あべ一座 旗揚げ公演~あべ上がりの夜空に~(talk)

2009・8・7放送(NHKBS)
★この感想は、あくまで、翔の主観・私見によるものです。  

夢:これ、ほんとに つい最近の作品、って気がする。(笑)
翔:そうだね~・・(笑) 実際は2年前なんだけど、この間DVDを買って、未収録場面を初めて観たりして、まだ脳裏にしっかり焼きついてる状態なので、 何となく、新鮮な感じがする。
夢:うん。で、今回は、そのDVDの「完全版」の方のトークをしよう、ということなんだけど。
翔:TV放送ではカットされたシーンも多かったので、より内容豊富なDVDを観ながら、トークして行こう、と。
夢:完全版を観て、2年前のTV放送の時と全体の印象は変わった?
翔:『あべってどうなの?』とか、『ABE-1グランプリ』とか、TV未収録の中には、正直、ゆる~い企画もあって、間延びしたところもあったんだけど、なんだかそれも、このバラエティの構成・演出を手掛けた宮藤官九郎さんの狙い目だったのかな、という気もする。 クドカンは、素人さんを引き入れることで、「お笑い」としてきちんと完成されていない、どこに行くか予測のつかない流れを狙っていたんじゃないのかな、と。 まぁ、多少ウダウダになってしまったとしても。(笑)
夢:確かに、「全国のあべさん大集合」ってあべさんを公募したところからして、プロフェッショナルなものにはならないことは分かってたわけだしね。
翔:そうそう。 だから、会場にいた人たちにしても、ただ観客としているんじゃなくて、出演者とみんなで作り上げているような身近な感覚もあったんじゃないかな。 すごく敷居が低かった、というか、一緒に楽しんじゃえ、みたいな雰囲気があったように思うから。
夢:うんうん。
翔:まぁ、それが十分に成功したかどうかは何とも言えないけど。 なにせ3000人も入るホールだから、3階まで一気に盛り上がる、ってところまで行かなかった場面があったのも確かだろうし。
夢:クドカンが、初めてNHKホールの3階まで行った時、舞台を見下ろして絶句してたもんね、普段(大人計画のホームグラウンド=本多劇場)の7倍だって。(笑)
翔:そうだね。(笑) それでも、そういう、舞台上と客席が混じり合っているような面白さというのは、TV画面を通してそれを観ている私たちには、ちゃんと伝わって来たように思う。 何となく、客席もひとつの表現空間みたいになっていて、それらをひっくるめて楽しめた気がするから。
夢:うんうん。
★    ★    ★
夢:翔は、TVでの初見の時も、このDVDを観た後も、「阿部サダヲはすごい!」って言ってたよね。
翔:今回は、あべさん100人もそうだけど、ゲストで出てる人たちも、あえて笑いのプロをほとんど入れてなくて・・・
夢:ああ、確かにそうだね。
翔:で、そういう、回り全部 素人さんと言っていい中で、今や日本屈指のエンターティナー(だと私は思ってる)阿部サダヲさんが、どれだけ多くの笑いを引き出して行けるか、という・・・ ある意味、クドカンからの果たし状だったような気もするんだよね、どんな困難な状況でも難なくこなしてしまう阿部サダヲというマルチエンターティナーへの。
夢:果たし状・・・うーん・・そういう観方もありかぁ。(笑)
翔:大変だったんじゃないかな、サダヲさんは。 素人集団を引っ張って、目の前の3000人のお客さんと、カメラの向こうの視聴者を楽しませなくちゃならないわけだから。
夢:確実に「お笑い」として戦力になるのは、あべこうじさんぐらい、という中でね。
翔:そうそう。(笑) 確かに、舞台慣れしている歌手や俳優さんを使って畑違いのお笑いをやらせる、というのは、『全員集合』や『カックラキン大放送』等々の前例があるし、実際、出て来る人たちみんな・・あべ静江さんにしても、阿部寛さんにしても、阿部力くんにしても、安倍麻美さんにしても、阿部アナウンサーにしても、(お笑いの)素人ながら、自分の役を楽しげに こなし、なおかついい味を出していて、そのあたりは、クドカンのアイデアとか構成力のおかげかな、とも思うんだけど・・・そういう人たちをまとめ上げて、きちんとした「笑い」のレベルに引き上げていたのは、サダヲさんだったと思うから。
夢:・・・・・・・・
翔:全体的な空気を「阿部サダヲカラー」に破綻なく染め上げていた、と言ったらいいか・・・ そのあたりの、持ち味も個性もバラバラな人たちを同じ空気感でまとめてしまう 天性のステージングのうまさみたいなものは、本当にもう見事だったよね、サダヲさんは。
夢:そうかぁ・・なるほどね~。
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夢:そんな中での田辺さん。 非常にマルチに・・というか、クドカンに いいように使われていたように思うんだけど(笑)。 
翔:そもそも「あべ」じゃないのに参加してる、というゴリ押しな感じがある上に、いろんな場面にしつこく顔を出すから、注目の的になってたよね。(笑) 
夢:サダヲさん主役、田辺さん準主役、みたいで気持ち良かった。(笑)
翔:確かに。 オープニングからして幸せな気分になれたし・・サダヲさんに突っ込まれる田辺さんがとってもいいな、と。(笑)
夢:そうそう、間に阿部寛さんやらあべ静江さんやらゲストたくさん立ってるのに、その右端と左端で、阿部さんと田辺さんがやりとりしてる、ってのがね~(笑)
翔:何だかすごく嬉しかった。(笑)  たぶん、田辺さんが持っているお笑いの要素の大部分は、人に突っ込まれることで成立するものなんじゃないか、と思う。 で、そういう田辺さんの面白さを、阿部さんは、いつも、本当に上手に引き出してくれる。 だけど、なーなーにはならない。ちゃんと一定の距離感がある、そこがまた面白いなぁ、と。
夢:うんうん。
翔:今回再見してみて、田辺さんが出ているシーンで私が安心して笑えたのは、このオープニングのやりとりと、『あべ一家のなんでもない一日』のサダヲさんと誠一くんのやりとり、あたりだったような気がする。 オープニングのフワ~ンとした感じとか、誠一くんの小生意気なキャラの出来具合がなんとも心地良かったし。(笑)
夢:その他には?
翔:・・・田辺のじいさんにしても、田辺家の奥さんにしても、クドカンって、特に田辺さんに対しては、かなり無茶振りしている気がする。 「俳優の田辺誠一がお笑いをやってる」という素人芸の域を超えて、笑いの部分をいっぱい背負わせることで、かえって不安定な笑いにさせている、と言ったらいいか・・確信犯的に。
  まぁそれも、田辺さん自身が、他の人みたいに、歌手とか俳優とかアナウンサーがお笑いをやってる、といったような 「お笑いの素人」の範疇(はんちゅう)で すんなり役に収まろうとしないで、スキあらばもっと面白いところまで踏み込んでやろう、と考えていて、それをクドカンが感じているから、なんだろうと思うけど。
夢:・・・ん~・・うんうん。(笑)
翔:クドカンのさしがねで田辺さんが暴走する、それを受け止めたサダヲさんが懸命に「エンタティンメントな笑い」までクオリティを上げようとする、いわば、大きな宿題を背負わされた感じ・・?
夢:田辺さんは宿題・・?(笑)
翔:いや・・まぁ、私の個人的な印象に過ぎないけど。(笑) 田辺さんの「浮き具合」って、時々、本当に危なっかしい。 彼単体では、うかつに笑えない、というか。 そこがまた、この人の微妙な・・微苦笑を引き起こすような面白さに繋がってもいるんだろうけど。 サダヲさんにとっては、100人のズブの素人さんや、他の出演者より、扱いにくいところがあったんじゃないか、って・・・(笑)
夢:う~ん・・・(笑)
翔:たとえば、あべこうじさん相手なら、サダヲさんも『ABBE』の時みたいに 安心して好きなことが出来て、お笑いとしてのクオリティを高めることが出来るんだけど、田辺さん相手だと、見込み通りにならなくて、ペースが乱される気がする。
夢:あの阿部サダヲのペースを乱すことが出来る、って、とんでもない人だね。(笑)
翔:そうそう。(笑) 阿部サダヲがいることで、その場が、ぎりぎり お笑いとして成立している、その危なっかしさを、クドカンは、舞台の袖で観て楽しんでいる・・という気がするんだよね。
夢:田辺さんをサダヲさんにぶつけることで生まれる危なっかしさ・・かぁ。(笑) 田辺さんには、他にも、サダヲさんと組んだ『あべない刑事』とかあったけど?
翔:『あべない刑事』は、逆に、ちゃんとキャラが出来ていて、サダヲさんが田辺さんに突っ込む要素があまりなくて、ちょっと私としてはつまらなかったかな。 自身のキャラ作りにしても、相手との呼吸にしても、まだちょっと探り探りのような感じがしたし。 
  これが1ヶ月の公演だったら、きっともっといろんな面白い展開がふたりで作れたんじゃないか、という気がするけどね。 サダヲさんは閃(ひらめ)き型だけど、田辺さんはじっくり時間がかかるタイプなので、ちょっともったいなかったかな。せっかくガッツリ組むことが出来たのに。
夢:うんうん。
翔:もっとも、田辺さんのお笑い場面での危なっかしい浮き具合もこのあたりまでで、同じクドカンが手掛けた舞台『サッドソング・フォー・アグリードーター』(2011)になると、彼、結構いい感じに、頼れる笑いのエンターティナーになってしまってるんだけど。
夢:阿部サダヲというツッコミ役がいなくても?(笑)
翔:そうそう。(笑) 
夢:う~ん、そうかぁ。それを観るのも、また楽しみだな。