怪 -KWAI-(七人みさき)(talk)

WOWOW)2000・1・3放送
★このトークは、あくまで翔と夢の主観・私見によるものです。

  夢:いやぁ、待ちました、やっと『怪』の話が出来る!  
  翔:だいぶ前に友人からビデオを借りていたのに、何となく、「滝川幸次」(@月下の棋士)にピリオド打つまでは「又市」の世界には入れない、と思って、ビデオ観るのをずっと我慢してたから・・・
  夢:観たの、昨日だって? よく耐えてたね、田辺大好き、京極大好き、で、あれほど「観たい観たい!」って大騒ぎしてたのに。(笑)
  翔:やはり、それだけ「滝川幸次」が魅力的だった、ってことでしょう。(笑)
  夢:嵌(は)まったよねぇ、二人とも。
  翔:かなり強烈な印象だった。 第1話でカウンターパンチくらって、そのまま最後まで「滝川幸次ワールド」に浸り切っていたくて、「京極ワールド・又市ワールド」の扉を、わざわざ開けなかった、というのが、正直な気持ち。 開けてしまえば、「京極・又市」の世界にも、また、のめり込んでしまうだろうというのが、目に見えてたし。 何となく、ごちゃ混ぜに味わってしまうのはもったいないと思って。
  夢:うんうん。 で、実際に『怪』を観て、どうだった?
  翔:面白かった。 ちょっと予想とは違っている部分もあったし、なるほど~と思った部分もあったし、懐かしいような、斬新なような、不思議な感じ。
  ただ、すごく京極作品ぽい部分と、「必殺」とか「横溝作品」とかの影響を受けた部分と、新しいことをしてやろうという部分と、意欲的にいろいろなものを取り入れようとして、一杯一杯になっている、という印象を受けたのも事実。
  夢:って言うと?
  翔:たとえばストーリー。 今回 脚本は京極夏彦さん本人が書いていて、だからだと思うんだけど、やりたいこと、描きたいことが‘てんこもり’で、物語の全体の輪郭がぼやけてしまったんじゃないか、という気がする。
  夢:あたしなんか、相関関係や内容が素早く頭の中にインプット出来なくて、何度か観て、ようやく全体が見えてきた、ってとこあるんだけど、そういうこと?
  翔:そう。 お家騒動、過去の事件の蒸し返し、七人みさき伝説、見立て殺人・・・・それらが複雑に絡み合って、謎が謎を呼び、名探偵が登場して、事件解決、という流れは、「横溝正史作品」の「金田一シリーズ」に見られる手法だし、悪いヤツを人知れず抹殺する、というところは、もろ「必殺シリーズ」だし、又市(田辺誠一)・おぎん(遠山景織子)・百介(佐野史郎)といった登場人物の、職業や、事件に対する位置取りなんかは、「京極」らしいし・・・・
  だけど、それらをいっぺんに見せられたら、消化不良を起こすよね。
  夢:うん。
  翔:私は、もっともっと「京極ワールド」の色合いが強くても良かったんじゃないか、と思う。 せっかく京極作品初の映像化!という大きい花火をぶち上げたんだから、お家騒動と見立て殺人ぐらいに絞って、京極色をうんと出して、ドロドロしているけど妙に現代的な、あの京極ワールド独特の雰囲気を、存分に味わわせて欲しかった。
  夢:マンガをドラマ化する、というのと、またちょっと違った難しさがあるのかな、と思ったんだけど。
  翔:特に京極夏彦さんには、熱烈なファンがいる。 彼が構築する世界に 嵌(は)まり込んでいる人達には、「京極」を映像で見せられることは、楽しみであると同時に、すごく不安なことでもあったと思うんだよね。 まぁ、私もそのひとりだったわけだけど。 そんな人達が観るには、ちょっと今回は味付け不足だったかな、と思う。
  夢:キビシイねぇ、あいかわらず。 あたしは、七面倒くさいストーリーはストーリーとして、結構楽しんだけどなぁ。
  翔:いや、けして悪い出来じゃなかったんだけど。 
  夢:期待が大きかっただけに、100%の仕上がりじゃないと満足出来なくなってるのかなぁ?
  翔:そうかもしれないね。贅沢な不満なのかもしれないんだけど・・・
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  夢:今回、翔は、撮影にも期待してたよね。
  翔:石原興さんという、「必殺シリーズ」等々の撮影をしていた人で、独特の美意識を持っている人なので、すごく楽しみにしていた。
  夢:どうだった?
  翔:すごいね、やっぱり。 極めつけは、画面左の店の行灯が、奥からひとつずつ消えて、やがて雨の中、又市が白装束で現れるシーン。 「あ!必殺だ~」とワクワクしてしまった。
  夢:雨とか、影とかの掴み方、撮影の仕方がうまいのかな、って思ったんだけど。
  翔:そうそう! 時代劇の「見せ方」がよく解かっているんだと思う。
  夢:あと、美術とか照明とか、楽しみにしてた部分も多かったと思うんだけど。
  翔:うーん、地下の洞穴を牢屋に見立てたところなどは、閉鎖的な空間を持ち込むのがうまい京極さんらしいなと思ったけど、洞窟内のライティングは、ちょっと好きになれなかった。
  夢:そう? なかなか幻想的だったんじゃない?
  翔:ものすごく手が込んでいるから、すごいなとは思うけど・・・もっと作り物っぽくなく、きれいにならなかったか、と。 弾正の衣装等も、派手なら派手でかまわないから、もっと重みが欲しかったし・・・
  夢:キビシイ・・・・
  翔:好きだから注文も多くなる。 でも、又市が小右衛門(夏八木勲)と話している時、少しずつ照明が落ちて行って、又市の顔が暗くなって、やがて眼だけが闇にうっすらと浮かんだ時には、うわーっと鳥肌が立ったけど。
  夢:あ、そうそう! あそこは私も好きだった。
  翔:すごいスタッフが集まったのは間違いない。 けれど、今回は、全体的に、ちょっと肩に力が入りすぎた、という感じだった。
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  夢:さて、いよいよキャストということですが・・・・
  翔:何と言っても、北林弾正の四方堂亘さんでしょう。
  夢:うわ! いきなり‘そこ’に行っちゃいますか。(笑)
  翔:あの「狂気」が、すべての始まりだったわけだし。
  夢:あの人、怖かった!
  翔:眼の焦点が合っていなくて。 滅茶苦茶なことを言ったりやったりしているのに、違和感がなかったのは、あの「狂気の眼」があったからだと思う。 このキャスティングはお見事でした。
  夢:自分の世界に入り込んでる、という点では、滝川との共通点があるのかな、という気もしたんだけど・・・・
  翔:うーん、どうだろう。 確かに、根っこは同じなのかもしれないけど、弾正はすべての感情を外に出し、滝川はすべてを内に抱え込んでいたわけだから、まったく違う方向に枝を伸ばして行ったという気がするけど。
  夢:根っこは同じ?
  翔:滝川の場合、詳しい生い立ちが分からないので断言は出来ないけれど、どちらも、幼い頃のことがネックになってるんじゃないかと。 そういう意味で、根っこは同じかなと思った。
  夢:・・・・そうかぁ。
  翔:あ、だめだ、滝川の話をすると、引き戻される気がする。 他の出演者の話をしよう。(笑)
  夢:(笑) 御燈の小右衛門(夏八木勲)や東雲右近(小木茂光)なんかは、翔の好みだったんじゃない?
  翔:よくご存知で。(笑) やはり、自分のムードみたいなものを持っている人は、好きになってしまう。 そういう意味では、与吉役の梶原善さんも、前々から好きな俳優さんだったし、今回、三原じゅん子さん(涼)やひかる一平さん(平八)といった、若い時から知ってる人達が頑張っていたのも嬉しかった。
  夢:キャスティングは、総じて良かったよね。
  翔:そうだね。 あと、何と言っても北林義虎役の藤田まことさんの存在感には参った。 たった一場面なのに、キュッと場を締めて、空気が一気に緊張した感じがして、ホレなおしました。
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  夢:主役三人については、どう?
  翔:まだ一本しか撮っていないから、正直、アンサンブルが出来上がっていないと言うか、三人のポジショニングがしっくり行ってないと言うか・・・・でも、たぶんニ作目は、その辺のところはもっとうまく行くようになるだろうと思うけど。
  夢:狂言廻し的役どころの佐野史郎さん(山岡百介)、めずらしく‘普通’で、淡々としてたね。(笑)
  翔:出過ぎず引っ込み過ぎず・・・というあたりのバランス感覚がいい。 あと、想像していたより良かったのが、遠山景織子さん(山猫廻しのおぎん)。 吸い込まれそうなあの眼は、すごい武器だと思う。
  夢:で、田辺さんですが・・?
  翔:うん、彼も思ったより良かった・・・
  夢:・・・・・それだけ?
  翔:あ、ごめん、まず何から話したらいいか、考えていた。(笑)
  夢:(笑)
  翔:どうもイマイチわからないんだけど、たとえば、水戸黄門は世直しのため、必殺の連中はお金のため、だよね。 又市たちは「弔(とむら)い」のため、ということだけど、なんとなく、世の悪事を晴らす、というほど、正義感が強そうに見えない・・・って、そんなこと考えてる人、他にはいないのかもしれないけど。(笑)
  夢:どうしてそう思うのかなぁ・・・・?
  翔:何でなのか私にもわからない、うまく説明出来ないんだけど・・・話が複雑過ぎて、又市たちの「怒り」がストレートに伝わって来ないから、なのか。
  あと、又市が持っている「力」についても、説明不足の感が否めない。 おぎんだって、結局は又市に使われているわけでしょう? それほどの力がある又市だったら、今回のことも、もっとうまい方法があったんじゃないかと思うんだけど。
  それとも、何か「別なもの」と闘っている、ということなのかな。 その方が「京極」らしいと言えばらしいけど・・・なんか、ちょっとモヤモヤが晴れないんだよね。
  夢:うーん・・・・
  翔:弾正が、何かに憑依(ひょうい)されていたと考えて、又市が、ちょっと過激な「憑(つ)きもの落し」をやったとか・・・あるいは、「夢を見させて悪事を祓(はら)う」ような感じを狙ったとか・・・京極ファンの私としては、そんなふうに考えたいんだけど。    
  夢:結局、又市の持ってる力、って、どれほどのものなの?・・・って、さっき翔が言ってたことに戻っちゃうんだけど。
  翔:そうね、その辺がどうもよく分からない。 「又市は、人間らしいところとそうでないところを併せ持っている」というようなことを、前に田辺さんが言ってたけど、少なくとも今回の又市は、ちょっと特殊な能力を持ってる普通の青年、ぐらいでしかなかったように思う。
  「不思議な力」という点だけを見れば、沢木晃(@サイコメトラーEIJI )の方が、ずっとすごい力を持っていたように見える、実際は違うんだけど・・・。 見せ方の問題なのかな?
  夢:そうかぁ・・・その辺は、これから追々(おいおい)に、ってことなのかな。
  翔:そう期待したい。
  夢:・・・・で、田辺さんのことは?
  翔:あ、ごめん、又市の話ばっかりだった・・・(苦笑)
  夢:(笑)
  翔:見た目の話を先にしたいと思うけど、あれだけ背が高くて細身だと、基本的に、着物をきれいに着こなすのは、かなり難しい。 背の高い人って、往々にして猫背になりやすくて、田辺さんもご多分に漏れず、で、もうちょっと姿勢を良くしてくれると、いいと思うんだけど。
  夢:そうだね。
  翔:あと、立ち姿がきれいに見えるための、足の位置とか、腰の位置とか、‘決め’のポイントがあるんだけど、正直、まだそこまで出来ていない。 足運びがきれいな人は、着物の裾(すそ)の捲(ま)くれ方まできれいになる。そこまで行かなくても、もうちょっと着物に慣れて欲しい。
  言葉についても、やはり普段使い慣れないから、「やつがれ」とか「てぇへんだ」というところで、何か引っかかってしまう。 軽さがない。 もうちょっと慣れるといいと思うんだけど・・・って、欲張り?
  夢:翔、「よかった」「面白かった」って言っておいて、さっきからキビシイ意見ばっかりじゃない?(笑)
  翔:そう? そうだった? いや、楽しんだけどね・・・(苦笑)
  夢:田辺さん、いいところはなかったの?
  翔:いや、たくさんあった。 べらんめえ調のところは、さっき言ったように、何となく違和感があったけど、普段の口調の時、語尾が、すごく心地よく耳に入って来て、びっくりした。
  夢:え? どういうこと?
  翔:うまく説明出来ないんだけど、田辺さん、ほんのちょっと語尾を伸ばす時があって、それが、私には心地良かった、ということです。
  夢:へぇ・・・あたし、全然気づかなかったな・・・
  翔:私だけの印象なんだろうか。 あと、もうひとつ思ったのは、今まで演じてきた中で、ひょっとしたら、一番田辺さんの「地」に近いのかな、って。 『眠らない羊』の田辺さんとダブるところがあったように思う。
  夢:え!? どういうところが?
  翔:この作品の前に見たのが『月下の棋士』で、思いっきり「創られた役」を観ていたからか、又市のナチュラルっぽさに、妙に共感を持ってしまって。 京極世界の又市が ナチュラルに見える、って、いい事なんだか悪い事なんだか分からないけどね。(笑)
  夢:ふーん・・・・
  翔:まぁその辺は私個人の捉え方・観方でしかないので、たぶん共感する人は少ない、とは思うんだけど。(笑)
  夢:どうなんだろう? これはちょっと、読んでくれてるみなさんにも訊いてみたい気がするなぁ。