『アタゴオルは猫の森』(アニメ)感想

アタゴオルは猫の森』(アニメ)感想
この映画を3D-CGで撮ろう、と英断した皆さんに、
まずは拍手を送りたいと思います。
何事も、挑戦することが大事。
新しい一歩を誰かが踏み出さなければ、前へは進めないわけですから。
実際、ヒデヨシのふわふわの毛、フレアの花びら、
ツキミ姫やギルバルスの髪の揺れ、霧散する光、波立つ水面、
猫たちの人間そのもののようななめらかな動き‥‥等々、
明らかに普通のアニメでは表現出来にくいシーンもいろいろあったので、
そういう点では、とても興味深かったです。


ただ、逆の見方として、
こういう内容の映画を3D-CGにする意味があったのかどうか、
という点については、正直、ちょっと疑問も残りました。
かえって、アニメの自在な手法や色彩のほうが、
もっと自由に、登場人物たちを操れたのではないか、という気もするし、
前半の、特に極彩色の村の様子などは、かえって、
普通のアニメで観たかった、
(そのあたりは日本アニメの魅力だとも思うので)という気もしました。


ストーリーとしては、
アタゴオルの世界観や、登場人物たちの物語内におけるポジション、
ピレアとヒデコの関係性、等々、
描き切れないところがたくさんあったのも確かなんだけれど、
私はむしろ、そういうところよりも、
ヒデコがピレアに伍して闘う力を得た最大の要因であるはずの、
「ヒデヨシを父とした」ことで得ることになったはずのさまざまな力が、
まったくヒデコに注入されないまま、だったように思えてしまったことが、
ものすごく残念でした。 せめて前半あと15分、
生まれて最初に見た者を父と信じたから、ただ一緒にいた、
というだけでない、
ヒデヨシによって「破天荒だけれど力強い生命力と反発力」という
熱い血を得るヒデコを、きっちりと描いて欲しかった。
そのあたりがしっかり描ければ、
なぜギルバルスが父親ではダメだったのか、
というところも浮き彫りになって、
ヒデヨシ・ヒデコ・ギルバルスそれぞれの際立った魅力(と欠点)が、
もっとはっきり観ているこちら側に伝わってきたのではないか、
とも思うし、
ピレアとの戦いの意味も、もっときちんと伝わったのではないか、と、
何だかすごく歯がゆかったです。

前半・アタゴオルの世界とキャラクターの個性、ヒデコの誕生と成長、
後半・ピレアの存在理由と、ヒデヨシたちとの戦い、ぐらいに、
きちんと色分けされていた方が、解かりやすかったような気もします。


登場人物の中では、やはりヒデヨシが魅力的だったけれど、
でも、もっともっと暴れまくって欲しかった。
紅マグロを追いかけて、見境なく周りに迷惑かけて、
それでも「へへん」と胸張って生きてる、
信じられないくらいめちゃくちゃな生命力に溢れた猫であって欲しかった。
最初のシーンだけじゃ、まだまだ足りなかった。


ヒデコはかわいい。
でも、キャラとしてのかわいらしさだけで終わってしまっている。
もっと、けなげだったり、強かったり、という色が欲しかった。


ツキミ姫やテンプラになると、
なおさら解からないキャラになってしまってるのですよね。
せめて、彼らが持つ力について、もうちょっと描いて欲しかったです。


ピレアや竜駒といった悪役キャラも、見た目は良しとして、
どうも、中身が伴わない感じがしてしまった。
中途半端に、彼らの存在に深い意味を持たせようとするよりも、
明確に「悪」として存在させ、
そのキャラの後ろに、伝えたいことを忍ばせてやった方が
良かったような気がする。
ん〜、そのあたりは、私自身、
きちんと読み取れていないのかもしれないけど。


声に関しては、
山寺宏一さんや小桜エツ子さんら本職の声優さんはもちろん、
夏木マリさん、佐野史郎さん、谷啓さん、平山あやさん、
内田朝陽さんら俳優陣も
まったく違和感がなくて、とても良かったと思います。


さて、ギルバルス
原作ではとても魅力的なキャラなんでしょうね、きっと。
でも、このアニメの中の彼は、私には何だか物足りませんでした。
感情を、表情にあまり出せないキャラだとしたら、
もっと動きやセリフで惚れ惚れさせてもらうことは出来なかったか、
とも思う。
あのヒデヨシと対になるキャラならば、
彼なりの魅力的な個性が、絵的にも、発する言葉としても、
もっともっと表に出てもいい。
うーん、まぁそのあたりは、もともとギルバルス系キャラが大好きな、
私個人の好みの問題でしかないのかもしれないですが。(笑)


その物足りなさを声で埋める、というのも、
ある程度可能だったのではないか、とも思うのですが、
それを声優初挑戦の田辺誠一さんに求めるのは酷なのかなぁ。
うーん‥いや、あのキャラにかぶった抑え目の声は、
すごく魅力的には違いなかったし、
ところどころ、ゾクッと来るところもあったんですけどね、
もう一色か二色、声で違う色をつけて欲しかったシーンもあったので。


アニメって、絵に声が重なって、
初めてキャラクターが出来上がるんですよね。
「声そのもの」から伝わって来るものが、
普通に生身の人間が演じて発する声より、
ずっと大きい意味を持ってるんじゃないかと思うんです。


田辺さんのギルバルスは、確かにとても素敵だったけれど、
キャラそのものの魅力を、
声の魅力でさらに上まで引っ張り上げるというところまでは
行っていなかった気がする。
キャラのかっこよさと五分の勝負まで行かないで終わっていた気がする。

うーん、ギルバルスのあの抑えた声の中に、
ヒデヨシとは異質な、でも同じくらいの力強さが欲しい、
と思ったんだけど、そりゃ、あまりに欲張りというもんでしょうか。