『ドルチェ』(ドラマ)感想

『ドルチェ』(ドラマ)感想
ミステリードラマなら、
誰が、何のために、どうやって殺したのか、ということが
大事なポイントになるはずなのだけれど、
この作品では、その部分は、
あまり重要なこととして扱われていないように思われました。
そのせいか、事件そのもの(殺害方法や死体の処理など)については
ツッコミどころも多くて物足りないのですが、
仕掛けられた謎の部分(子供への虐待と愛情の不自然な混在)や、
無関係と見られたいくつかの事件が絡(から)まり、繋がり、
やがて解(ほど)けて行く流れについては、
2時間という時間の中に、無理なく、無駄なく、緩みなく、
心地良い適度なリズム感で収まっていたし、
人物の描き方が軽々しいものでなく、
観る側を無理に泣かせようとするような安直な場面もなかったので、
(殺人事件が絡んでいるにもかかわらず)
私としては、滑らかな心持ちで観ることが出来た気がします。


事件の当事者については、
2時間ドラマの類型的な設定ではありましたが、
内山理名さん、星由利子さん、ミスターちんさんが、
一種おとぎ話のような物語の中にうまく息づいていると思いました。


特に、ミスターちんさんの役は、説得力を持たせることが難しく、
実際、最初の病室のシーンでは、
母親役の星さんとどうしても親子に見えなくて、
かなり違和感があったのですが、
その後、場面場面で彼が置かれた状況を考えながら観て行った時に、
(妻の失踪、母親への疑い、子供を世話してくれる知美の存在等)
自分の気持ちに蓋をして母親と知美の幻想につきあっていたとすれば、
たとえば、普通のスーツを着たサラリーマンでは、
そういう設定には馴染まないだろう、
作業服着たミスターちんさんで正解なんだろうな、
と思うようになりました。


内山さんは、取調室での松下由樹さんとのやりとりがとても良かった。
知美の心を覆う硬い殻が、魚住によって少しずつ溶かされて行き、
本来の姿を見せるようになる、
その時流した涙が、観ているこちらの胸にちゃんと響いて、
この物語に、おとぎ話としてのピリオドを打ってくれたような気がしました。



刑事たちについて。


同じ誉田哲也さん原作の『ストロベリーナイト』でも思ったことですが、
今回も、事件の謎解きに挑む主人公や周辺の刑事たちの
性格や背景の描き方に惹かれました。
脚本や演出の表現方法にもよるのだろうけれど、
『ストロベリー・・』が、全体にくっきりと鮮やかで鋭くて、
キリキリと痛みを感じるほどだったのに比べると、
この『ドルチェ』は、ずっとやわらかくて、優しくて、あたたかくて、
刑事ひとりひとりが無理をしていない感じがして、
2作品の、まったく違った味わいが、私にはとても興味深かったです。


主人公・魚住久江は、
特に女性への接し方に独特のぬくもりと包容力があり、
一方で、刑事として真相を追い詰めて行く時には、
女性特有の視点とともに、一級の鋭敏な推理感覚も備わっている、
それが、無理なく彼女の中に混在している、というところを、
松下由樹さんが、ドンピシャのはまり役として演じていて、魅力的でした。


練馬北署の刑事たち。
戸次重幸さん演じる原口は、警視庁捜査一課に憧れを抱いていて、
本庁の金本(田辺誠一)が魚住の能力を認めていることに
嫉妬めいた感情があって、そこが可愛らしかったw。
ベンガルさん、菅田俊さんは、ちゃんと仕事しつつも前に出過ぎることがなく
所轄刑事のちょっとのどかな雰囲気がいい感じに出ていました。
馬場徹さんのポジションに
ジャニーズ系を入れることも出来たと思うんですが、
あえて、癖がなくて素直でごく普通な風情の彼にしたのも、
納得出来る気がしました。


管理官役の西岡徳馬さんは、
こういう物分かりのいい上司をやるのはめずらしいと思うんですがw
あいかわらず渋くて、かっこいい。


こうしてみると、
刑事の中に、いい加減な奴とか憎たらしい奴がいないですね。
誉田さんが、そもそも原作を 警察全体への愛情を持って書いたから、
という気もします。


さて、警視庁捜査一課の金本を演じた田辺誠一さん。
今まで、数々の刑事役をやって来た人だけど、
私、この金本が、今まで観た(田辺さんが演じた)刑事の中で
一番好きかもしれない。


ふわんとウエーブのかかった長めの髪と、緩めた細めのネクタイ・・
久々に何度かリピして観たほど ビジュアル的に私好みだった
というのも大きかったけれど、
(首筋フェチとしては十分堪能w でもちょっと痩せ過ぎなのが気になった)
何と言っても、しょっぱな、金本初登場の場面で、
松下さん演じる魚住とのやりとりを さらりとやってのける田辺さんを観て、
即、金本という人間が好きになってしまったから。
あの場面で、ふたりの性格や立場や関係が、
非常に魅力的なものとして、しかも対等に描かれているのを観た時に、
何だかすごくホッとしたし、とても嬉しかった、
「主人公刑事の対(つい)となる相棒」というポジションに、
今度こそやっと本当に辿り着いてくれた気がして。


所轄の意見を汲んでくれる本庁一課の主任。
(警部補だから、特に昇進が早いというわけではない)
15年ローンを組んで家を買い、
奥さんに「家で吸わないで」と言われた、と、
魚住に貰ったタバコをポケットにしまい込んで・・
でも、きっと、彼は奥さんをとても愛しているんだろうな、と、
そんなことを自然に想像したくなるような、風情で。


魚住との関係に、妙な甘さを差し挟まない、
(過去に何かあったとしても、もうお互いに引きずっていない)
サバサバした関係なのもいい。
魚住の刑事としての力量に惚れ、才能ある彼女を自分の傍に置きたい、
(一緒に仕事がしたい)という、立場上の思いもあって、
何とか説得しようと、事あるごとに魚住にアタックしているのもいい。
刑事としての俊敏な動きを見せる場面があったり、
所轄の刑事の意見を拾ってくれたり、時には盾になってくれたり、
とにかく、立場に見合った仕事をしっかりやっているのが伝わって来る・・


そういう金本という人間を、田辺さんは、
見た目も、思考も、行動も、
やりすぎてはみだすこともなく、物足りないところもなく、
役にしっくり収まって演じていて、
観る側をすんなりと納得させてくれた気がします。
(そのあたりは、松下さんにも感じたことです)


    そういう心地良い「役への収まり方」をしたのは、
    最近では、森下(@37歳で医者になった僕)あたり。
    (あくまで翔的感覚です)
    あの役も、すごく説得力があって好きだったんだけど、
    1シーン、どうしても納得の行かないところがあって、
    金本ほど全面的に惚れ込むことが出来なかったのが残念・・
    ・・・という余談はさておき。


演出は大谷健太郎さん。
約三十の嘘』『NANA2』『ジーン・ワルツ』『ランウェイ☆ビート』と、
田辺さんとはすでに4本の映画で一緒に仕事をしている、
俳優・田辺誠一の魅力を熟知していると思われる監督さん。


映画監督、ということもあって、
このドラマにも、やはり映画的な雰囲気がありました。
たぶん、あえて、だと思うのだけれど、映像をシャープにしないで、
柔らかい紗(しゃ)が掛かったようなタッチにし、
少し赤みを帯びた色合いにして、
全体的にソフトで優しい仕上がりにしていて、
それが、『ドルチェ』(イタリア語でスイーツの意味)というタイトルにも、
魚住(=松下由樹)や金本(=田辺誠一)のキャラにも、
合っていたような気がします。


そう、このドラマに、キチッカチッとした刑事は必要なかった。
だから、金本も、あの髪型で正解だったんですね、きっと。


他にも、背景にさりげなくひまわりを使ったり、
タバコや名刺等の小道具使い方なども気が利いていたり、
全体的な雰囲気作りに長けた大谷監督らしいな、と思いました。


まぁ、そういう作り方をする監督だから、
「殺人事件」という殺伐とした部分にも紗が掛かってしまって、
ヒリヒリした切迫したものが伝わって来なかった、と言えなくもないですが、
事件よりも、その周辺の人間をやわらかいタッチで優しく描く、
そういうミステリードラマがあってもいい、とも思うので、
せっかく、これだけ魅力的な相棒(魚住×金本)と
これだけ優しくてやわらかな「ドルチェワールド」を作り出したのだから、
ぜひ、このメンバーで続編をお願いしたいです。


そして、その時は、田辺さんに もうちょっと太っていてほしい、
たぶん、色っぽさが2割増しになると思うので。w


金曜プレステージ『ドルチェ』 10/12 21:00- (フジテレビ系)
出演/松下由樹 内山理名 星由里子 
    戸次重幸 馬場徹 菅田俊 
    ベンガル 西岡徳馬 田辺誠一 他

原作/『ドルチェ』(誉田哲也/新潮社)
脚本/松本美弥子
監督/大谷健太郎