『NANA』(映画)感想

NANA』(映画)感想
『NANA』鑑賞。
約三十の嘘』の大谷健太郎監督作品。
原作が好きだったし、映画も興味あったのだけど、
『約三十‥』の時の物足りなさをずっと引きずっていたので、
大谷監督、というところで二の足を踏んでいたんですよね、実は。

ところが、最近再び『約三十‥』をビデオで観る機会があって、
何だか、その気持ちの良い上質な空気感みたいなものに
惹かれるようになって。
初見の時の物足りなさを埋めてくれるほど魅力的に思えてきて。
で、ようやく『NANA』を観てみよう、という気になったわけです。


さて、その『NANA』ですが。
いや〜、こんなに面白いとは思わなかったです、いろんな意味で。
まず、ナナ役に中島美嘉さんを起用したことが重要ポイントでしたね。
あの歌唱力、あの雰囲気、まさにナナそのもの!
矢沢あいさん描くところの針金のように細い手足を、
あれほど忠実に再現出来る人がいるとは思わなかった。(笑)
で、その細い細〜い身体全体から伝わるものは、まさに、
あのマンガの中のナナの痛々しさそのものだったりするわけで。


もうひとりの奈々は、宮粼あおいさん。
ナナばかりが注目されがちだったようだけれども、
私は、こっちの奈々も、というか、こっちの奈々のほうが興味深かった。
子供が無理に大人の世界に首突っ込んでるみたいな、
でもどこか、他の誰よりも大人なところを持ってるような、
ものすごく複雑な役だったんだなぁ、と、
彼女が演じているのを観て、改めて思い知らされた感じがします。


男性陣は、レンの松田龍平さんとノブの成宮寛貴さんがメイン。
成宮くんは、ノブという一番気持ちを表に出せる役だったこともあって、
ある程度、役を自分のものに消化出来ていた気がするけれど、
龍平くんは、レンの外枠に自分を嵌め込むので精一杯な感じがしました。
レンという役は、ある意味『NANA』の象徴的な男性像でもあるので、
演じる上で、かなり制約も多かったんだろう、という気がします。
それでもちゃんと、龍平くんだからこそ、という部分もあって、
さすが、とも思いましたが。


そう、特に少女マンガが原作の場合、この
「自分を役に嵌め込む作業」というのが、けっこう厄介だったりします。
そういう意味では、見た目、雰囲気、セリフ等々、出演者すべてが、
これほどマンガ世界を忠実に再現してくれた作品もめずらしいし、
衣装・大道具・小道具・・・等々も、
表面から観客の視覚に入ってくるものに対して、
恐れずに、マンガを忠実に再現しようとした勇気は、
おおいに買っていいと思う。

それらすべてが見事に調和して醸し出した、
まるでマンガそのもの、と言っていい、スタイリッシュな空気感・・・
正直私は、それをこれほど見事に再現してくれた、
というだけで嬉しかったし、
ストーリー的にも、マンガ同様に泣かせられたシーンも多かったので、
そんなふうに、全体を、
恐れずしっかり綺麗にマンガ枠に収まらせた大谷監督に
素直に敬意を表したいと思いました。


でもなぁ・・・(ここからは独り言です)
私の好きな田辺誠一という俳優さんも、
よくマンガ原作のドラマに出演しているけれど、
一度たりと、自分を役の中にきっちりと嵌め込んで収まったところを
観たことがない。
あれほどビジュアルが酷似していると言われた滝川幸次(@月下の棋士
だって、中身はまったく似て非なるものになっていた。
それがマンガファンを納得させたかというと、
たぶん、違和感を持った人も多かったんじゃないか、と思う。
でも一方で、原作の滝川に、あれほど精神を近寄らせた俳優がいたことに、
驚いたマンガファンも少なからずいたんじゃないだろうか。
そこに、俳優が、俳優として、役を演じる意味があるんじゃないか、とも、
思ったりするのです。

だから、『NANA』を少女マンガ枠から引きずり降ろした上で、
もう一度少女マンガに添って俳優寄りに練り上げた映画、というのも、
観たいような気がしました。
どういうふうに作ったらそうなるのか、というのは、
まったく解からないんだけれども。(笑)