『空飛ぶタイヤ』(第3話)感想

空飛ぶタイヤ』(第3話)感想  【ネタバレあり】

重い・・深い・・切ない・・苦しい・・
いろんな想いが心の中で交錯しながらの1時間、
根を詰めて観ているので、観終わった後は疲労困憊(こんぱい)。(苦笑)
もうほんと、出て来る人出て来る人、誰も嫌いになれない、
それぞれの気持ちをきちんと受け止めなきゃならない思いに駆られて、
こっちは一杯一杯になってしまってるんだけど、
でも、これほど登場人物一人一人を好きになれるドラマに出逢えるって
滅多にないことだとも思う。


いったい悪いのは誰なんでしょうね。
いや、もちろん、リコール隠しの元を辿れば狩野(國村準)
ということになるんだろうけど、
何だか私、この人を嫌いになれないんですよね。
週刊潮流に記事が出るかもしれない、
と巻田(西岡徳馬)から連絡が入った後、独りで廊下を歩いて行く
その後姿に、背負わなければならない荷の大きさが
(す)けて見えていたような気がして。
その姿を眼で追う室井(相島一之)の表情もすごく良くて、
憎らしい、とか、ひどい奴らだ、とか思う前に、
何だか可哀相に思えてしまって・・


ひょっとして違う立場だったら、ひょっとしてもっと若かったら、
狩野だって、会社の不正を暴こうとしていたかもしれない。
リコール隠しなんてことを一番やりたくないのは、
ひょっとしたらこの人なのかもしれない。


彼もまた、沢田同様、
「人の死」という最も肝心な痛みに対して鈍感になっている、
事故によって一人の女性が亡くなった、という事実に対して、
誠心誠意向き合うことをしていない、
それはもう、傲慢以外の何物でもないし、
糾弾されて当然ではあるんだけど。
だけど、何万人という人間が関わる大企業の上に立つ者として、
彼らを護る義務がある者として、
「そういう手段を取らざるを得ない」と判断した彼の気持ちは、
倫理とか道徳とか抜きに、立場として分かる気がするから・・


わずかな出ではあるんだけど、
高幡刑事(遠藤憲一)の葛藤も、身に詰まされるものがあって。
流れの中で立ち止まり、反対方向に歩いて行こうとする、
その時、その身に跳ね返ってくる抵抗は、どれほど強いものなんだろう、と。
自分だけの力ではどうにもならない、
その流れに屈してしまいそうな腹立たしさや苛立ちが、
カップ麺を流しに投げ捨てる、という行為に
如実に現われている気がして。


少しずつ私欲や保身が滲み出てきたことで、
一番濁(にご)ってしまったのは、たぶん、沢田(田辺誠一)なんでしょうね。
カスタマー戦略課に移って5年、
それなりの実績を残し、課長にまでなったのはいいけれど、
顧客の(時に理不尽な)文句のはけ口にされて、
頭を下げ通しの日々にいささか嫌気が差していたのも事実で。

元はと言えば、狩野常務への意趣返し。
どこかでギャフンと言わせてやりたいと思っていた、
そこに願ってもないリコール隠しの噂。


社長への告発文が、
純粋な正義だけから生まれた と感じられないのは、
会社を何とか良くして行こう、という、前向きな姿勢だけではなく、
どこかに狩野への私憤が紛れ込んでいるから。
最悪クビにならないだけの保険を掛けているもの、だから。


彼は、赤松(仲村トオル)に対して何度も頭を下げるけど、
その行為に、どれだけの「想い」が込められているのでしょうか。
少なくとも、赤松が頭を下げる時の「想い」の重さとは比べるべくもない、
惰性や慣性でそうしているようにしか見えない。
誠実さが感じられない、心が感じられない。

そんな彼が、
子供の頃からの夢だった「車を作る仕事」という餌をぶら下げられて、
あっけなくそれに食いついてしまう、
その彼の弱さもまた、私は嫌いになれなくて。


彼の強さよりも、彼の弱さの方が、
ずっと身に沁みて共感出来る気がするのは、
そういう部分を、私自身が持っているから、なんだと思います。
だから、彼を見ていると、自分の醜い部分を突きつけられているようで、
正直、辛いものがあります。


沢田とは逆に、
まとっている空気がどんどん澄んで美しくなって行ってるのが、赤松。
彼を清廉な道へと導いている土台になっているのは、
事故の被害者である柚木(甲本雅裕)の哀しみや痛みへの共鳴。
沢田に1億円という補償額を提示されて揺れる、
それを手にすれば、会社は倒産せずに済む、
喉から手が出るほど欲しいその金を突っぱねることが出来たのは、
雪の日、事故現場に花を手向けに行って、
その場所で一人の女性が死に、
その死によって、家族が引きちぎられるような痛みを味わっている、
そのことをまた改めて心に刻んだから。


1億円の話を赤松に蹴られ、その帰り道、
「赤松はバカだ!俺とは生き方が違うんだ」と吐き捨てるように言う沢田。
けれど、その言葉の底には、自分の選んだ生き方が、
赤松のようにまっすぐに、誰にでも胸を張って語れるものでないことへの、
自分自身に対するかすかな卑下も含まれているように思えて・・
願わくは、商品開発部に移った沢田が、
赤松のように、本物の正義を押し通す強さを身につけて、
会社の不正に対し、今度こそ正面から立ち向かってくれますように!
と、思わずにはいられなかったです。



今週の沢田=田辺誠一
今回、私が一番印象に残ったのが、
社長への告発文を小牧(袴田吉彦)に見せた時の顔。
「なんなら、小牧の名前も書いといてやろうか」と言って、
「ご冗談でしょ」と返された時、何とも言えない表情をしていて・・
からかうでもなく、茶化すでもなく、怒るでもなく、
赤松と宮代(大杉漣)のような完璧な戦友になれない、そういう距離感を、
砂を噛むように味わわされている、といったような・・


まぁそれも、自業自得ってところもあるんでしょうが。


沢田悠太という役は、遠峰一青の時とは違って、
田辺さんが役を演じている、という感覚があまりなくて、
それはそれですごいことだと思うんだけど、
私みたいに、俳優さんが与えられた役をどう作って行くのか、
を観るのが好きな人間としては、
あまりにナチュラルで、作り物の匂いがまったくしない今回のような役では、
「演じ方(役の作り方)」について何も語れなくて、
ちょっと淋しかったりもしてw。

でも、小牧に対してああいう(前述のような)表情をする沢田とか、
あと、酔って家に帰って来た沢田の、奥さんに対する話し方が、
少し甘くなってるところとかを観た時に、
「ああ、田辺さんらしいなぁ。
私は、沢田悠太にこういう一面を持たせられる田辺誠一
好きなんだよなぁ」と、そんなことを唐突に思ったりもして。

何だか、根掘り葉掘りそんなところばかり探してるみたいですが・・
いや、実際 探してるんだけど・・w



―――さて、次回は早くも4話ですね。
赤松にとって、そして沢田にとって、
この「闘い」が、どれだけの意味を持つものなのか・・
どれだけ重いものなのか・・
それは、彼らが、自分の「何」を賭けて闘って行くのか、
に比例して来るような気がします。
そのあたりを、仲村さんや田辺さんがどう演じてくれるのか、が、
おおいに楽しみです。



蛇足。
沢田夫妻は、ちゃんとデキャンタージュしてワインを飲むんだなぁ、
と、変なところで感心したワタシw。
うーん、まだ『神の雫』が完全には抜けてないのか、自分・・w