『空飛ぶタイヤ』(第1話)感想

空飛ぶタイヤ』(第1話)感想  【ネタバレあり】
こういう骨太で重層的なドラマを観ると、
まだまだTVドラマも捨てたもんじゃない、と思います。
扱っているテーマはすごく重いものなのに、ドラマとして面白い!

なぜ事故は起きたのか、誰のせいで起きたのか、
それを糾(ただ)さなければならない、
という「普遍的な正義」は間違いなくあるはずなんだけれども、
その、誰が見ても間違いのない「正しい正義」を、
正面から振りかざす人間が誰もいないから、

観ている側は、逆に、誰にでも感情移入が出来るんですよね。


主要五人、
赤松(仲村トオル)、沢田(田辺誠一)、井崎(萩原聖人)、
榎本(水野美紀)、狩野(國村準)それぞれに、
どこか間違っていたり、保身があったり、打算が働いていたり・・
正しい人間はひとりもいない。


赤松が、事故は整備不良が原因、と言われて、
担当していた門田(柄本拓)をクビにしてしまう、それは、
門田が、髪を染めていたり、ピアスをしていたり、
いくら注意しても直さない
鼻持ちならない態度が遠因になっていたりする。
つまり、人を見かけで判断して、
肝心な、仕事熱心な部分や、自分に対する尊敬の念だとかを
見落としてるんです。

けれども、彼はまた、そんな自分の見識が間違っていたと思えば、
きちんと頭を下げるだけの公平な心も持ち合わせていて。


彼が、先代から勤めている宮代(大杉漣)にグチをこぼす、
そこで、観ている側は、思いがけず、
二代目社長として懸命に肩をいからせて頑張っている
赤松の健気(けなげ)な姿・・
つまり、彼の「弱さ」を知ることになる。

で、そこから自分を奮い立たせ、
敢然と単身ホープ自動車に乗り込んで行く彼に、
なおさら、おおいに感情移入してしまうわけです。


沢田にしても、社内のリコール隠しに気づき、
そのことを赤松側から公(おおやけ)にされてしまう前に、
何とか会社自ら公表する方向に持って行こう、と、
暗躍を始めるわけですが、
それを「正義」とは呼べない部分があるんですね。
彼の根には、自分を商品開発部から締め出した狩野への恨みがあって、
今回のことで、一泡ふかせてやろう、
という、意趣返しの気持ちが見え隠れしているし、
何と言っても、肝心な赤松運送への配慮や、事故の犠牲者への心の痛み、
というものが、(今のところ)沢田にはまったく感じられない。


井崎は、彼なりの正しさを持っているんだけれども、
狩野の姪(ミムラ)と婚約したことで、
それを上司にぶつけられないでいるし、
榎本は、ジャーナリストとして不正を糾したい
という思いはもちろんあるだろうけど、
それだけではない、男に負けてなるもんか、みたいな、
スタンドプレイに走りたい気持ちがあるようにも見受けられる。


おそらく、普通なら「悪役」になるだろう狩野は、
逆に、姪(ミムラ)への穏やかな愛情が描かれていることによって、
単純に悪役のレッテルが貼れないようになっているわけで。


彼らが、それぞれの立場や支えられてるものによって、
非常に多面的に描かれていること、
個人の欲(私欲)のためだけに動いているわけではないこと、が、
観ている側がドラマの勢いにすんなり乗れる原因になっている
ようにも思います。


赤松の、小さな会社だからこそ感じられる痛みの感覚と、
沢田の、大会社ゆえに届ききらない事故への遠い距離感・・
この二人の温度差が、
やがてどんどん埋まって来るようになるんでしょうか。
そして、二人ともに、真に被害者の「悲しみ」に心を寄せ、
その救済にたどり着くことが出来るんでしょうか。

そのあたりまで深く切り込んだ人間ドラマになるのか・・
あくまで企業と個人という関係性にこだわったものになるのか・・
どういう展開になるのか分からないけれど、
脚本や演出を信じて、楽しみに待つことが出来る気がします。


出演者について―――――――


☆赤松徳郎(仲村トオル
チームバチスタの栄光』(ドラマ)の白鳥役がすごく好きだったので、
とても楽しみにしていました。
いや〜、脂の乗り切ってる俳優さんの「勢い」みたいなものを感じますね。
何だろう・・こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、
可愛らしさがある、って言ったらいいんでしょうかw。
こういう社長さんなら、そりゃ社員は頑張っちゃうよなぁ!
と思わせる一生懸命さが自然に出ていて、
観ていて、赤松がすごく好きになってしまいました。


☆沢田悠太(田辺誠一
田辺ファン待望の社会派ドラマ。
なので、こちらはちょっと肩に力が入ってしまったのですが、
田辺さん本人は、まったく気負いなくすんなりと演じてましたね〜w
同時期に撮影していた『神の雫』の遠峰一青とは対極にあるような役。
その切り替えっていうのは、どんなふうにしていたんだろう、
と思ったんですが、
観ていて、その場に入ればすんなりと沢田になれる、
そういう空気感が、現場に出来上がっていたんだろうな、と、
そう思わせるいい雰囲気が、画面から伝わって来るような気がしました。


この二人も含め、上記の主要五人は、
脚本のうまさもあって、人となりがうまく描けていて、上々の滑り出し。
のちのち詳しく書くことになると思うので、
今回は、あえて別の人を。


今回印象的だったのは、小牧(袴田吉彦)。
沢田の同僚ですが、どこか才走ってる沢田に比べ、
(その辺が狩野の反感買ったんだぞ、きっと)
ずっと冷静で、へたすると沢田より切れるんじゃないか、と思えるほどw。


今までは、冷静沈着なこの小牧のポジションが多かったんですけどね、
田辺さんは。
今回の沢田は、熱いところがあって、そこが面白いとも思うわけですが。
頭の中で、ダーッといろんなこと考えてるのに、
赤松の前では見事に冷静を装って、
自分の思惑をまったく読ませないし・・・あ、横道に逸れてしまったw。


あとは沢田の部下・北村(小林且弥)も印象に残りました。
赤松の言い分を慇懃無礼とも取れる態度で受け流して、
後でしれっとして「ただのバカですね」と言い切ってしまうあたり、
ひょっとしたら、沢田や小牧以上に、大企業の論理に嵌まってしまって、
大切な感覚が麻痺しているんじゃないか・・そこに怖さを感じました。


それにしても・・
神の雫』と同じTVドラマなのか、と思えるほど、
空飛ぶタイヤ』は、人間関係も、それぞれが生きる場所も、
立体的に組み立てられていて、観ていて飽きることがありません。
個々の立場上の思惑がさらに激しくぶつかることになるだろう
今後の展開が、(何度も言うようですが)非常に楽しみです。


あ、でも、『神の雫』の紙芝居的な作り方も、
私は決して嫌いじゃない・・というか、
このドラマとは違った意味で大好きだったんですけどねw。