『空飛ぶタイヤ』感想まとめ

空飛ぶタイヤ』感想まとめ
空飛ぶタイヤ DVD BOX(3枚組)
本日10月23日は『空飛ぶタイヤ』DVDの発売日です。
そこで、恒例の・・と言いますか、
以前ここに書いた『空飛ぶタイヤ』の感想(第1話〜最終話まで)を、
まとめて一気に読んでいただけるようにしてみました。

 

なお、このドラマは、
平成21年日本民間放送連盟賞 番組部門テレビドラマ番組最優秀賞
国際ドラマフェスティバルinTOKYO(ドラマアウォード)2009優秀賞
第26回 ATP賞テレビグランプリ2009最優秀賞(ドラマ部門)+グランプリ
を受賞しています。

★『空飛ぶタイヤ』公式サイト

 

▼『空飛ぶタイヤ』(第1話)
こういう骨太で重層的なドラマを観ると、
まだまだTVドラマも捨てたもんじゃない、と思います。
扱っているテーマはすごく重いものなのに、ドラマとして面白い!

 

なぜ事故は起きたのか、誰のせいで起きたのか、
それを糾(ただ)さなければならない、
という「普遍的な正義」は間違いなくあるはずなんだけれども、
その、誰が見ても間違いのない「正しい正義」を、
正面から振りかざす人間が誰もいないから、
観ている側は、逆に、誰にでも感情移入が出来るんですよね。

 

主要五人、
赤松(仲村トオル)、沢田(田辺誠一)、井崎(萩原聖人)、
榎本(水野美紀)、狩野(國村準)それぞれに、
どこか間違っていたり、保身があったり、打算が働いていたり・・
正しい人間はひとりもいない。

 

赤松が、事故は整備不良が原因、と言われて、
担当していた門田(柄本拓)をクビにしてしまう、それは、
門田が、髪を染めていたり、ピアスをしていたり、
いくら注意しても直さない
鼻持ちならない態度が遠因になっていたりする。
つまり、人を見かけで判断して、
肝心な、仕事熱心な部分や、自分に対する尊敬の念だとかを
見落としてるんです。

 

けれども、彼はまた、そんな自分の見識が間違っていたと思えば、
きちんと頭を下げるだけの公平な心も持ち合わせていて。

 

彼が、先代から勤めている宮代(大杉漣)にグチをこぼす、
そこで、観ている側は、思いがけず、
二代目社長として懸命に肩をいからせて頑張っている
赤松の健気(けなげ)な姿・・
つまり、彼の「弱さ」を知ることになる。

 

で、そこから自分を奮い立たせ、
敢然と単身ホープ自動車に乗り込んで行く彼に、
なおさら、おおいに感情移入してしまうわけです。

 

沢田にしても、社内のリコール隠しに気づき、
そのことを赤松側から公(おおやけ)にされてしまう前に、
何とか会社自ら公表する方向に持って行こう、と、
暗躍を始めるわけですが、
それを「正義」とは呼べない部分があるんですね。
彼の根には、
自分を商品開発部から締め出した狩野への恨みがあって、
今回のことで、一泡ふかせてやろう、
という、意趣返しの気持ちが見え隠れしているし、
何と言っても、
肝心な赤松運送への配慮や、事故の犠牲者への心の痛み、
というものが、(今のところ)沢田にはまったく感じられない。

 

井崎は、彼なりの正しさを持っているんだけれども、
狩野の姪(ミムラ)と婚約したことで、
それを上司にぶつけられないでいるし、
榎本は、ジャーナリストとして不正を糾したい
という思いはもちろんあるだろうけど、
それだけではない、男に負けてなるもんか、みたいな、
スタンドプレイに走りたい気持ちがあるようにも見受けられる。

 

おそらく、普通なら「悪役」になるだろう狩野は、
逆に、姪(ミムラ)への穏やかな愛情が描かれていることによって、
単純に悪役のレッテルが貼れないようになっているわけで。

 

彼らが、それぞれの立場や支えられてるものによって、
非常に多面的に描かれていること、
個人の欲(私欲)のためだけに動いているわけではないこと、が、
観ている側がドラマの勢いにすんなり乗れる原因になっている
ようにも思います。

 

赤松の、小さな会社だからこそ感じられる痛みの感覚と、
沢田の、大会社ゆえに届ききらない事故への遠い距離感・・
この二人の温度差が、
やがてどんどん埋まって来るようになるんでしょうか。
そして、二人ともに、真に被害者の「悲しみ」に心を寄せ、
その救済にたどり着くことが出来るんでしょうか。

 

そのあたりまで深く切り込んだ人間ドラマになるのか・・
あくまで企業と個人という関係性にこだわったものになるのか・・
どういう展開になるのか分からないけれど、
脚本や演出を信じて、楽しみに待つことが出来る気がします。

 

出演者について―――――――

 

★赤松徳郎(仲村トオル
チームバチスタの栄光』(ドラマ)の白鳥役がすごく好きだったので、
とても楽しみにしていました。
いや〜、脂の乗り切ってる俳優さんの「勢い」
みたいなものを感じますね。
何だろう・・こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、
可愛らしさがある、って言ったらいいんでしょうかw。
こういう社長さんなら、そりゃ社員は頑張っちゃうよなぁ!
と思わせる一生懸命さが自然に出ていて、
観ていて、赤松がすごく好きになってしまいました。

 

★沢田悠太(田辺誠一
田辺ファン待望の社会派ドラマ。
なので、こちらはちょっと肩に力が入ってしまったのですが、
田辺さん本人は、まったく気負いなくすんなりと演じてましたね〜w
同時期に撮影していた『神の雫』の遠峰一青とは対極にあるような役。
その切り替えっていうのは、どんなふうにしていたんだろう、
と思ったんですが、
観ていて、その場に入ればすんなりと沢田になれる、
そういう空気感が、現場に出来上がっていたんだろうな、と、
そう思わせるいい雰囲気が、画面から伝わって来るような気がしました。

 

この二人も含め、上記の主要五人は、
脚本のうまさもあって、人となりがうまく描けていて、上々の滑り出し。
のちのち詳しく書くことになると思うので、
今回は、あえて別の人を。

 

今回印象的だったのは、小牧(袴田吉彦)。
沢田の同僚ですが、どこか才走ってる沢田に比べ、
(その辺が狩野の反感買ったんだぞ、きっとw)
ずっと冷静で、へたすると沢田より切れるんじゃないか、と思えるほどw。

 

今までは、冷静沈着なこの小牧のポジションが多かったんですけどね、
田辺さんはw。
今回の沢田は、熱いところがあって、そこが面白いとも思うわけですが。
頭の中で、ダーッといろんなこと考えてるのに、
赤松の前では見事に冷静を装って、
自分の思惑をまったく読ませないし・・
・・あ、横道に逸れてしまったw。

 

あとは沢田の部下・北村(小林且弥)も印象に残りました。
赤松の言い分を慇懃無礼とも取れる態度で受け流して、
後でしれっとして「ただのバカですね」と言い切ってしまうあたり、
ひょっとしたら、沢田や小牧以上に、大企業の論理に嵌まってしまって、
大切な感覚が麻痺しているんじゃないか・・そこに怖さを感じました。

 

それにしても・・
神の雫』と同じTVドラマなのか、と思えるほど、
空飛ぶタイヤ』は、人間関係も、それぞれが生きる場所も、
立体的に組み立てられていて、観ていて飽きることがありません。
個々の立場上の思惑がさらに激しくぶつかることになるだろう
今後の展開が、(何度も言うようですが)非常に楽しみです。

 

あ、でも、『神の雫』の紙芝居的な作り方も、
私は決して嫌いじゃない・・というか、
このドラマとは違った意味で大好きだったんですけどねw。


▼『空飛ぶタイヤ』(第2話)
このドラマ、セットで撮影しているのはどのシーンなんでしょうか。
何だか、全シーンロケしてるような気がするんだけど。
(いや、もちろんそんなことはないんでしょうがw)

 

今回、特に強く感じたのは(前回も感じてはいたんだけど)、
登場人物それぞれが棲息している空間に、リアリティが感じられる、
ということでした。
赤松の家や、料亭などもそうだけれど、
ホープ自動車の会議室の窓から見える東京タワーとか、
ワンフロアで仕事をしている社員のざわめき、課長のデスクの位置・・
赤松運送の事務所の雑然とした感じ、火のついてる丸ストーブ、
窓から見える看板や家の屋根、窓から差す陽の光・・
それらひとつひとつに、書き割りじみた違和感がまったくないんですよね。

 

ドラマの進行には直接関係ない部分なのかもしれないけど、
私には、それらに対するスタッフの「こだわり」が、
ドラマ全体の奥行きや深みにつながっているように思えるし、
登場人物たちの背景に確実な重みを持たせている、とも思えました。

 

で、そういう「確かな空間」で息をしている登場人物たちですが、
前回からさらに色を重ねて、それぞれに、一層魅力的になっていました。

 

彼ら(特に主要メンバー)は、皆、単純じゃないですよね。
このドラマの登場人物には、もともと、
善か悪か簡単に色分け出来ないそれぞれの事情や立場があるし、
皆、自分なりの正義や信念を持っていて、
きちんとそれぞれの中に一本「芯」が通っているので、
どの人の行動や言葉にも、納得・・というか、説得させられてしまいます。

 

たとえば、狩野ホープ自動車常務と
巻田ホープ銀行専務のやりとりにしても、
一見、時代劇の悪代官と悪徳商人、のような雰囲気だけれどもw、
巻田(西岡徳馬)はともかく、狩野(國村準)は、
次期社長と言われても決して喜んでいるようには見えなくて。
むしろ、そうやって、上に押し上げられて行く、
そのことへの責任の重さに、ますます気を引き締めているような感じがして。

 

そのことに、何だかホッとするのですよね。
空飛ぶタイヤ」という小説は、実際の事件が元になっているのだけれども
このドラマから、モデルになった会社や人そのものを糾弾しようとするような
そういう空気が伝わって来ないのは、
ホープで働いている誰しもが、懸命に何かを護ろうとしながら、
自分がこの会社で働く意味を、必死になって見つけ出そうとしている、
それが正しいのか間違っているのか、は別にして、
自分の信念に従って生きようとしている、
そういう、一人一人の「熱い想い」のかたまりが、
この大きな会社を動かしている、と、そう思えるからかもしれません。

 

とはいえ、事故が起きた以上は、
誰かがその尻拭いをしなければならないわけで。
「カスタマー戦略課」などという
体裁のいい名前の課長である沢田(田辺誠一)が、
赤松運送の事務所で赤松(仲村トオル)と対峙する場面は、
「怒りの赤松」vs「我慢の沢田」という対比が見事で、
自分の感情を完璧にセーブして、憎々しいぐらい冷静な沢田が、
赤松に対して、マニュアル通りの対応に終始する、その「熱」のなさが、
大切な何かを見失っているようにも感じられ・・

 

一方で、あらゆる手を使って会社暗部にどんどん斬り込んで行く沢田には、
徹底抗戦も辞さず、というような、情熱が感じられて。

 

だけど、その情熱は、赤松のような「人間的な感情の発露」ではなくて、
「会社」の一歯車として生きる自分の 矜持(きょうじ)の表れ、
といったようなもので。

 

そんな彼を支えているのが、小牧(袴田吉彦)。
いや〜、やっぱりいいですね、この役。
ますます好きになってしまったわw。

 

T会議の議事録をハッキングしようとする小牧に、
沢田が途中で「降りてもいいんだぞ」って言うんだけど、
でも、心の中じゃ、絶対小牧を頼りにしてるよなぁ 沢田は、
と思える雰囲気があるんですよね。

 

妻(本上まなみ)に対してもそうだけど、小牧に対しても、
沢田の中に、ほんのかすかに少年めいた甘えや青臭さを感じるんです。
誰に対しても強気で自分の考えを押す沢田が、
この二人にだけ、弱点をさらしている、と言ったらいいか。

 

対する小牧は、そういうウエットな部分がまるでなくて、
ひたすらドライで、頼りがいがあって。

 

この二人の人物設定が、私にはものすごく魅力的に思えて、
二人が、休憩コーナーで密談したり、
緊急招集された場で、杉本に追い詰められたりしてるところを観ると、
妙にワクワクしてしまうのを止められません。

 

品質保証部の杉本(尾野真千子)がまた、いかにもキレル女でね〜、
沢田・小牧・杉本という強力なトライアングルが、
今後どんな動きをして行くのか、本当に楽しみになって来ました。

 

さて、今回の沢田=田辺誠一さんですが―――

 

赤松には、ひとつの道をひたすら前へ前へ突き進むしかない、
それゆえの直線的な魅力というのがあるんですが、
沢田には、いくつかの選択肢があって、
いくらでも横道に逸(そ)れる可能性があるわけで。
そのどれを選ぶかによって、自分も、おそらく会社としても
まったく違う将来が口を開けることになる、
非常に微妙なあやうい立場の中で、
フル回転で様々なことを考え、行動する彼には、
今後、赤松とは違った複雑な葛藤が出て来るんでしょうね。
その部分を、リアルかつ魅力的に見せないといけない、
演じる側としては、非常に難しいけど、やりがいのある役なんではないか、
という気がします。

 

神の雫』の時に、
まず最初に輪郭(ハード)を作り、そこに気持ち(ソフト)を入れ込んで行く
という、かなりの荒業を使って「遠峰一青」を作っていたところが
すごく面白いと思ったのですが、
今回は、そういうアグレッシブな役作りではなく、
「沢田悠太」という役を一歩引いて捉えている、と言ったらいいか、
まず内面の感情の流れを作り上げて、
その上に動きや表情を自然に乗せて行く、
それがまったく違和感なくこちらにすんなり入り込んで来ていることに、
一青の時とは違った満足感を味わうことが出来たように思います。

 

一時期、田辺さんが普通のサラリーマンを多く演じていた時に、
俳優として意味のあることなんだろうと思いながら、
あまりにも普通過ぎて、物足りなさを感じたことがあったのだけどw
たぶん、そういう蓄積があって初めて、
今回の沢田を、これだけリアルに演じることが出来てるんじゃないか、と、
そんなことも思いました。

 

観る側としては、つまらない、くだらない、と思う作品だったとしても、
俳優にとっては、どんな役でも、
「演技の経験」に無駄な事など一つもないのかもしれません。

 

次回は、沢田の動きが狩野の知るところとなりそうですね。
悩める沢田がどんな選択をするのか・・
赤松とのバトルはどうなって行くのか・・
引き続き、興味は尽きないです。

 

▼『空飛ぶタイヤ』(第3話)
重い・・深い・・切ない・・苦しい・・
いろんな想いが心の中で交錯しながらの1時間、
根を詰めて観ているので、観終わった後は疲労困憊(こんぱい)。(苦笑)
もうほんと、出て来る人出て来る人、誰も嫌いになれない、
それぞれの気持ちをきちんと受け止めなきゃならない思いに駆られて、
こっちは一杯一杯になってしまってるんだけど、
でも、これほど登場人物一人一人を好きになれるドラマに出逢えるって
滅多にないことだとも思う。

 

いったい悪いのは誰なんでしょうね。
いや、もちろん、リコール隠しの元を辿れば狩野(國村準)
ということになるんだろうけど、
何だか私、この人を嫌いになれないんですよね。
週刊潮流に記事が出るかもしれない、
と巻田(西岡徳馬)から連絡が入った後、
独りで廊下を歩いて行くその後姿に、
背負わなければならない荷の大きさが透(す)けて見えていた
ような気がして。
その姿を眼で追う室井(相島一之)の表情もすごく良くて、
憎らしい、とか、ひどい奴らだ、とか思う前に、
何だか可哀相に思えてしまって・・

 

ひょっとして違う立場だったら、ひょっとしてもっと若かったら、
狩野だって、会社の不正を暴こうとしていたかもしれない。
リコール隠しなんてことを一番やりたくないのは、
ひょっとしたらこの人なのかもしれない。

 

彼もまた、沢田同様、
「人の死」という最も肝心な痛みに対して鈍感になっている、
事故によって一人の女性が亡くなった、という事実に対して、
誠心誠意向き合うことをしていない、
それはもう、傲慢以外の何物でもないし、
糾弾されて当然ではあるんだけど。
だけど、何万人という人間が関わる大企業の上に立つ者として、
彼らを護る義務がある者として、
「そういう手段を取らざるを得ない」と判断した彼の気持ちは、
倫理とか道徳とか抜きに、立場として分かる気がするから・・

 

わずかな出ではあるんだけど、
高幡刑事(遠藤憲一)の葛藤も、身に詰まされるものがあって。
流れの中で立ち止まり、反対方向に歩いて行こうとする、
その時、その身に跳ね返ってくる抵抗は、どれほど強いものなんだろう、と。
自分だけの力ではどうにもならない、
その流れに屈してしまいそうな腹立たしさや苛立ちが、
カップ麺を流しに投げ捨てる、という行為に
如実に現われている気がして。

 

少しずつ私欲や保身が滲み出てきたことで、
一番濁(にご)ってしまったのは、
たぶん、沢田(田辺誠一)なんでしょうね。
カスタマー戦略課に移って5年、
それなりの実績を残し、課長にまでなったのはいいけれど、
顧客の(時に理不尽な)文句のはけ口にされて、
頭を下げ通しの日々にいささか嫌気が差していたのも事実で。

 

元はと言えば、狩野常務への意趣返し。
どこかでギャフンと言わせてやりたいと思っていた、
そこに願ってもないリコール隠しの噂。

 

社長への告発文が、
純粋な正義だけから生まれた と感じられないのは、
会社を何とか良くして行こう、という、前向きな姿勢だけではなく、
どこかに狩野への私憤が紛れ込んでいるから。
最悪クビにならないだけの保険を掛けているもの、だから。

 

彼は、赤松(仲村トオル)に対して何度も頭を下げるけど、
その行為に、どれだけの「想い」が込められているのでしょうか。
少なくとも、赤松が頭を下げる時の「想い」の重さとは比べるべくもない、
惰性や慣性でそうしているようにしか見えない。
誠実さが感じられない、心が感じられない。

 

そんな彼が、
子供の頃からの夢だった「車を作る仕事」という餌をぶら下げられて、
あっけなくそれに食いついてしまう、
その彼の弱さもまた、私は嫌いになれなくて。

 

彼の強さよりも、彼の弱さの方が、
ずっと身に沁みて共感出来る気がするのは、
そういう部分を、私自身が持っているから、なんだと思います。
だから、彼を見ていると、自分の醜い部分を突きつけられているようで、
正直、辛いものがあります。

 

沢田とは逆に、
まとっている空気がどんどん澄んで美しくなって行ってるのが、赤松。
彼を清廉な道へと導いている土台になっているのは、
事故の被害者である柚木(甲本雅裕)の哀しみや痛みへの共鳴。
沢田に1億円という補償額を提示されて揺れる、
それを手にすれば、会社は倒産せずに済む、
喉から手が出るほど欲しいその金を突っぱねることが出来たのは、
雪の日、事故現場に花を手向けに行って、
その場所で一人の女性が死に、
その死によって、家族が引きちぎられるような痛みを味わっている、
そのことをまた改めて心に刻んだから。

 

1億円の話を赤松に蹴られ、その帰り道、
「赤松はバカだ!俺とは生き方が違うんだ」と吐き捨てるように言う沢田。
けれど、その言葉の底には、自分の選んだ生き方が、
赤松のようにまっすぐに、誰にでも胸を張って語れるものでないことへの、
自分自身に対するかすかな卑下も含まれているように思えて・・
願わくは、商品開発部に移った沢田が、
赤松のように、本物の正義を押し通す強さを身につけて、
会社の不正に対し、今度こそ正面から立ち向かってくれますように!
と、思わずにはいられなかったです。

 

今週の沢田=田辺誠一
今回、私が一番印象に残ったのが、
社長への告発文を小牧(袴田吉彦)に見せた時の顔。
「なんなら、小牧の名前も書いといてやろうか」と言った時、
「ご冗談でしょ」と返された時、何とも言えない表情をしていて・・
からかうでもなく、茶化すでもなく、怒るでもなく、
赤松と宮代(大杉漣)のような完璧な戦友になれない、そういう距離感を、
砂を噛むように味わわされている、といったような・・

 

まぁそれも、自業自得ってところもあるんでしょうが。

 

沢田悠太という役は、遠峰一青の時とは違って、
田辺さんが役を演じている、という感覚があまりなくて、
それはそれですごいことだと思うんだけど、
私みたいに、俳優さんが与えられた役をどう作って行くのか、
を観るのが好きな人間としては、
あまりにナチュラルで、作り物の匂いがまったくしない
今回のような役では、
「演じ方(役の作り方)」について何も語れなくて、
ちょっと淋しかったりもしてw。

でも、小牧に対してああいう(前述のような)表情をする沢田とか、
あと、酔って家に帰って来た沢田の、奥さんに対する話し方が、
少し甘くなってるところとかを観た時に、
「ああ、田辺さんらしいな。
私は、沢田悠太にこういう一面を持たせられる田辺誠一
好きなんだよなぁ」
と、そんなことを唐突に思ったりもして。

何だか、根掘り葉掘りそんなところばかり探してるみたいですが・・
いや、実際 探してるんだけど・・w

 

―――さて、次回は早くも4話ですね。
赤松にとって、そして沢田にとって、
この「闘い」が、どれだけの意味を持つものなのか・・
どれだけ重いものなのか・・
それは、彼らが、自分の「何」を賭けて闘って行くのか、
に比例して来るような気がします。
そのあたりを、仲村さんや田辺さんがどう演じてくれるのか、が、
おおいに楽しみです。

 

蛇足。
沢田夫妻は、ちゃんとデキャンタージュしてワインを飲むんだなぁ、
と、変なところで感心したワタシw。
うーん、まだ『神の雫』が完全には抜けてないのか、自分・・w


▼『空飛ぶタイヤ』(第4話)
1時間のドラマの中に、
こんなに密度の濃い内容を詰め込むことが出来ることに、
しかもそのクオリティが、ここまでずっと持続していることに、
驚かされっぱなしです。
これだけ大勢の人間が出ているにも関わらず、
それぞれが苦悩し、挫折し、
少しの希望にすがり、勇気ある一歩を踏み出す、
そういう一人一人の心の揺れや動き、それに起因した行動、が、
どの人も、きちんと不自然なく描かれてる、って、
すごいことだと思う。

 

脚本も、演出も、スタッフも、そして俳優も、
「このドラマの中で、何をどう表現するか」ということについて、
それぞれの立場で、妥協なくギリギリ自分を追い込んでいる、
ストイックなまでの「ドラマ作り」への熱意・愛情・誠意・・
といったものが、画面からひしひしと伝わって来る、
だから面白いんだと思う。

 

いや〜不覚にも泣かされてしまいましたね、今回は。
しかも、何度もw。
赤松の息子(小清水一揮)の気持ち、妻(戸田菜穂)の気持ち、
杉本(尾野真千子)の気持ち、
井崎(萩原聖人)と香織(ミムラ)の気持ち・・
どれも皆、真剣で、だからこそ曲げられなくて、だからこそ傷ついて、
でも、だからこそ誰かを揺り動かす力にもなって。

 

赤松(仲村トオル)を徹底的に追い込んで、
力づくで彼を黙らせようとするホープ自動車側と、
必死で抵抗しつつ、ホープ車欠陥の決定的な証拠を掴もうとする赤松。

 

赤松の無尽の行動力の出どころは、
被害者の柚木(甲本雅裕)や、自分の息子や、
自分の妻や、自分の会社ではたらく従業員(大杉漣・柄本拓ら)の、
彼に向かってまっすぐに力強く投げられた「想い」。
赤松は、彼らの想いに応えるために、
「間違ってることは間違ってると言いたいんだ!」と、
身体を張ってホープにぶつかって行く。

 

一方、懲罰人事で大阪に飛ばされる杉本から、
ホープ自動車が好きであの会社に入ったんです。
私まだ諦めてませんから」
と聞かされた榎本(水野美紀)も、フリーになって再び取材を開始、
その気持ちは井崎に伝わり、
もともとホープ自動車への融資に危ういものを感じていた彼は、
融資話を蹴る結果に。

 

しかし、この話が、実は、狩野(國村準)の姪可愛さから派生した、
井崎を出世させる手段に使われようとしていたことを知って、
彼は愕然とするわけです。

 

このあたりがねぇ、
このドラマの一筋縄じゃ行かないところなんですよね。
狩野が、ただ単純に、私腹を肥やしたいと思ってるだけの男なら、
もっと当人をストレートに憎むことも出来るんだろうけど、
姪に対する溺愛が絡んで来ると、
その間違った愛情の深さに対して簡単に憎めなくなってしまう、
というか。

 

狩野の唯一の弱点が、姪の香織だということが、
その弱点が、こんな形で浮き彫りになってしまうことが、
どこか滑稽でもあり、どこか痛々しくもあり、切なくもあり。

 

可愛がってきた姪がやっと選んだ結婚相手は、
自分も この男ならと見込んだ、系列銀行の有望株。
父親代わりとしては、もう一押し、
この男に手柄を立てさせてやろう、と。
しかし、香織との繋がりから井崎に身内意識を持つ、
そのこと自体は間違っていなくとも、
それを仕事にまで持ち込んでしまう、ということが、
どれほど浅はかなことか、どれほど公私混同も甚だしいか、
ということを、狩野ほどの人間が気づいていない、
あるいは、気づいていながら押し通そうとしている、
そこに、人の情の愚かしさ・哀しさが潜んでいるようで。

 

愚かしくも哀しい男がもう一人。
商品開発部に異動した沢田(田辺誠一)。
「企画を出してくれ」と言われて、
ルンルンで書き上げたのはいいけれど、あえなく却下。
自信を持って提出したものだけに、納得が行かず、
それとなく周りの人間に聴いてみると、
どうやら最初から彼の企画はボツになることになっていたようで。
帰り際、狩野常務とすれ違った時に、
「君が企画した新車が開発されることを期待してるよ」と言われて、
はたと気づく、
自分が狩野のワナにかかった、ということに・・
釣った魚に餌をやる必要はない、と思われていることに・・

 

で、恒例、奥様・英里子(本上まなみ)によるお悩み相談w。
「今の会社には、あなたの求める夢はない。
もう一度闘いを挑んでみたら? 夢を持てる会社にするために」
そう言われて、沢田は・・・

 

実は、先週観ていて、どう描かれるだろう、
と一番気になっていたのが、
この、商品開発部に移ってからの沢田の去就。
そう簡単に車を作らせてもらえないだろうことは予測が出来る、
とすれば、その後、この男はどういう行動に出るだろう、と。
で、奥さんのアドバイスを受けて、
簡単に会社を糾弾する側に戻るのは、何となくイヤだな、と。

 

沢田が、自分の夢のために簡単に告発文を捨ててしまうような、
愚かしく弱い人間であっても、
せめて、その幻の夢から覚めたら、自分自身の力で、
本当の正義を自分の内に呼び覚ます努力と勇気と強さを持って欲しい、
と、そう思っていたので、
今回、奥さんのお悩み相談に頼る沢田に
「やっぱりそうなっちゃうのか・・」
と、ちょっと残念な気持ちを抱いたのも事実で。

 

うーん、うーん、沢田よぉ、
そこは自分で何とかしなくちゃならないところだろうが!
自分の去就ぐらい自分で決められなくてどうするんだ!
と、内心、この甘ったれのクレバー男に、ツッコミを入れてた自分。

 

沢田が、このまま妻のアドバイス通りに動いてしまったら、
この非常にグレードの高いドラマに、
納得の行かない部分が出来てしまうなぁ、と、
このドラマのファンとして、沢田を演じている田辺さんのファンとして、
ちょっと残念に思ったのですが・・

 

いやいや、さすがにこのドラマは、そんなに甘くはなかったようです。
最後の最後に、沢田は、
単身ホープ自動車に殴り込みをかけて来た赤松の前に引っぱり出され、
彼の全身全霊を賭けた執念の深さを目の当たりにするのですが、
その赤松の、相手を呑むほどの気迫、真っすぐな一念は、
沢田に大きな衝撃を与えたに違いないし、
彼の内なる正義を必ず揺り動かしてくれる!と信じたくなるほどの
激しさがあったように思えました。

 

次週予告。
沢田の胸に光る社章。
その社章を賭けるぐらいの勇気がなければ、この会社は変わらない。
赤松が自分の会社に注いでいるのと同じくらいの本物の強い愛情を、
沢田もまた、ホープ自動車に抱くことが出来るのかどうか・・
そういう想いを自分の内に呼び覚ますことが出来るのかどうか・・
次回・最終回を楽しみにしたいと思います。


今回の沢田悠太=田辺誠一
一番好きだったのは、狩野に声を掛けられた後の表情。
いやはや、どれだけ微妙で繊細な感情を表現してくれるんだか。
私としては、特に この人の自嘲めいた表情というのは、
いつも絶品だと思っております。
(ひいきの引き倒しには なってませんよね、ね・・w)

 

あと、何だかんだ言って、
英里子役の本上さんとのツーショットはやっぱりいいな、とw。
愛妻にグチ言ってる甘ったれ沢田にはついツッコミを入れたくなるけど、
そういう沢田を演じてる田辺さんは嫌いじゃない・・というか、
むしろ好きなんですよね、実はw。

 

▼『空飛ぶタイヤ』(第5話=最終回)
最後になって、さらに疾走感が増した、という感じですね。
息つくヒマもないぐらい速いので、これだけの内容なら、
あと10〜15分ぐらい延長しても良かったんじゃないかって思える・・
1時間で終わってしまうのはもったいない気がしました。

 

でも、それだけ濃い内容をあえてこの長さに収めることで、
各シーンの緊迫感が、より一層強まった、とも言えるわけで。
最初から最後まで弛緩(しかん)や曖昧(あいまい)さを削った作り方には、
スタッフの潔(いさぎよ)さが感じられました。

 

第1話から4話まで、
登場人物それぞれの立場や、考えや、仕事への向かい方、
異なる立場の人間との衝突、挫折、勇気、等々を、
一人一人、とても丁寧に、深く描いて来た作品なので、
最終回、彼らをどこにどう着地させるのか、非常に興味を持って観ました。
で、個人的には、何も文句のつけようがないくらい、
見事な着地だったように思います。

 

もちろん、脚本(前川洋一)や演出(麻生学鈴木浩介)のうまさ、
というのもあるんだけど、
私は、今回は特に、俳優それぞれが役をどう捉えて演じているか、
という部分にすごく惹かれました。

 

赤松運送社長・赤松(仲村トオル
最後までずーっと「闘う男」「大きな権力に立ち向かう男」なのだけれども、
途中、頑張っても頑張っても報(むく)われなくて、
仏壇の前で、思わず「悔しいなぁ・・」と弱音を吐く、
その時の背中が、とても雄弁に彼の忸怩(じくじ)たる思いを伝えていて、
最初から彼の孤軍奮闘ぶりを見守っていた者としては、
何だか、切なくて胸が詰まりました。

 

仲村さんは、私の中で、ずっと、
スマートな俳優さんというイメージがあったのだけれども、
今回、非常に骨太で、かつチャーミングなところもある中小企業の社長を、
体当たりで演じていて、
赤松が持つ「熱」とか「情」とかがしっかりと伝わって来て、
とても厚みのある人柄が出ていたように思います。

 

赤松の妻・史絵(戸田菜穂
最初は夫に頼り切っていて、
どうしようどうしようとオロオロするばかりだったんだけど、
息子を護って喧嘩相手の母親に啖呵(たんか)を切ってから、
じんわりとたくましさが身について来て、
弱音を吐く夫を励ますまでになる、その変化がとても自然で、
初めはちょっと苦手だったんだけどw
最後には史絵のことが好きになっていました。

 

戸田さんというと、私としては、
何と言っても『神の雫』の霧生が印象深いんですが、
今回の役も含め、
温かくて懐(ふところ)の深い柔らかさを持ってる女性を演じられる人、
という印象を持ちました。
これから、もっともっと重宝される女優さんになりそうな予感がします。

 

赤松運送専務・宮代(大杉漣
まだちょっと頼りないところのある二代目社長(仲村トオル)を、
がっちりと支える番頭さん、という感じ。
このコンビが最強で、この人のサポートがあって初めて、
赤松があれだけ動けたんだろうな、と、そう納得させられる人物でした。

 

大杉さんは、本当にいろんな役をやってる人ですが、
今回のような役が、私はとても好きです。
赤松がめげそうな時に、さらりと滋味のある言葉を掛けてくれる・・
人間の証明』(2004)の時の、
棟居(竹野内豊)に対する横渡みたいな役どころ、と言ったらいいか。

 

ホープ銀行調査役・井崎(萩原聖人
2000億の融資話を榎本(水野美紀)にリークしたのはおまえだろう、
と巻田(西岡徳馬)に詰め寄られ、頑として「違います」と言い通した井崎が
ものすごく魅力的だったです。
彼の中にあるカチッとしたもの、譲れないもの、壊れないもの、は、
銀行マンだから存在してるんじゃなくて、
彼自身がもともと持っているもの、という感じがするんですよね。
巻田専務さえ根負けする程の頑固さが、
銀行という組織の中で、有効に機能している、というか。
彼はおそらく、今後も、
バカがつくほど真面目に仕事をこなして行くんだろうな、と。
でも、そういう人がホープ銀行には必要なんじゃないか、
なんてことも思いました。

 

萩原さんは、私が観たドラマや映画の中では、
いつも、大きく揺れ動く感じはなくて、
控え目にじっと周囲を窺ってる、というイメージがあるんだけど、
その、岩のごとき印象が、今回のように、フワッと、
頼りがいのある人、という変換を果たした時、
ものすごく魅力的に思えて、
初めて、私なりに俳優・萩原聖人の好きなところが発見出来た気がします。
(今さら、ですみませんw)

 

井崎の恋人・香織(ミムラ
実は、この役がすごく好きでした。
ちょっとのことで井崎を疑い、一人で悩んで傷つき、
心があっちに揺れ、こっちに揺れ、
自分を溺愛する伯父(國村準)に素直に悩みを打ち明けるけど、
でも、それで解決出来るとは思ってなくて・・
自分で何とかしようとするんだけど、でも、どうにもならなくて、
それでも、好きな人の前で泣くなんてことは出来ない、と、
ちょっとうつむいて、唇噛んで・・
その、好きな人にべったり寄り掛かろうとしない感じが、
まさに私好みでw。

 

ミムラさんはうまいですね〜。
デビューの頃から気になっていた人だけど、
すごくいい感じにステップアップしている気がする。
狩野の面会に来て、井崎に「待ってるから」と言われた時の、
それまでのいろんな感情が一気に溶け出すような、
喜びをぐっと噛み締めるような表情が、何とも言えず良かったです。

 

ホープ自動車常務・狩野(國村準
赤松が表の主役だとすると、影の主役は、間違いなくこの人。
ついに最後まで、事故に遭って死んでしまった女性への、
具体的な謝罪の言葉はなかったのだけれども、
面会に来た井崎に
「春だというのに寒いね、拘置所というところは」
と言う、その言葉だけで、
今まで彼が感じていなかった「人らしい痛みの感覚」が、
彼の内に呼び覚まされたような気がして、
悪いヤツには違いないんだけれど、やっぱり最後まで憎めなくて・・

 

私が、國村さんが演じた役で好きなのは、
今まで観た中では『人間の証明』の小山田が一番なんですが、
(ちなみに脚本は今回と同じ前川洋一氏)
この狩野もまた、それに匹敵するぐらい好きな役になりました。
『交渉人・真下正義』の時も『あんどーなつ』の時も、
年老いた母親との関係が描かれていて、
年齢のわりに、母親との密接な関わりが不自然でない稀有(けう)な人、
という印象があるんですが、
今回の姪・香織との関係性も、そういう視点で観ると、
また違った國村さんの魅力(=狩野の奥深さ)が滲(にじ)んでいるようで、
なおさら興味深く感じることが出来ました。

 

ホープ自動車品質保証部課長・室井(相島一之
狩野にくっついてる役なんですが、
ただの提灯持ちじゃない、
それなりにちゃんと仕事も出来て、機転もきいて、
沢田あたりと違ってw素直に狩野の言うなりになってるところが、
覚えめでたい理由なのかな、と思いました。
狩野がいると、沢田に対して優越感をほのめかしたりしてるのに、
いなくなると途端に不安になってしまう、
そのあたりの小心ぶりも、何だかとてもリアルでした。

 

相島さんは、こういう役が多いけれども、
慣れて簡単に演じているかというと、そういう感じはさらさらなくて、
家宅捜索の時のおどおどした感じなど、
一つ一つの表情がものすごく的確で、
このあたりのポジションにうまい俳優さんを使うと、
ドラマ自体がグッと引き締まるんだなぁ、と、改めて思いました。

 

ホープ自動車車両製造部課長・小牧(袴田吉彦
沢田の良きパートナー、というか共犯者。
沢田もそうだけど、この人も、どこか、
自分の仕事に十分な満足感を味わうことが出来ないでいるのかな、と。
まぁ、赤松運送みたいな小さい会社に勤めてたら、
そんなこと言ってられないんだけど。
狩野の言葉に、
内部告発するような人間は、自分の処遇に不満を持ってる」
というようなものがあったけど、
沢田よりもむしろこの人に、そういう
「埋まらないものを抱えてる」感じが強いような気がして、
最初から、惹かれるキャラクターでした。
そう思ってみると、最後の「また三人で何かおっぱじめるか」なんて、
まさに小牧らしいセリフだなぁ、と思います。

 

小牧と沢田との付かず離れずの関係性、というのが、
大会社の同期のリアルな距離感を描いているような気がして、
演じている袴田さんと田辺さんがまた、そのあたりをうまく演じていて、
二人が並んで話してるシーンは、どの場面もすごく好きでした。

 

ホープ自動車品質保証部・杉本(尾野真千子
榎本へのリークといい、沢田にPCを預けたことといい、
結局、この一番下っ端の女性の真っすぐなホープへの愛情が、
会社を大きく震撼させ、新たな前進をさせることになったのかな、
という気がします。
杉本の底に潜む強さは、沢田や小牧にはないもので、
すごく純粋で、すごく透明で・・
彼女の、自分の中の全ての弱さを排除しようとする「意志」が、
そうさせているのかなぁ、と考えたりもして。
そのあたり、杉本もまた、印象深い役だったと思います。

 

映画『クライマーズ・ハイ』の時に好印象を持った尾野さんは、
今回、淡々と起伏なく話す硬い言い回しの中に、
きらめくような感情を内在させている、と感じられた人。
特に、病室で狩野逮捕のニュースを見て、
「沢田さん、ありがとう」と言うその表情がとても美しくて、
この人も、もっともっと使われて欲しい女優さんだと思いました。

 

フリーライター・榎本(水野美紀
うーん、実はこの榎本だけが、私の中ではちょっと消化不良なんですが。
もちろん、彼女のスクープが狩野逮捕の一端にはなってるんだけど、
もっとガーンとぶつかるようなバイタリティが、
榎本の中にあってもよかったんじゃないか、と思うんですよね。
たとえば、2000億の融資というスクープを、
二の足踏んでる雑誌編集長に噛み付いて強引に採用してもらう、
みたいなシーンがひとつ入っていたら・・
時間の制約もあっただろうけど、
脚本や演出の段階でそういう場面を作れなかった、というのが残念で。

 

演じている水野さんは、
雑誌記者(フリーライター)と言っても 海千山千って感じはしなくて、
非常に純粋に仕事に立ち向かっている人、という印象が強かったです。
で、今回の榎本という役は、
そういう清潔感みたいなものがあって正解だったと思います。
ただ、さっきも書いたように、この種の職業人の性(さが)として、
何かを無理矢理こじ開けるような強引さ、みたいなものが、
どこかで表現されていたら、もっともっとこの役は魅力的になったのに、
とも思わないではありませんでした。
脚本や演出の中で榎本のそういう部分を求められていたら、
水野さんはどう演じただろうか、という興味もすごくあったし。

 

新港北署刑事・高幡(遠藤憲一
赤松に「警察は何やってるんだ!」と一喝されるまでもなく、
事件を追及する立場の人間として、一番悔しい思いをしていたのは、
この人だったと思います。
赤松が放った啖呵は、聞いていてスーッとするものではあったけど、
だからと言って、そのとおり!と思えなかったのは、
あの、カップ麺を投げ捨てた高幡の抑え切れない怒りを
見てしまっているから。
彼が、沢田によって持ち込まれたPCを武器に、
狩野を徹底的に追い詰め、保釈さえ認めさせなかった背景にあるのは、
赤松を含む世間の 警察への不信を晴らしたい、
という保身めいた気持ちからではなく、
雨の日、事故現場に行って、残された親子の後姿を見たことが、
彼の根っこにあったため。
何よりもあの親子のために、真実を明らかにしたい、
それが、赤松への一番正しい応えにもなる、という、純粋な気持ちが、
彼を突き動かしたのだ、と、そう思えたことが嬉しかったです。

 

遠藤さんは、非常に抑制の効いた演技をする人。
高幡が内に持ってる刑事魂みたいなものを、ほとんど表に出そうとしない、
だけど、だからこそ伝わるものもあるわけで。
ついに確実な証拠を得て、赤松のところに挨拶に行く、
それはもちろん、
今までさんざん辛い思いをさせて来た赤松への心からの謝罪や、
ホープ自動車への徹底追及の決意、の意味が大きかったんだろうけど、
それだけじゃなくて、
警察のふがいなさに憤慨した赤松に対して、
刑事としての密かな矜持(プライド)もあったんじゃないか、と。
今度こそ見ててくれ!みたいな。
そんな深読みをしたくなるw演技だったように思います。

 

沢田の妻・英里子(本上まなみ
沢田にとって、この人の存在は本当に大きかったんだろうな、と思います。
悩んだ時に、さらりと進むべき道を示唆してくれる、
だけど無理強いはしない、
あくまで、沢田が自分で結論を出すのを待っているんですよね。
そのあたり、ラジオのパーソナリティで、お悩み相談なんかもやってる、
そういうキャラクターの輪郭が、非常に生きていて、
相手が夫であっても、ベタベタにならない、
いつも客観的な視点を持っている、
だからこそ、沢田も、安心していろんなことが相談出来たのかなぁ、
という気がしました。

 

本上さんは、とてもスタイリッシュな雰囲気のある人で、
芯にある「硬さ」が、個性であり魅力となっている人でもあります。
そういう部分をいつまでも失わないで持っていて欲しい、と、
わがままを承知でw思います。
夫役の田辺さんと一緒のシーンは、
二人ともモデル出身ということもあってか、上質な空気感が漂ってました。
ワインが似合う素敵なご夫妻、でしたね、まさに。

 

商品開発部課長・沢田(田辺誠一
今回、一番苦しんだのは、おそらくこの人だったでしょうね。
希望していた部署に移ったのはいいけれど、ほとんど飼い殺し状態。
自分からワナに飛び込んだのだから、誰を責めることも出来ない。
悔しい!とか、この野郎!とか思うより、あきらめが先に立って、
もうどうにでもなれ・・という、半ば自暴自棄状態。
(その辺が、この人の甘さ=弱さに他ならないわけだけど)

 

そんな彼が、杉本から一台のノートパソコンを託される。
彼女は、なぜ、沢田に、
ホープ自動車の命運を預けようと思ったのでしょうか。
「これを託せるのは沢田さんしか思い浮かびませんでした」
「期待に応えられるかどうかわかんないぞ」
沢田自身でさえ、それほど重要なものを預けられることに、
大きな戸惑いや不安があったというのに。

 

おそらく、杉本は、
沢田の内に確実に宿っているはずの、
不正に立ち向かう勇気を、プライドを、一片の正義を、
沢田に、呼び覚まして欲しかったのかもしれない。

杉本から託された重い重いPC。
それをどう扱えばいいのか、悩む沢田・・

 

物語は、ここから一気にクライマックスへ向けて動いて行くのですが、
沢田の心の揺れとしても、ドラマの流れそのものとしても、
このあたりからラストまでの展開は、非常に見ごたえがありました。

 

「同僚の・・魂が詰まってる・・」
今まで、あれやこれやお悩み相談をしていた妻にさえ何も語らず、
責任の重さに押しつぶされそうになりながらも、
一人で悩み、葛藤し続ける沢田。
(そのあたり・・肝心な時には ちゃんと妻と一線を引いて、
自分一人ですべてを負おうとするところ・・が、杉本が彼の内に見い出した
「信頼に足る確かなもの」の一端に繋がっているのかな、とも思えます)

 

悩んだ末に、沢田はなんと赤松を訪ねるんですね。
彼は、そこで初めて、やっと、ようやく!
母親を事故で亡くした子供の「心の痛み」に直面し、
ビジネスライクに合理的に処理出来ない、人の痛みの感覚に触れて、
自分がして来たことの傲慢さと非情さに気づくのです。
そして、PCは、高幡に手渡され、狩野逮捕へと繋がって行く・・

 

杉本にPCを託されてから、事の顛末を妻に語るまで、
沢田には、赤松のようにまっすぐではない、複雑な迷いが渦巻くのですが、
田辺さんは、沢田のそういう揺れる部分(かっこ悪さを含め)を、
観ているこちら側がきちんと受け止められるような演じ方
をしていたように思います。

 

一番好きだったのは、赤松に会いに行って、頭を下げるところ。
それまでの、きっちりした仕事上の挨拶の仕方じゃなくて、
どこか揺らいでるというか、躊躇(ちゅうちょ)があるというか・・
あまりにも背負わされたものが大き過ぎてどうしたらいいか分からない、
半泣きになってるような表情が、
的確に、彼の置かれた状況を表しているようで。
その、情けない浮遊の仕方が、いかにも沢田らしく思えて。

 

この沢田の赤松への縋(すが)り方がねぇ、
それまでさんざん赤松をコケにして来たところを見せられていただけに、
逆に胸に詰まるものがあって・・
彼は初めて、会社を背負って立つ責任について、
本当の重圧を感じたんだろうな、と。
それは、きっと、狩野の孤独感や、苦しさを思い知った、
ということでもあるのかな、と。

 

「ママにもういちどあいたいです」という、
たどたどしい、しかし、深い想いの詰まった文字と絵を突きつけられて、
じわじわと染(し)みるように「何か」を心に受け入れて行く沢田が、
切なくて、身につまされて・・

 

決してかっこいいわけでも、特別に正義感が強いわけでもない、
弱さや、甘さや、狡(ずる)さや、浅はかさや、
そういう、人の持つ濁(にご)りを内在させている沢田が、
少しずつ自分を澄ませて行く・・
そういう人間を演じるのが、本当にこの人はうまいと思う。
(しかも、最後には、「また三人で・・」という小牧の挑発を
さらりとかわしたりして、ちゃんと沢田らしいところに戻ってるしw)

 

最初の頃、仲村トオルさんとの久々の共演、ということで、
眠れぬ夜を抱いて』のリベンジなるか、という個人的な興味もある、
というようなことを書いたのですが、
今回、二人のこのシーンを観られたことで、もう大満足させてもらいました。
何だろう、役を演じる上での二人の心(感情)のバランスが、
うまく取れている(しかも、かなりハイレベルで)と感じられたことが
大きかった気がしますが。

 

そしてそれは、赤松(仲村)対 沢田(田辺)だけでなく、
狩野(國村)対 井崎(萩原)でも、赤松 対 高幡(遠藤)でも、
沢田 対 小牧(袴田)でも、他の人たちでも、
それぞれの場面、それぞれの立場(尺度)で感じられたことでもあって。
だからこそ、どの場面も非常に締まったものになったんじゃないかと思うし、
どの人にも感情移入出来たんじゃないか、とも思いました。

 

そのあたりも含め、最後まで、非常に興味深く、面白く、
観続けることが出来た、上々の仕上がりのドラマだった気がします。
そのような作品に田辺さんが参加出来たことは、
ファンとして、とても光栄に思えました。

 

こういうドラマが、もっともっと増えて欲しいですね。
メッセージ性とか、社会性とか、そういうものを含んだ重厚な作品、
という意味ではなく、
俳優が確実に力を発揮出来る土台をきちんと作ってくれるスタッフと、
それに応えて、自分の持てる力を十二分に発揮するキャストと、
そのお互いのせめぎ合いが、魅力的な化学反応を起こして、
クオリティの高い作品が出来上がる、というような。

 

そのためには、作り手も、演じ手も、
自分の仕事を、どんなふうに、どれほど愛しているのか、
その想いを表現するために、
自分は何をどうして行かなければならないのか、
その厳しい問いかけを、いつもいつも自分に課すこと、なんじゃないか
という気がします・・
・・ん〜いやいや、これは自分への自戒も込めて。