『ラストホープ』(第6話)感想

『LAST HOPE/ラストホープ』(第6話)感想
毎回、先端医療の現状や問題点を挙げつつ、
過去話を随所に絡(から)めて来るので、
患者の背景に関しては、書き込み不足は否めないんですが、
それでも、患者への治療(手術)を通して、
メインを担(にな)った医師が、確実に何かを掴んで、
医師としても人間としても成長して行く、その姿が描かれるので、
観ていて、どこか さわやかで前向きな気持ちになれるのも事実で。
    (実際に病気と闘っている人からしたら「さわやかで前向き」というのは
    不謹慎な言い方かもしれないけれど)



今回は副島(北村有起哉)がメイン。


医療をビジネスと捉えている彼にも、
彼なりの医師としての誇りや自信があるのだ、というあたりを、
手術への取り組みや、過去の経験と重ねて行くことで、
じんわりと見せてくれて、
彼の中にどんな野望や夢があったとしても、
この「医師として」のベースがしっかり出来上がっている限り、
とんでもない方向には進まないだろう、という安心感が芽生えて、
ますます副島が好きになりました。


医者として延命を第一に考えるべきか、
患者の望む眼科治療を優先すべきか・・
「私にとって写真を撮ることは生きることだ。写真家として死にたい」
という篠田(石黒賢)の望みこそが彼のラストホープと捉え、
メンバーは眼科手術を優先することになるのですが・・


副島に、素直に不安を打ち明ける篠田。
「今からでも脳腫瘍の手術を優先しようか・・
眼の手術をしても見えるようにはならないんじゃないか、
そう考え始めたら、無性にもっと生きたくなった。
覚悟を決めたのに・・自分の弱さに腹が立つ」。
そんな彼に、副島は言う、
「私は、私以上に優秀な眼科医を知りません」と。
このシーンが、私はすごく好きでした。


篠田の不安を受け止めた副島が、
私なら10%の成功確立を50%にまで引き上げることが出来る・・と。
それだけの自信が本当にあったから言ったのかもしれないけれど、
私はむしろ、そう言い切ってしまうことで、
副島自身が、篠田に対する医師としての責任を、
自分の持てる力すべてを使って果たそうとしているようにも思えました。


手術中、何度も小さく息を吐く、
副島が、どれほど緊迫した中で手術をしているのかが
如実に伝わって来る。
その見事な捌(さば)き方を見て、高木(田辺誠一)が言う、
「あそこまで無駄がないのは、何度も頭の中でイメージを固めたからだ」。
その言葉から、高木や橘(多部未華子)が、最初の頃、
懸命にシュミレーションを繰り返していたシーンが思い出されて、
10%を50%に引き上げるための最大限の努力を
副島も懸命に払っていたんだ、と、なんだ、こいつもいい奴じゃないか、と、
ちょっとウルッと来たりもして。


2週間後、篠田の眼帯を、
橘が「失礼します」と言ってそっと外したのも良かった。
「患者の命が第一」と考えていた彼女に、
医者が望むことと患者が望むことが同じとは限らない、と、
身を持って教えてくれた篠田。
彼に出会ったことで、
副島と同じように、橘もまた成長したように思います。
だからこそ、彼女が篠田の眼帯を外す役目を担うことにも
意味があったのではないかと。


篠田が望んでいたものは、
ひょっとしたら「カメラマンとしてファインダーを覗くこと」
ではなかったのかもしれない。
再び眼が見えるようになって味わえた、
(カメラマンとしての原点回帰とも言える)一人の人間としての、
小さな感動・驚き・・
命の尽きる前に心に写し撮ることが出来た、
自分がイメージしていた姿とは違っていた幼顔の女医の、
はにかんだ微笑み顔・・


結局、篠田は死んでしまったけれど、
彼の最後の望み(ラストホープ)は叶えられた。
副島や橘にとっては、患者の身体を治療するだけでなく、
心(願いや祈り)を掬い取ることも大事だと知った、
貴重な経験だったように思いました。



一方、過去話は・・
高木と波多野(相葉雅紀)が、その周囲の状況を描き進むことで、
徐々に本人の芯に近づく感じがして来た
(これは、役としてそういう作りになっているということもあるけれど、
俳優の持ち味とも関係している気がする)のと対照的に、
副島と橘は、芯が最初にあって、
そこにさまざまな感情が肉付けされて来た感じ。
その中間に、バランスの取れた荻原(小池栄子)がいて、
全てを包含するように古牧(小日向文世)がいる・・
波多野の過去を含めた全体が、ジワジワ古牧に近づきつつある、
という感じがします。


次回はいよいよ斉藤健(たける高橋一生)の登場。
波多野周辺が、加速度をつけて動き始めることになるのでしょうか。



気になった人たち。


篠田を演じた石黒賢さん。
眼の見えない演技というのは、なかなか難しくて、
そうと言われなければ そうとは見えないことも多いのですが、
石黒さんは、視線の先の対象物にピントを合わせない眼の動きが
ほぼ完璧に出来ていて、説得力がありました。
あと、この人の持つ独特の(感情過多にならない)人間味も、
この役には、とても有効だったように思います。


北村有起哉さん。
いつもは、ほとんど温かい感情の部分を見せない副島だけど、
今回は、そういうところが じんわりと滲み出て、
それでも、自分のキャラはくずさない、
そのあたりを、北村さんが抑制しつつ演じることで、
役に、さらに奥行きが出ていたように思います。
こういう、ワキでピリッとした存在感を見せてくれる人に、
私はめっぽう弱いですw。


相葉雅紀さん。
篠田が、波多野に対して「掴みどころがない」と言ってましたが、
それはそっくり、相葉くん本人にも言えることなのではないか、とw。
しかし、波多野を演じるうちに、
徐々に何かを掴み掛けている(自分を広げている)感じもして。
だから、前回、【波多野の まっすぐな性格の内にある陰影を、
相葉くんがうまく出し始めている】と書いたのですが、
今回は、病床のお母さんとのやりとりが良かった。
何だろう・・今まで一度も波多野に感じられなかった、
キンと冴えた空気感、みたいなものが初めて伝わって来て、
これからますます難しくなりそうなこの役を、
彼がどこまで掘り下げて演じてくれるか、楽しみになりました。


田辺誠一さん。
前回、【どの一瞬を切り取っても、高木淳二という一人のキャラとして
まったく違和感ないのが、本当に嬉しいし、本当に観ていて面白い】
と書いたのですが、今回は、ちょっと引っ掛かってしまった。
カンファレンスのシーン、
私には、おちゃらけてる高木が、白石(@デカ黒川☆鈴木)に見えてしまった。
あの緩(ゆる)さは、高木が持っている緩さじゃない気がしました。
そんなことを考えていたせいか、
高木が、カンファレンスの流れに乗り切れず、
全員の言葉の応酬の中にうまく溶け込んでいないようにも
感じられてしまいました。
(もちろん、あくまで私個人の感覚です)


それと、高木には、
紗枝との交際や別れによって生まれた感情とか
物の見方とかが何かしらあるはずで、
「医者が望むことと、患者の望むことは違う」という言葉も、
紗枝があの時 彼に望んだことに由来していると思うのですが、
今回、「白石的軽さ」のせいもあったのか、
愛する人の死に際に関わったことによる痛みと悼(いた)みが、
十分に高木の言動に反映されていないように感じられたのが
ちょっと残念な気がしました。
そのあたりを掘り下げたら、もっと深みが出るだろうに・・と。


そういう高木の深さを、いつか描いてもらえると思ったから、
【「一人の患者さんをちゃんと救うことは、そんな簡単なことじゃない」
そこを、今後 このチームが共通認識出来るのかどうか・・
おそらく、今のところ、波多野以外では、高木が、
それを一番良く理解しているんじゃないか、という気がする】
と、4話の感想で書いたわけなんですが。

・・すみません、自分でも、あまりにも細かいことを求め過ぎている
気がしますけれども。(苦笑)


ところで、高木の眼の件(老眼疑惑?)は、
ただのギャグ的エピソードなんでしょうか?
それとも、深い意味のある伏線なんでしょうか?
まさか、チームバチスタ的展開には・・ならないですよね・・
(だから深読みし過ぎだってば!w)



ラストホープ
放送日時:毎週火曜 夜21:00- フジテレビ系

キャスト
相葉雅紀 多部未華子 田辺誠一 小池栄子 北村有起哉 桜庭ななみ 
平田満 高嶋政宏 小日向文世 / 坂井真紀 
スタッフ
脚本:浜田秀哉 演出:谷村政樹
プロデュース:成河広明 古屋建自
『ラストホープ』公式サイト