ふたつのスピカ(talk)

2009・6-7放送(NHK総合
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

夢:『ふたつのスピカ』って、マンガが原作で、アニメにもなってたらしいね。
翔:そうだね。 ただ、その原作と このドラマとは、だいぶ雰囲気が違っていたらしい。
夢:『神の雫』で話に出た「マンガ原作ものの難しさ」ってことが言えるのかな、このドラマにも。
翔:う~ん・・やはり、マンガだと、生身の人間じゃ表現し切れない独特の世界観や空気感があるから。 絵のイメージが強いし、ファンの思い入れも特別な場合が多いから、内容にしても、登場人物のキャラ作りにしても、相当風当たりが強くなるのは覚悟しないといけない。 
 逆に、原作ファンがドラマを観る場合は、ドラマは 原作の外枠を借りただけの別物、というぐらいの割り切り方をしないといけないかもしれない。
夢:小説だと、原作ファンのアレルギーみたいなものは、そこまで強くない気がするけど。
翔:・・まぁ、小説でも、キャラクターによっては、絶大な人気があって、ドラマ化や映画化される時に「イメージが違う」って反発されるってことはあるけど、マンガほどじゃないよね。 それだけ、「絵」のインパクトは強い、ってことだろう、と。
夢:そういえば、翔は、三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』を読んだ時、多田と行天については、下村富美さんの挿絵のイメージが強く残ってしまった、と言ってたね。
翔:あの絵は非常に魅力的ではあったんだけど、小説の多田と行天のかっこ悪い部分が隠されてしまったような気がして、ちょっと残念にも思ったんだよね。 小説を読んだ時に感じた、30代半ばという年齢のふたりが持っている情けないイメージを、そのまま自由に持っていたかったなぁ・・という、ワガママ以外の何物でもない感想を持ったりしたので。(笑)
夢:ふ~ん・・情けなかったかなぁ、あのふたり。 あたしは、下村さんの絵は素直に「かっこいい」と思ったけどな。(笑)
翔:・・・それは確かにそうなんだけど(笑)。 逆に、『謎解きはディナーのあとで』とかは、表紙の絵が、小説の魅力を引き上げていたように思ったし。
夢:なるほどね。 でも、マンガとなると、小説の挿絵と違って、内容まで全部絵で描かれてるわけだから、そういう「イメージの固定」というのは、もっとガッチリ出来上がってしまう、ってことだよね。
翔:そうそう。 マンガでしか表現出来ない、あるいは出来にくいイメージ、というものが、しっかりある作品は特に。 『神の雫』のワインの使徒の表現もそうだし、この作品で言えば、ライオンさん、というキャラの存在もそうだし。
夢:ライオンさん、かぁ・・
翔:この作品がドラマ化される、と発表された後、原作ファンの間では、「ライオンさん」を出さなければ意味がないだろう、という議論がかなりあったらしい。 で、ライオンさんが出ない、と知って、多くの原作ファンからそっぽを向かれた、そういう状態でドラマがスタートしたから、これもまた、『神の雫』同様、スタッフ・キャストにとっては、かなりのハンデを背負い込んでしまった、と言えるんじゃないか、と。
夢:それが視聴率低迷にも繋がった、ってことなんだろうか。
翔:ワインにしても、宇宙飛行士にしても、観る側に、普通の人間が簡単に入り込める世界じゃない、という敷居の高さがあったのは間違いないかもしれない。
夢:だけど、翔は、このドラマも、すごく面白い、と思って観てたみたいだよね。
翔:いやもう、『神の雫』『空飛ぶタイヤ』に引き続き、このドラマも絶賛!って、ここまで続くと、「辛口・翔」の名折れじゃないかって気がしないでもないけど・・でも、いいものはいい、と言うしかないもんなぁ。(笑)
夢:あたしは正直、少年少女向けだとしても、ちょっと甘いんじゃないか、って気がしたけど。 宇宙飛行士になるなら、もっと壮絶な訓練をしなきゃならないんじゃないか、と思ってたし、生徒たちが特別ずば抜けた能力を持っているようには見えなかったし。
翔:それは確かにそうだった。 でも、私は、このドラマが描きたいのは、「宇宙飛行士になるためにどういう勉強や訓練をしなければならないか」 という具体的なメソッドの話じゃなくて、「自分の夢を掴むためには何が必要か」 「同じ夢を持ったライバルたちと、どう向き合って行けばいいのか」 という、どういう世界にも通じるお話だと思ったし、「普遍的な少年少女の成長物語」を描こうとしていたように思うので、そう考えると、非常にしっかりしたメッセージもあって、気持ち良く観ることが出来たな、という気がしてるんだけど。
夢:う~ん・・・そうか。
翔:宇宙飛行士じゃなくても良かったんだよね、きっと。 だってこれは、「宇宙飛行士になる少女のお話」じゃなくて、幼い頃からの夢を実現させるために、仲間と支え合いながら、時に反発しながら、それぞれが高みを目指し、それぞれが確かな何かを掴み取って成長して行く、その過程を見せるドラマだったと思うから。
夢:・・・・・・・・
翔:「夢を持つこと」、「懸命に真剣に努力すること」、そして、「ライバルである仲間に容赦なく勝つこと」・・・大事なメッセージを、照れることなく臆することなくストレートに伝える、そこに、ジュブナイル特有の青臭さを感じ取って、こそばゆく思う人もいるかもしれないけれど、私は、そういうふうにまっすぐに伝えたいものを持ったドラマというのも、必要じゃないか、と思う。
夢:・・・・・・・・
翔:しかも、普通のライバルものだと、まず敵として思い切りぶつかって、何度も闘って、やがて友情のようなものが芽生えて行く、という展開になることが多いんだけど、このドラマでは、仲間が徐々にライバルとして成長して行く、という逆コースを辿る。 ぶつかり合う者がやがてお互いを認め合うようになるんじゃなくて、仲間だった者たちが、夢を掴むために容赦なく相手に勝とう!という強い意志を持ち始める・・・そこには、もうひとつ、越えなければならないヤマが存在する。 
夢:ヤマ?
翔:彼らは、ライバルである以前に、仲間で、どんどん友情が深まっているから、普通のライバルのように、思い切ってぶつかって行く、ということが出来にくい関係になっている。 でも、だからって、みんな仲良しで なーなーでやってたら、たぶん宇宙飛行士にはなれない。 その、「仲間に容赦なく勝たなければ夢は叶わない」という部分での、ある意味 残酷な描き方、というのが、私には、すごく興味深く思われたので。
夢:残酷な・・か。
翔:それが中途半端な夢なら もちろん叶わないし、どれだけ強い意志を持っても 叶わないこともあるし、もうすぐ叶えられると思った夢が 指先からぽろりとこぼれ落ちることもある。 一方、諦めた後で転がり込んで来る夢もある・・けど、それは決して幸運なんじゃなくて、人一倍の努力と想いが報われただけのことなんだ、と・・・
夢:・・・・・・・
翔:そして、仲間に容赦なく勝って夢への切符を手に入れた者は、容赦なく打ち負かされた仲間の分も、頑張らなければならない。 仲間の夢も背負って行かなければならない。 そういう明確なメッセージが、気持ちよく伝わって来た気がする。
夢:・・・・・・・・
翔:これが、たとえばアスミ(桜庭ななみ)と秋(シュウ)(中村優一)のふたりだけだったら、こんなにいろんな「叶えられなかった夢の形」を伝えることは出来なかった。 万里香(足立梨花)やふっちー(大東俊介)や圭(高山侑子)が、それぞれの立場で、それぞれの伝えるべきものを背負って、アスミとシュウの傍にいたから、観ている側としても、誰か自分に近い存在に感情移入出来たんじゃないか、という気がする。
夢:5人いるからいいんだ、と。
翔:5人それぞれに存在意味があるんだよね。 アスミに対する距離や立ち位置の違いがあって、それぞれが伝えたいことをちゃんと持っていて・・
そのあたりは、そもそもそういうキャラを配置した原作がうまいのかもしれない・・・私は原作を読んでいないので分からないけど。
夢:なるほどね~。
翔:アスミ以外の人間に対しても、観ている人の立場や考え方によって、ちゃんと誰かに感情移入出来るようになっている。 それぞれのキャラが立っているのは、ちゃんとそれぞれの役割を背負わされているからだと思う。
夢:うん。
翔:そして、さらに、このドラマの面白いところは、アスミたちの闘いと平行して、友朗(高嶋政宏)と佐野(田辺誠一)の関係を絡ませることによって、「大人の夢」をも描こうとしているところ。 
この、子ども世代と大人世代の交差が、ジュブナイルとしての爽やかさだけでなく、物語にコクを与えていたように思う。
夢:うんうん。
翔:「夢を見ること」は子供たちだけの特権ではない、ということ。 子供たちと関わることで、かつてのライバルが、心の中に眠っていた夢を揺り動かされ、やがてゆっくりと歩み寄って行く、敵としてではなく、仲間として。
そのあたりの「大人の成長」という部分も、サイドストーリーとして、しっかりと描かれていたことが、すごく素敵だったなぁ、と。
夢:そうか~、確かに、「私もまだ40歳だ」なんて魅力的なセリフもあったしね。(笑)
翔:そうそう。(笑)
 ★    ★    ★
夢:佐野という鬼教官(笑)を演じた田辺さんについて、もうちょっと突っ込んだ話を。
翔:良かったです。 さっきも言ったように、生徒たちと平行して、ちゃんと大人たちにもドラマ が用意されていた、というところで、ただのワキ役じゃなかったから。 案外、一番成長したのは、彼(佐野)かもしれないなぁ、と。(笑)
夢:ふふ・・なるほどね。(笑)
翔:年齢的に、こういう、若い人を見守るようなポジションの役も これから増えて来ると思うけど、田辺さんだと、すんなり「ワキ」に収まっていないんじゃないか、って気がするんだよね、この佐野あたりを観ていると。
夢:何かしら波乱を起こすような感じ?(笑)
翔:う~ん・・・たとえば『ブラック会社・・』の藤田にしても、『小公女セイラ』の亜蘭にしても、この佐野にしても、田辺さんが若手と組む時って、最近は特に、役に、共通する方向性があるような気がする。 ある種の「導き手」というか・・・それが、藤田のように味方として出て来るか、佐野のような壁として存在するか、の違いはあるとしても。
夢:ただのお父さんやおじさんとは違う、と。(笑)
翔:いや、普通におじさんの役をやれ、と言われたら、それはそれでちゃんと普通に地味にやれる人なんじゃないかとは思うけど。(笑) 一時期、そういう役が重なったこともあったし・・大森(@イン・ザ・プール)とか、崎野(@蒼い描点)とか、大塚(@弁護士のくず)とか、宮原(@瑠璃の島SP2007~初恋)とか。
夢:そういう役と、藤田や亜蘭や佐野とは、何が違うんだろう?
翔:・・・かっこいいか、かっこよくないか・・かな?
夢:えっ!? ‘そこ’なの?(笑)
翔:‘そこ’です。(笑) ・・・あ、もちろん、見た目だけじゃなくて、中身も含めて、ということだけど。 
同じ「イヤな大人」でも、佐野と宮原じゃ、内側に持っているものが全然違う・・というか、求められているものが違うんだよね。 その「嫌さ」加減に、よりリアリティを求められていた宮原と、イヤな奴ではあるけれど、内面に純粋なものを持っていた、という設定の佐野では。
夢:・・・純粋なもの・・か・・・
翔:特に『瑠璃の島』の宮原は、もうほんとに、「こいつどうしてくれよう!」って役だったから。
夢:あ、そうそう! 翔は、宮原に対して、「彼が何か言ったりやったりするたびに、『こいつ、どうしてくれよう!』って、心にゲンコツ握ってたぐらい嫌いになった」って言ってたよね、『瑠璃の島』のトークの時に。 田辺さんが演じてるってのに、よくもまぁ言いたい放題してるなぁ、と。 でも、それをすごく納得して聞いてた自分がいたのも確かだけど。(笑)
翔:そういう、普通にその辺にいる うざい人間を、そのとおりに演じる・・田辺誠一という俳優の魅力で、そのうざさを消さないようにする・・宮原のような役に対して、そんなふうに彩度を落とした演じ方が出来た、というのは、実は、すごく意味のあることだったように思う。 そういう演じ方が出来て初めて、藤田や亜蘭や佐野を 魅力的に鮮やかに演じることが許される、その赦免状を、きちんと受け取ることが出来たんじゃないか、という気がするから。
夢:ずっとかっこいい役ばかりやってちゃダメだった、と。
翔:観ている方は、なかなかつらいものがあったけどね。 あのあたりで、田辺誠一をこれからも追い続けて行くのかどうか、ファンとしても、踏み絵の前に立たされたような気がした。 あそこを乗り越えて来た、というのは、少なくとも私としては、すごく大きかった気がする・・・まぁ、私の勝手な感傷ではあるけれど。
夢:踏み絵ね~・・なるほど。
翔:・・・・・佐野に話を戻します。(笑)
夢:はい。(笑)
翔:佐野のような役は、「出来上がった大人」として演じることも出来ると思うんだけど、田辺さんが演じると、どこか成熟した大人になりきれない、子供のカケラみたいなものが、身体の中に残っているような感じがする。
夢:子供のカケラ・・か。 
翔:で、それは、高嶋政宏さんの友朗にしてもそうなんだけど。
夢:友朗も?
翔:そう。 そういうキラキラした「子供のカケラ」を持っているからこそ、ふたりは、また「夢」に向かって走り出せたのかな、という気がする。
夢:う~ん・・なるほどね~。
翔:まぁそれが、こういうジュブナイルものだから出て来たのか、もともと田辺さんや高嶋さんがそういうものを持っていたからなのか、は、ちょっと分からないけれど・・・
夢:いや、でも、田辺さんは持っていそうだよね、子供のカケラ。(笑)
翔:私もそう思う。 案外、いろんなところで そういうものを見せられている気がするんだよね、演じる役の中ばかりじゃなくて。
夢:うんうん。
翔:そこがすごく面白いところ・魅力的なところ、ではあるんだけど、正直、最近、ちょっと萎(な)えることもあって・・
夢:萎える・・?
翔:この辺で、一度、すっきりしゃっきりビターにキメた、大人な田辺誠一が観てみたい、という気がする。 40代半ば~50代に向けて、そういうチャレンジも していいんじゃないか、と。 
夢:キラキラなカケラは もういらない、と?
翔:いや、そうじゃなくて、これからの田辺誠一が、俳優としてのキャパシティをさらに広げるためには、そういう方向に進んでみることも必要なんじゃないかと思うし、普段の感覚としても、時には もうちょっと大人としての自分を見せてもいいんじゃないか、と。 特にtwitterとかでは、何となく、可愛らしいイメージが出来上がってしまっているので。(笑)
夢:あたしは好きだけどなぁ、ああいう可愛らしい田辺さんも。 (笑)
翔:・・・いや、いいんだけどね、素の田辺さんがどういうイメージを持たれようが。 ずっと長いこと「とりすました二枚目」みたいな印象を持たれて、実際とのギャップに戸惑っていただろうことを思えば、すごく楽に呼吸が出来るようになったようにも感じられるから。
夢:うんうん。
翔:ただ、俳優としては、そういうイメージを逆手に取ったような役を、ここらで観てみたい気がするので。
夢:仙道アラタ(@ファイナルゲーム)ぐらいじゃ満足出来ない、と。
翔:仙道は、言ってしまえばゲームキャラだったから、もっと、キャラそのものがきっちりと描かれた上に、奥深い魅力を持っているものがいいな、と。
夢:たとえば?
翔:ん~・・・風賀風左衛門(@荒神~AraJinn~)とか・・
夢:・・・あ! 風左衛門かぁ~忘れてたよ。(笑)
翔:忘れてたのかよー、あの時、私があんなにベタ惚れして大騒ぎしてたのにー!(笑)
夢:だって、あたしは舞台観てないし~・・(笑)
 でも、確かに、風左衛門みたいに、威圧感があって、ずるくて、惚れた女のクローン作っちゃうような自己チューな役、いいよね~。
翔:しかも、あの悪の奥にはアルゴールが棲んでいるわけだからね、 「ビター×ビター=ブラック」という感じで、あの役の三枚目的なところを省いて、今現在の田辺誠一が持つ40代としての魅力的な色香を足したら、私が求めている理想形が、ほぼ出来上がる、という気がする。(笑)
夢:うわ~、それ観たいなぁ、あたしも!
翔:・・・でしょ?(笑)
夢:うんうん! ・・・しかし、それが果たして、ドラマで出せるか、という・・・
翔:俳優・田辺誠一の問題じゃなくて、制作側の問題だよね。 田辺さんを使ってそれだけの冒険をしてくれるかどうか・・・ 
夢:うん。
翔:切にお願いしたい・・というより、もう懇願したい!徹底的にビターな田辺誠一を、どうぞよろしくお願いします!と。(笑)
夢:うんうん。(笑)
翔:舞台なら、いのうえ歌舞伎とか、蜷川作品とか、いくらでもそういう役は出来そうな気がするし、風左衛門みたいな役を舞台でまた観てみたい!という願望も強くあるんだけど、私としては、やはり、ドラマの中で・・TVという枠の中で、それを観てみたい、という想いのほうが今のところは強いから。
夢:もう、ほんと、翔って、田辺さんがこれだけ幅広くいろんな役を見せてくれて、そのすべてに満足感があって、なのに さらに新たなものを求める・・って、どこまで貪欲なんだか。
翔:・・・・・(苦笑)
夢:ビターかぁ・・ビターねぇ・・・ 
翔:でも、次の作品で、ゆっくりと、その方向に向かって一歩が踏み出されるんじゃないか、という気もする・・ほんの少~しだけかもしれないけど。(笑)
夢:次は・・・・・ああそうか、『気骨の判決』か! 
翔:それを観るのが今から楽しみなんだよね。
夢:うんうん。
翔:その前に、『あべ一座』っていう、とんでもなく面白いバラエティがあるんだけど・・(笑)
夢:あ!そうだった!・・・・いやいやいや、ほんとにまったく、2009年の田辺さんってば、振り幅が広過ぎるよ!(笑)