眠らない羊(talk)

2000・1・30初版発行(角川書店
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。 

  夢:田辺さんの初エッセイ『眠らない羊』。 これ、ほんとに面白かった。 特に、子供の頃の話は、田辺さんってこんな人だったのかぁ、って、まさに「ディスカバーTANABE」(田辺再発見)だったね。(笑)
  翔:何にでも目を輝かせて、ウキウキワクワク、ドキドキハラハラしてた誠一少年の姿が、目に浮かぶようだった。 ひとつひとつのエピソードが、映像として、鮮やかに浮かんでくる。 さすが!カントク田辺!と思った。(笑)
  夢:読んでみて、初めて触れた田辺さんの性格もあった。
  翔:なんとなく、こんな人かなぁ、と、私たちが勝手に想像していたイメージと違っているところもあって、それがまた新鮮だった。 実際、こんなにアグレッシブな人だとは思わなかったし。
  夢:それそれ!健二(@BLUES HARP)の一面も持ち合わせていた人だとは、この本読むまで、まったく考えてなかったものね。
  翔:健二・・・・まで過激ではないにしろ(笑) 懐に刃物を持って生きている人、という感じはした。
  自分の人生に真剣勝負を賭けている人、自分の身に降り掛かるものに対してきちんと自分の中で自己完結出来る人・・・・ うまく言えないんだけど・・・「自己責任」を果たせる人、と言ったらいいのかな。やった事に対して、逃げないで、最後まで自分で責任を負える人、という感じがした。
  夢:まさに、「思い込んだら命懸け」ってやつ?
  翔:そうね。そして、そういう性格は、やはり少年時代に培(つちか)われていたんだよね。 今回、映画作りの話と一緒に、そのルーツを知る事が出来た、というのは、すごく幸せなことだったと思う。
  夢:それにしても、少年時代、あんなに‘やんちゃ’だったとは。 田辺さんの今までの役柄から想像するに、家の中で、物静かに本でも読んでいそうな感じがしてたけど。(笑)
  翔:でも、最初はそうだったけど、いろんなインタビューとか読んで、見た目とか役柄とはちょっと違うんじゃないか、と思いつつあったよ、私は。
  夢:そうだけど、でも、これほどいろいろな経験して、いろんなこと感じて、って、自分の子供時代と比べて、なんて感・・感・・・
  翔:「感受性」?
  夢:そう! なんて感受性が強いんだろう、って。
  翔:ひとつひとつの出会いに、ものすごく反応している。 自分が興味を持ったものに対する、貪欲なまでの「好奇心」、いいものも悪いものも、みんな面白いと思える「柔軟性」、というのは、子供が皆持ち合わせてる才能のはずなのに、最近の子には そういうものが無くなって来てるんじゃないか、スポイルされてるんじゃないか、と思う。
  夢:それと「行動力」。 チャリ飛ばして、どこへでも行っちゃう。(笑)
  翔:そうそう。すごいよね。 疲れるとかしんどいとかの思いより、好奇心が勝ってしまう。(笑) ほんとに、子供らしい子供だったんだ、田辺さんって。
  夢:10代後半になると、いろいろな悩みが出て来る。 でも、田辺さん、硬派だったんだね。
  翔:見た目とは逆に、すごく骨太な感じだよね。 自分の人生設計しっかり立てて、迷いとか不安とかを、少しずつ着実に減らして行く。 自立心旺盛。 自分で背負い込んだ荷物は、自分で責任を負う。 さっきの話に戻ってしまうけど、精神的にきちんと「大人」になっているんだろうと思う。 ただ、歳食っただけじゃなくて。
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  夢:後半の『DOG-FOOD』製作の話も、臨場感にあふれてて、面白くて一気に読んじゃった。
  翔:エッセイ、と言うより、これはもうドキュメンタリー。 きれい事や飾った言葉がなくて、田辺さんの感情がストレートに伝わってきた。
  夢見たことが、急速に現実のものになって行く時の、周りの人たちの盛り上がり、そして反発・・・きれい事だけで、一本の映画が作れるほど甘くない。 だけど、自分を信じ、スタッフを信じ、作品を信じて作り上げて行く、その達成感は、役を演じる、本を書く、というのとはまた違うものなんだろうと思う。
  夢:田辺さん、また映画を撮るみたいだけど。
  翔:もうちょっとスケールアップしたものになるらしい。 CD-ROMにも『DOG-FOOD』にも縁がなかった私たちとしては、地方でも公開されるような、せめてビデオ化されるような作品になって欲しいと、切に思います。
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  夢:「ベルリン日記」は、別な本でもちょっと読んでたんだよね。
  翔:『SOTOKOTO』や『キネマ旬報』でね。 でも、『SOTOKOTO』で、初めて田辺さんのエッセイ読んだ時、あまりにも面白いので、てっきりゴーストライターが書いたんだろう、という、今思えば、冷や汗ものの感想を抱いたのも、今となっては笑い話だよね。(笑)
  夢:『トップランナー』(NHK)に出た時にも、ベルリンの話が出たけど、話し振りから、「熱さ」みたいなものが伝わってきて、田辺さんって、こういう一面もあったのか、って。 その頃、彼がどんなものに興味を持って、どんなものを作り出したかなんて、何にも知らなかったから。
  翔:まして、それを文章にして表現してくれるなんて、思ってもみなかったし。 ベルリン映画祭での、『DOG-FOOD』上映までの顛末(てんまつ)は、並みの小説よりずっと面白くて、いろんな雑誌で読んで、内容もよく知ってるはずなのに、田辺さんのドキドキが伝わってくるようで、手に汗握って読んだ。
  夢:まさに「事実は小説よりもアイボリー」?(笑)
  翔:そうそう。 中で、私が一番魅力を感じたのは、田辺さんが、他人と関わることに臆病にならず、どんどんコミュニケーション取りに行ってること。 実にポジティブ。
  夢:言葉もろくに通じない国へ一人で行って、あれだけ積極的に行動出来るって、うらやましい?
  翔:でも、それもこれも、子供(と 彼は自分の作品を呼ぶ)のためだから。 子供を世に送り出すために、親として、出来うる限りの努力を払う。 ズーズーしいとかカッコ悪いとか、はた目なんかかまっていられない。
  夢:うーん、なんかさぁ、同人誌やってた頃のあたしたち、思い出さない?(笑)
  翔:まだ初期の頃のコミケの会場で、まさにそういう思いを、私たちはしたわけで。(笑)
  夢:ふふ・・・大変だったけど、楽しかったねぇ。
  翔:もちろん、スケールは全然違うんだけど(笑)、あの「自分の作品を、何とかして、一人でも多くの人に見てもらいたい」という、熱病にかかったような狂おしい想い・願いって、経験してるから、すごく身につまされた。
  夢:うんうん。 
  翔:・・・・この頃よく思うんだけど、結局 私は、「田辺誠一」という格好の媒体を得て、文章を書きたい、絵を描きたい、という、コミケ時代の終わりに一旦断ち切った想いを、今、こういう形で叶えているんじゃないか、と。
  夢:「田辺誠一」は、媒体?
  翔:・・・・と言うか、もっと・・・どう言ったらいいだろう? 「表現したい」という私の欲求を、「田辺誠一」が掬(すく)い取ってくれた、というか、吸収してくれた、というか。
  夢:うん。
  翔:そういう感覚を持ったまま、この『眠らない羊』を読んだせいか、受け取ったものも、普段に増して大きかった気がする。 ―――俳優としての‘演技’とか 監督としての‘演出’とか のフィルターなしに、「田辺誠一」という《人間》を理解する、ということは、そんなに簡単には出来ないんだな、生やさしいことじゃないんだな、ということも含めて、ね。 
夢:・・・・うーん・・そうかぁ・・・確かにそうかもしれないね。

 
―――こういう形で、一応『眠らない羊』の感想をまとめた後、何か舌足らず、ただうわべだけしか見ていない、という感じがして、もっともっと言葉を添えたい、でも、どんなふうに?・・・・と考えているうちに、突然、PCキーが打てなくなってしまいました。
  後に「眠らない羊症候群」と名づけたこの病(?)は、それまでの私からは信じられないほど、私をPCから遠ざけ、「田辺誠一」からも遠ざけるものとなりました。
  「なぜ?」「どうして?」と自問を繰り返す毎日。 頭の中に渦巻くものをキーに打ち込めない・・何とかしたいのにどうにもならない・・というジレンマの真っ只中で、それでも、「時間」というものが、少しずつ私の気持ちをおちつかせてくれたような気がします。
  PCキーに触れるまで5日、『眠らない羊BBS』(公式サイト内)に書き込むまでに8日、『翔夢BBS』に「ただいま」と打ち込むまでに10日、番組の感想(月下の棋士・第6話)をUPさせるまでに20日、という日数がかかりました。
  でも、時間がかかってもなんでも、「田辺誠一」を書くことを捨て切れない自分がいる、そして、そういう自分を見守っていてくれる人達がいる、という確信と喜びは、私に、とてもたくさんのPOWERを与えてくれた気がします。
  『眠らない羊』を読み終えてから、2ヶ月以上の月日が流れました。 
あの頃と、今と、確実に違うことは、私の手の中に『DOG-FOOD』がある、ということ。
  このビデオの感想をUPさせた時、私は、もっと、『眠らない羊』の中の「田辺誠一」と仲良くなれているのではないか、という気がしています。
                                                              2000・4・17  翔


以下はブログに寄せられたコメントへの私の返信(抜粋)です。
 >田辺氏著書「眠らない羊」を見かけまして、買いました。
 >ハイユウ田辺しか見てこなかった私にこれでもか!!と
 >「田辺誠一」という人物の生き様を見せつけられた様な気がします。
あの本は、私にとってもものすごく衝撃的でした。
いろんな意味で、自分の中の「田辺誠一像」をぶち壊されて、
しばらくPCに触れなくなったぐらい、ショックを受けましたから。
個人的には、中学生の読書感想文の課題図書にしてもいいんじゃないか、
とさえ思っています。

 >私の中には数人くらい田辺氏がいるのですが、仲間入りしました(笑)
そうそうそう!(爆)
本当に、この人の中には、何人の田辺氏がいるんだか、と私も思います。
しかも、どんどん増えてるし!w
40代なかばになろうとしてるのに、まだ全然落ち着いていないし、
何やらかすか分からないしw、
だからこそ、これからも追っかけ甲斐のある俳優さんでいてくれるんだろう、
という気がしますね。