ゴーチエ短編集(talk)

2004・9・13-17放送(J-WAVE)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
 

  夢:ゴーチエの短編の中から、『ポンペイ夜話』『二人一役』『ヴァンパイアの恋』という3本を、5夜に渡って放送したわけだけれど、これは、あたしは面白かったな。
  翔:企画としては、なかなか興味深かったよね。 ゴーチエと田辺誠一という組み合わせも、幻想小説の登場人物を田辺さんがひとりで演じ分ける、というところも。
夢:声だけで表現するラジオドラマって、視覚に訴えられない分、確かに物足りないところもあるんだけど、逆に、すごく身近な感じはするよね、本当に耳元でささやかれてるみたいな。(笑)
翔:暗いところでひとりで聴いてると、すごく心地いい。(笑)
夢:翔は、最初あまり嵌(は)まれなかったのに、夕方のスーパーの駐車場で、車の中でひとりで聴いてたら、ジーンと来たんだって?
翔:(笑) 車を降りようとしたら、窓の外の夕暮れの空が、何だかすごく不思議な色合いだったんだよね。 何となく離れがたくて、その空をぼんやり見ながら聴いていたら、何だか、目の前に情景がファ~ッと浮かんで来て・・・
夢:ふ~ん・・・・
翔:こういう世界観って、舞台ではあるかもしれないけれど、TVドラマや映画で実際に演じてもらえることはまずないから、ラジオドラマという形でではあれ、こういう世界と田辺さんを結びつけてくれた、ということは、素直に嬉しかった。
夢:でも、翔としては、最初から、そういうふうにすんなりと「いい」と思ったわけじゃないんでしょう?
翔:そうだね。・・・やるんだったら、徹頭徹尾、幻想的な世界を作って欲しかった。 もともとこういう世界が好きだったから、なおさらそう思うのかもしれないけれど、何となく、どこかでちゃんとぶつかっていない感じがしたから。
夢:ぶつかってない?
翔:そう。 途中に何度か入る女性のナビゲーションが、今の世界に無理に繋げようとしているような気がした。 物語の脚本の中にも、そういうところがあったし。
  それらは、現実世界から幻想世界への橋渡し、誘(いざな)いとして必要だと思ったのかもしれないけど、何だか、かえってゴーチエの世界に酔い切ることが出来なくて、残念に思ったのも確かなので。
夢:うーん・・・そうか。
翔:聴いていて、気持ちが途中で切れてしまったから。 幻想世界を、幻想のまま、聴いている人に伝える努力というのを、もっとしても良かったんじゃないか、と、企画としてはすごく良いものだっただけに、その点がちょっと残念だった 
夢:なるほどね。
★    ★    ★
夢:田辺さんの声について。 
翔:ひとりですべてを演じなければならないから、もっと単調になってしまうのかと思ったら、登場人物の演じ分けがちゃんと出来ていた。 女性の声とかもやっていたけど、変に作らないのが、かえって良かったように思う。
夢:うん。
翔:ただ、すごく贅沢というか、ワガママなことを言わせてもらうと、田辺さんの声は、人間味に溢れた温かい感じで、かえって、あの時代の、どこか退廃的だったり、昏(くら)い色合いだったり、という独特の空気を、いくらか削(そ)いでしまっていたような気がした。
夢:ええ?・・・そうかなぁ。
翔:・・・自分でも無理を言っているような気がしないでもないけど。(笑) でも、こういう幻想的な世界好きの人間としては、もう一歩、現実から離れた空気感が欲しかったのも事実なので。
夢:そのあたりは、さっきの、ナビゲーションや脚本で引っ掛かったところと繋がって来るのかな。
翔:そうだね。 こういう題材を、たとえば舞台でやったら、そういう空気感を出すのはもっと難しいんだろうな、という気がする。 ラジオという、想像力を膨らませる余地がたくさんあるメディアだからこそ可能じゃないか、という気もするから、ぜひチャレンジして欲しかったんだけどね。
夢:残念だった?
翔:そうだね、ちょっと残念だったね。
★    ★    ★
夢:3本の中で、あたしが一番面白かったのは『ヴァンパイアの恋』だけど、翔は?
翔:それぞれに面白いと思ったけど、内容としても、田辺さんの役の作り方としても、一番興味を惹かれたのは『二人一役』だったかな。 悪魔、というのは、役としては非常に魅力的なところがあるし、それを田辺さんがああいうふうに演じた、というのが、なかなか興味深かった。
夢:ああいう哄笑(こうしょう)って、聞いたことなかったしね。
翔:そうだね。 他の作品にしてもそうだけど、普段受け取れないものを いろいろ受け取れた気がする。 それは、ラジオドラマだったから、でもあるし、やはり、こういう題材だったから、というのが、大きかったと思う。
夢:うんうん。
翔:さっきから言っているように、全体的に、もうちょっと不気味さとか夢みたいな感じとかが出てくれると、私としては、さらに好みのテイストになったんだけど。 でもまぁ、ゴーチエの作品をドラマ化する時に、声は誰かと考えて、田辺誠一の名前が出た、というところを、素直に喜びたいとも思うけれど。
夢:作る人が、こういうものを田辺向き、と考えてくれたこと、って、あたしたちにとっては、すごく嬉しいことだったものね。
翔:そうだね。 機会があったら、また、こういうチャレンジをして欲しいです。