肩ごしの恋人(talk)

2007・7-9放送(TBS系)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:どうだった?田辺さんの柿崎祐介は。 
翔:いや~・・・・  凄かった!
夢:凄かった!かぁ。(笑)
翔:田辺さんが醸(かも)し出す「柿崎祐介の二枚目としての空気」を、存分に楽しませてもらいました。
夢:「二枚目としての空気」ねぇ・・
翔:最初の、スカしたいい男、ってところから、もう、内心大喜びだった。 さぁ、どこからどう見ても二枚目の役だぞ、田辺誠一、どう演じる?――って。(笑)
夢:おお!えらく挑戦的!(笑) まぁ、そのあたりは、二枚目としての自覚がまったくない田辺さんに対して翔が抱いていた、もどかしさの表れ、って気もするけど。
翔:まず、「役」として、柿崎祐介はいい男(二枚目)でなければならない、という大前提があったし、他の登場人物たちの軽いノリの部分に入り込んではいけない役だったから、これはもう、どうしたって「お笑い」に逃げられないわけで。
夢:完全に逃げ道を断(た)たれてる、ってことだもんね、「二枚目の立ち位置って、コメディにするしか役に立たないじゃないですか」(hanakoWEST 2006・3)なんて不埒(ふらち)なこと言ってた田辺さんにとってみれば。
翔:ふらち・・・確かに。(笑) しかも、30代も終盤になって、そういう役が回って来たことがね、なんだかすごく興味深かったし。
夢:なるほどね。 で、翔としては、田辺さんの柿崎に大満足だった、と。 で、めずらしく公式サイトの掲示板に書き込みしてたよね、柿崎アイコンが使いたいばっかりに。(笑)
翔:(笑)・・・いや、そういうところも含めて・・・スタッフが作り出したビジュアル(髪型や着ているスーツ等々)が、私が抱いていた「柿崎祐介」のイメージに合っていた、というのも大きいんだけど・・
夢:うんうん。
翔:それプラス、田辺さん自身が、この役を「二枚目な柿崎」として成立させるために、いろいろなことを試みていて、それを追いかけるのが、本当に楽しかった、ということがあって。
夢:そのあたりを具体的に聞きたいんだけど。
翔:たとえば、前半の、萌(米倉涼子)に対する話し方・・特に携帯での応対の時に、少し語尾を置く感じにするとか。 キッチュにいる時の、視線の泳がせ方、会話のしかた、グラスを持つ時の指の曲げ具合とか。 キスする時の手の位置とか、どこか浮遊しているような雰囲気・・とか。 全体としての空気の作り方が、もう本当に「柿崎祐介」だな、と。(笑)
夢:なるほどね、翔としては、そのあたりの満足度がかなり高かったんだ。
翔:そうだね・・まぁそれもあるけど・・
夢:ん?それだけじゃない?
翔:今言ったのは、外観として、というか、眼とか耳とかから入って来るものとして、ということなんだけど・・
夢:うん。
翔:その、どこからどう見ても「二枚目」な柿崎が、じわじわと心が露(あら)わになってくるにつれ、実は、二枚目という殻をかぶっているに過ぎなかったことが露呈して来る・・そこが田辺さんの面白いところで、絶対にいい男だけでは終わらない。
夢:でも、そういうのって、翔としては物足りないとは思わないの? せっかくかっこいいなら、ずっとかっこいいままでいて欲しい、みたいな気持ちにはならなかった?
翔:いや、それじゃ、田辺さんが柿崎をやる意味がないと思うんだよね。 それこそ、ただきれいなだけ、美しいだけなら、10代20代の俳優さんには敵わない。 その奥にあるものを表現してこそ、田辺さんがこういう役を演じる意味があるんだと思う。
夢:・・・・・・・・
翔:二枚目が、ただの見た目だけじゃない、ということをきっちりと伝えるために、まず、二枚目をちゃんと二枚目として演じることが必要だと思う、今回のような役は特に。
夢:二枚目の奥にあるものを表現するためには、まず、二枚目をきちんとそのように演じる必要がある、と?
翔:そう。 私、そこのところで欲求不満になることが多かったから、田辺さんを観ていて。
夢:そうか。 翔が、田辺さんに対して、「二枚目の役から逃げないでぶつかってみろ!」とつねづね言ってたのは、きれいな田辺さんが観たくて、ってことじゃないんだ。(笑)
翔:いやいや・・もちろん きれいな田辺さんを観たい!という想いも強いけど(笑)、二枚目が二枚目というだけで成立するはずがない、いろんなものがその中には渦巻いてる、そこをきちんと描き、演じてこそ、二枚目が二枚目としてドラマの中で生きる意味があるんじゃないか、と。 
  しかも、そういうものを乗り越えて、決着をつけて、また二枚目というところに戻って行く、そういう流れが、少なくとも このドラマの脚本には、ちゃんと描かれていたように私には思えた、だから面白いと感じられたんだろう、と。
夢:う~ん、なるほどね~。
★    ★    ★
夢:まぁ翔の満足感というのが、どういうものかってのは何となく分かった気がするけど・・。 
正直、あたしはイマイチ乗り切れなかったけどなぁ。 だいたい、なんであんないい男を振るんだよぉ、萌(米倉涼子)!ってずっと思ってたし。
翔:いや、萌は柿崎のこと振ってないでしょ。
夢:振ってるよ!崇(佐野和真)の子を妊娠するって時点で、あたしとしては、完璧にアウトだったし。
翔:・・まぁ、確かに、私も今回観直して、最後に近づくにつれ、演出上、萌の崇への気持ちが大きくなっているような表現になっていて、誤解されそうだな、とは思ったけど。 
夢:萌と崇の関係を「誤解」と言い切る翔の根拠は、どこにあるんだろう?(笑)
翔:だって、萌にとっての「肩ごしの恋人」は、柿崎しかいないでしょう。
夢:崇は違う、と?
翔:崇は「家族」だと思う。いや、崇だけじゃなくて、るり子(高岡早紀)もそうなんだろうと思うけど。
夢:「家族」かぁ・・
翔:何と言うか・・あの部屋は「巣」だと思う。そこにいて安心出来る空間。穏やかに心落ち着ける場所。 萌の子供は、その「優しいつながりを持てる空間」の象徴なのかな、と。 だから、ドラマを観ている時は、あの部屋があまりにも広すぎて、バイト暮らしの萌にはまったくの分不相応に思えたけど、「巣」という生きごこちのいい場所、ということを考えると、まぁ、許せるような気もした。 だからこそ、柿崎は一度もあの部屋に行かなかったんだろうし。 
夢:う~ん・・・でも、じゃあどうして柿崎とはそういう「巣」を作るような関係になっちゃいけないの?
翔:それは、柿崎と萌の関係、他の登場人物との関わり方・・の終着点をどこに持って行くのが一番魅力的か、ということを考えた結果なんじゃないか、と思う。
夢:というと?
翔:『肩ごしの恋人』のDVDに付いていたパンフレットに、原作者の唯川恵さんのインタビューが載ってるんだけど、萌と柿崎の子となると、あとは結婚という形しかなくなる、そうなると、るり子や崇、文ちゃんやリョウも、それぞれにバラバラに自分の日常に戻るしかない。そういう形にはしたくなかった、と。
夢:・・・・・・・・
翔:恋人が出来たりすると、その人と正面から向き合うしかない。だけど、自分の人生もちゃんと見て行きたい、ということもある。その時に、自分の肩ごしを振り返ったら、そこに恋人がいてくれる、そういう感覚もいいかなと思った、というような話をされていて。
夢:・・・・・・・・
翔:それを読んで、すごく納得したんだよね。 萌にとって一番自分らしい選択は、柿崎と結婚して落ち着いた家庭を持つことじゃない、自分の心休まる「巣」を持ちながら、柿崎という、いつまでも「恋人」と呼べる存在を肩ごしに持ってること、それが、萌にとっては、最も幸せで、落ち着く形なのかもしれない、と。
夢:でも、柿崎の立場としたら、好きな女性が他の男との子を宿して、あげく、一緒に住もうという提案・・というか、これはもうプロポーズだよね・・を蹴って、ひとりで生きて行く、あなたの手なんか必要ない、って突っぱねられたら、そりゃもう、かなりの打撃じゃないかと思うんだけど。
翔:いや、必要ないんじゃない、必要なんだよ、結婚というシガラミに縛られない、いつまでもドキドキさせてくれる、巣から出て来た萌を、社会という厳しい空間の中で支え見守ってくれる、柿崎という存在が。
夢:・・・・・・・・
翔:たとえば、柿崎を好きな文ちゃん(池内博之)にしても、柿崎が萌と結婚して落ち着いてしまうよりも、独身で、どこかに危うい影を持ってる柿崎として存在しているほうが、断然切ないと思うんだよね。 柿崎に既婚者という枷(かせ)がないから、ずっと近しい関係でいられる、にもかかわらず、手が出せない、という。
夢:う~ん・・・なるほど。 確かにそう言われてみると、納得出来る気がしないでもない。(笑)
翔:実際問題として、じゃなく、ドラマとしては、そういう展開の方が、断然面白いと思う。 だから、こういう決着のつけ方というのは、私はすごく面白い、と思った。
夢:う~ん、そうかぁ・・・
翔:まぁ、「結婚」という形の前進が出来ない、「巣」が必要、という萌には、どこか、ある種の臆病さも感じるんだけどね。 それだけ、学生時代に萌が負った傷は大きかった、ということなのかな、と。
夢:レイプされた、ってこと・・か。
翔:だからこれは、一種のモラトリアム(猶予期間)と言えないこともない・・という気もする。 だけど、このモラトリアムは、すごく納得出来る気がした、『きみはペット』(TVdrama.25参照)の時と違って。
夢:『きみはペット』かぁ・・・
翔:スミレとモモが最後に納得の行く収まり方が出来なかった(ように私には思えた)のと違って、このドラマでは、萌が ちゃんと前に進んでくれた気がしたから。 田辺さんの役にしても、蓮實の時は本当に悔しくて、何なのこの終わり方は!?と思ったけど、柿崎は、ベストポジションに戻った、ということだから・・・萌の「肩ごしの恋人」という最高の場所に。
夢:う~ん・・なるほど。
翔:・・・正直なところ、さっきも話したように、最後のところで、萌と崇の関係をきっちりと描こうという意図があったせいか、萌の気持ちが、柿崎に対して中途半端になってしまって、恋人というところに きれいに収まって行かなかった もどかしさはあったのだけど。 最後は、萌に、もっと柿崎に惚れて欲しかったなぁ・・とも思ったし。 
夢:うんうん。
翔:そのあたりは、たぶん、脚本段階では十分描かれているんだろうと思う。 ただ、それを、時間の制約や何やらで、演出の段階で十分には表現しきれていなかった気がするから。 そのせいで、柿崎のエンディングが、気持ちよく二枚目として決め切れなかった、という残念な気持ちはあるんだけどね、田辺さんの演技とは別のところで。
夢:そうでしょう? やっぱり翔も、そのあたりは物足りないと思ったんだね。
翔:・・・というか、米倉さんに、もっと柿崎を好きになって欲しかった、と言ったほうが正解かもしれないけど。(笑)
夢:米倉さんに・・?・・・う~ん・・・(笑)
翔:何となく、米倉さんは、柿崎みたいなタイプはあんまり好きじゃないのかな、と、ちょっと思ってしまったので。(苦笑) 
夢:・・・いや、でもそれは、ものすごく贅沢な注文、って気もするけどなぁ!(笑)
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夢:今回、このドラマを再見して、一番印象に残ったのは、脚本の上手さだと言ってたよね、翔は。 さっきから、脚本がいい、と言い続けてるし。(笑)
翔:今回改めて観直して、本当に素晴らしい脚本(後藤法子)だったなぁ、と痛感した。 もちろん、もともとの原作が面白い、ということも大きいんだろうけど、登場人物たちの話し言葉が、本当にキラキラしていて、心に響くものがあったので。
夢:うん。
翔:実際に役を演じ、セリフを話す俳優さんたちが また、ひとりひとり、役をきちんと捉えていて、それぞれの立場とか、背負っているものとか、そういうものがちゃんと伝わって来て、すごく惹き込まれた。 それはやはり、脚本ももちろんだし、演出を初めとするスタッフもそうだし、そこにうまく出演者が乗っかって生まれたものだったんじゃないか、と思う。
夢:俳優さんたちについて、もうちょっと詳しく。
翔:米倉さんの萌と、高岡さんのるり子は、本当に適役だった。 萌のサバサバした感じが、すごく心地良かった。 どこかで無理をしているんだけど、あまりその弱みを見せようとしないあたりとか。
夢:さっきは、米倉さんに対して とんでもなくワガママな注文が出たけどね。(笑)
翔:うん・・自分でも 無理難題を押し付けた発言だったと反省しています、すみません。(苦笑)
夢:翔は、るり子が好きだ、って言ってたよね。
翔:いや~、本当に うざいのよ。(笑) うざいんだけど、そのうざいところが可愛らしく見えちゃうところが、すごい!と思ったんだよね。
夢:高岡さんがまたピッタリだったし。(笑)
翔:そう!この るり子 で、改めて高岡さんがすごく気になる女優さんになったから、私の中で。
夢:そうかぁ・・・
翔:あと、文ちゃんやリョウ(要潤)のいる「キッチュ」の雰囲気というのも、すごく好きだった。
夢:文ちゃん好きだったな~、柿崎への秘めた想いとか、一番切なかった気がするから。
翔:池内さんの役作りが、ものすごく功を奏していたような気がする。 早々に このキャラにきっちり収まってくれたことが、「キッチュ」というお店全体のムードを決めたんじゃないか、と。
夢:リョウも良かったよね、何と言うか・・ひんやりとした感じが。
翔:そうだね。 ひんやりとして、自分に向かってくるものすべてを突っぱねようとしている・・だけど、突っぱね切れない、どこか人恋しさみたいなものも感じる、そこが好きだった。
夢:おお・・・う~ん・・なるほど。
翔:あと、ドラマの前半は、萌の上司の若村真由美さんがすごく印象深かった。 
夢:かっこよかった~。 観ててスカッとした、これぞキャリアウーマン、って感じで。(笑)
翔:でも、それだけじゃないんだよね。 街で偶然 萌と遭遇した時の彼女は、思いがけず女性としての愛らしい一面を見せてくれて、ますます惚れてしまった。 そのあたりも、脚本の上手さだし、若村さんの演じ方の上手さだな、と。
夢:なるほどなるほど。 
翔:ゲストでは、夏木マリさんや、七瀬なつみさんが印象的だった。 夏木さんの、生活に縛られている感じ、でも、たくましく生き抜いている感じは、強烈なインパクトがあった。
夢:最初、こういう役を夏木さんがやるのか、ってびっくりしたけどね。(笑)
翔:でも、そういうサプライズを観る側に与えられるのも、俳優(女優)としての醍醐味だとも思うので。
夢:確かにそうかもしれないね。 ――さて、最後に、田辺さんについて。
翔:さっき詳しく話したけど・・・これはやはり「挑んでる」んだろうなぁ、と。 本人はそういう意識で演じてはいないんだろうけれど、観ている私には、「田辺誠一初の、本格的な二枚目役への挑戦」というふうに感じられてしまったので。
夢:たとえばそれは、同時期に演じた小山田信有(@風林火山)とか緒方耕平(@ホテリアー)とかとは違うの? 彼らも十分二枚目だったと思うけど。
翔:田辺さんは、彼らを、二枚目として演じたわけではない、と思うんだよね、結果的に二枚目に見えた、というだけで。
夢:う~ん・・・
翔:今までの田辺さんの役は、私には、みんな、「結果的に二枚目」でしかなかったように思える。 でも、この柿崎は、最初から二枚目として演じなければならなかった、そして、それを演じ通した、と、私には、そんなふうに思えたので。 だから、ひょっとしたら、演じている田辺さんは、いつもとは違う苦労をしたんじゃないか、と・・・二枚目としての意味を持たせなければならない、というところで。
夢:・・・・・・・・
翔:ここを越すことで、また俳優としての田辺さんの何かが変わったんじゃないか、と、私にとって、そんな夢を持たせてくれる役だった。 そんなふうに思えたから(もちろん私の個人的な印象に過ぎないけど)、こんなに柿崎を好きになったのかもしれない。(笑)
夢:そうかぁ・・う~ん・・・あたしも、もう一度ちゃんと観直してみようかな。
翔:はい、ぜひぜひ!(笑)