『風林火山』(第22回/三国激突)感想

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『風林火山』(第22回/三国激突)感想
先週から一転して、三国の主だった登場人物 揃い踏み♪の回でしたね。
「三国激突」という派手なタイトルとは裏腹に、
まったく戦闘シーンがないのですが(笑)
登場人物それぞれの個性のぶつかり合いが、
別な意味での「戦い」「激突」とも取れて、
今回もすご〜くワクワクドキドキしながら、45分を堪能しました。

 

この時代の戦(いくさ)の相手というのは、一国だけではないのですよね。
右を見ても左を見ても、自分の国の周りは敵だらけ、という状況の中で、
どのタイミングでどの国に戦を仕掛け、どのタイミングで和睦し、
あるいは静観を決め込むか
その決断のひとつひとつが、もろに、国の存亡に掛かって来るわけで。

 

今回の状況では、三国がそれぞれに他に憂いを抱えながら戦っていて、
(武田は村上、北条は関東管領上杉、今川は織田)
戦を続けたい、と思っていたのは、
実は、今川のトップである義元(谷川章介)だけだった、という構図が、
徐々に浮き彫りになって来るところが、非常に面白かったです。

 

中でも、今川の軍師である雪斎(伊武雅刀)の
読みの深さと計略のうまさが際立(きわだ)っていました。
晴信(市川亀治郎)の前で、武田に派兵を願い出る雪斎ですが、
その言葉の裏には、
今川にとっても北条にとっても、戦を続けることは愚である、
という真意が含まれていて、
その意味をしっかりと読んでいたのは、晴信ひとりだけだった、
というところもまた、興味深かった。

 

この雪斎の願い出に対する武田側の評定では、
晴信が、いつものように勘助(内野聖陽)に意見を聞こうとすると、
雪斎との仲介をした小山田(田辺誠一)が、
策がある、と晴信と勘助の間に座り、
今現在の三国の立場を地図を使って説明し、
関東管領・上杉を牽制するためには、北条と手を繋ぐのが得策、
今川につかず、今川が北条に敗れるまで静観するのがよい、と提案します。

 

すでに、北条との繋がりを個人的に深めていた小山田は、
「北条は武田と和睦したい意向にござる。
このことはすでにお屋形さまもご存知のこと」
と、あいかわらず他の家臣たちを出し抜いて事を進めていたことを暴露。
出し抜かれていたのは、勘助も同じだったのですが、
彼はさすがに抜け目なく、
小山田のこの発言から、ひとつの妙案を思いつきます。
つまり、北条と今川を一気に和睦させてしまおう、と。

 

おそらく、この案に、何かの具体策があったわけではない、
俺が行って、何とか糸口を探り出してやる、という決心を含んだ提案を、
いつもの彼らしく、少々‘はったり’をきかせて発言した、
ということだったのでしょうが、
小山田の案には無言だった晴信が、その案に即座に反応してみせたので、
勘助の発言に対し「出来るわけがない」と食って掛かった小山田を、
さらに驚かせます。

 

勘助と違って、晴信には、ある程度の根拠があったのですね。
雪斎の口ぶりに、これ以上戦いたくない、という隠れた意思があることを
ただひとり 読み取っていたので。
だから、勘助が「北条と今川を和睦させる」と言ってくれたことは、
評定の場で、何事も家臣の意見を聞き入れつつ決定する、
という建前を取っていた晴信にとっては、渡りに船だった、
と言えるのかもしれません。
勘助って、結局、いつも、晴信にいいように使われている気もします。
晴信のほうが一枚上手、ということでしょうか。(笑)

 

この時の、晴信、小山田、勘助のやりとりは、
三者三様の思惑がからんで、非常に見応えがありました。
(以下、小山田好き〜♪な私の 偏(かたよ)った解釈になってます。ご容赦。)

 

最初、得意げに自分の意見を述べていた小山田ですが、
彼の発言を糸口にして、晴信と勘助が以心伝心、
ふたりだけで知略を重ねて行くにつれ、
どんどんフォーカスが甘くなって行くんですよね〜。
そのぼやけた輪郭の中に映る、
思いがけない展開に狼狽する小山田の眼を観た時、
なんだかすごく彼を哀れに感じてしまいました。

 

しかし、小山田も決して無能だったわけではなくて。
特に、勘助が「今川と北条の和睦」という案を持って
雪斎に再びまみえた時、
雪斎が「駿・甲・相三方の和・・その知恵を授けたのは、小山田殿かな?」
と言った時には、背筋がゾクゾクしました。
だって、小山田なら自分が武田に出向いた本当の意味を
理解出来るかもしれない、と、
この雪斎に思われていた程の人間だったわけですから。
で、もしかして、本当にそういう知恵を持っていたのが
晴信でなく小山田だったら、雪斎は、今川の建前としてはどうであれ、
真の甲斐の君主として、
晴信ではなく小山田を認めていたかもしれないのですから。

 

北条にしてもそうですよね。
武田から使者が来た、と告げられて、即座に「小山田か?」と言う。
そこには、甲斐の武田と言えば、晴信ではなく小山田である、
という認識がある。

 

雪斎(今川)にしても北条にしても、
自分たちと国境を接する武田の領地が 小山田が領主となっている
郡内なので、
何事も、武田に通じるにはまず小山田を通さなければならなかった、
ということはあるにせよ、
そこには間違いなく「武田に小山田あり」という認識があった、
と言えるのだと思います。
小山田は、身体を張って、武田の盾になっていた、
だからこそ、彼は、自分の力を信じた・・信じ過ぎた、
とも言えるのではないかと。

 

小山田が、本気で武田を乗っ取る野心があったのかどうか、というのは、
私にははっきりとは読めないのだけれど、
でも、私の希望としては、彼の心にあるのは「野望」ではなく、
自分のお屋形としての器(うつわ)が、決して晴信に劣るものではないのだ、
という、「自負」・「プライド」であって欲しい。
親の代の戦いで破れ、武田の軍門に降(くだ)ったとはいえ、
ひとつ間違えば、自分と晴信の立場は逆転していたのだ、という、
そういう悔しさを、ずっと抱き続けて来た、そういう男であって欲しい。
と思う。

 

領土を広げるとか、君主になるとか、そういう具体的な野心よりも、まず、
自分の価値が、この世界でどれほどのものであるのか、それを知りたい、
3歳年下の従兄弟(晴信)よりもすべての面において優れている、
という確証を得られたなら、案外この人は、
すんなり今の地位で満足してしまうような気もする、と言ったら、
あまりに彼を清廉の士と見過ぎているでしょうか。(笑)

 

いずれにしても、戦いで奪われるものは、土地や人の命ばかりではない。
人の心、とりわけプライド、というものが、
この時代の武将にとって、どれほど大切なものだったか、ということを、
小山田は、示してくれているようにも思います。

 

勘助から、今川と北条の和睦の可能性を、
ただひとり的確に読んでいたのは晴信である、
と聞かされた小山田は、初めて、晴信に対して敗北感を味わいます。
晴信が、自分より数段 器(うつわ)の大きい男であることを
思い知らされたわけですが、
この挫折によって、彼の心に芽生えた劣等感が、
今後、どういう方向にこの男を動かして行くことになるのか、
おおいに楽しみです。


小山田信有を演じる田辺誠一 ―――
明日の記憶』の園田(プログラムに「野心家」と書かれていた)
の時も思ったのだけれど、どうもこの人が演じると、
「野望」とか「野心」とか とは無縁な感じがしてしまうんですよね。
何だろう・・「欲」みたいなものをあまり感じないからかな。
で、↑のような偏った「小山田観」になってしまったわけですが。(笑)

そういう、私が勝手に妄想膨らませた部分も含めて(笑)
今回の小山田(を演じた田辺さん)が、今までで一番好きです。

 

特に、地図の前で澱みなく自説を唱えるところは、
非常に力強く、自信に溢れ、
家臣団をぐいぐい惹き付ける磁力があって、惚れ惚れ。
小山田の非凡で魅力的な一面を、しっかりと見せてくれた気がしました。

そこから一転、
勘助の一言で一気に堕ちて行く様(さま)も、見ごたえがありました。
こういう、複雑な意味を含んだ細やかな表情が、本当にうまい、と思う。
(『ホテリアー』裏町の食堂で杏子と再会した時の顔とか)

 

全体の印象として、
最初の頃、セリフを言わされている感が強かった田辺さんが、
急速に「小山田信有」を自分のものにして行ってるように感じられたのも
嬉しかったです。
ここに来て、ようやく、
田辺さんの中で「小山田信有」がしっかりと出来上がって来た、
小山田を、自信を持って演じられるようになって来た、という気がします。

このドラマの中の小山田も、小山田を演じる田辺さんも、
むしろこれからが本番。
久しぶりに「時代劇の田辺誠一」を存分に堪能出来るのではないか、と、
わくわくする気持ちを抑えることが出来ないでいます。

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風林火山』(第23話/河越夜戦)のレビューは、
お休みさせていただきます。申し訳ありません。
(いや、決して 小山田が出ていないからではなく(笑)
時間が取れなくて〜)

ひとつだけ・・・
最初のクレジット、いつも小山田信有(田辺誠一)の名が出るあたりに、
当然のように真田幸隆佐々木蔵之介)が入っていたのを観た時は、
さすがに、ショックでした。
板垣(千葉真一)がいなくても、甘利(竜雷太)がいなくても、
そして小山田がいなくても、
ちゃんと高いレベルの面白さを保ったまま物語は進んで行く・・・
あたりまえのことなんだけど、何だかとっても寂しく感じてしまった。
いや・・まだまだ小山田の出番はあるし、
見どころはこれからだ、とは思っているんですけどね。