映画『ゴールデンスランバー』感想

映画『ゴールデンスランバー』感想
興味を持って、観たいなぁ、と思った映画でも、
田辺誠一さん関連じゃないと、
なかなか「行こう!」って踏ん切りがつかないんですがw
この映画は、
以前に伊坂幸太郎さんの原作を読んで、すごく面白かったこと、
その時、主人公の青柳を、田辺さんに演じて欲しい、と思ったこと、
その役を、この映画では堺雅人さんが演じていること、
舞台が、仙台であること、等々、
興味を惹かれる要素が多かったので、観に行って来ました。


いや〜、行って良かったですね、すごく面白かったです。
一言で言うと、
主人公・青柳雅春が、身に覚えのない首相暗殺の濡れ衣を着せられ、
仙台の街中を必死に走り回る逃走劇・・なんですが、
暗殺とか逃走とかの言葉から受けるイメージから、
この映画に、本格ミステリーとか、サスペンスとか、そういう、
ハラハラ ドキドキ スリル満点の中での真犯人探し!
みたいなものを求めてしまうと、
かなり肩透かしをくらうかもしれないです。


首相が死に、親友が死に、
その罪を全部自分がかぶって逃げているというのに、
青柳には、切羽詰った悲壮感がないですし、
まして、真犯人を捕らえて無実を証明してやる!という
強固な意志もありません。

まるで、突然、とてつもなくスケールの大きい鬼ごっこ
否応なく参加させられた子供みたいに、
青柳は、仙台の街をひたすら右往左往するのです、
「おいおいおい・・なんでだよぉ・・」と、小さくツッコミを入れながらw。


そんな彼の逃走に力を貸すのが、
大学時代の友人たち(竹内結子吉岡秀隆劇団ひとり)、
会社の先輩(渋川晴彦)、
大学時代のバイト先の社長と息子(ベンガル少路勇介)、
以前偶然救ってやったアイドル(貫地谷しほり)、
そして、見知らぬ人たち(濱田岳柄本明・等)。

一方、青柳を犯人に仕立てた、あるいは犯人と思い込んでいる人間たち
竜雷太石丸謙二郎香川照之・永島敏行・相武紗季)もまた、
なかなかに手ごわくて。

他にも、樋口の夫(大森南朋)とか、小野の妻(ソニン)とか、
青柳の父母(伊東四朗木内みどり)とか、
興味を惹かれる人も多く・・・


・・・って、何でこんなにみんなの名前を挙げるのかというと、
みんな、本当に素晴らしかったからw。
とにかく、「あ、ここに この人を使って来るのかぁ!」
「なるほど〜」みたいな幸せな驚きと、フィット感と、満足とを、
十二分に味わえたので。


なんだよこれは〜どうなってんだよぉ〜・・的に、
唐突に始まる青柳の逃走劇。
その そもそもの始まりの部分を担ったのが、友人・森田役の吉岡さん。
彼には、冗談っぽい中にも どこか真剣な緊張感があって、
それが妙にひんやりとした空気をもたらして、
物語の導入部を魅力的なものにしてくれていたように思います。


他に、おっとこまえ(男前)な樋口(竹内)、素朴な小野(ひとり)、と、
青柳(堺)も含め、みんなお人よしでおだやかで、
激しい波風を立てることもなく・・
それが、一転、青柳のせいで否応なく事件に巻き込まれてしまって、
それでも、青柳を「知ってる」彼らは、
ひたすら彼を守ろう・助けようとするのです、
自分なりの持てる力を駆使して。


他にも、青柳の勤める運送会社の先輩で、
最初に青柳の無実を無条件で信じてくれた岩崎役の渋川くん、
自然に「やってないんだろ」と言うところなんて、
めんどくさい理屈じゃなく、青柳を信じてるからいいじゃん、みたいな、
軽い中にも揺らがない確実なものがあってよかった。


あと、キルオの濱田くんがね〜、何だか凄かったです!
かなり思い切った設定なんだけど、
でも、ひょっとしたらどこかにいるんじゃないか、っていう・・
で、もし自分の隣にいたら、相当怖い、という・・
人間として持たなきゃならない倫理観がスコーンと抜け落ちてるような、
でも、自分なりの価値観はちゃんと持ってる、みたいな、
そういう不思議な若者を、抜群の存在感で演じて見せてくれた。
興味を持ってた俳優さんだけに、なおさら惹かれました。


あと、ソニン(小野の妻)の涙にも、もらい泣きしてしまったなぁ。
彼女の、青柳(当事者)とのちょっと遠い距離感が、
映画を見ている自分の立ち位置に近い感じがしてしまったから、
なおさらかもしれないけど。


物語は、現在の逃走劇と、過去(大学時代)の思い出とが、
渾然となって進んで行き、
「習慣と信頼」という二つ柱を武器に逃げ回る青柳の周りで起きる、
さまざまなこと、たくさんの人、いろんな物、が、
彼を救うための伏線に使われ、
終盤に向けて、それらが見事に嵌まって気持ちよく回収されて行く場面が、
次から次へと、ひたすら心地良く展開して行く。
「あ、さっきのあれはこの伏線だったのか」というのが、もうてんこ盛り。


実は、柱の一つである「習慣」という部分に関しては、
原作でも、非常に惹かれた、大好きだったところで、
魅力的に効果的に使われていたので、
映画になって、そういうところがちょっと少なくなってしまった気がして・・
でもそれは、まず原作を先に読んでしまった弊害と言えるかも知れない。
原作の持ち味は、
映画という媒体を通してさらに魅力的になった部分も含め、
十分に伝わっていたようにも思いました。


で、そんな中での堺雅人さん。
この人が持つ、現実感の薄い、ふわんと浮いてるような不思議な魅力・・
それが、青柳の中に、非常にうまく融合していたように思います。
これはもう本当に「はまり役」だったですね。
田辺さんに青柳を演じて欲しい、という密かな夢は、
夢のまま、私の心の奥に閉まっておきたいと思いますw。



ちなみに。
この映画の脚本担当のひとりである林民夫さんは、
田辺さんが出演する映画『ジーン・ワルツ』の脚本も担当しています。
そういう意味でも、興味深い映画でした。



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★映画『ゴールデンスランバー』/
ちょっと怖くてちょっと幸せなメルヘン。
あちこちに張られた伏線が、次から次に重要な意味を持って行く快感。
人に信じて貰えることの幸せ。
「習慣と信頼」という部分がもうちょっとしっかり描かれていたら、
さらにもっと面白かったんじゃないかなぁ。