まってしまいました。


悪を、異常なものではなく どこにでもあるものとして、
アンドウを普通の人間として演じた大森さんもすごかったけれど、
石川役の小栗さんが一人ぼっちのままどんどん追い詰められて行く様子が
何とも痛々しくて切なくて苦しくて、でも目が離せなくて。

それから少しばかり時間が経って、ようやくその呪縛が解けた時に、
石川安吾という役への入り込み方に身震いするものを感じて・・
小栗旬、すごい!と。


ドラマは、どの回も面白かった。
『TEAM』とは反対にグッと絞られた人数でしたが
味方側にも敵側にも非常に魅力的な登場人物たちがいて、
独特の不思議な空気感をうまく作り出すのに
成功していたように思います。

宮藤官九郎さんがゲストだった5話はほっこりしたし、
石川が自分に銃弾を撃ち込んだ犯人と対峙する8話など
物語のキーになる回もありましたが、
私としては2話と7話と9話(最終回)が特に印象に残りました。

最終回できっちりピリオドが打たれてしまっているので、
続編は難しいかもしれませんが、
最終回以前に時間を戻したところからリスタートさせれば
出来ないことはないんじゃないかと思うので、
ぜひ一考を希望したいところです。


余談になりますが、
小栗さんが『ルパン三世』を演じると聞いた時、
正直、え〜小栗旬がルパンなの〜?と思ったのですが、
これはちょっと期待していいのかな、なんて、
このドラマの小栗さんを観て、そんなことも感じました。


今期、この『BORDER』と『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』という
テレビ朝日系の2本の刑事ものは、
どちらも、ある意味かなり冒険したと思うのですが、
2本とも歯ごたえがしっかりあったし、
制作側の「こういうものが作りたい」という明確な意図が感じられて、
私は どちらも非常に面白いと思いました。

安定した支持が得られ視聴率が読める シリーズものも良いですが、
その牙城を崩すようなこういう作品も作り続けて欲しいと切に願います。


『BORDER』     
放送日時:2014年4月-毎週木曜 21:00-(テレビ朝日系)
原案・脚本:金城一紀 監督:橋本一 波多野貴文 
ゼネラルプロデューサー:松本基弘(テレビ朝日
プロデューサー:山田 兼司(テレビ朝日) 太田雅晴(5年D組)
音楽:川井憲次 主題歌(オープニングテーマ) MAN WITH A MISSION『evils fall』
キャスト:小栗旬 青木崇高 波瑠 古田新太 滝藤賢一 野間口徹 浜野謙太
北見敏之 遠藤憲一 他
ゲスト:丸山智己 平田満 宮藤官九郎 中村達也 飯田基祐 大森南朋 他
『BORDER』公式サイト