『NANA2』感想:1

『NANA 2』感想:1
NANA2』は、私にとって、
今年観た映画・DVD・ドラマの中で、間違いなく、
明日の記憶』と共に、心の真ん中に刺さった作品だったように思う。
大谷健太郎監督は、
「『NANA2』で描くエピソードを映画化することが念願だった」
と、言っていたけれど、その願いは見事に結実しているように感じられた。


「夢を叶えることと幸せになることは、どうして別ものなんだろう」
このハチ(こと小松奈々)のモノローグが、
映画の根底に流れる大きなテーマだ。

まるでお人形のようなファッションに身をつつみ、
お城のように贅沢な、
あるいは女の子が憧れるようなかわいらしい家に住み、
現実から遠く離れた「夢物語」「おとぎ話」の中に生息している彼らは、
心地よい繭玉に覆われるように庇護された「子供」でしかないように
私には思われた。


その典型がタクミ(玉山鉄二)だ。
彼には、
「大人」と言えるための決定的なもの(一種のモラル)が足りない。
けれども一方で、彼は、子供ならではの純粋さも持ち合わせる。
ハチに子供が出来たと知った時、
彼は戸惑うことなく、その子を認知し、ハチと結婚することを考える。
子供が出来たということを、単純にすごく喜ぶわけではないが、
心の奥に、何かが灯ったことは間違いなく、
疎ましく思って、ドライに「子供を堕ろせ」などとは、絶対に口にしない。
そこには、子供ゆえのアンバランスな優しさと不器用さが混在している。
彼は、彼こそは、おそらく、永遠に子供のままなのかもしれない。
子供のまま夢を叶えてしまった彼には、
それが幸せであるのかどうかすら解からないのかもしれない。
そんな彼に対して、どこか 痛ましい と感じたのは、私だけだろうか。


一方のハチ(市川由衣)もまた、
ナナと同じ世界に繋がっていたいという幼い希望と、
タクミへの子供らしい憧れから、彼と関係を持つが、
子供を宿した彼女は、戸惑いを見せつつも、
やはり「子供を産む」ことには、微塵(みじん)のためらいも見せない。
その「(写真の中の)子供と出会う瞬間」に立ち会うのが、
産婦人科医である。
彼女は、ハチにとって、
大人へのとば口に立った時に初めて出逢った「大人」ということになる。
(それまで出逢った大人たちは、
ハチにとって、別の生き物でしかなかっただろう)
おそらくハチは、(彼女の手を借りて)母親となることで、
少しずつ「大人の強さ」を身につけて行くにちがいない。
タクミと一緒にいること、タクミの子供を育てること、
それがハチにとっての「真実の幸せ」に繋がるかどうかは解からない。
けれども、少なくともタクミにとって、ハチは、
もっとも必要な、
もっとも失ってはならないパートナーになるのではないか、
という気がする。


タクミと同じような危うさを秘めているのが、ナナ(中島美嘉)だ。
実は、彼女の方が、もっともっと複雑な感情を秘めている分だけ、
さらに危ういところに立っている、と言えるかもしれない。
ナナがハチに向ける気持ちは、子供が親を慕う感情にも似ているし、
はっきりと「恋」に近いところもある。
そのあたりは、実は、原作でも色濃く描かれている部分で、
ハチが、いろいろな意味で、ナナにとって重要な存在であること、
それゆえ、ハチがナナの傍を離れることで、ナナのバランスが崩れて行く、という、
非常に重い展開になるのだが、
この映画の中では、そのあたりを途中まできちんと描いていながら、
あるところで、意図的に、
ナナが崩れそうになるのを回避していたような気がする。
脚本も手掛けた大谷監督は、
ナナが繭玉の中に留まることを、良しとしなかった、
半ば強引に大人への一歩を踏み出させようとした、
大人の穢れ(けがれ)を飲み込むしたたかさを身につけさせる、という方法で。


それは、おそらく、
原作者である矢沢あい氏の思い描くナナの姿ではなかったかもしれない。
けれども、ハチを、
原作よりもずっと強く母性を感じさせる存在にさせたのと同様、
ナナに対しても、
大人の世界に確実に踏み出すことの出来る存在にすること、
それが、大谷監督が、この物語で描きたかった
大切なもののひとつなのかもしれない、と、
そんなことを感じずにはいられなかった。


確かに、「夢が叶うことと幸せになることは別もの」なのだ。
けれども、夢を追い求めることも、
幸せになりたいと願うことも捨てられないのだとしたら、
人は、傷つくことを恐れずに前へ進むしかない。

そんなふうに、ナナとハチに傷つきながら大人になることを求めた監督は、
しかし一方で、
そんな彼女らを、無責任に放り出すようなことは決してしないのだ。
彼女たちが初めて出会う「大人」は、
大人としての責任を果たしながら、
彼女たちを無事に繭玉から外世界に誘う役目を負う。
ハチには、前述の産婦人科医(美保純)を、
そしてナナには―――


『NANA』のファンとして、
原作を読んだ時から、痛々しいナナを誰か救ってくれ、と、
ずっと願っていた者として、
スカウトである川野が、田辺誠一であってくれて、本当によかったと思う。


出演者については、近いうちに改めて書きたいと思います。