『空飛ぶタイヤ』(第2話)感想

空飛ぶタイヤ』(第2話)感想  【ネタバレあり】
このドラマ、セットで撮影しているのはどのシーンなんでしょうか。
何だか、全シーンロケしてるような気がするんだけど。
(いや、もちろんそんなことはないんでしょうがw)


今回、特に強く感じたのは(前回も感じてはいたんだけど)、
登場人物それぞれが棲息している空間に、リアリティが感じられる、
ということでした。
赤松の家や、料亭などもそうだけれど、
ホープ自動車の会議室の窓から見える東京タワーとか、
ワンフロアで仕事をしている社員のざわめき、課長のデスクの位置・・
赤松運送の事務所の雑然とした感じ、火のついてる丸ストーブ、
窓から見える看板や家の屋根、窓から差す陽の光・・
それらひとつひとつに、書き割りじみた違和感がまったくないんですよね。


ドラマの進行には直接関係ない部分なのかもしれないけど、
私には、それらに対するスタッフの「こだわり」が、
ドラマ全体の奥行きや深みにつながっているように思えるし、
登場人物たちの背景に確実な重みを持たせている、とも思えました。


で、そういう「確かな空間」で息をしている登場人物たちですが、
前回からさらに色を重ねて、それぞれに、一層魅力的になっていました。


彼ら(特に主要メンバー)は、皆、単純じゃないですよね。
このドラマの登場人物には、もともと、
善か悪か簡単に色分け出来ないそれぞれの事情や立場があるし、
皆、自分なりの正義や信念を持っていて、
きちんとそれぞれの中に一本「芯」が通っているので、
どの人の行動や言葉にも、納得・・というか、説得させられてしまいます。


たとえば、狩野ホープ自動車常務と
巻田ホープ銀行専務のやりとりにしても、
一見、時代劇の悪代官と悪徳商人、のような雰囲気だけれどもw、
巻田(西岡徳馬)はともかく、狩野(國村準)は、
次期社長と言われても決して喜んでいるようには見えなくて。
むしろ、そうやって、上に押し上げられて行く、
そのことへの責任の重さに、ますます気を引き締めているような感じがして。


そのことに、何だかホッとするのですよね。
空飛ぶタイヤ」という小説は、実際の事件が元になっているのだけれども、
このドラマから、モデルになった会社や人そのものを糾弾しようとするような
そういう空気が伝わって来ないのは、
ホープで働いている誰しもが、懸命に何かを護ろうとしながら、
自分がこの会社で働く意味を、必死になって見つけ出そうとしている、
それが正しいのか間違っているのか、は別にして、
自分の信念に従って生きようとしている、
そういう、一人一人の「熱い想い」のかたまりが、
この大きな会社を動かしている、と、そう思えるからかもしれません。


とはいえ、事故が起きた以上は、
誰かがその尻拭いをしなければならないわけで。
「カスタマー戦略課」などという
体裁のいい名前の課長である沢田(田辺誠一)が、
赤松運送の事務所で赤松(仲村トオル)と対峙する場面は、
「怒りの赤松」vs「我慢の沢田」という対比が見事で、
自分の感情を完璧にセーブして、憎々しいぐらい冷静な沢田が、
赤松に対して、マニュアル通りの対応に終始する、その「熱」のなさが、
大切な何かを見失っているようにも感じられ・・


一方で、あらゆる手を使って会社暗部にどんどん斬り込んで行く沢田には、
徹底抗戦も辞さず、というような、情熱が感じられて。


だけど、その情熱は、赤松のような「人間的な感情の発露」ではなくて、
「会社」の一歯車として生きる自分の 矜持(きょうじ)の表れ、
といったようなもので。


そんな彼を支えているのが、小牧(袴田吉彦)。
いや〜、やっぱりいいですね、この役。
ますます好きになってしまったわw。


T会議の議事録をハッキングしようとする小牧に、
沢田が途中で「降りてもいいんだぞ」って言うんだけど、
でも、心の中じゃ、絶対小牧を頼りにしてるよなぁ 沢田は、
と思える雰囲気があるんですよねw。


妻(本上まなみ)に対してもそうだけど、小牧に対しても、
沢田の中に、ほんのかすかに少年めいた甘えや青臭さを感じるんです。
誰に対しても強気で自分の考えを押す沢田が、
この二人にだけ、弱点をさらしている、と言ったらいいか。


対する小牧は、そういうウエットな部分がまるでなくて、
ひたすらドライで、頼りがいがあって。


この二人の人物設定が、私にはものすごく魅力的に思えて、
二人が、休憩コーナーで密談したり、
緊急招集された場で、杉本に追い詰められたりしてるところを観ると、
妙にワクワクしてしまうのを止められませんw。


品質保証部の杉本(尾野真千子)がまた、いかにもキレル女でね〜、
沢田・小牧・杉本という強力なトライアングルが、
今後どんな動きをして行くのか、本当に楽しみになって来ました。



さて、今回の沢田=田辺誠一さんですが―――


赤松には、ひとつの道をひたすら前へ前へ突き進むしかない、
それゆえの直線的な魅力というのがあるんですが、
沢田には、いくつかの選択肢があって、
いくらでも横道に逸(そ)れる可能性があるわけで。
そのどれを選ぶかによって、自分も、おそらく会社としても
まったく違う将来が口を開けることになる、
非常に微妙なあやうい立場の中で、
フル回転で様々なことを考え、行動する彼には、
今後、赤松とは違った複雑な葛藤が出て来るんでしょうね。
その部分を、リアルかつ魅力的に見せないといけない、
演じる側としては、非常に難しいけど、やりがいのある役なんではないか、
という気がします。


神の雫』の時に、
まず最初に輪郭(ハード)を作り、そこに気持ち(ソフト)を入れ込んで行く、
という、かなりの荒業を使って「遠峰一青」を作っていたところが
すごく面白いと思ったのですが、
今回は、そういうアグレッシブな役作りではなく、
「沢田悠太」という役を一歩引いて捉えている、と言ったらいいか、
まず内面の感情の流れを作り上げて、
その上に動きや表情を自然に乗せて行く、
それがまったく違和感なくこちらにすんなり入り込んで来ていることに、
一青の時とは違った満足感を味わうことが出来たように思います。


一時期、田辺さんが普通のサラリーマンを多く演じていた時に、
俳優として意味のあることなんだろうと思いながら、
あまりにも普通過ぎて、物足りなさを感じたことがあったのだけどw
たぶん、そういう蓄積があって初めて、
今回の沢田を、これだけリアルに演じることが出来てるんじゃないか、と、
そんなことも思いました。


観る側としては、つまらない、くだらない、と思う作品だったとしても、
俳優にとっては、どんな役でも、
「演技の経験」に無駄な事など一つもないのかもしれません。


次回は、沢田の動きが狩野の知るところとなりそうですね。
悩める沢田がどんな選択をするのか・・
赤松とのバトルはどうなって行くのか・・
引き続き、興味は尽きないです。