笑う三人姉妹(talk)

2005・5-6放送(NHK)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

夢:究極の癒し系・ヘンリーくん。 普通、30代半ばにもなったら、こういう役はまわって来ないんじゃないか、と思うけどね・・・・って、ナビオ(@サボテン・ジャーニー)の時にも、同じようなことを、翔が言ってたような気がするけど。(笑)
翔:まぁそこが、田辺さんらしいところでもあるんじゃないか、と。(笑)
夢:田辺さんはともかく、ドラマとしては、私はどうも好きになれなかったけどな、全体的に単純、というか、古い、というか・・・盛り上がりも何もなくて、淡々と終わっちゃった、という感じだったし、コメディにしては、上滑りしてる感じがして、笑えなかったし。
翔:破綻(はたん)なく まとまっては いるけれど、大きな冒険もしていない。 『結婚泥棒』の時も思ったけれど、「笑い」に対して すごく保守的。 まぁ、NHKらしいと言えばらしいんだけど。
夢:うんうん。
翔:でもまぁ、下品なコメディにならない、という安心感があったのも確か。 キャストも、ちゃんと品のある人を揃えていたし。(笑)
夢:・・・・うーん、確かにそうか。(笑)
翔:もちろん、それにしたって、ついて行けないところはあった。
夢:父親捜し、とか、線路は続くよどこまでも、とか?
翔:そう。 リアルタイムで観ていた時は、そのあたりがどうもフワフワしていて落ち着かなかった。
夢:そうなんだよね、なんていうか、気持ち悪かったんだよ、あまりにも嘘っぽくて、笑いたくても笑えないようなところが。 普通、30過ぎの大人が、列作って、線路は続くよどこまでも~なんて歌わないだろう!って。(笑)
翔:(苦笑)そのあたりも含めて、最初に観た時は、どうしても秋元康さんの脚本に引っ掛かってしまった。 セリフそのものは、ところどころ教訓めいたものがちりばめられていたりして面白い、とは思ったんだけど、何と言うか、「言葉」として伝えようとするものが、ドラマ自体の内容より大切にされていたように感じられて。
夢:たとえばヘンリーという役にしても、幼稚な人間に設定されているように思わなかった? 
翔:そういうところは確かにあったね。 父親を捜すために週刊誌にリークしたり、とか。 そういう、骨格がしっかり出来上がっていない人間を、とにもかくにも「天然」とか「おおらか」とかいうところに収めることが出来たのは、演じていた田辺さんが持つ、独特のやわらかで優しい雰囲気のおかげでもあったような気がするんだけど。
夢:うん。
翔:「言葉」として伝えたいことがあるのは、物書きとして当然で、それを脚本にちりばめることも、決して悪いことじゃない、とも思う。 むしろ、秋元さんが、自分の「言葉」にしっかりした自信と、自負があるゆえ、にも思えるし。
  だけど、言いたいことは言いたいこととして、一本のドラマに関わる者として、もっと、ひとつひとつの役を愛し、演じている俳優を思いはかって描くことは出来なかったものか、という気もしたので。
夢:・・・・・・・・
翔:まぁ、そのあたりは、あいかわらず私の感覚でしかないのかもしれないけれど。
夢:・・・・いや、言いたいことは、なんとなく分かる気がする。
翔:そんなこんな、躓(つまづ)いてしまったところもいろいろあったんだけど、それはそれとして、今回観直してみて、このドラマは、コメディじゃなくてファンタジーなんだろうな、と思ったら、なんとなく腑(ふ)に落ちてしまったところもあって。 古臭さや保守的なところが、逆に、すごく安心感に繋がっているような気もしたし、キャピキャピはっちゃけていない大人のファンタジーコメディ、と取ることも出来るんじゃないか、という気もしたので。
夢:あ、そうなの?
翔:脚本にしても、「言いたいことは分かる」とも思ったし、言いたいことをちゃんと持ってるドラマ自体が少なくなってることを考えると、十分意味のあることなんだろうな、とも思ったし。
夢:・・・・うーん・・・・
翔:何より間違いないことは、脚本や演出に、先走ったところや甘さや弱さがあったとしても、演じる側としては、真面目に、真摯(しんし)に、役に立ち向かって、制作側が伝えたいことをちゃんと伝えようとしていた、ということ。 
  橋爪功さんや、野際陽子さん、浅野ゆう子さん、光浦靖子さん、牧瀬里穂さん、益岡徹さん、小林幸子さん、石倉三郎さん・・・・皆、そのあたりをちゃんと掴んで演じていたんだ、という気もしたので。 そして、その中で、田辺さんもまた、確実に、そういう役への向かい方をしていた、と感じられたことが、とても嬉しかった。
夢:・・・そうかぁ。
★    ★    ★
夢:翔は、今回観直して、改めて、田辺ヘンリーを「すごくいい」と思ったみたいだけど?
翔:何だか、ナビオからさらに進化して、「俳優・田辺誠一」の数多いベクトルのうちのひとつの「完成形(最終到達点)」を見せてもらったような気がしたから。
夢:完成形・・・・?
翔:そう。 ひとつは、女性に安心感を与える、というか、雄(オス)の匂いを感じさせない、というか、要するに、相手に対して鋭角に斬り込んで行かない、ほわ~んと包み込んでくれる感じ。
夢:ああ・・・うんうん。
翔:最初に夢が言った「癒し系」という言葉が一番近いのかもしれないけれど、こちらが疲れた時や傷ついた時に、こういう人に ただ傍にいてもらえたら嬉しいなぁ、と。(笑)
夢:・・・ふふ、なるほどね、まんま「きみはペット」だ。(笑)
翔:そうだね、これはもう確かに「ペット」に近い感覚かもしれない。(笑) それはきっと、あの柔らかな笑顔から醸し出されるものが大きいのかもしれないんだけど。 でも、それだけじゃなくて・・・・
夢:うん。
翔:もうひとつは「視線」だよね。 強く であれ、弱々しく であれ、常にまっすぐに相手に放たれる視線が、ものすごくいろんなものを含んでいるように思われる。 弱者へのいたわり、というか、共感、というか・・・・うまく言えないんだけど、すごく「凛(りん)とした自然」に近い優しさと、温かさと、一定に保たれた距離と、孤高の精神・・・みたいなものが、ない交ぜになって、あの視線の中に潜んでいるような気がして、それが、ナマな人間と一線を画(かく)すもののようにも思われたり。
夢:・・・うーん・・・
翔:・・・いやいや、何をまた突拍子もないこと言ってるんだろう、と思われても一向に構わないんだけど。(笑) 
  私自身、リアルタイムで観ていた時も、観直した時も、正直、ここまで発想が飛ぶことはなかったし、こうやって、いざトークを始めてみて、いきなり湧いてきた、という感覚なので。 ヘンリーからこんな発想をしている自分に、自分でちょっと戸惑っているのも確かだし。(笑)
夢:・・・・ああ・・・・・
翔:・・・・・・ん?
夢:・・・・翔の話を聞いていて今ふと思ったのは、ツグオ(@冬の河童)のことなんだよね。 あたしは今でも、ツグオのことを普通の青年だと思ってるけど、翔はあの時、ツグオのことを「人間じゃない」と言ってたじゃない?
翔:確かに、ヘンリーの底辺には、たぶんツグオがいるんじゃないか、と思う。 ツグオがいて、ナビオがいて、そしてヘンリーになった、という気もする。 
  あのツグオの「人間(一太郎)への憧憬と、愛することへの怯(おび)え」が、時を経て、ナビオの中でゆっくりと優しく発酵して行き、そして、ヘンリーとして、人間に恐れ気なく近づいて、愛して、信じることが出来るようになったんだなぁ、などということを考えてしまったんだけど・・・
  ・・・ああ、ごめん。 自分でも空想が過ぎると思ってるんだけど、どうにも止まらない。(苦笑)
夢:・・・・・・いや、いかにも翔らしいなぁ、と思いながら聞いてた。(笑)  
翔:・・・・もうちょっと空想につきあってもらっていい?(笑) 
夢:はいはい。(笑)
翔:なんだか、このドラマを観直した後、小山内(@だめんず・うぉ~か~)とか、『冬物語』webとか、ケンタッキーのCMとかを観ていて、田辺誠一という人の大きな魅力(のひとつ)が、確実に形になって現れるようになった感じがした。 癒し系、というだけでない、たとえばもっと豊かだったり、強かったり、たとえばもっと純粋だったり、透明だったり、とにかく、不思議な空気を醸(かも)し出せる人なんだなぁ、と。 
夢:うんうん。
翔:それは、もともと田辺さんが持っていたもので、過去の役においても、ふとした拍子に、こぼれ落ちるように表に出て来たことがあったんだけど、でも、こんなふうに、着実に彼の中に植え付けられ、魅力的なものとして育まれ、確実に明確に「演技」として表現されるまでには至っていなかったような気がする。 
  ようやく、このヘンリーという役ぐらいから、演技として自己調整しつつ、揺らぎのない確かなものとして、自然と、表面に滲(にじ)み出てくるようになったようにも思えるので。
夢:・・・・演技として自己調整しつつ・・・かぁ。 
翔:要するに、田辺さんは、彼の最大の魅力のひとつを、自由にコントロールしながら出すことが出来るようになった、と、少なくとも私にはそんなふうに見える、という話なんだけれど・・・・ああ、また空想が飛び過ぎてるよね、ごめん。(笑)
夢:・・・・いや、面白いよ。 ここのところ、田辺さんって現実的な役とか重い役が多かったから、そういうベクトルじゃないところの話なのが嬉しいし。(笑)
翔:いや、現実的だったり重かったり、というところで田辺さんが演じる意味、みたいなものも感じるんだけど・・・特に宮原(@瑠璃の島)みたいな役は。
夢:・・・・まぁ、そうかもしれないけど。
翔:でも、私としては、彼がヘンリーで結実させたもの、って、すごく田辺誠一らしい、と思うところでもあるので、今回観直してみて、こうやって好き勝手に空想・妄想してみて、これからの彼に、また新たな楽しみが増えたような気に、勝手になって、盛り上がってしまっているわけだけれど。(笑)
夢:(笑)いいじゃない、そうやって、いつまでも興味が尽きないところが、田辺誠一の一番の魅力、ってことかもしれないんだから。
翔:これでまた私は、この先何年も何十年も、田辺誠一という俳優を追いかけて行くことになるんだろうな、という予感が深まった、ということでもあるので。(笑)
夢:そうかぁ・・・うん、改めてそれを確認出来ただけでも、ここで、翔の「空想」をおひろめした意味があった、ってことだね。(笑)