『フリック』感想:2

 ≪そして、真相は永遠に闇の中へ≫〜DVD2回目の鑑賞〜

1度目の鑑賞を終えた後、本当に、これが、
「たくさんの過去と未来の真実を背負って生きる男の妄想が
解放されるまでの物語」だけの映画なのだろうか、と、考えた。

『フリック』――「刑事」という意味のこの言葉を、
なぜタイトルにしたのか、も、疑問だった。

村田が妄想から解放される(あるいはそれもまた妄想のうち)
という映画ならば、
彼が刑事でなければならない理由があるのだろうか。

そうして、もう一度映画を観直して―――

「村田の妄想」という深い闇の中に隠された、
「村田の刑事としての推理」という部分に思い至って――愕然とする。
滑川(田辺誠一)が、最後に、携帯を切った後に見せる
「あの表情」に出会って――戦慄する。

 

苫小牧、という地で。
ひとつの猟奇殺人事件を追ううち、村田は、
次第に、その事件と、自分の妻が殺された事件とを混濁して行く。
そして、勝手に湧き上がり何度も繰り返される妄想に翻弄されるにつれて、
ぎりぎり彼を「刑事」として繋ぎ止めていた「妻殺しの真犯人探し」
の推理さえも、混濁した妄想の奥深くに塗り込めてしまうことになる。

すべてを「妄想だった」と思うこと、
刑事としての「推理」さえもすべて・・・・
それは、かつては有能だった村田刑事が、
押し寄せる「妄想」に屈して、「刑事」を捨て去った瞬間、でもあった。

 

「美味いとは言えない」
「すぐに慣れるわ。慣れて、美味しいと思うようになる」
すぐに慣れるわ――推理を捨て、刑事を捨てて生きることに。

村田は、穏やかに微笑する。
刑事であることを放棄し、推理、という真実の追求を放棄することで、
彼はようやく解放されたのだ、「妻の死」の痛みから。

そうして―――村田明子殺しの真相は、永遠に闇に葬られる、
楠田美和子の事件と同じように。

  *

職場放棄し、
妻の殺されたマンションで、ひたすらその死の痛みと向き合い、
妄想とも取れる推理の只中に、自分の身を置いていた村田。

風鈴の音。カーテンの向こうの影。
涙を拭ってくれた指。心配してくれる気持ち。
―――何が本当で、何が嘘なのか。

「おまえ、あの時現場に居たろう?」
「俺、訊いたんだよ、その人というのは誰なのか、と」
村田は気づいている。だけど、追求はしない。

真綿のように息苦しい半年から、何とかして解放されたかったのは、
実は、滑川のほうだったのかもしれない。
村田を妄想の闇から解き放ち、
二度と真相を探る気にさせないようにしたのは、
実は・・・・

 

そう思い至った時、私の「空想」は、
この映画を、まったく違った色合いに染めてしまっていた。