『肩ごしの恋人』(最終回/女のダンディズム)感想

肩ごしの恋人』(最終回/女のダンディズム)
カフェで、柿崎(田辺誠一)が萌(米倉涼子)にプロポーズして
断られるシーンを、昨夜から4回繰り返して観ました。(笑)
そして思った、「やっぱり私は(田辺さんが演じた)柿崎が大好きだ」って。
いや、もちろん、ドラマの上で、のことではあるけれど。(笑)


男と女にとって、最も理想的な終着点というのは、
「‘結婚’しかない」わけじゃない。
結婚して、好きな人と一緒に温かい家庭を作って・・・
もちろん、そういう幸せも とても大きなものであるには違いないけれど、
萌は、少なくとも柿崎に対しては、
そういうものを求めてはいなかったんだよね。

「(萌のお腹の子も含めて)3人で生きて行くのが
ベストな選択なんじゃないか」と言う柿崎に、違和感を持つ萌。
その言葉に甘えて、柿崎に寄り掛かれば、
きっとこの先、自分は楽に生きられるのかもしれないけれど・・・

柿崎に自分や子供の将来を背負わせることが、
萌には耐えられなかったに違いない。
柿崎の自分に対する気持ちが・・柿崎への自分の想いが・・
     生活という「現実」の中に埋没して行ってしまうのも・・・


逢えばドキドキして、心が弾んで、
いつまでも 甘やかで、ちょっと危ういときめきが感じられる・・
だからと言って、結婚を夢見ている恋人同士のように、
間近でお互いを見つめ合うというんじゃなく、
気心の知れた友人のように、隣で肩を並べるというのでもない、
お互いがそれぞれ「ひとり」として生きていながら、
相手が迷った時には、
しなやかに腕を差し伸べ、やさしく背中を押してあげる・・

恋人とも友人とも言い切れない、
いわば、それらを全部含めた「特別な関係」。
そういう相手を探すのは、ある意味、結婚相手を探すより難しく、
そういう関係を維持して行くのは、
幸せな家庭を作り上げて行くより難しいのかもしれない。
それでも・・・

萌はそれを望み、そして、柿崎はその「想い」を理解した・・
素直に人に甘えられず ひとりで生きてきた、似たもの同士だからこそ、
少し距離のある、でも一番自分たちにとって大切で嘘のない、
「慣れない関係」を築くために―――


結婚しようと申し出た柿崎に、萌は言う。
「クールで、優しいんだかずるいんだか分かんない柿崎さんも好きだよ。
せっかく自由になったんだから、今は自分のことだけ考えて欲しい。
今度は、余計な計算抜きでね。」
ひとりで子供を育てるという萌に、柿崎は言う。
「大丈夫だよ、絶対・・萌だったら!」

たぶんそれは、萌が、柿崎が、今の自分に一番かけて欲しかった言葉。
その「一番欲しい言葉」を
きっぱりと相手に与えてあげられる、そういう関係―――
私には、このふたりの言葉が、
お互いがお互いに対して新たな関係を築くための、
形をかえた「愛の告白」に聞こえて仕方なかった。


前回のレビューで、
「再び、萌に手を差し伸べる柿崎。
それを素直に受け容れることが出来たら、萌も成長したことに
なるんじゃないか」
と書いたけれど、それよりももっと萌らしい選択を彼女に与えた
脚本(後藤法子)に、素直に脱帽したいと思います。
「妊娠がわかった時、最初に一瞬嬉しいって思った。
そう思った自分、それが一番本当なんだと思う」という萌の言葉にも、
なんだかすごくホッとしました。


頑張ってひとりで生きて生きて、苦しくなった時、
ふと立ち止まって振り返った時に、気がつくとそこにいる・・大切な人――

柿崎が萌にとってそういう存在なら、
いずれひょっとしてまちがって(!)萌と崇(佐野和真)が結婚、
なんてことになっても、私としてはまったくノープロブレム(無問題)。(笑)
だって、結婚して穏やかに萌の隣に座って笑っている崇より、
萌の心をいつまでもときめかせてくれる柿崎のほうが、
ずっと魅力的だと思うもん。
(いや、実生活だったら危なくて近寄りたくないけど、
これはドラマだからね〜。爆)


萌や柿崎だけじゃなく、
るり子(高岡早紀)も、信之(永井大)も、崇も、
それぞれに、少しずつ気持ちが前に進んだように感じられたのも、
嬉しいことでした。
特に信之は、柿崎以上に浮上するのが難しいんじゃないか、
と思っていたので(笑)短いシーンではあるけれど、
きちんと気持ちをるり子にぶつけることが出来てよかった〜。


るり子はかっこよかったです〜。
このドラマで一番美味しい役だったような気がします。
すっかり高岡さんのファンになってしまった。(笑)


文ちゃん(池内博之)とリョウ(要潤)は、
ほとんど何も変わらないんだけど、そこがいい、とも思う。
文ちゃんの、柿崎に対する片想いは、
ひょっとすると、このドラマの中で一番切なかったかもしれないなぁ。
そんな文ちゃんを見つめるリョウの視線がすごくやさしくて、
素敵だった。

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柿崎祐介を演じた田辺さんについて。

以前、私は田辺さんを「ペット俳優」と命名したことがありました。(笑)
まるでペットのように、やわらかくて、やさしくて、癒してくれて・・・
雄(オス)の匂いのない、安全な、人間じゃないような・・・

田辺さんのそういうところは、私にとって、
大きな魅力でもあり、
正直、ちょっと物足りないところでもあったのですが。

でも、柿崎は・・
特に前半の「クールで、優しいんだかずるいんだか分かんない」
柿崎は・・
ペットの要素も含みながら(笑)男としての魅力(女性目線から観た)も
十分に備えていたように思います。


途中、彼を一歩前進させるためとはいえ、
かなり役をくすませてしまったので、
その魅力がかなり薄れてしまったように思われたけれど、
きちんと傷ついてきちんと立ち直るためには、
そうなることも必然だったのでしょうし、
カフェで萌に逢った後の柿崎は、
また、ゆっくりと鮮やかな色を放ち始め、
今までよりも、むしろ今後、さらに魅力的になるような
予感を持たせてくれて、すごく嬉しかったです。

最終的に、柿崎にきちんと芯の通ったあの魅力を備えさせたのは、
柿崎という役に対する脚本のブレのなさ、と、
田辺さんの演じ方のブレのなさ、の賜物である、とも思いました。

私にとって、柿崎祐介は、
緒方耕平(@ホテリアー)とともに、
田辺誠一ベスト10に入れたい!」と思うほど好きな役になりました。
―――反論がヤマのように来るだろうとは思いますが。(笑)