怪 -KWAI-(福神ながし)(talk)

2000・9・15放送(WOWOW)/トーク2002.7.26
★このトークは、あくまで翔と夢の主観・私見によるものです。

  翔:こ、これは・・・これは・・・・・
  夢:翔:『必殺』だぁ~~!!!(笑)
  翔:ごめんなさ~い、やはりこれが一番面白かった!です。
  夢:そうよ! あたしは最初からそう言ってたじゃない。
  翔:う~ん、何故、最初観た時には、あんまり 嵌(は)まらなかったかなぁ・・・
  夢:なんでだろう? すごく面白かったのに。
  翔:いや、最初から、面白いとは思っていたんだけどね。 結局、ドラマより何より、京極さんの小説が好きだった、あの世界観、というか、独特の雰囲気が好きだった、だから、京極色が弱まったように思えたこの作品に、のめり込めなかった、ということじゃないか、と思うけど。
  夢:で、今回改めて観て、いい、と思ったのは何故?
  翔:これって、さっきも言ったけど、ほとんど『必殺シリーズ』なんだよね。 そう思って観ると、『必殺』放映時に味わった「ネオ時代劇」の面白さ、というのを、きちんと継承しているし、エンタティンメントとして、なかなか上質な出来だったんじゃないか、と。
  夢:なんと言っても、中禅寺(近藤正臣)の存在が大きかったよね。
  翔:そうだね、この作品は、中禅寺に近藤さんを使ったのが、最大の功績だった気がする。
  夢:お!そこまで断言する?
  翔:やっぱり凄い人だよね。 ドラマって、言わば「嘘の世界」なんだけど、その嘘にリアリティを持たせることが出来る・・・うーん、「嘘」を「現実」に近づけるんじゃなくて、「現実」を「嘘の世界」に引きずり込んでしまうことが出来る、って言ったらいいかな。
  夢:・・・どういうこと?
  翔:「嘘だ」、と思いながら、その虚構の世界に心地良く浸(ひた)れる、のめり込める・・・・それは、ドラマ上のリアリティが、きちんとした説得力を持って表現されているから、というのが大きいと思うんだけど、観客が、「嘘」だと知っていて、登場人物の性格やら背景やらに肩入れする、そう出来るのは、演じ手が、格好良く「嘘」をまとってみせているからじゃないか、とも思う。
  夢:「格好良く‘嘘’をまとう」 かぁ。
  翔:そういう点に関しては、近藤さんって、ものすごく才能のある人なんじゃないか、と。
  夢:うんうん。
  翔:もちろん、うまい俳優さんではあるけれど、それだけで片付けられないものを持っている気がする。 それは、こういう作品、こういう役柄によって、一層 醸(かも)し出されるものなんじゃないか、と。
  夢:なるほどねぇ・・・
★    ★    ★
  夢:で、そんな近藤さんと、田辺・又市との絡(から)みは、どうだった? 前回、出番が少なくて淋しかったけど、今回は多かったし、中禅寺とのやりとりも多かったから、感じるところ、いろいろあったんじゃないか、と思うけど。
  翔:いや、最初の頃に比べれば、又市を田辺さんがやることに、違和感みたいなものはほとんど感じられなくなったし、徳次郎(火野正平)や治平(谷啓)、右近(小木茂光)、おぎん(遠山景織子)ら、仲間との関係も、無理なく自然だった、という気がした。
  夢:うん。
  翔:でも、相手が中禅寺となると、やはり何かが足りない。 田辺さんの又市だと、どうしても、負けてしまうんだよね。
  夢:どうしてだろう? 「キャリアの差」ってこと?
  翔:まあ、そういうこともあるだろうけど・・・・ 「格好良く‘嘘’を身にまとう」その役への踏み込み方、のめり込み方、が、まだ、田辺さんには足りないような気がする。
  夢:うーん・・・・・
  翔:いや・・・・田辺さん自身は、おそらく、すごく「役」を掘り下げて考えたり、どこまでも探究したりする人で、そういう意味では、いつも、誰にも引けを取らないぐらい相当のめり込んでいるんだろうとは思うんだけど・・・
  夢:それじゃ足りない?
  翔:結局、それを‘表現する段階’で 出て来るもの、こちら側(観客)に訴えるもの、が足りないんじゃないか、と。
  夢:・・・・・・・・
  翔:又市という人間は、物語の傍観者で、決して真ん中に立っちゃいけない役なのかもしれなくて、そういう意味では、田辺さんの役作りは間違っていないのかもしれないけど、でも、観ている方は、「それだけじゃつまんない」んだよ。
  夢:ああ・・・・
  翔:今回の又市は、事件との関わり方も、主役・中禅寺との関わり方も、すごく良くて、4話の中で一番丁寧に描かれている、と、私は思うんだけど、ただ、又市が、中禅寺と同じように「何かを背負った人間」で、だからこそ、お互いに共鳴し合うものがあり、だからこそ、宗旨(しゅうし)違いのふたりが手を組むに至ったのだ、と、そこまで又市を膨らませて田辺さんが演じ切れていたら、もっともっと楽しめたんじゃないか、と思うんだよね。
  夢:うーん・・・でも、それは、脚本とか演出の意向から はみ出さない?
  翔:はみ出してしまうかもしれないんだけど。 それでも、相手が近藤さんだし、シリーズの最終話なんだから、そのくらいのぶつかり方をしても大丈夫だったんじゃないかと思う。
  中禅寺の引き立て役、と捉えてしまうのではなくて、あわよくば食ってやる!ぐらいの激しさが、田辺・又市に欲しかった、というのは、あまりに贅沢(ぜいたく)な要望でしょうか?
  夢:・・・・うん、贅沢。
  翔:(苦笑)
  夢:でも、そういう又市も観てみたかった!と、痛烈に思ってる自分がいる。(笑)
★    ★    ★
  翔:私さっき、「これはほとんど『必殺シリーズ』だ」と言ったけど、でも、今回改めて観て、「やっぱりこれは京極作品だな」とも思ったので、その話をちょっと。
  夢:うん。
  翔:今回は、「京極作品の映像化」という呪縛のようなものから完全に抜け出して、スタッフもキャストも楽しんで作っていた気がする。 『必殺』を京極脚本で作ったらどうなるか、というのを具現化してみせた作品、と言っていいかもしれない。
  夢:うん。
  翔:「この世の中に、不思議なことなど何もないのですよ」と、中禅寺が叶屋(岸部一徳)に言う。 あそこまでは『必殺』そのものだったんだけど、お福、そして謎の箱の住人(?)が出たところで、「これもりっぱな京極作品なんだ」と納得させられた気がする、「世に不思議なし、世、これすべて不思議なり」と。
  夢:ああ。
  翔:そのあたりの落とし方、まとめ方、というのが、ものすごく心地良かった。 ほんの少しの京極テイストでも、混ぜ方によっては、ちゃんと印象に残るものになる、ということを見せてもらって、逆に、物足りなさも感じた。
  夢:物足りなさ?
  翔:ここで終わってしまうのはもったいない、と。
  夢:あ、うんうん!
  翔:実は、今、このトークは、2002年7月にやっていて、だから、作品収録から2年半ぐらい経っているんだけど、この2年半というのは、俳優・田辺誠一が劇的に変化した時期なので、今の田辺さんがこの又市をやったらどうだろう、と、ものすごく興味が湧いて、続編を作ってもらいたい、と願う気持ちが、より強くなっているんだけど。
 夢:そうだね、あたしも、今の田辺さんなら、もっと違う又市になるような気がするから、ぜひそれを観てみたいと思うわ。