ホテリアー(talk)

2007・4-6放送(TV朝日系)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:いや~、とうとう来たね~ 『ホテリアー』に。(笑) 
翔:来たね~。(笑)
夢:翔は、このドラマを、俳優・田辺誠一にとって、特別な変化が感じられた作品、と捉えてるようだけど?
翔:いや・・この作品だけじゃなくて、この年(2007年)あたりから段階を踏んで変わって来ている・・・で、今も進化の途中・・という感じなんだけど。
夢:今も?
翔:そう。 宮原(瑠璃の島SP)、小山田(風林火山)以後の作品を挙げると、緒方(ホテリアー)、柿崎(肩ごしの恋人)、武市(いのうえ歌舞伎☆號IZO)、TELYA(少年メリケンサック)、鈴木(ハッピーフライト)、阿久悠(ヒットメーカー阿久悠物語)、野田(最後の戦犯)、寺井(花の誇り)、遠峰(神の雫)、沢田(空飛ぶタイヤ)、佐野(ふたつのスピカ)、藤田(ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない)、西尾(気骨の判決)、亜蘭(小公女セイラ)、武藤(853~刑事・加茂伸之介)・・・みごとに役が かぶらない。(笑)
夢:田辺のじいさん(あべ一座)ってのもあったよね。(笑)
翔:ああ!そうだね。(笑)
夢:まったくねぇ・・・ホテルを統べる総支配人から、女たらし(笑)から、頼りない副操縦士から、カリスマロックミュージシャン、実在の作詞家、戦時中の医者、裁判官、奇行癖のワイン評論家、女子高のフランス語教師、平成の孔明、ガチガチの府警刑事、とどめは田辺のじいさん、って・・・(笑)
翔:(笑) 何だか、この年あたりから、田辺さんが演じる役の幅が、格段に広がって来ているような気がするので。
夢:そうか・・・でも、もともと広範囲の役をやってたよね、田辺さんは。 改めてこのあたりでラインを引くのは、どうして?
翔:確かに、以前からいろんな役をやっていたのだけど、それは、ある程度「冒険」の範疇(はんちゅう)だったのだと思う。 演じてみて初めて、ああこういう役も出来るんだ、という、確認をして行っていた・・ような。
夢:うん。
翔:でも、この頃から、何やっても安定感があって、作品を引っ張って行くような牽引力が出て来て、観ていてあまり不安になることがなくなった。 もちろん、私個人の感じ方でしかないけれど。
夢:なるほどね~。この『ホテリアー』の緒方耕平なんか、まさに、ドラマを牽引してた、って感じがするものね。 
翔:特に最初の頃は、もう「主人公」って言ってもいいぐらい、みんなの輪の中心にいて、物語を動かしていたから。 そんなふうに、名実ともにドラマの頭(ヘッド)にいる役、というのを、それまでほとんどやって来てなかったから、観ているこちらとしても、もう嬉しくて嬉しくて、舞い上がってしまったんだけどね。(笑)
夢:途中から、あんなに落とされるとも知らずに・・・(笑)
翔:・・・・う~ん、・・・いや・・・・(苦笑)
夢:・・・あれ、歯切れが悪いね。(笑)
翔:それがね・・・初見の感想では、緒方・水沢・杏子の関係に対して、あんなに物足りない!物足りない!と連呼していたのに、今回観直したら、なんだかすんなりと受け入れられた気がしたので。
夢:え~~!?そうなの~!?(笑)
翔:・・・すみません。(苦笑)
夢:いや、いいけどね。 でも、なぜ受け入れられたのかなぁ。
翔:結局、緒方にとって杏子は、恋の対象ではなかったんじゃないか、って。
夢:え~~っ!?・・って、こればっかりだな。(笑)
翔:いや、自分でも、今回再見してそういう気持ちになった自分にびっくりしてるんだけど。(笑)
夢:あ、そうなんだ。
翔:いや・・・たぶん、緒方は杏子を愛してるんだろう、と思う。
夢:うん。
翔:だけどそれは、一般に言う「恋愛」とはちょっと違うんじゃないか、と。
夢:・・・うーん・・・・
翔:緒方の気持ちだけを考えると、杏子がホテルに来た時から、ずーっと、すごく大切に大事にして来て、それは本当に、異性に対するというより、肉親に近い感情だったんじゃないか、あるいはもっと・・・そうだな、たとえばコンビやダブルスを組んだ時のパートナー、と言ったらいいか、普通の肉親というだけじゃない、もっと踏み込んだ複雑な気持ちも含んだ・・・
夢:パートナー・・か。
翔:励まし合って、高め合って行ける相手、と言ったらいいか。 少なくとも緒方は、杏子を、そういう相手として見ていたのではないか、と。 
夢:う~ん・・微妙に逃げてる感じもするけど・・(笑)
翔:・・・・確かに、こういう見方というのは、緒方が大好きな私の、妄想の産物、というか、全部観終わった後の 辻褄合わせでしかないのかもしれないけど。(苦笑) 
夢:自分でもそう思ってるんだ。(笑)
翔:(苦笑) でも、これだけは間違いないと思うんだけど、緒方にとっては、自分の本当の気持ちというのは、そんなにたいした問題じゃなくて、とにかく、杏子が幸せになることが最優先なわけで。 だから、水沢が杏子にちょっかい出し始めると、途端に心配になるのよね、「小田桐 大丈夫か?」って。
夢:うん。
翔:その気持ちを、杏子が好きだから、惚れてるから、と取るのは簡単なんだけど、私は、もうちょっと深く、大きい、父性みたいなものも含まれているような気がして・・・いや、杏子と歳が離れてるから、ということじゃなくて、「見守る愛」と言ったらいいか。
夢:・・・とすると、緒方が杏子を抱きしめたシーンというのは、翔は、どういう解釈をしたの?
翔:緒方は、杏子に自分の気持ちをぶつけるために抱きしめたわけじゃない、ここにもきみの居場所はあるよ、と知らせるために・・・あくまで自分の一番大切なものを護ろうとして、救おうとして、包んであげようとしたのかな、と。
夢:・・・・・・・・
翔:たとえば『エースをねらえ!』の宗方仁の大きさ、というのが、私はすごく好きだったんだけど、ああいった、直線的な恋愛感情じゃない、全部を包み込んであげるような愛、というのも、あっていい、と思うんだよね。
  緒方にしても、たとえ杏子に対して「好き」という感情を抱いていたとしても、それを隠し通せるぐらい、彼は大人だった、ということは、言えるんじゃないかな、と。
夢:・・・・・・・・・
翔:・・・不満?(笑)
夢:うーん・・・翔の言いたいことは分かるけど、あたしはやっぱり緒方の「忍ぶ恋」だと思いたいけどなぁ。
翔:まぁ、そう考えるのが普通だし、ものすご~く そう思いたかった自分がいるのも確かなんだけど。
夢:それが翔の本音でしょ?(笑)
翔:・・・・・(苦笑)・・・・・
夢:でも、そうは思えなかった、と。
翔:そう思わせてもらうためには、何か決定的なものが足りなかった、という気がする。ドキドキハラハラ感・・とか、切なさ・・と言ったらいいのかな。
夢:ドキドキハラハラ・・切なさ・・かぁ。
翔:まぁそれは、実は、最終的に恋人同士という関係になる水沢と杏子のふたりにも、決定的に足りなかった部分だった気がするけど。
夢:恋と言うには、キラキラしたときめきみたいなものが足りなかったよね。 観ていて、うわ~っと素直に感情移入出来るような恋じゃなかった。 水沢にしても緒方にしても、本来なら、「彼女への想い」 というのが、ドラマのキモにならなきゃならなかったと思うんだけど。
翔:肝心の杏子の気持ちからして、まったくの書き込み不足だったしね。 最初の頃の緒方に対する気持ちというのは、ある程度クリアに伝わっていたような気がするんだけど、途中で、緒方から水沢に気持ちが移って行く、その気持ちの流れが、まったく不透明で、観ているこちら側が全然感情移入出来なかったのは、致命的だったように思う。
夢:うんうん。
翔:緒方と水沢といったいどちらが好きなのか、それはどうしてなのか、が、杏子からまったく伝わって来ない、だから、このドラマを、緒方・水沢・杏子の三角関係が物語の中心、として観てしまうと、ものすごく物足りない。 こんなに中途半端になるなら、かえって恋愛関係抜きだった方が、面白いドラマになったんじゃないか、と。
夢:そうだね~。
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夢:翔は、緒方と杏子、よりも、緒方と水沢の関係の方が興味深かった、って言ってたよね。
翔:緒方と水沢との関係というのは、凄く面白かった。 仕事上のふたりの関係も面白いと思ったし、杏子をはさんで対立する30代の男ふたり、という構図も興味深かったし。
夢:緒方と水沢それぞれの杏子に対する気持ちよりも、むしろ、そっち(ひとりの女性をはさんで対峙する緒方と水沢)の方に惹かれた、ってのはあるよね。(笑)
翔:そうだね。(苦笑) ずっと考えていたんだけど、杏子を中心に据えるなら、水沢というのは、もうちょっと若い人がやった方が良かったんじゃないか、という気がする。 杏子に対して、激しい想いを抱いている方が、緒方とのキャラの違いが、より濃く色分けされたんじゃないか、と。 
  もし時間がもっとあったら、杏子を巡る恋のライバル、というより、緒方の杏子への想いを、自分と同じ質(恋)のものだと思った水沢が、一方的に緒方に挑戦状を叩きつける、といった流れで、物語を組み立て直して欲しかったぐらい。
夢:上戸さんとミッチーじゃ、違和感があった?
翔:・・というより、上戸さんとのバランスを考えると、水沢が、もうちょっと若い設定でも良かったんじゃないか、と。 ミッチーが良い悪いじゃなくて。
夢:うん。
翔:仕事面では、田辺さんの緒方とのバランスがすごくいいと思ったんだけど、水沢ミッチーは。
夢:あくまで緒方中心の観方だけどね、翔の場合は。(笑)
翔:だって、こんなオイシイ設定なんて滅多にないから、ついつい、緒方をより魅力的に生かすにはどうしたら良かったのか、って考えてしまって。(笑)
夢:ま、気持ちは分かるけど。どんだけ緒方が好きだったんだ・・って話だよね。(笑) 
翔:・・・・(笑)・・・・
夢:改めて訊くけど、どうしてそんなに緒方が良かったの?
翔:・・・田辺さんって、それまで「揺らぐ美しさ」みたいなものを持ってた人だと思うんだけど、この作品では、「揺らがない美しさ」を観ることが出来たような気がして・・
夢:揺らがない美しさ、かぁ・・
翔:ドラマの芯を握る位置、と言ったらいいのかな。ドラマ全体を下支えするような雰囲気というのかな・・・ 40代にさしかかる大人の俳優としての立ち位置、と言ったらいいか、これからの田辺さんのひとつの方向性みたいなものが、見えて来たような作品だったような気がするから。 
このドラマ以前、これは田辺さんじゃなくてもいいんじゃないか、みたいな役がしばらく続いていたから、なおさらそう思ったのかもしれないけど。
夢:ああ、そうか、だから翔にとって「特別」という感覚なのか・・
翔:そうだね、そういう意味も含めて、興味深いドラマだったと思う。
夢:返す返すも、杏子との関係が中途半端だったのが残念だった、ってことだよね~。
翔:役に込められた切なさを、演技の中に十二分に、しかも自然に溶け込ませることが出来る・・田辺さんは、それが出来る数少ない俳優さんのひとりなのに・・・ね。