『風林火山』(第29回/逆襲!武田軍)感想

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『風林火山』(第29回/逆襲!武田軍)感想
私にとっては、
今回こそがまさに「両雄死す!」の回でした。
雨の中、諸角虎定(加藤武)が絶叫するところから後は
もう胸がジーン・・・
晴信(市川亀治郎)、勘助(内野聖陽)、大井夫人(風吹ジュン)、
伝兵衛(有薗芳記)といった人たちの深い痛みが、
それぞれに違った形で描かれていて、
いたずらに悲しみを煽ったり押し付けたりするような
演出になっていなかったのも、とても良かったです。


前回、怒りの沸点があまりにも歌舞伎調だったので、私としては、
晴信の感情にちょっと引いてしまったところがあったのですが、
今回の慟哭には、こちらの気持ちもすっかりシンクロしてしまいましたし
評定の時の、まだ「自分」というものを取り戻していない晴信にも、
すごく心惹かれました。

この晴信にからむ 三条夫人(池脇千鶴)と由布姫(柴本幸)が、また、
それぞれに、晴信の痛みをそっと包み込むように接していたのが
印象的でした。
柴本さん、とても穏やかな表情をするようになりましたね。


勘助は、晴信よりもずっと立ち直りが早かった。
嘆き悲しんで立ち止まってしまうことが、
板垣(千葉真一)や甘利(竜雷太)のもっとも憂えていたことである、
ということが、彼には解かっていたのでしょうね。

晴信より一足先に「本来の自分」に立ち戻った勘助と、
もともと他の家臣ほどには板垣や甘利への感情ののめり込みが少ない
真田(佐々木蔵之介)や相木(近藤芳正)の水面下での活躍もあり、
諏訪の兵の心を束ねることに成功した武田軍は 再び息を吹き返し、
諏訪の地を狙っていた小笠原軍との戦いに勝利します。


自信満々で力強い勘助よりも、
こんなふうに、屈折を抱えながらもいたずらに感情過多にならない
勘助が、私としては好みです。評定で小山田にからまれて、
軍師としてのアンテナが研ぎ澄まされた時、とか。(笑)


その小山田信有(田辺誠一)。
彼もまた、両雄の死に、心を乱されていない男、
ということになるのでしょうね。

全体に沈んだ空気が漂う評定で、ひとり気を吐くところは、
いかにもそういうウエットな感傷を嫌うこの人らしさが出ていて、
久方ぶりに勘助とやり合う小山田の激しさが、
すっかり自信を失っている晴信への
(げき)に近い気持ちを含めたものに感じられて、興味深かったです。

しかし、その「熱さ」の後、勘助に呼び止められた小山田の表情は、
まったく違う「憂(うれ)い」を含んだものになっていて。
複雑な感情を刻んだその顔かんばせから、
美瑠姫(真木よう子)に見せた穏やかで純な優しさ、というのは、
突如彼の中に出現したものでなくて、
もともと彼の中にあったものだったのだ、ということが
じんわりと伝わって来る、そういう 説得力 のある「何か」が
感じられたことに、何だかホッとしました。
そして、勘助からフッと視線を逸らして去って行く、その姿に、
彼の心の中にある葛藤を勝手に読んで、
勝手に胸を熱くしてしまいました。(笑)


・・・そうなんですよね〜。
こうして、ただ「武将」として、だけではない、
屈折した部分が浮き彫りになって来ると、
俄然「役が田辺誠一のものになって来ている」と感じられもするわけで。
「小山田信有を田辺誠一が演じる意味」も、
強く感じられたりするわけで。(笑)

ただひとつ、気になったのは、時代劇調の 肩に力の入った語り口。
同じような語り口だった板垣や甘利の退場で、
小山田ひとりがちょっと浮いた感じになってきました。


晴信は、もう、ああいう「型」として出来上がっているし、
声がきっちりと抜けて出ているし、
どれほど大仰でも納得させられてしまうのですが、
小山田に対しては、どうも引っ掛かってしまうのですよね。
私ひとりの感覚なのかもしれませんが。

本格的に評定に加わるようになった駒井(高橋一生)が、
また本当に ふつう〜 の話し方なので、余計に気になるのかなぁ。(笑)

そのあたりは、田辺さんの、
時代劇を演じる上での今後の課題、ということになるのかもしれません。
まぁそれも、何かと気負いの目立つ小山田らしい、
と言えないこともないんでしょうが。(笑)


来春の舞台『いのうえ歌舞伎☆號(ごう)IZO』で、
演出のいのうえひでのりさんが、
時代劇(+舞台)での肩の力の抜き方を、
田辺さんに叩き込んでくれることを、切に希望。(笑)