『風林火山』(第5回)感想

風林火山』(第5回)感想
う〜ん、武田も、今川も、勘助自身も、
寝返り、寝返られ、という事態が相次いで起こるので、
正直、出る人出る人「いったいこいつは何考えてるんだ?」状態が続き、
ちょっと頭の中がごちゃごちゃになってしまいました。(笑)
で、復習のために、第3話からもう一度再見。
(そこまで遡る必要もなかったんだけど、
小山田くんのオイシイ場面観たかったし。笑)
いろいろ確認したことを、感想も少し含めて書いてみたいと思います。


武田晴信市川亀治郎
まだ若い(16歳ぐらい)し、
父・信虎(仲代達矢)に疎まれていたこともあって、
表立って動いてはいません。
勘助(内野聖陽)についても、板垣(千葉真一)の話を聞いて
興味を持ったものの、実際に会ってみたら、
ミツ(貫地谷しほり)の復讐で頭がいっぱいのようだし、
「兵法を極めた」なんて話も、あまり信用していない様子で、
板垣が言うほど たいした器(うつわ)じゃないんじゃないか、ぐらいの感覚。
ただ、勘助の、信虎憎し、という気持ちは理解出来るし、
共感してるところもある。
「恨みでは、この武田は討てんぞ」
「失望の中にこそ大望は生ずる」
大望がなければ、恨みを晴らしたとて、何になる」
という、勘助への言葉は、
そっくりそのまま、自分に言い聞かせていたようにも聞こえ、
後々のクーデター(信虎追放)に繋がっているようにも感じられます。


板垣信方千葉真一
信虎がミツを殺してしまったことを、葛笠村に謝りに行った板垣は、
勘助と出逢い、怒りに燃えた勘助と対峙します。
興味を持った板垣は、彼を召抱えることにし、諸刃の剣になる
(復讐のために武田を裏切るか、仕官したくて武田のために働くか)
可能性があるのを承知で
(晴信の「好きにやらせてみろ」という助言もあって)、
武田の間者として、今川に送り込むことにします。
まぁ、この時は、板垣もまだ勘助の力を読み切れていないので、
力を見極める気持ちもあって、ちょっと様子を探らせてみよう、
ぐらいの考えだったのかもしれません。


ところが、その今川では、ちょうどその頃、
家督を継いでいた寿桂尼藤村志保)の長男・氏輝と次男が
あいついで病死。
3番目の子で、福島(テリー伊藤)の娘の子(庶子)である
玄広恵探(井川哲也)と、
4番目で、死んだ上ふたりの子と同様、嫡出子(正妻である寿桂尼の子)
である梅岳承芳(後の今川義元 谷原章介)との対立が明らかになり、
信虎が、福島の密使である山本貞久(勘助の兄 光石研)に、
いざという時は手を貸すという約束をしていた、ということもあって、
一気に不穏の影が差し始めます。
で、板垣は、武田に不利な行動をとるかもしれない勘助を
呼び戻そうとしますが、
すでに、寿桂尼の窮地を救うなど、深く今川と関わり始め、
今川を使って信虎への復讐を画策しようとしている勘助には、
その思いは届かず。

とにかく板垣は、お家大事、晴信さま大事、で、単純明快。
とっても解かりやすい。(笑)


山本勘助内野聖陽
ミツの仇を討ちたい彼は、
まず、何とかして武田に潜り込むことを考えます。
板垣に召抱えられ、初めて晴信と対面し、剣を抜こうとした彼は、
まだ若い晴信に「恨みではこの武田は討てん」と言われ、
えらく腹を立てますが、
一方で、その言葉に理があることをちゃんと気づいてたようにも思います。

やがて、福島の動向を探るため、
武田の間者として今川に送り込まれた彼は、
確実に戦(いくさ)が起こるように、福島がたの謀反の裏に武田がいることを、
今川の重臣である大叔父・庵原忠胤(石橋蓮司)を通じて、
寿桂尼に伝えます。
(福島側の兄・貞久への裏切りになるのを承知の上で)
福島が謀反を起こし、戦になれば、武田が加勢し、信虎が出陣する、
その時がミツの仇を討つチャンスだと思っていたんですね。
勘助は、寿桂尼側の人間として今川にもぐりこみ、
庵原の長男をけしかけて、本当の敵は福島の後ろにいる武田である、
と思い込ませることに成功します。
しかし一方、寿桂尼の後ろには雪斎がいて、
さらに武田の小山田信有がいる。小山田の手引きで雪斎と信虎が会い、
寿桂尼側についてくれれば、三条家の姫を晴信に、という裏取引があって、
けっきょく武田は動かず、
勘助の、出陣した信虎を討つ、という望みも絶たれる、
というのが5話までの話。


それにしても、勘助のどん底状態はいったいいつまで続くのか。
ミツのあだ討ちも、仕官への道も、程遠く。
彼がどんなに自分の能力に自信があって、
それが本当に比類ないものであったとしても、
今の彼の地位では、多くの人を動かし、世の中を動かすことは出来ない。
その、どうしようもない絶望感・無力感とは対照的な、
信虎―信有―雪斎 雪斎―承芳―寿桂尼 というふたつのトライアングル。
ほんの一握りの高い地位の人間に委ねられる歴史の一幕。
その歴然とした「格差」に、勘助は、まだまだ翻弄されるのでしょうか。
その「天」と「地」の描き方が、このドラマは非常にうまい、
という気がしますし、
勘助が、その天と地ほどの開きのある身分の壁を徐々に壊して行く様子、
というのも、前半の見所になるんだろうな、とも思います。


★小山田信有(田辺誠一
板垣とは反対に、何考えてるか解かんないのが、この人。(笑)
あまたいる武田の重臣さしおいて、たったひとりで、
雪斎(伊武雅刀)を通じて、梅岳承芳がたと手を組む算段をし、
ついに信虎を雪斎に会わせることに成功。
そもそも、信虎が、貞久の前で、福島に味方すると確約した、という時点で
彼(とおそらく雪斎)のしたたかな計算が働き始めたことが
明らかになって来ます。
(貞久が信虎に会った時の信有の含み笑いは、この辺から来てる)
つまり、福島が、家督争いに勝利できる!と絶対的な確信が持てるよう、
「武田はいつでもあなたの力になりますよ」と
福島に甘いことを言っておいて、裏では、雪斎と手を結んで、
いざ福島が立ったら、ぶっ潰そうとしてたわけです。
で、まんまとその手に乗っちゃった福島。
信有と雪斎がいなかったら、貞久と勘助は剣を合わすこともなく、
貞久が死ぬこともなかったかもしれない、と思うと、
なんてひでぇ奴なんだ!と、
今のところはアンチヒーロー路線まっしぐらの信有。(笑)
もっとも、まだそれほど力を持っていない武田にとって、
強そうな方に加担して同盟を結ぶ、というのは、
この時点で最良の選択であった、とも言えるわけですが。


うーーん、そうなんだよね、
彼は本当はいい奴なのか、それとも悪い奴なのか、
というのが、今のところまったく読めないようにできてる。
信虎の人間性みたいなものをどう思っているんだろうか、とか、
武田がどうなればいいと思ってるんだろう、とか、
実際、よく掴み切れないところがあります。
信虎の前では、あなたの考えは正しい、と言っておきながら、
信虎がいないところでは、あさはかだ、みたいなこと言っちゃうし、
みんなの心をひとつにしないといけないんだよ、って言っておきながら、
ひとりで暗躍してるし。(笑)
跡継ぎのはずの晴信が、今のところまったく頼りないので、
人間性に問題があっても、信虎を立ててやって行くしかない、
と思っているのか?
ひょっとしたら、信虎を謀(たばか)って、武田乗っ取りを企んでいるのか!?
(いや、史実からいって絶対にそんなことはないんだけど。笑)


3話で、甘利(竜雷太)が、武田一族のルーツは甲斐源氏だ、
と言ってますが、
小山田家のルーツは桓武平氏。ここでも育ちの違いが出てくる。(笑)
武田に負けず劣らず歴史ある家柄でもあるようなので、
要するに、いいとこの若様って感じなのでしょうね、信有は。
まぁ、もともと郡内(今の山梨の南東部)という土地を所有している
領主であり、
武田の臣下になったとは言え、
他の地侍上がりの家臣たちとは一線を画している。
今回の暗躍についても、駿河に近い郡内の領主として、
信虎よりもさらに、今川の動静に敏感にならざるをえなかったため、
とも言えるわけで。
そのあたりをいろいろと考えてみると、
ある意味、自由な「俯瞰(ふかん)」の視線で彼が見ているものは、
「武田家」というよりは「甲斐」という土地ではないのか、
という気もします。

  
それにしても、信虎―信有―雪斎 というトライアングル、
雪斎―梅岳承芳―寿桂尼 というトライアングルは、
どちらも、怪しいほどに魅力的。(笑)
こうして5人を並べてみると、信有なんて、まだまだ青二才の域。(笑)
信有よ、雪斎の不気味さと深さを学んで、
よりダークに成長してくれたまえ。(笑)
 
   **


さて、その小山田信有を演じている田辺誠一さん。
ここまで観て来て、ちょっと感じることがあったので、そのことを。


今のところ、信有を「点」で演じている感じがします。
3話の評定での、冷静で、本心を読ませない様子、
5話の雪斎・信虎との密談での、ふと見せる青年らしい柔らかさ、
おそらく6話では、
冷徹に福島を討ち取る武将の一面も見えてくるのでしょう。
しかし、少なくともここまでは、それぞれの場面が、
小山田信有の人間性を伝えるものとして、
なめらかに繋がっていないように思える。
「点」でしか、役が捉えられていない気がする。
けれども、むしろそのことこそが、
この人物の興味深いところでもあるのではないか、と。


今までのところ、このドラマの中で信有の位置するところは、
ミステリアス(神秘的)で何考えてるか解からない、
ってあたりなのではないか、と思うのです。
信有の息子の信茂が、勝頼を裏切って武田を滅亡させた、ということで、
小山田氏自体は、地元ではあまり良い印象を持たれていない、
そのあたりを逆手にとって、裏切りもありうる、みたいな危うい面を、
今の時点で、わざと見せているような気がしないでもありません。
そう、とにかく小山田信有という役自体が、
非常に魅力的に出来ているのです。

だから、3話での信有(を演じる田辺さん)は本当に素敵だったし、
凛とした佇(たたず)まいや 鋭い眼光などは、
これぞ田辺誠一だ!と嬉しくも思ったけれど、
正直、私としては、意地でも100点をつけたくない気分でもあります(笑)


これから、少しずつ時が経って、
「点」が「線」になり、「線」が「面」になった頃、
私たちは、まったく新しい‥いや、信有の本来の本当の姿、
みたいなものを、見せつけられることになるのではないか、という期待が、
私の中ですごく膨らんでいるから。
まだこの先に、大森さん(脚本)が用意しているであろう新しい信有像と、
その役を、いつものように悩みつつ苦しみつつも、
信有の心に添うように演じてくれるであろう田辺さんを、
もっともっと楽しめるだろう、味わい尽くせるだろう、と思うから。


その後で、たぶん私は、
田辺さんが3話で見せてくれた信有の一つ一つの表情の、
本当の素晴らしさを実感出来るのではないか、という予感がしています‥
‥‥が、はたして実際のところはどうでしょうか。