神の雫(talk)

2009・1-3放送(NTV)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。


夢:華麗なる2009年の幕開け♪だよね。(笑)
翔:そうそう!(笑) この年は本当に楽しかったなぁ。 TVドラマが 『神の雫』 と 『空飛ぶタイヤ』 と 『ふたつのスピカ』 と 『気骨の判決』 と 『小公女セイラ』、映画が 『少年メリケンサック』 と 『ブラック会社に勤めてるんだが、俺はもう限界かもしれない』・・
夢:ドラマや映画ばかりじゃなくて、夫婦共演のCM『はなうた』とか、鶴瓶さんのトーク番組『A-Studio』、それから『あべ一座』っていう公開番組もあったし。(笑)
翔:そうだね。(笑)
夢:すごいよね~。
翔:数で言ったら、もっとたくさんの作品に出ていた年もあるんだけど、09年は、田辺さんが演じる役の色(傾向)が見事に全部違っていて、しかも そのすべてが好評だったからね、そのことが、ファンとしては本当に嬉しかった。 田辺さんの俳優としてのキャパシティの広さ・深さが存分に発揮され、しかもそれが、きちんと正当に評価された1年だった気がする。
夢:中でも、この『神の雫』は、翔の思い入れが半端じゃなかった。 翔がこれほどのめり込んだドラマは、本当に久しぶり、って気がする。(笑)
翔:(笑) ドラマ観ているあいだ中、とっても幸せだったから。
夢:視聴率としては平均6%台で惨敗だったんだけどね~。
翔:いや、なかなか感情移入しにくい話だったし、あまり魅力的なヤマがなくて平板な流れになってしまっていたし、かと言って、そのあたりをカバーするために、セットやロケにふんだんにお金を掛ける、ということも出来なかっただろうし・・・途中から、たぶん視聴率は取れないだろう、って思ってはいたけどね。
夢:う~ん・・・
翔:昔と違って、制作費が潤沢にあるわけではない、だからどうしてもドラマ全体が貧弱になる、というのは、ドラマファンとして寂しい限りだし、そのあたりは、今のTV局すべてが抱えてる大きな問題、って気もするけど。
夢:う~・・シビアだ。
翔:まぁ・・・シビアにならざるを得ない数字だったから。(苦笑)
原作の『神の雫』は、ワインに対する薀蓄(うんちく)が深いし、使徒の表現も独特で面白かったので、マンガファンばかりじゃなく、ワインファンも多く読んでいたらしい。 
だから、ドラマ化にあたっても、そこに力を入れたかった、というのは分かるんだけど、ワインによって導き出される景色って、すごく感覚的・・というか、感性の部分だから、それを具体的に視覚化するのって本当に難しいことだったように思うんだよね。 絵(マンガ)として描くならともかく、それを映像で表現するとなると・・
夢:かなり難しくなってしまう、ってことか。 確かに、何となくそのあたりの表現が薄っぺらで中途半端、って感じはあったよね。 マンガだと、次のページ開いたらタクラマカン砂漠、とか、あっという間にマッターホルン、とか、自由自在にどこにでも行けるけど、ドラマじゃそうは行かないし。(笑)
翔:(笑) マンガだったら、自由にイメージを膨らませて好きに描けるけれど、ドラマは、同じことを表現しようと思っても、いろいろな制限があって、イメージを広げにくい・・・ヘタすると嘘くさくなってしまうんだよね。 
夢:・・そうかぁ。
翔:そういうことをすべて受け入れた上で、ドラマとしての奥行きをどうやって出すか・・ そのあたり、制作側(演出)に迷いのようなものがあった気がする。 思い切りよくマンガの世界観に飛び込むことが出来ていなかったり、吹っ切れていなかったせいで、観ている方が照れを感じてしまう、というか、すんなり入り込めないで、一歩も二歩も引いてしまった気がする。 
しかも、ワインについての基礎知識を伝えようとすればするほど、お勉強会みたいな空気になって、物語の流れが寸断されてしまうので、全体的な展開にダイナミックな勢いがなくなって、ドラマ全体がつまらなくなってしまう、という負のスパイラルに陥ってしまっていたように思う。
夢:うわ~、キツイね~、初っ端から。(笑)
翔:(苦笑) ・・・ただ、そういう、奥行きのなさや物足りなさを補える‘何か’が、このドラマの根っこには、 ちゃんとあったような気もするんだよね。 原作に敬意を払った上で、自分たちなりの『神の雫』を作ろう、という意欲も感じられたし、全体の流れとして、制作側が考えた方向性も、間違っていなかったように思うし。 
使徒の数を半分に減らして、順序を変えて、最終的にこういう方向に持って行こう、という最後までの道筋は、私としては、すごく納得の行くものだったし、脚本はちゃんとそのレールに乗って、「雫と一青の成長譚」としてきちんと書いて行こうとしていた気がするんだけど・・
夢:でも、足りないものも多かった?
翔:ワインファンも、原作(マンガ)ファンも、ドラマファンも、すべて満足させようとして、かえって散漫に、平板になってしまった、というところはあるよね。
夢:うん。
翔:私は、雫と一青が、対決の場でどういうワインを選ぶか、具体的な銘柄は何か、ということよりも、対決によって彼らがどう変わって行くか、どう成長して行くか、の方に興味があったから。
 たとえば『月下の棋士』みたいに、主人公対ライバルの対立の構図がしっかり出来上がっていたら、もうちょっと面白いものになったんじゃないか、という気がするけど。
夢:うんうん。
翔:ワインに こだわり過ぎなければ、父・神咲豊多香をめぐる 雫と一青の関係、それぞれの母親の存在、豊多香はなぜ一青を養子にしてまで雫と使徒対決させようとしたのか、彼の思惑はどこにあったのか、というあたりも、もっともっと掘り下げて描いて行けたんじゃないか、面白くなったんじゃないか、とも思ったし。
夢:翔は、リアルタイムで観てた時、原作に描かれていた一青の生い立ちをかなり端折(はしょ)られてがっかりしてたよね。
翔:・・・だって、そこが、一青があんなヘンな男になってしまった重要なポイントだったんだから。
夢:ヘンな男!(笑) 
翔:原作の一青の奇異な言動、その奥底にあるものは何なのか、雪山のエピソード(無理心中しようとした母親に殺されそうになる)が明らかになって、ようやく納得出来た気がするんだよね。
夢:・・・・・・・・
翔:母親への複雑な愛憎は、一青の一番重要な「核」の部分だから。 原作を読んだ時、まず脚本がそこをどう書いてくれるんだろう、という興味がすごく大きかった。そこをちゃんと描かなかったら、一青の本質は表現出来ない、と思っていたので。
夢:うんうん。
翔:雫と豊多香の関係というのは、ある程度描けていたと思うんだけどね。 まぁ、もうちょっと父親への複雑な感情を雫に抱かせてやれたら、もっと良かっただろうけど。 
夢:うん。
翔:一方の一青に関しては、肝心な「核」を書いていない状態だったわけだから、脚本の段階で説得力を持たせることが出来なかったのは、当然と言えば当然なわけで。
夢:そのあたりの物足りなさというのは、翔としては相当大きかった・・と。
翔:というか、原作がまだ連載中だった、というのは、かなりネックだったような気がする。 終わり近いならまだしも、ドラマ放送時点では、ようやく「第五の使徒」(十二使徒のうち)が分かったあたりで、全体の半分も行っていなかったわけだから。
原作者としては、まだ謎のままにしておきたい部分もあっただろうし、今後の展開もあるから、ここはあまりいじらないで欲しい、というところもあっただろうし。
夢:う~ん、そうかぁ・・
翔:いろんな制限がある中で、ドラマとして どう締め括ればいいのか・・それって、この『神の雫』ばかりじゃなく、連載中のマンガ原作を使う場合の、非常に難しいところだと思う。
夢:確かにね。
翔:本当なら、『JIN~仁~』みたいに、原作が終わるのを待って、その後にドラマなりの収束をさせる、というのが、一番いいと思うんだけど、なかなかそうは行かない、そこまで待てない、となった時に、じゃあ、原作者も原作ファンも裏切らずに、ドラマとしてどう終わらせたらいいのか・・
夢:・・・・・・・・
翔:ひとつは、『ガラスの仮面』や『きみはペット』のように、原作がまだ描いてない部分を想像して、創作して、はっきりとドラマなりのエンドマークを出してしまうこと。
これは、連載中の原作にも少なからず影響するので、かなりの勇気がいる。 速水とマヤはお互いの想いを通じ合わすことが出来るのか、スミレはモモと蓮実のどっちを選ぶのか、原作が描いていないところまで踏み込むわけだから。
  でもまぁ、どっちのドラマにしても、原作の流れを極端に壊すことなく、何となくそういう方向に行くだろうな、というところにちゃんと持って行っていたので、原作をないがしろにしているとは思わなかったけれど。
夢:うん。
翔:もうひとつは、原作の進度に合わせて、その時点での一時的な終わりどころを見つけて、そこで一応のピリオドを打つ、っていう方法。 たとえば『月下の棋士』などは、将介と滝川の成長譚というところにうまく持って行った気がする。
夢:そうかぁ・・
翔:で、この『神の雫』も、おそらく『月下』みたいな成長譚としてきれいに終わりたかったと思うのね。それは、もしかしたら、原作が最終的に目指しているものとはちょっと違うかもしれないけれど。
夢:うんうん。
翔:だけど、対決の素材が、「ワイン」という、ちょっと取っ付きにくいもの、勝敗が明確につきにくいものだった、というところで、観ている人が素直に感情移入出来なくなってしまったんじゃないか、 さらに、一番のヤマであるはずの、雫と一青が対峙する「使徒対決」の場を‘言葉’だけで進めてしまって、‘動き’で見せることがほとんど出来なかったから、ドラマチックな対決の図式が、面白い映像として伝わりにくくなってしまったんじゃないか、って気がするんだよね。
夢:・・・う~ん・・・
翔:それから、そういうライバル対決がメインだと、基本的に男性的な作りにしなくちゃいけないと思うんだけど、キャスティングも含め、全体に女性を意識した優しい作りになっていたような気がする。 全般におとなしい感じで、よく言えば落ち着いていた・・けれど、それじゃドラマに勢いがつかない。 そのことも、「一青VS雫」という対決色をぼかしてしまう結果になってしまったかな、と。
夢:・・・・・・・・
翔:稀代のワイン評論家・神咲豊多香を父に持つ異母兄弟(かたや天然キャラで本質は天才の雫、かたや豊多香の後継者という呼び声高い 本質は努力家の一青)でありながら、お互いに才能を認め合ったライバルでもある、しかも、ふたりの対決を、他でもないふたりの父・神咲豊多香が仕組んだ、という設定は、私としては、ものすごく興味深いものだったんだけど・・
夢:うんうん。
翔:さっきも言ったけど、脚本は、扱いにくい素材を、何とかしてまとめようとしていたと思う。 ただ、一青と雫、それぞれの背景に、もっと厚みを持たせられたら・・一青がああいう男になってしまった必然性が、もっとしっかり描けていたら・・という憾(うら)みを持ってしまったのも事実なので。
夢:うん。
翔:そこ(脚本)も含め、「神の雫の世界観」を具体的に画面の中で形にする段階で、物足りなさが感じられた、ってことだよね、結局は。 やはり、キャストに役を預ける以前に、もっともっと原作に食らいついて、きっちり消化しておいて欲しかったなぁ、という思いがどうしても強くなってしまうんだけど。 
夢:う~ん・・・
翔:登場人物に対しても、ライバル同士の背中合わせの友情と同時に、兄弟としての情の部分が一青と雫の心に徐々に育って行く、そうなるための 自然な感情の積み重ねと、その想いの的確なぶつけどころを、制作側が、雫役の亀梨くんにも、一青役の田辺さんにも、十分に与えてやれなかったというのは、本当に残念で仕方がなくて。 
・・・そんなことをあれこれ考えると、何だかすごく、惜しいドラマだったなぁ、もったいなかったなぁ、という気持ちが今も強くて、2年以上経ってるっていうのに、まだ諦めきれない自分がいるんだけど。(苦笑)
夢:・・・ほんとに・・・どれだけこのドラマが好きだったんだか・・と言うより、どれだけ一青と雫が好きだったんだか、って話だよね。(笑)
翔:・・・・・・(笑)
★    ★    ★
夢:それだけストーリーや演出に不満があったにもかかわらず、翔としては「面白かった」と思ってるわけだよね、「ドラマを観ているあいだ中、とっても幸せだった」 と。
翔:そうだね。
夢:やっぱり、遠峰一青(@田辺誠一)のおかげ、と言っていいのかな。(笑)
翔:(笑) いや、そればかりじゃなくて、たとえば、一青と対(つい)の立場にいる雫役の亀梨和也くんとか、みやび役の仲里依沙さんとか、竹中直人さん、戸田菜穂さん、内田有紀さん、辰巳琢郎さん、古谷一行さん、等々の出演者が、みんなとてもいい雰囲気を作ってくれたことも大きかったし、その空気感を、カメラが非常に巧(うま)く すくい取ってくれたり、衣装がそれぞれのイメージに良く合っていたり、メイクがきれいだったり、ってことも、本当に大きかったと思うけれど。
夢:うんうん。
翔:ストーリーとしては、ちぐはぐなところがあったり、スムーズな流れにならなかったり、盛り上がらなかったりしたにせよ、脚本の基本的な流れは納得の行くものだったし、何より、画面から伝わる独特の・・メルヘンとかファンタジーに近い、生っぽさの希薄な空気感は、私にとっては興味深いものだった。 そのあたりは、キャスト・スタッフ共々「いい仕事」をしてくれたなぁ、と、絶賛したいぐらい。
夢:メルヘンとかファンタジー・・かぁ~。
翔:中でも、亀梨くんは、田辺さんと対峙する立場だったんだけど、とてもいい雰囲気を醸(かも)していたと思う。 
ドラマの雫は、原作と違って、そんなに‘陽’の雰囲気は持ってない。 繊細で、物静かで、どこか‘陰(いん)’の部分があって、一青と重なるところがある・・・ 兄弟なんだよね、やっぱり。 「神咲豊多香の血」ゆえ、と言ったらいいか。 そこがまた面白いなぁ、と。
夢:ああ、そうかぁ・・
翔:そのあたりは、原作を読んだ時には感じなかったことだった。 
原作ほどはっきり‘陽’の雫と‘陰’の一青というコントラストが浮き立たなかったので、全体としてのメリハリがあまり効(き)いていなかったのは確かなんだけど、私は、そんなふたりが・・育った環境が違うのに どこか似ている異母兄弟のふたりが・・とても好きだった。 田辺さんと亀梨くんの間に流れる独特の空気が、一青と雫の兄弟としての相似点を、浮き上がらせてくれたようにも思う。
夢:なるほど。
翔:特に、使徒対決の場で、一青と雫が作り上げた ピンと張り詰めた美しい空気が、静かに緩やかに熟成されて行く場面、というのは、毎回毎回心待ちにして、しかもまったく裏切られなかった、私にとって最高に幸せな時間で・・・
田辺さんと亀梨くんが役の中から生み出した その空気感を味わうだけでも、十二分に このドラマを観る価値がある、と、私はそう思っていたくらいだから。(笑)
夢:確かに。(笑)
翔:とはいえ、雫は、原作では明るい性格。 で、ドラマの雫のおとなしさを補うのが、みやび役の仲里依沙さんで、彼女は本当に、ドラマ全体を覆う ほの昏(くら)いトーンの中、一人で‘陽’の空気を作ってくれていた。(笑)
夢:良かったよね、みやびちゃん。 明るいとは言っても、キャピキャピした明るさじゃなくて、ちゃんと落ち着いたところもあって。
翔:そうだね。 ・・・あと、戸田さんの大人の雰囲気もすごく好きだった。7話の戸田さんは、私が今まで観た彼女の役の中で一番と言っていいほど素敵で、これはもう絶品だったと思う。 
夢:おお~そうかぁ。
翔:竹中さんも、ロベールみたいな役をやっても違和感ない人だよね。 ちゃんと抑えるところは抑えてるので、マンガチックでも説得力がある。 
夢:うんうん。
翔:贅沢を言えば、ロベールぐらいの大人が、あと一人、一青の周辺にいて欲しかった、という気がするけど。 そうすれば、全体にもうちょっと重みと深みが出たんじゃないか、と。 あの異端キャラの一青を支え切れる大人がいないのは、観ていてちょっと辛かった。
夢:異端キャラ・・(笑)
翔:いや、だって、原作に負けず劣らず相当ヘンな奴だったもの、田辺版一青は。(笑) 彼を支えるのがマキ(内田有紀)とセーラ(佐々木希)だけじゃ、一人だけ異質な世界観を背負ってる一青に負けてしまっている、と、私にはそう感じられたから。
夢:・・・・うーん・・・そういう見方もあるのか。
翔:返す返すも、一青の「闇」をちゃんと描けなかった、というのは、致命的だったと思う。 そこに説得力があったら、あれだけぶっ飛んでるヘンな奴でも、ある程度は共感出来ただろうし、マキやセイラだけで、一青をちゃんと支えてやれたとも思うから。
★    ★    ★
夢:その「異端キャラ・遠峰一青」を演じた田辺さんについて、たぶん翔は、いろいろ話したいことがあるんじゃないか、と。(笑)
翔:うん。(笑)
夢:翔は、脚本や演出で肝心なところがしっかり描かれていなかったとしても、「田辺誠一が演じた遠峰一青」に関しては、何も文句はなかったわけでしょ?
翔:・・・いや、リアルタイムの感想では、最初はけっこう厳しいことも書いていたよ。
夢:あ、そうだそうだ! 2話あたりだったかな、最初に翔の感想を読んだ時に、「なんでこんなに厳しいの?」って思ったんだ、あたしも。(笑)
翔:今観るとほとんど違和感ないんだけど、初見の時は、ちょっと引っ掛かっただけでも、さんざん暴言を吐いていたから。(苦笑)
夢:最初から惚れ込んでた、ってわけじゃなかったんだ。
翔:うーーん・・ 初めの頃は、まだどっちに行くか分らなかったから・・
夢:どっちに行くか・・?
翔:ある程度リアルな役作りをするのか、マンガキャラとして思いっきり跳躍させるのか、というところで・・・
夢:ああ、そうか。
翔:観る側としても、たとえば『月下の棋士』とか『ライアーゲーム』みたいに「思い切った虚構の世界」が最初からちゃんと画面の隅から隅まで出来上がっていた、というわけじゃないから、どんなふうに観たらいいのか、正直戸惑ったところがあるので。
夢:あ~、なんか分かる気がする。 
翔:さっきもちょっと話したけど、マンガ原作のドラマって、内容によっては、相当吹っ切れないと作れない場合がある。 そういう原作の場合、その「とんでもない世界」をきちんとドラマにするには、スタッフにもキャストにも、思い切った跳躍が必要。 そうして初めて、そのマンガの世界観が、三次元でも、観る者に違和感なく伝わって来るんだと思う。
夢:うんうん。
翔:田辺さんの面白いところは、その「跳躍」を、「田辺誠一という俳優」としての土台を使わないで、まったくゼロからやってしまう、というところ・・だと思うんだけど。
夢:・・・・というと?
翔:どんな俳優さんも、その人が持っている雰囲気だとか色合いだとか、あるいは性格とか普段の言動とかで、その人のイメージが自然と出来上がっている。 それって、ある意味、その俳優さんの存在証明とも言えるし、俳優としての拠り所(よりどころ)に出来るもの、でもあると思う。
夢:うん。
翔:俳優さんって、普通、そういう「出来上がっている自分のイメージ」を土台に使って、つまり利用して、その上に、役の輪郭を肉付けして行くものだと思うんだよね。
夢:・・・たとえば、「明るくて楽しくて元気」というイメージの俳優さんは、そういう役が回って来やすいし、演じやすい、とか?
翔:そういうこともあるし、逆に、そういう人が暗い役とか重い役をやれば、インパクトがあるし、話題にもなる。 でも、それもまた、その人が持たれている最初のイメージを逆手に取っている、ということで、どっちにしろ、最初のイメージが役に立ってるんだよね。
夢:・・・・ああ・・そうか・・・
翔:田辺さんの場合、そういう土台を最初から取っ払って、ゼロから作り上げている、という感じがする。 だから、どんな役でも、制限がなくて、軽やかで自由な感じがするんじゃないか、と。 ・・・まぁ、それは同時に、徹底的に失敗する、というリスクを背負う、ということにもなるんだけどね。 思い切って自由に飛躍すればするほど、自分の役を破滅させるだけじゃなく、作品自体を破壊してしまう可能性もあるわけだから。
夢:・・・・う~ん・・・・
翔:自分のイメージをかなぐり捨てた上に、それだけのリスクを背負う覚悟があるかどうか・・・ 普通の俳優だったら、とても怖くてそこまでは出来ないと思う。 
でも、この時の田辺さんは、それをやっていたように 私には受け取れた。 もともと独特の浮遊感を持っていた俳優さんではあるんだけど、この『神の雫』では、さらに踏み込んだ・・というか、思い切った役作りをしていた気がした。 もちろん、私の個人的な感じ方でしかないけれど。
夢:・・・・・・・・
翔:正直、まだ2話ぐらいまでは、田辺さんに迷いがあったように見受けられた。 それが、3話あたりで、完全に吹っ切れたような気がしたから。
夢:う~ん・・・でもね、思い切り良過ぎて、賛否両論あったような気もするけど・・・。 田辺さんがあそこまでぶっ飛んだ一青にしなければ、もうちょっと視聴率が取れたんじゃないか、って見る向きもあったわけだし。
翔:まぁ、原作者が、一青はぺ・ヨンジュンさんのイメージ、って言っていたくらいだから、ノーブルな二枚目ライバル、という作り方も出来たとは思うけど・・
夢:そういう一青を田辺さんで観たい、とは思わなかった?
翔:まったく思わなかった、と言ったら嘘になるけど・・・ でも、私は、あそこまで飛んじゃった一青、というのが、観ていて本当に面白かったし楽しかったから。 逆に、ただ綺麗で憂いを含んだかっこいい一青じゃ、原作のあの狂気じみた一面は表現し切れない、とも思ったし。
夢:・・・・・・・・
翔:それでもし田辺さんが「ヘンな俳優」としてレッテルを貼られたら、それはそれで、田辺さんとしては本望だったんじゃないか、と。 だってもともと「ヘンな奴」なんだもん、一青って。(笑)
夢:(笑)確かにね~。
翔:田辺さん自身も言ってたけれど、これはもう、恐れずに怯(ひる)まずに「力技(ちからわざ)」で演じるしかない・・・。一青の背景をほとんど描いてもらっていないにもかかわらず、一青が持つ狂気を含んだ世界観を観る者に納得させるためには、そうするしかなかったんだろうね、田辺さんとしては。 
夢:・・・・・・・・
翔:そういう思い切った力技を使えるのは、さっきも話したように、田辺さんが、「田辺誠一という俳優の土台」を取っ払って演技しようとしているから、だと思う。 今まで俳優として築いて来たもの、自分へのいい評価・評判、そういうものを捨て去っても、与えられた役の本質に迫りたい、という気持ちの方が、彼の中では、きっと上だった。 そのことを、非常に顕著に田辺さんから示してもらえた役だった、と、私個人としては、そう思っているから。・・・まぁ、共感してくれる人がいるかどうかは分からないけれど。(笑)
夢:・・・・(笑)
翔:ひょっとしたら、その判断が間違っていて、もっと違った一青だったら・・『神の雫』だったら・・賞賛を浴びていたかもしれない。 視聴率も もっと取れていたかもしれない。
だけど、だとしても、私は、こういうとんでもない一青を作り上げ、演じ上げてしまった田辺誠一という俳優こそが、本当に好きなんだ、と、密かな誇りと共に、そう言いたい。 
演じている自分自身がどう思われようと・・・笑われようと、謗(そし)られようと、バカにされようと、道化(ピエロ)と言われようと、あの原作の遠峰一青が画面の中で本当に生きている、と、少しでも多くの人にそう思われる役作りをしよう! という、それって、俳優としての、ひとつの「覚悟」の形だった、と私は思っているので。
夢:・・・・・・・・
翔:だからこそ、ラストの、一青のマキへのプロポーズという かなり強引な展開にも、どこか微笑ましい、というか、なるほどね、って、妙に納得出来たんだけどね、私は。(笑)
夢:・・・え、そうなの? あたしは、「なんで いきなり・・!?」って びっくりしたけど。
翔:いや、あのプロポーズと、エピローグのスリーショット、ナオちゃんをあやしている一青・・というのは、ある意味、遠峰一青の着地点としては最高だったように思う。 たぶん、あれが、豊多香が一青に与えたかったものなんじゃないか、という気がするから。 
夢:・・・・・え?
翔:豊多香が、使徒対決の場に一青を引っ張り込んだ最大の理由は、彼に、ワインとは違う、人として血の通った道を見つけて欲しかったから、なんじゃないかって。   
夢:・・・・・あ!
翔:そういう意味では、まぁ、かなり荒業だったとはいえ、脚本はよく頑張って ああいうラストにしてくれたなぁ、と。 もっとも、その荒業に説得力を持たせた、田辺さんと内田さんの役への気持ちの込め方が素晴らしかったから、何とかギリギリで成立したシーンだった、とも言えるんだろうけどね。
夢:う~~・・ん・・・・・・・・・・・ 面白い!(笑)
翔:(笑)
夢:あたしなんか、あいかわらず、スーツ姿がかっこいい!とか、髪型似合う!とか、メガネ素敵!とか、ミーハーなところで喜んでばかりいたけどな~。(笑)
翔:・・あ、いや、それは私も喜んだよ! 一青としてのビジュアルだけでも見所が多かったのに、ひとりで苦悩するシーンとか、使徒対決での亀梨くんとのやりとりとか、「これぞ田辺誠一!」って言いたいぐらい、萌え表情のオンパレードだったから。(笑)
夢:うんうん。
翔:このシーンで こんな表情するの!?っていうぐらい、田辺・一青は自由で、制限がなくて、もう本当に驚きの連続で、心が揺さぶられっぱなしだった。
 階段落ちの、あの、マキを恨んだり憎んだりすらしていない、何の意味も含まない眼とか、第六の使徒を見つけ出した時の、孤独の淵に佇(たたず)んだような哀しげな笑みとか、「待っていたよ雫くん」とか、「聞かずとも解かります」とか・・・いや、ただ立っているだけだって、階段を上がって行くだけだって、目の前でライトを点けたり消したりするだけだって、そこにいる田辺誠一プレゼンツの一青は、本当に、強引で繊細で・・説得力があって・・ こんな役の作り方があるのか、という驚きの連続だったんだよね、私にとっては。
夢:・・・・・ああ・・そうか、そういうことか。 ・・・うん・・ようやくちゃんと分かった気がする、何で翔がそれほどまでに遠峰一青に惹かれたのか。
翔:そう?
夢:うん。 ・・・そうか、そうだよね~、遠峰一青みたいなとんでもない役にすっぽり収まって、しかも、ビジュアルから表情から仕草から見所満載、という・・ そんな幸せな気分を、40歳目前の俳優さんから味わわせてもらえるなんて・・なんてあたしたちは幸せなのかしら、ファンになって本当に良かったわ! ・・・と思うよね~やっぱり。(笑)
翔:そうそう!・・・・言いたいこと全部言ってくれてありがとう。(笑)
夢:いえいえ・・(笑)
翔:しかも、このすぐ後に『空飛ぶタイヤ』が控えているからね、この人の順応力というのは、本当に、もう、とてつもないと思うわ。
夢:よし!すぐ行こう、『空飛ぶタイヤ』に!(笑)