『少しは、恩返しができたかな』感想

少しは、恩返しができたかな』感想

3月に放映されたドラマです。今さらですが、感想を。
(前半3分の1を観逃しているので、偏った感想になってしまっている
かもしれません。ご容赦)


ユーイング肉腫と診断された高校生が、病気と闘いながら、
東大進学を目指して猛勉強し、見事合格し、1日だけ通った後、
死を迎えるまでの物語。
主人公の和憲には二宮和也くん。両親に村田雄浩さん・大竹しのぶさん。
兄に高橋一生くん。


実は、私にとっては苦手な闘病もの、ということで、
ちょっと尻込みしてたところがありました。
以前、奥山貴宏さん(33歳の若さでガンで亡くなったフリーライター
の死までを追ったドキュメンタリーを観ていて、
「本人だけにしか伝えることが出来ない‘リアル’」という
圧倒的な力の前には、
たとえば病気を扱ったドラマなど、所詮「偽物(にせもの)」でしかないのだ
ということを思い知らされた気がした、というようなこともあって。


このドラマは、実話をもとに作られたものだそうですが、
たとえ実話をもとに作られたものであっても、「ドラマ」である限りは、
実際にご本人が経験した苦しみ、痛み、希望、絶望、等々を、
そっくりそのまま伝えることは不可能なのですよね。
たとえば、どれほどの名俳優が、どれほどの想像力を駆使しても、
「死を迎え入れなければならない人間の境地」を、
‘自分自身のもの’としてリアルに理解することは出来ない。
しかし、それでも、演じている俳優は、自分の持てるものすべてを使って、
何とかしてその病気を理解し、病気になった人の苦しみを理解し、
少しでも「自分が演じる相手のリアル」に近づこうとする。
「演じる」ことの意味を、自分に突きつけながら。


2時間のあいだに、どんどん痩せて透明になって行く二宮くんを観ながら、
この人は、こういうやり方で「病気」という「リアル」に
向かって行ったんだ‥
こんなふうに、身体を張って立ち向かわなければ、
「北原和憲の死」を演じることはかなわない、と思ったんだ‥
と、胸に迫るものがありました。
自分の演技では演じきれない部分を、文字通り「身を削って」表現する――
それが最善の方法なのかどうかは別にして、
そうすることによって間違いなく伝わった
「ドラマの中の北原和憲のリアル」は、
脚本や、演出や、他の演じ手による「虚構のドラマの弱さ」を、
逆に、はっきりと浮き彫りにしてしまったのではないか、
と、私には、そんなふうにさえ思えました。


これは、まったくの私の個人的な感覚なのですが、
和憲を取り巻く人たちの、悲しむ様子や、うろたえる様子を観るたびに、
その「作られたウエットな部分」に、
どうしても、制作側の、視聴者を泣かせようとする意図、
のようなものを感じてしまって、
ひねくれ者の私は、素直な気持ちで感情移入することが出来なかった。
極力、そういう部分を抑えよう、抑制を効かせよう、
とはしていたのだろうけれど、
少なくとも、私が観た後半では、
病気が持つ鋭利で残酷な部分を描かないまま、
遠慮がちに、優しさと哀しみだけがリフレインされている感じがして、
それももちろん大切な部分ではあるけれど、
何か肝心なものを描き切っていないのじゃないか、
という思いが拭えませんでした。
せっかくこれだけ実力派のメンバーを揃えたのだから、
この出演者たちに、お涙頂戴でない ドライな脚本や演出を施していたら、
「身近な人間の死」を受け入れなければならない辛さや哀しみを、
よりストレートに、よりリアルに近い形で、
観ている側にしっかりと伝えることが出来たのではないか、と。


私としては、それが最も強く感じられたのが、和憲の母親でした。
大竹さん演じる母親は、あまりにウエットで優し過ぎる感じがして、
大竹さんの抑制の効いた演技は素晴らしいと思ったけれど、
一方で、もっと複雑で細やかな母親像を求めても、
彼女なら演じ切れるのに、という、もどかしさも感じました。

もちろん、これらのことは、私個人の好みの問題、が、
大きく影響しているだけ、と言えるのではあるのですが。

   **

このドラマで、私が惹かれた俳優さん。
和憲を演じた二宮くんと、兄を演じた高橋一生くんと、
友人役の勝地涼くん。


二宮和也くん。
役に対して、余計な足し算も引き算もしない、
すごくフラットな俳優だな、と、
南くんの恋人』の時におぼろげに感じたことを、
改めて確認させてもらったような気がします。
すごく真摯だし、実力もあるし、
等身大の役に関しては、何の心配もなく観ていられる。
でもね、へそ曲がりな私は、
では、等身大からはみ出た役に関してはどうか、
たとえば、いかにも嘘っぽい ちゃらんぽらん な役を、
ちゃらんぽらん に演じることが出来るのかどうか、
彼の優等生的な部分をぶち壊した時に、彼の内面から何が現れるか、
それを観てみたい!と、そんなふうにも思ってしまうのです。


高橋一生くん。
実は『相棒』というTVドラマにゲスト出演していた時に偶然観ていて、
すごく興味を持った俳優さん。
現実離れしたところのある役だったのですが、役に対する説得力があって、
強引に納得させられてしまったような感じがして。
今回のお兄さん役もそうですが、
役に飛び込んで行く、その飛び込み方に、
迷いや躊躇がない感じがしました。
(『半落ち』にも出ていたのですね、ドナーの提供を受けた少年役で)
彼が、今後どういう役を得て行くか、というのも、
二宮くんとは違った意味で、また、非常に楽しみです。


勝地涼くん。
もともと好きな俳優さんなのですが、
いつ観ても、この人の「真っすぐ」な感じは、とても心地良いです。
しばらくは、この風情を武器にして突っ走って欲しい。
いろんなものを吸収するのは大事だけど、少なくとも、まだしばらくは、
変に、イロモノに走らないようにして欲しいなぁ。(笑)



                                Thanks to s