『撃てない警官』(第1話=敗走)感想

『撃てない警官』(第1話=敗走)感想 【ネタバレあり】

ネタバレ注意!これからドラマをご覧になる方はご注意下さい。

今まで数多く作られて来た“刑事”ドラマとは一線を画す、
辛味の効いた“警官”ドラマ。
主人公・柴崎令司(田辺誠一)は警視庁勤務、
しかし、刑事(刑事課)ではなく事務畑(総務部企画課)の警官で、
一度も犯人を捕まえたことがない、
キャリアになって ひたすら出世だけを願って来た男。

警視庁(警察)に勤めている人が
全員 刑事(直接犯人を捕まえる人間)なわけではない
というのは頭では分かっていたんですが、
警察事情に詳しくない(というかほとんど無知)人間なので、
捜査を経験したことがなくても偉くなれる、という事実に、
ちょっと驚いてしまいました。
 (そう言えば、『TEAM』の時、ノンキャリアの人間が刑事課長になるんだ、って教えてもらったっけ)

いずれにせよ、そんな(総務部の)柴崎が主人公なので、
刑事ドラマの醍醐味と言える
事件の真相を探り当てるためにあれこれ推理を巡らすとか、
事件自体の奥深さとか味わいとか、犯人との心理戦とか、
その犯人を追い詰めて説得するとか、あるいは派手に立ち回るとか、
そういったシーンは(少なくとも初回では)ほとんど皆無。
うーん、それで面白いドラマになるの?と多少疑いの目で観始まったら、
まぁこれが面白くて1時間があっという間でした。

まず、柴崎という男が、取り立てて正義感の強い人間でないところが
非常に興味深かった。
「警察という就職先」で出世を願う、というのは、
普通の会社のサラリーマンと変わらない感覚なのかもしれない。
柴崎には、警官として高みの地位を目指すと同時に
家族を養っていく夫・父親としての姿が自然な形で混在していて、
そのバランスがとても滑(なめ)らかで良かったし、
仕事も家庭も両肩に背負って生きている普通の人間である彼に、
何だかすごく親近感が湧きました。

今回、1本の電話を引き金に左遷の憂き目に遭(あ)った彼が、
どうやって中田(石黒賢)の弱みを握り本庁への復帰を目指すのか、
一方で 現場を経験したことも犯人を捕まえたこともない彼が、
所轄でどういった動きを見せるのか、
さらに、子供のいじめ等 家族とその周囲の問題も浮上して来そうで、
次回も密な内容になること間違いなさそう。
久しぶりに次の回が楽しみな歯ごたえのある連続ドラマに出会えたのが
とても嬉しいです。


キャストについて。
渋めの配役設定がそれぞれ非常に魅力的でした。
中でも私が一番惹かれたのは、柴崎の義理の父・山路(山本學)。
いやいや、この人はタダもんじゃない、どこかダークな部分を持っていて、
清廉潔白なだけの人間とは一味も二味も違っている。
そんな彼が、柴崎にどんなアドバイスをし、どんな手助けをするのか、
また逆に この人自身に穴はないのか、というのも興味深いところ。
山本さんがこういう色味の役をやるのは珍しいと思うのですが、
枯れた風情の中にヒューマンな部分をあまり入れ込まない
(孫には優しいのに)というところが、すごく新鮮な感じがしました。

柴崎の上司で総務課長の中田(石黒賢)。
今回、柴崎が左遷させられる事件に直接関与していなかったのが
私には驚きだったのですが、
(てっきり 中田が柴崎に電話したのに しなかったと嘘を言った と思った)
でもまぁ何かしら裏で関(かか)わっていたのは間違いないようで、
柴崎に電話をして木戸の自殺を画策した石岡(高橋和也)をはさんだ
中田と柴崎の腹の探り合いと駆け引きも、
今後の見どころとなってきそう。
こういうところに石黒さんやら高橋さんやらがキャスティング
されているのが嬉しい。

柴崎の妻・雪乃(中越典子)。
もと警官ではあるけれど、今はもうすっかり妻・母の顔になっていて、
いちいち柴崎にライン送って来て、
上司との話し中に柴崎の胸ポケットのスマホが光るシーンでは、
仕事中に送るなよぉ、と ついハラハラ。
でも、きっとこの人には芯の強さが備わっている、
だからこの先の苦難にもきっと立ち向かっていける、
そんな凛とした風情が中越さんには備わっている気がしました。

柴崎の一人息子・克己(加部亜門)。
まぁここはよくあるいじめの構図なのかな、
官舎に生活する上で上司の子には逆らえない、ってことなのかな、
と思ったら、終盤の不可解な行動。
えっなんで?とすごく気になっちゃいました。
今後の亜門くんの演技に期待。

主人公・柴崎令司(田辺誠一)。
田辺さんが主人公を演じたドラマや映画は何本かあるのですが、
主人公として突出した立場にあるものはほとんどなく、
他の登場人物たちとのアンサンブルで全体の空気感を作って行く、
というのが、言わば 主役としての田辺スタイル。
しかし今回は、すべてが柴崎に通ず、俺が主人公だ文句あっか、
という ど真ん中キャラなので、
そういう役をどう消化して魅せてくれるのか、というのは、
ファンとしてはとても楽しみです。
けっしてかっこよくはなく、
主役としては正の魅力があまり感じられない役なのですが、
だからこそ田辺誠一が演じる意味もある、
等身大の警官を、夫を、父親を、自然にリアルに演じてくれるに違いない、
その自然でリアルな中に、
正と負が混じり合った柴崎の妙味(公式サイトトップの表情のごとく)が
徐々に息づいて来るに違いないし、
おそらくこれはある意味 柴崎の成長譚(人間としても警官としても)
でもあると思うので、
今後そのあたりを存分に味わわせてもらえることも
期待したいところです。


『撃てない警官』(第1話=敗走)     
放送日時:2016年1月10日(日) 22:00-(WOWOW
原作:安東能明 脚本:安倍照雄 監督:長崎俊一 音楽:大友良英
制作:WOWOW オフィスシロウズ
キャスト:田辺誠一 石黒賢 中越典子 高橋和也 加部亜門
嶋田久作 山本學 他
公式サイト