せかいのおわり(talk)

2005・9公開
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:田辺さんの映画デビュー作『冬の河童』を撮った 風間詩織監督作品。 どうだった?
翔:何だか謎だらけで、そもそも『せかいのおわり』って何だろう、どういうことだろう、というところで、未だに足踏みしている状態。
夢:あらあら。
翔:結局、「突然 破滅がやってくるかもしれない」とか「突然 突き落とされるかもしれない」とか、そういった「突然」への漠然とした不安とか・・ 自分の力では防ぎようのない外部からの圧力に屈しなければならないやりきれなさとか、やるせなさとか・・ そしてまた、それに立ち向かわなければならない自分の弱さや、その時(最終的)に自分の隣には誰にいてもらいたいのか、とか・・ そういうことを言いたかったのかなぁ、と。
夢:・・・・・・・・
翔:慎之介(渋井清彦)のガールフレンド(安藤希)が、慎之介がはる子(中村麻美)を追いかけて行った後、水槽にグレープアイスを投げ入れて、水槽の水がどんどん濁って行くシーンがすごく印象的だったんだけど。
夢:うん。
翔:「せかい」って、つまりあの水槽と同じことなんじゃないのかな。 自分の棲んでいる世界が、実は、すごくちっぽけな狭っくるしい空間でしかない、ということ。 
「せかい」が崩壊してしまうのは、実はそんなに難しいことじゃなく、外部にいる誰かの感情のちょっとした揺らめきや気まぐれでしかなかったりもするのかな、と。 だからこそ恐いのだ、とも言えるのかもしれない、と。
夢:・・・・・・・・
翔:そういう、閉塞感みたいなものが、いろいろな形で出てくる。 水槽もそうだし、「苔MOSS」の作りも二階じゃなく地下に部屋があったり、中本(田辺誠一)が顔を塞がれるとパニックになる、というあたりも・・・・
夢:・・・・・うーん・・・そうか。
翔:そこに描かれているものの根本には、やはり、「9.11テロ」の衝撃があるんだろう、と。
夢:そのあたりは監督のコメントにもあったよね。 でも、正直、あたしは、この映画を観てそういうところに結びつける、ということが、なかなか出来なかったんだけど。
翔:・・・そういう、監督が受けた大きな衝撃を、このせかい(映画)に吸収させようとしたら、はる子のキャラになった、という気がしたけどね、私は。
夢:監督が受けた衝撃を 吸収させたら・・・か。
翔:そう。 で、そういうものを背負ってこの「せかい」で生きているはる子が出逢う 中本という男も、同じように「言い知れぬ不安」から着地させられていなくて、そういうふたりが一緒に暮らし始めて、お互い、すごく安心出来る気持ちになれるんだけど・・・・
夢:中本と一緒に暮らし始めたはる子が、カーテンに隠れて泣くシーンがあるよね。 あの時の「最高の次は、落っこちて行くしかないでしょう」という言葉は、この映画の中でも、すごく大事なフレーズなんじゃないかと思うんだけど。
翔:そうだね、結局は、あの言葉に集約されるのかもしれないけど・・・ そういう、どこに落とし穴がぽっかり口を開けているか解からない「不安定」な感じ、言い知れぬ「不安」を、はる子に背負わせているのかな、という気もする、身近な出来事から引き起こされる「崩壊」を、拾い集めて・・・・
夢:でもね、確かにそういう不安があったとしても、その、捉えどころのない不安な気持ちを、自己中心的にああいう形で周りに垂れ流しているはる子という女性が、あたしにはどうにも好きになれなかったんだよね。
翔:・・・・・・・・
夢:それは中本も同じで、カーテンに隠れているはる子を見つけて、「はる子、ずっとここにいて、絶対に居なくならないで」 と言う彼の気弱さにも、実はちょっと うんざりしたし。
翔:うーん・・・・(苦笑)
夢:結局、彼は、弱い自分の傍にいてくれる人だったら、はる子だろうが、奥さん(つみきみほ)だろうが、どっちでも良かったんじゃないか、って。 奥さんが帰ってきたら、はる子は途端にお払い箱かいっ!って、中本に腹立ててたんだけど。
翔:・・・・・・・・
夢:そのあたりの中本の弱さが、何だかすごく歯がゆかった。 確かにどこか似てるかもしれないけど、中本が、何年か後のツグオ、という思いで作られた役なのだとしたら、何だか違うだろう、という気にもなったし。
翔:それは違うよね。 ツグオの痛々しさは、「弱さ」じゃないような気がする。 臆病で、傷つきやすい繊細さはあるかもしれないけど、「ひとり」であることに甘ったれていない。
中本には、その部分が欠落している。 確かに、ツグオに似た繊細さは持ち合わせているけれど、中本の場合、それが弱さと直結してしまっている、と言ったらいいか。 
実は私も、中本の「芯」がない感じ、というのが、どうにも もどかしかった、というのはあった。 
夢:それでも、翔には、大森(@イン・ザ・プール)の時みたいな拒否反応はなかったんだ。
翔:・・・たぶん、夢が言いたいのは、中本の「弱さ」に「切なさ」という色づけがされてないことへの不満なんじゃないかと思うんだけど。
夢:そう・・・なのかな。
翔:「弱いだけの中本くん」に、魅力を感じなかった、ということなんじゃないか、と。
夢:確かに、年下のはる子から、中本くん、って呼ばれてるところからして、もうダメだったね、正直に言うと。(笑) 奥さんが帰って来た時の優柔不断さが、そこに拍車をかけた、って感じ。
翔:・・・・・はいはい。(笑)
夢:そのあたりへの不満は、翔には、なかったわけでしょ?
翔:・・・・いや、どうだろう、確かに、もっと複雑であって欲しかった、ってのはあったよね。 でも、私、「弱さ」に関しては、自分でもすごく寛大なような気がするし・・・・(笑)
夢:寛大・・ねぇ。(笑) 
翔:特に、中本が持っている「弱さ」に関しては、それを田辺さんが演じている、というところで、もう、けっこう許してしまっているところがあったし・・・・(笑)
夢:・・・・うーん・・・・・
翔:幸せになることへの「欲」みたいなものよりも、むしろ、臆病な躊躇(ちゅうちょ)みたいなものの方が、自分の心を占領してしまう、そういう「半歩下がった」生き方というか、貪欲に「幸せ」に向かって突っ走れない自分へのもどかしさというか、「せかいのおわり」かもしれないのに何も出来ない、ただ突っ立っているしかない、何も変わらない、自分や周囲への一種のあきらめとか、と言った方がいいような・・・・
夢:・・・・・・・・
翔:風間監督が、田辺さんに求めているものが、今もなお「あの部分」だということが、ちょっとしんどかった、というのはあるけど、でも、あれを他の人に演じさせようとしたら、かなり俳優は限定される。 そういう意味では、そのチョイスに田辺さんが引っ掛かった、というのは、素直に光栄だ、という思いもあった。 役を作る、という意味では、田辺さんの捉え方がすごく的確だったと思えたし。 
夢:・・・・・・・・
翔:たとえば、苔MOSSの店長を長塚圭史さんが演じているけれど、あれも、長塚さんを選んだ意味、というのがあるような気がした。 もっとも、メイキングを観ると、彼としては、自分の役を掴みかねていたところもあったみたいだけど。(笑) 
夢:テイクの数が半端じゃなかったね。
翔:そう。 で、田辺さんは一発OKで・・・ その違いが、すごく興味深かった。 いつもは、この時の長塚さんみたいに すごく時間掛かる人が、風間せかいでは、すんなり役を掴まえることが出来ている、というのが、田辺さんが風間せかいとソリが合っている証拠なのかもしれない、と。
夢:・・・・長塚さんの役は好きだったな。
翔:私も。 実は中本よりも好きだった。(笑) 彼が1番、慎之介が2番、はる子が勤めていたお店の店長(小日向文世)が3番、という感じ。(笑)
夢:小日向さん、あいかわらずいい仕事してるよね~。(笑) 
翔:何をやらせてもうまいよね。(笑)
夢:長塚さんも、独特の雰囲気があるし。
翔:長塚さんは、いい意味で、すごく「普通」の感覚の持ち主、という気がする。 あまり破天荒なところに跳んで行かない、「美しい穏やかさ」を持ってる人、という感じ。
夢:田辺さんとはまた違う?
翔:田辺さんは、「自分はここにいていいんだ」という自信というか、確信というか、根っこみたいなものを、もともと持っていない感じがする。 だからこそ、すべてを受け止められるバイセクシュアルの「店長」じゃなく、着地してない「中本」なんだろうな、という気がする。
夢:うーん・・・・・解かったような、解かんないような・・・・(笑)
翔:・・・・・(笑)
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夢:翔は、『イン・ザ・プール』の大森と、この『せかいのおわり』の中本に対して、初見の時、何度も「二枚目」という言い方をしていた印象があるんだけど。 
翔:『イン・ザ・・』のDVD発売が2005年10月、『せかい・・』が2006年1月。 ちょうどあの頃、BBSで「二枚目論」みたいなものがかなり熱く語られていて・・・・
夢:ああ、うんうん、あれは読んでいて面白かったな。
翔:自分の中で、「二枚目」って何だろう、と考えていて。 とりあえず、このあたりから、田辺さんとしても 「見せ方」がちょっとずつ解かってきたのかな、と。 ・・・というか、年齢を重ねることで、田辺さん本人が「いい男」になって来た、ということだったのかもしれないけど。(笑)
夢:そうかぁ・・・田辺さん本人がね~(笑)
翔:でもまぁ、田辺さん自身は、この2作品を撮った後に日下部(@南くんの恋人)を演じていたわけで、それを知って、私の中で、また揺り戻しがあったのも確かで。
 思えば、あの日下部への拒否反応って、「せっかく本当の意味で‘いい男’になって来たのに、その線を崩すなよ!」という気持ちから来ていたのかもしれない。(笑)
夢:なるほどね~(笑)
翔:そんなことも、今となっては、ちょっと ほろにがい思い出、でしかないけどね。
夢:すっかり立ち直っちゃってまぁ・・・(笑) そんなに 緒方(@ホテリアー)・柿崎(@肩ごしの恋人)の影響は大きかったかね~
翔:大きかったね。
夢:即答!しかも断言!(笑)
翔:(笑) まぁ、その辺は、それぞれの作品のトークの時に詳しく、ということで。
夢:そうだね、楽しみにしよう。