『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』(第7話)感想

『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』(第7話)感想 【ネタバレあり】

  八王子の開発地から白骨死体が発見され、
  投資ファンドの代表・仲正利樹(西村雅彦)が容疑者として浮上したが、
  仲正は事件直後に外国へ移住。
  現地で国籍とパギ・スカルナという新たな名前を取得し、
  伯爵の称号も手に入れていた・・  (公式サイトより)

ということは、佐久管理官(小澤征悦)がやり合う今度の相手は外務省か、
と期待したのですが、実際はそうではなかったですし、
今まで 所轄の刑事を演じることが多かったゲスト俳優の役回りも、
今回(ゲスト・西村雅彦さん)は追われる側になっていて、
それを佐久が自ら駒になって捜査する、という、
いろいろなところがいつもと違う、捻(ひね)りが感じられる回でした。


佐久管理官×島野(田辺誠一)率いる13係×所轄の刑事
という定石のパターンを今回は使わず、
したがって13係が靴底減らして聞き込みするシーンがほとんどなく、
所轄の個性的な刑事が出てくることもなく、
毎回 そういう場面を楽しみにしていた私としては、
正直なところ、ちょっと物足りなさを感じつつ観始めたのですが・・


事件そのものについては、
仲正(西村)の、樹理(浅見れいな)の母親・真理に対する純愛、
仮想の国の伯爵、DNA鑑定に必要な涙の採取・・等々、
なかなか凝(こ)った内容で、独特の味わいがあって面白かったですし、
いつものパターンとは かなり違う展開でありながら、
このドラマが持つ空気感がほとんど崩れることはなかった、
というところも興味深かったです。
(全体的なイメージとして、何となく『相棒』っぽさを感じました)

ただ、
何度か差し挟まれる仲正の中学時代の回想シーンに、
彼が真理に対して抱いていた純粋で深い愛情が、
その心にしっかりと踏み込んだ形で表現されていなかったのではないか・・
  (最後に花火を使いたいなら、そのエピソードを重点的に描くべきでは?)
十字架や音楽などの宗教的な風味を
あまり深い意味もなく安易に使い過ぎたのではないか・・
等々の残念な印象が自分の中に残ってしまったこともあって、
私には、この作品が、惜しいところで
上質なメルヘン(おとぎ話)に仕上がり切っていなかったように感じられて、
仲正の号泣に存分に感情移入出来なかったのが
ちょっと寂しかったです。


一方で、非常に面白く感じたのは、
駒となって動く佐久管理官の、いつもと異なる佇(たたず)まい。
樹里の住むマンションの警備員になりすました佐久が、
彼女に近づき、すぐに彼女の信頼を得る、
その時の、柔和な表情や、ちょっと背を丸めた姿勢、
両手でカップを持つ仕草・・等々が、
いつもの管理官としての姿とはまったく違っていて、
佐久が何の違和感もなく警備員を‘演じている’ その姿が、
「駒になるというのはこういうことだ」という見本を
13係の面々に突き付けているように思えて。

そして、さらに惹かれたのは、
必要なものが手に入ると分かったら さっさと仮面をはずす、
冷血漢・佐久の本領発揮のシーン。
「ハンカチをお貸しいただけますか」と樹里に告げる彼には、
もう、あの柔和で穏やかな警備員の姿はカケラもなくて、
その‘非情さ’ に、彼の刑事としての凄みを感じて、
観ているこちらまで樹里と同じような気持ちになって、
ちょっと身震いしてしまいました。

いやいや、いいですね、佐久管理官。
今回は、彼の「この部分」を引き出すための回だったんだ、と思えば、
13係の出番が少なかったのも納得出来ます。


以前、八神刑事課長(佐藤浩市)は、佐久に対して
「才で情を切り伏せた」と言ったけれど、
佐久のあの表情を観ていて、
それって ちょっと違うんじゃないか、と思えて来ました。

仲正の純愛をもバッサリと切り伏せる 容赦のない強さ・確かさは、
佐久の「正義感」から生まれている・・
なんて言うと、いかにも安っぽく聞こえるかもしれないですが、
でも、何だかそういう言葉でしか表現出来ないものが、
佐久の内にはしっかりと根付いているような気がするのです。

「正義」は、人によって形を変えます。
仲正にしても、彼なりの正義があって、それに基づいて犯行に及んだ、
とも言えるわけで。

では、人それぞれの立場や事情に依(よ)らない、
誰にもあてはまる「不動の正義」というものはあるのか。

それは「法律」である――と、佐久は信じているのではないか・・
感情や心情に左右されずに、
法に照らし合わせて事件のすべてを判断すること、それこそが、
「不動の正義」を貫く唯一の道である、と。
‘才’ ではなく、 ‘正義’ で情を切り伏せる、
その 一貫して揺らがない確かな「物差し」を持っているから、
彼は、あんなにまっすぐでいられるんじゃないか、と。

もちろんこれは私個人の想像(妄想)でしかありませんが、
でも、そんなことを考えていたら、
何だか、佐久がなぜ捜査員たちを‘駒’ と呼ぶのか、
誰とも‘情’ を繋げようとしないのか、その理由が分かった気がして、
佐久という人間が、ものすごく深いものを抱えた存在に思えて来て・・

罪を認めた仲正に対して、ようやく彼は少しだけ表情を緩め、
仲正のおとぎ話に耳を傾ける・・
モノトーンの過去が鮮やかな色彩に染まる、
この時の仲正=西村さんの はにかんだような表情がまた素晴らしくて、
画面をグルグル回転させる なんて小手先なことしないで、
二人のいい表情をじっくり見せてくれよ、と思ってしまいました。


さて13係。
今回、あまり特筆するようなところはなかったですが、
普段は動き回っている13係が動かず、普段は動かない佐久が動く、
という反転の面白さがあって、
捜査本部の小さい部屋で談笑していたりとか、
車の中でひしめき合って画面を見つめていたりとか、
(佐久の急なアップに皆で「うへ〜」ってなってるところがかわいいw)
佐久に対する島野係長の、
「騙(だま)す・出し抜く…そういう分野においてこの人は天才だ」
という言葉に耳を傾けたり、だとか、
そんな 動かない13係を観るのも楽しかったです。


それから、捜査本部の雰囲気も、私の毎回の楽しみのひとつ。
今回、捜査本部もこじんまり、副署長ものんびり、
どこかのどかな雰囲気だったのは、
事件の性質のせいなのか、あるいはやはり土地柄を表現しているのか、
なんてことをあれこれ考えて、楽しませてもらいました。


小菅(渡辺いっけい)や谷中刑事部長(西田敏行)が今回はお休み、
屋敷(塚本高史)は外回りで、佐久や13係とまったく絡まないのが
ちょっと寂しかった・・と思っていたら、
次回はいよいよ谷中と佐久がぶつかるらしい。
それもまた楽しみです。


『TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部』     
放送日時:2014年4月-毎週水曜 21:00-(テレビ朝日系)
脚本:真野勝成 監督:猪崎宣昭 ゼネラルプロデューサー:松本基弘(テレビ朝日
プロデューサー:藤本一彦(テレビ朝日) 金丸哲也(東映) 和佐野健一(東映) 
音楽:吉川清之 主題歌:加藤ミリヤ×清水将太「ESCAPE」 制作:テレビ朝日 東映
キャスト:小澤征悦 田辺誠一 塚本高史 神尾祐 田中隆三 猪野学 篠田光亮   
ゲスト:西村雅彦 浅見れいな  『TEAM』公式サイト