きみはペット(talk)

2003・4-6月放送 (TBS系)
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

  夢:ついに来たね、翔が「ツッコミどころ満載」と言ってた『きみはペット』。(笑)
  翔:・・・いや・・・何だか、もういいか、という気分になってしまって・・・・
  夢:・・・・え?
  翔:このトークのために、もう一度最初から全部観直したんだけど、特に後半の蓮實(を演じてる田辺さん)を観ていたら、ものすごく惹(ひ)かれてしまって。
  ストーリー展開とか、原作(マンガ)とのキャラの違いとか、言いたかったことはたくさんあったはずなのに、そういうの、みんな押し流されてしまった、というか。 あそこで田辺さんが演じてみせたものに、力づくで納得させられてしまった、というか。 私は、蓮實をあんなふうに演じる田辺さんだからファンになったんだなぁ、って、改めて悟らされた、というか。(笑)
  夢:う~ん・・・でも翔、リアルタイムでこのドラマ観てた時には、そこまで田辺・蓮實に心酔してなかったような気がするけど。
  翔:あの時は、私はまだ「原作の蓮實」の呪縛から抜けられなかったから。 マンガの蓮實って、私にとって、ものすごく魅力的なキャラだったし、それを田辺さんが演じる、ということで、とても期待していた、ということもあるし。
  夢:うんうん。
翔:いや、それよりも何よりも、『きみはペット』というマンガが好きで、そこに描かれている世界も、とても好きだった、というのが前提としてあるんだけど。
(注:以下のトークには、原作『きみはペット』連載終盤の展開は含まれていません)
  夢:マンガでは、蓮實がスミレを好きだってことはもちろん、スミレも蓮實のことをちゃんと好きだよね。 あたしは、TVで決定的に足りなかったのは、そこの部分だと思うんだけど。
  翔:そうだね。 私がマンガで好きなのも、実はそのあたりだったりするんだけど。 でも、今回観直して、ドラマのスミレは、蓮實を原作(マンガ)ほど好きじゃなかった、結局、蓮實は脇役でしかなかった、というのを、改めて思い知らされたから。
  夢:最初から、みんなそう思ってたじゃない。 翔だけが往生際が悪かった。(笑)
  翔:(苦笑) 私は、スミレの不器用さ、というのがとても好きだった。 高学歴・高収入・高身長と三拍子揃った彼女が、本当の自分をさらけ出すことにものすごく臆病になったり、悩んだり、戸惑ったりしている、それって、ものすごくリアルな感じがしたから。
  そこにモモが絡んで来ることで、モモの力で、スミレが、自分の気持ちを素直に蓮實にぶつけられるようになる、自然に蓮實と愛し合えるようになる――マンガの終着点は、そこにある、と信じ込んでいたから。
  夢:うん。
  翔:マンガの蓮實は、ドラマのように、スミレの表面しか見ていないわけじゃない。 ・・・いや、ドラマの蓮實だって、スミレの本質を何とか掴まえようと努力はしている。 だけど、結局は「努力する」というレベルでしかない。
  マンガの蓮實だって、スミレの本質を掴まえきれてない、というのはあるし、そのことで悩んだりもするんだけど、それを「努力」で埋めようとはしていない気がする。 「スミレが好きだ」という強い気持ちで、すべてを埋めようとしている、というか。 その辺の力強い愛し方、揺らがない愛し方、というのが、ドラマでは、脇に回って弱まってしまったことが、私としてはすごく残念だった。
  夢:うーん、そうか・・・
  翔:一方、モモについては、マンガを読んだ時、モモをスミレのペットという立場にしている、ということの意味が、ちゃんとあるんじゃないか、と思った。 恋人でも、ヒモでも、弟でもない、ペットであることの意味、というか、意義が。
  夢:うん。
  翔:一緒に暮らして行くうちに、スミレがモモを人間として認知するようになり、男として認知するようになり、それでも、恋人になるわけではなくて、あくまでペットでいる、ということに、私は、このマンガの最大の魅力がある、と思っていたから。 
  安直に、一緒に暮らしているうちに情が移ってセックスして恋人になって、などという展開になるより、魅力的な男として存在しながら、最後まで「恋人」に行きつかない、その危うい、だけど強い繋がりを持ったスミレとモモでいて欲しかったから。
  夢:・・・・・・・・
  翔:そして蓮實は、そういうふたりの関係に、きちんと疑いを持ち、きちんと嫉妬し、きちんと傷つき、けれども最終的に、モモとは違った形でスミレを深く愛し、それゆえに、ふたりの関係に理解を示す、そういう男であって欲しかったし。
  夢:・・・・・・・・
  翔:そんなふうに、勝手にストーリーを展開させて、自分の気持ちいいようにお話を作ってしまった、というのが、最大の落とし穴だったような気もするけど。
  夢:落とし穴・・?
  翔:スミレとモモと蓮實の関係が、最終的にどうなって欲しいのか、という明確な答えを、事前に出してしまっていた、そうなるものだと確信していた、だから、そこから離れて行くストーリー展開に、どんどん違和感が募ってしまった。
  夢:ん~~そうか。
  翔:その想いは、実は、マンガよりTVの方が数倍強かった。 蓮實を田辺さんが演じているから、なおさら「こういう蓮實が観たい!」という気持ちが何倍にも強まってしまって、自分好みの蓮實のディテールを勝手に作ってしまっていた程だったから。 最終回、みごとにその読みが外れた時は、本当にショックで・・・
  夢:「ばかぁ」って捨てゼリフ残して、京の河原に石投げに行っちゃった?(笑)
  翔:(苦笑)
  夢:まぁ、気持ちは分からなくはないけど。
  翔:好きだったんだよね、マンガの蓮實が。 スケール大きいかと思えば天然で、仕事に一生懸命で、キスやセックスがうまくて、誰にでも優しいから誤解されて、でも、スミレを好きな気持ちはものすごくピュアで一途で。
  田辺さんが蓮實をやると知ってマンガを読んだ時、蓮實という人間が、今までの田辺さんの柄じゃない、繊細だったり弱かったり、だけじゃ絶対に演じ切れない、ちょっと骨太の、かっこいい、でも、痛みも辛さもちゃんと身に堪(こた)えるきめ細かさを持った人物だ、と感じられて、ものすごく嬉しかった。 そういう役が田辺さんに与えられた、ということに、すごく感激もしたし。 
  夢:うんうん。
  翔:それだけではなくて・・・。 スミレとモモが、ペットと飼い主という関係である、ということを、最終的に蓮實が許せるかどうか、というのが、「私が勝手に作ったストーリー」にはとても重要なんだけれど、私は、ドラマの蓮實を田辺さんが演じたら、そういう二人の関係をちゃんと許せるおおらかさと天然さと豊かさを、他のどんな俳優さんよりもうまく表現出来るんじゃないか、と信じていたから。 
  夢:・・・・・・・・
  翔:ドラマ『きみはペット』のスタッフが、田辺さんに蓮實をやらせたのは、そこに着地点を見出そうとしているからだ、と私が誤解するのも、しょうがないんじゃないか、と・・・自己弁護だけど。(笑)
  夢:(笑) ん~そうか、翔としては、「翔が勝手に作った『きみはペット』というドラマの蓮實」は、田辺誠一という俳優がベストだったわけだ。
  翔:・・というか、俳優としてかなり背伸びしなければいけない部分もあり、ベストマッチな部分もあり、そういうのを全部含めて、蓮實は、あの時まさに「田辺誠一にやらせたい役」だった。
  あの役を、田辺さんが、私が思い描くように演じてくれたら、田辺さんは、さらに高く跳ぶことが出来るんじゃないか、と、そんなふうにも思っていたし。
  夢:あいかわらず生意気な言い方だ。(笑)
  翔:・・・ほんとに。(笑)
  夢:まぁ、常に田辺さんにムチ打ってる翔らしい、と言えば、らしいけど。(笑)
  翔:・・・・・・・(苦笑)
  夢:で、翔にとっては非常に後味の悪い最終回になってしまったわけだけど・・・
  翔:蓮實(=田辺さん)がどうこう、という前に、ストーリー展開としてどうなの?これでいいの?という思いがかなり強かった、あの時は。
  夢:うんうん。
  翔:途中まで、完璧に私の想像どおりの展開だったから。 スミレがきちんと蓮實を好きじゃないんじゃないか、というのも、福島さんのことがあって、臆病な彼女が自分の気持ちにブレーキを掛けているだけなんだ、と見えないことはなかったし・・・
  夢:うん。
  翔:モモが、いったん「男」としてスミレの前に立って、そして離れて、だけど戻って来て、あのマンションの塀の隅で膝を抱えて座っていて・・・そんなモモに、スミレが手を差し延べた時、彼は確かに、「この手を取ったら、また飼い主とペットとしての生活に戻るんだ」と覚悟している、そうして、その手を取ったわけだから。 なのに・・・・
  夢:お姫様と犬の話になっちゃうし、セックスはしちゃうし・・ねぇ・・・
  翔:あれで一気に、二人の関係に胸がキュンと来るような切ないところがなくなって、味気なくなってしまったからね。
  夢:ほんとにね。 ――ちょっと訊いてみたいんだけど。
  翔:・・・・・ん?
  夢:まぁ原作は別として、ドラマの終わり方って、翔としては、どういうのが理想だったの?
  翔:実は、私も、ドラマと同じように、モラトリアム(猶予期間)の終焉を延ばす、という考え方をしていた。 だけど、それなら、当然そこに蓮實も入って来なければいけない、とも思っていて。
  夢:・・・・・・・・
  翔:最終的には、蓮實がモモをスミレのペットとして認め、許す・・・ 蓮實とモモが、どこかライバル心を持ちながらも、お互いを認め好きになっていく・・・
  夢:・・・うん・・・・
  翔:リビングで、蓮實とスミレのあいだにちょこんと座っているモモ・・・
   あるいは、留学を終えて帰国したモモを迎える蓮實とスミレ、そのふたりの腕を取ってぶらさがるように歩き始めるモモ・・・
   ・・・なんていうような フィナーレを信じていたわけなんだけど。
  夢:なるほどね。
  翔:さっきも言ったけど、モモって「ペット」だからこそ魅力的だった。そこを最後まで生かして欲しかった、と、かえすがえす残念に思う。
  夢:うんうん。
  翔:でもまぁ、スミレとモモが、お互いを異性としてものすごく好きになってしまって、どうしようもなくなった、というのなら、それはそれで仕方ないか、と。 「私的『きみはペット』の美学」からは外れるけれど。
  ところが、二人を「恋人」という明確な形にする、というのならまだしも、何だかよく分からないあやふやな関係にしてしまった、というのが、とても許せなかったし。
  夢:蓮實をあれほど傷つけておいて、何だかよく分からない関係、って何だよ!と思ったものね。
  翔:スミレとモモの関係を、新しい形、と呼ぶのなら、その完成形がどんなものなのか、の、きちんとした提示が欲しかった。 それが魅力的なものであったなら、私としても、多くの田辺ファンの気持ちとしても、少しは納得が行った、と思うんだけど。
  夢:そうそう!
  翔:・・・ただ・・・それはそれとして、今回観直して、「蓮實さんが女性のペットを飼ってたら嫌でしょ」という福島さん(酒井若菜)の言葉に、改めてものすごく納得してしまった自分がいるのも事実で。
  夢:・・・・・・・・
  翔:もし私がスミレで、蓮實をとても愛していたら、彼が女性のペットを飼っている、と知ったら、とても平静ではいられないし、それを乗り越えて行く(私が蓮實に求めたように)ことも出来ないんじゃないか、と。 「イヤだ!」と思ったら、背筋がゾワゾワして・・・理屈じゃなく。 
  夢:・・・・・・・・
  翔:それに、さっきも言ったけど、TVの蓮實は、マンガの蓮實ほど揺らがない愛し方をしているわけじゃないんだ、ということに気づいた時、やはり、少なくともTVドラマとしては、私が望んだ着地点に辿り着くことが出来なかったのは、仕方のないことだったのかな、と。  
  夢:・・・・うーん・・・・・
  翔:あくまでスミレの気持ちを中心に考えると、あの時点で彼女に一番必要だったのは、ライナスの毛布だった、ということなんだろうな。
  夢:・・・と、納得してるの?
  翔:・・・・・・・・うーーん・・・(苦笑)
★    ★    ★
  夢:まぁ、その辺のことを考えてると、いつまでも抜け出せないので・・・(笑) 今度は、ドラマのキャストについて、ちょっと話してみたいんだけど。
  翔:私としては、ほぼベストメンバーだったかな。 まず、スミレ役の小雪さんが、まさに嵌(は)まり役だったし。
  夢:うんうん。イメージとして、すごく硬い感じがしてたんだけど、そういうこちら側の観方を、どんどん壊して行ってくれたよね。
  翔:最初の頃の、不器用なスミレが特に好きだった。 上司を殴って、配属替えになって、着ぐるみ着せられてジタバタしているスミレが。 なまじ三高でプライドがあるだけに、みんなには煙たがられているし、可愛げはないし・・・(笑)
  夢:うん。(笑)
  翔:普通だったら脇役・敵役タイプなんだろうけど、でも、何でも持っているように思われている彼女が、決してそうじゃなくて、むしろ、弱いところをいっぱい持っているんだということ、それを素直に出せないんだということ、が、何だかすごくこちらに伝わって来た・・・響くものがあったなぁ、と。
  夢:うん。
  翔:小雪さんが、そのあたりを気負いなく演じていて、とても好感が持てた。
    夢:そうだね。 
―― モモは、嵐の松本潤くん。 観る前はイメージ違うんじゃないか、と思ったけど、実際はそれほど違和感なかったよね。 多少無理してるかな、とは思ったけど。
  翔:私としては、この役がちゃんとしていないと このドラマは成り立たない、と思っていたのだけど、松本くんは、自分の本来の任(にん)に合わない役だったにも関わらず、とっても頑張っていたと思う。
  本来は、もっとダークな感じの役の方が合いそうな気もするけど・・・逆に、その辺から滲(にじ)み出て来た色合いが、マンガのモモとは違っていて、興味深くもあったし。 あと、やはり、あの役で「踊れる」というのは、大きな強みだった。
  夢:脇の人たちも、それぞれに適材適所、って感じだった。
  翔:酒井若菜さん、夏木マリさん、渡辺いっけいさん、鈴木紗理奈さん、光石研さん、長塚京三さん・・・焦点が絞れていない役もあったんだけど、演じている人たちは、それぞれにちゃんとその人らしい色がついていて、良かったと思う。
  最初に観た時は、長塚さんが演じたカウンセラーの先生というのが、どうもピンと来なかったんだけど、今回は、何となくぼんやりと、ではあるけれど、なるほど、とも思ったし。
  夢:そうかぁ。 
―― で、いよいよ田辺さん。 翔は、最近、「田辺さんは本来モモ(ペット)タイプじゃないか」、と思うようになったんだって?(笑)
  翔:ヘンリー(@笑う三人姉妹)を観ていて、本当に「男」を感じさせないことが出来る人なんだなぁ、と思って。
  夢:男としての魅力がない、ってことじゃないよね。(笑)
  翔:違う違う。(笑) 「いい男」にしてはめずらしく、相手の女性が警戒心を抱かなくてもいいタイプなんじゃないか、と。
  夢:ふぅ~ん・・・・
  翔:蓮實かモモか、と言ったら、田辺さんは、ひょっとしたらモモなのかもしれないと思ったので。 ヘンリーを観て、私としては、人間ペットの理想形に出会った気分になったものだから。(笑)
  夢:人間ペット!・・・・なんちゅう言葉だ!(笑)
  翔:・・・すみません。(笑)
  夢:でも、人間ペットねぇ・・・なんとなく、田辺さん、いいかも。
  翔:そうでしょう?(笑)
  夢:まぁ、その辺は置いといて。(笑)  田辺・蓮實に話を戻したいんだけど。
  翔:はい。
  夢:翔は、トークの最初で、「ドラマを観直して、田辺さんの蓮實にものすごく惹かれた」みたいなことを言ってたけど?
  翔:リアルタイムで観ていた時も、すごくいい、とは思っていた。 本来の田辺さんの任ではないところもあって、ちょっと無理している様子が見てとれて、でも、だからこそ、やりがいのある役なんじゃないか、とも思ったし。 
  まぁ、正直、特に「エリート」という点では、ちょっと笑いを取ろうとし過ぎている、押し出しが弱い、と感じたし、作り笑いは似合わないからやめてくれ!なんて、細かいツッコミを入れつつ観ていたわけだけど。(笑)
  夢:英語の発音を もうちょっと何とかしてくれ~とか?(笑)
  翔:そう。(笑) だけど、今回観直して、田辺さんが、ひとつひとつのセリフに伴う表情や仕草を、本当に丁寧に作っている、ということに、改めて気づかされて。
  確かに、シーンによっては、すんなり入り込めない表情とかがあったのはあったのだけど、それとは別に、「蓮實の考えや気持ち」が素直にストレートに伝わって来るシーンが至る所にあって、何だか、すごく揺さぶられた。
  夢:うんうん。
  翔:田辺さんの「蓮實への気持ちの乗せ方」というのが、すごく伝わって来た、と言うか。 表情にしてもセリフにしても、すごく繊細に、でも着実に表現している、というか。
  夢:・・・・・・・・
  翔:もちろん、すべてのシーンがそうだった、というわけじゃないのだけど、特に、細かな感情表現を必要としているところでは、確実にきっちりしっかり「作って」来ている。
  その、「作っている」感じ、だけど「作った虚構に嘘がない」感じ、というのが、ものすごく田辺さんらしい、とも思えて、再見して、何だかとても嬉しかった。
  夢:・・・・そうか・・・・
  翔:ただ・・・物語全体の構成を考えた時に、この蓮實の細やかな感情表現、というのが、逆に流れを滞(とどこお)らせてしまったんじゃないか、というふうにも思えた。
  夢:というと?
  翔:脚本も演出も、ドラマの着地点としては、蓮實は、モモにはちょっと嘘をついていじわるをして、だけど、スミレに対しては、彼女の気持ちを察してきれいに身を引く、というところに持って行きたかったんじゃないか、と思う。
  夢:うん。
  翔:だけど、あのスミレとの別れのシーン、スミレの話を聞きながら、どんどんその言葉に傷ついて行ってる・・・と同時に、スミレを好きな気持ちがどんどん溢(あふ)れて、まだたっぷりと未練が残っている・・・その辺の蓮實の気持ちを、あの表情が、如実に「語って」しまっていたから。
  夢:・・・・・・・・
  翔:確かに、蓮實は脇役でしかなかったかもしれない。 だから都合良く、スミレの前からきれいに去って行くことが、物語の流れとしては、一番良い、一番しっくり行く方法だったのかもしれない、普通のドラマのセオリーとしては。
  だけど、そういうドラマの ある種ご都合主義的な流れ とは別に、蓮實という人間の心情だけを考えたら、あの時、とてもそんな心境にはなれなかっただろう、とも思う。
  夢:うん。
    翔:脇役だって傷つく、本気で相手を好きだったらなおのこと。
・・・その「蓮實慈人」という脇役の感情を、間違いない形で現出させた、ある意味、これ以上のリアリティはない、というぐらい、蓮實の心境に肉薄した田辺さんに、何だかものすごく・・めちゃくちゃ「やられてしまった」というか、「ぐうの音も出なかった」というか、ものすごく揺さぶられて・・・・
  夢:・・・・・・・・
  翔:だけど・・・それはひょっとしたら、あのドラマにとっては、余分な感情だったのかもしれない。
  夢:余分な・・・?
  翔:スミレとモモに、観ている側の気持ちがすんなりと向かって行かなくなる・・・
  夢:・・・・?・・・・・
  翔:蓮實があれほど傷ついたところを観せてしまったら、そういう蓮實の傷ついた気持ちの上に生まれた、蓮實という人間の犠牲の上に成り立つ、スミレとモモの繋がりは、決して曇(くも)りのないきれいなものには成り得ない。 
  夢:・・・・うーん・・・・・
  翔:スミレとモモがお互いを必要としているその強さと、蓮實のスミレへの気持ちの強さとが、同じじゃいけないんだよね。 結ばれる二人と、そうでない脇役とには、「相手を好き」という気持ちの持ちように大きな差がなければならない(より純粋であったり、よりまっすぐであったり)。
  そういう、言わばドラマの不文律とも言える主人公たちと脇役との感情のバランスを、あの一瞬、蓮實は壊したような気がしたから。
  夢:・・・でも、あたしは、「ドラマの不文律」がどうであれ、バランスがどうであれ、蓮實とスミレの最後のシーンは名場面だと思ってるし、あれで、あのドラマ自体が、ものすごく締まったような気がするんだけど。
  翔:もし、あれが「必要ないもの」であれば、演出がストップをかけて、もう一度田辺さんに演技のやりなおしを命じれば済むことだったんじゃないか。 それをしなかったのは、あの演技を、蓮實の心情表現として認めた、ということなんだと思う。
  夢:うんうん。
  翔:何だか その・・そのあたりの、「ドラマのかすかな破綻」みたいなもの、それを否応なく使わせてしまう俳優と、それを使いたいと思う演出・プロデューサーと・・・・そこに生まれる「ご都合主義」や「予定調和」への小さな背信のようなもの、というのは、正直、そのドラマにとって、吉なのか凶なのか解からないけれど、でも、もしかしたら、そんなところからも、現状のTVドラマに風穴を開けることにはならないのか、と、そんなことも、ふと考えたりしてしまうんだけど。
  夢:・・・・・・というと?
  翔:うまく言えないけれど、ドラマ全体のレベルアップ、というか、丁丁発止、というか、キャストvsスタッフでも、キャスト同士でも、より真剣勝負になって行くんじゃないか、と。
  夢:うーん・・・
  翔:適当にとか、だいたいとか、曖昧(あいまい)になってしまう部分を極力削って、いい緊張感を生み出す、スタッフもキャストも、自分の持てるすべてをぶつけて、精一杯の力を練り上げて、ドラマを作って行く・・・・そこに、実は、観る人間を惹きつける大事な大事な「何か」が、潜んでいるような気がするんだけどね。