怪 -KWAI-(穏神だぬき)(talk)

2000・3・18放送 (WOWOW)/トーク2000.10.18
★このトークは、あくまで翔と夢の主観・私見によるものです。

  夢:『七人みさき』よりだいぶ分かりやすくなってきたんじゃない? 
  翔:夢もそう思う? 私も、2話目にして、随分こなれてきた、と思った。
  夢:ストーリーが込み入ってなかったからかな。
  翔:それもあるよね。 前回、いろんな要素をもりだくさんにしたことから比べると、半分ぐらいの要素で作っている、という気がしたから。 幽霊狸や、阿波狸合戦の言い伝えが、小面の辻斬り(=先代将軍のご落胤・長二郎)を葬るための見立てになる、という、複雑なのはその辺だけで、あとは、観ていて、すんなりストーリーを追って行けたという感じがする。
  夢:うん。
  翔:だから、孫を殺された芝右衛門(奥村公延)の哀しみが、ストレートに伝わってくる。 そして、その心の隙間(すきま)を埋めるように、狸を名乗る男(谷啓)が現れて、それが、のちのち長二郎(湯江健幸)を葬る仕掛けの伏線になる、という、きっちりとした筋立てが出来上がっていた。
  夢:又市たちも、今回は、中心になって動く、というのじゃなくて、一歩引いてたよね。
  翔:本来、これが彼らのポジションなんじゃないかと思う。 仕掛けのカラクリそのものを見せるんじゃなくて、今回のように、後で、ああそういうことだったのか、と思わせるということでもいいと思うし。
  夢:百介さん(佐野史郎)は、あたしたちと同じ目線で見てる気がしたけど。
  翔:今回、百介のポジションというのは、完全に、物語の外側でワクワクしながら見ている見物人、つまり、私たちと変わりない、と思った。 そんな彼が、時に又市にケムに巻かれ、時に狸を殺してしまったと悔やむ、そういうふうに、物語との接点を持つ立場にある、というのは、ある部分、視聴者の希望を体現しているようにも思う。
  夢:そうねぇ、又市もおぎんも、現(うつつ)か幻(まぼろし)か、というところがあるけど、百介さんだけは、現実的で、あたしたちに近い感じするものね。
  翔:佐野さんは、その辺を、前回よりすごく明確にしていて、分かりやすかった。
  夢:又市については?
  翔:物語の中心に絡(から)むのは、あくまで事触れの治平(谷啓)。 又市は、すべてを見通して遠隔操作している、という感じだった。 だから、出番は少なかったかもしれないけれど、前回より、ずっと存在感が増したような気がした。
  夢:表情とか、立ち姿とか、なんて言うか、風格が出てきたような気もしたけど。
  翔:前回は、ちょっとかよわい感じがしたけれど、今回は、ずっと安定感が増して、見ていて不安を感じることが少なくなった。 もちろん、たとえば必殺シリーズの仕事人とかと比べたら、まだまだ弱い部分もあるんだけど、田辺<又市のままじゃなく、徐々に田辺=又市に向かっている気がした。
  夢:翔は、治平の存在が大きい、というようなことを言ってたけど?
  翔:前回、仕掛けをするのはあくまで又市とおぎんだったけど、今回は、そこに治平が加わったことで、仕掛ける側に厚みが増したという気がする。
  夢:前回だって、御燈の小右衛門(夏八木勲)がいたじゃない?
  翔:でも、彼の場合は事件の当事者、というか、関係者だし、だから、純粋に第三者として仕掛けする、ということではなかったし、彼は彼、又市たちは又市たちで、別々に闘っていた、という印象があるから。
  治平の場合は、事件と関係ない、仕掛けするために又市が呼び寄せた「仲間」である、という部分、完全に又市たちとタッグを組んで仕事をした、という部分で、ホッとさせられるものがあった。
  夢:「仲間」か・・・
  翔:田辺・又市には、正直、仕掛け人の元締め、というほどのパワーがない。 おぎんと二人だけで強大な敵と闘うには、まだまだ力不足の感は否めない。 事件と関係ないのに手助けしてくれる「仲間」の存在は、又市にとって、重要な意味を持っていると思う。
  夢:治平のような?
  翔:そう。 又市の若さ、未熟さ、をカバーしてくれる仲間・・・・
  夢:それは、百介じゃダメなんだね。
  翔:だって彼は又市の仲間じゃない、視聴者代表だから。(笑)
★    ★    ★
  夢:又市を演じた役者としての田辺さん、ってところを、もうちょっと詳しく。 さっき、安定感が増した、と言ってたけど。
  翔:前回と何がどう変わったか、と聞かれたら、きちんと答えられるものじゃないんだけど、心もとないよちよち歩きだったのが、少し自由に歩けるようになった、と言うか、手探り状態だったのが、小さな手応えを掴んだ、というか、どこか、目一杯・精一杯だけじゃない、ちょっとしたゆとりを感じるようになった。
  夢:うん。
  翔:田辺さんのようなタイプの人は、スタートから、役の芯を本能で掴んで、バンバン自分を出してゆく、ということは、たぶん出来ないと思う。 そのかわり、じっくりと役を咀嚼(そしゃく)して、徐々に練り上げ、作り上げて行く・・・・そこが面白いと思う。
  夢:最初から100%じゃない、だけど、いつのまにか100%に限りなく近づいている、という?
  翔:ひょっとしたら、最終的には120%にまで行ってしまうかもしれない、という。
  夢:うわぁ~そうか・・・
  翔:又市に関しても、まだまだ、役のほうが大きいんだけど、その中でも、田辺さんは、間違いなく何かを掴みつつあるし、すでに、自分のものにしてしまった部分もある。 それは、今回観ていて、ひしひしと感じた。
  夢:それが、安定感に繋がってるのかな。
  翔:私はそう思うけどね。
★    ★    ★
  夢:他の出演者については?
  翔:一番印象に残ったのは、嶋田久作さんかな。 なにせ、未だに「幻魔大戦」(だったっけ?)のイメージを引きずっているもので、こういう普通の役(笑)をやってイメージ壊してくれるのがうれしい。
  夢:真面目(まじめ)なんだけど、どっかズレてる。(笑)
  翔:「動画王」で、京極さんが、伊藤雄之介さんのイメージと言っていたけど、それ読んで、ものすごく納得した。(笑)
  夢:真面目すぎて邪魔になる?
  翔:だけど、それを、又市がうまいこと利用するじゃない。 口から生まれた小股潜り(又市)の面目躍如(めんもくやくじょ)だったよね。
  夢:あ、そうか。
  翔:あと、やはり奥村公延さん(芝右衛門)や石丸謙二郎さん(市村松之輔)は、さすがにうまいと思った。
  夢:先代将軍のご落胤(らくいん)にして辻斬り犯の長二郎をやった湯江健幸さんは?
  翔:うまいと思うけど、前回、北林弾正をやった四方堂亘さんの「狂気」が、未だに目に焼きついているから、湯江さんにも、あと一息、弱さの中に息づく狂気を、強く演じて欲しかった気がする。
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  夢:今度は、作品全体の印象について話したいんだけど。
  翔:最初に、「戻り橋の鬼」と呼ばれる辻斬りが、何人もの人を殺めるシーンが出て来るんだけど、すごく不謹慎な言い方になってしまうけど、ものすごく綺麗だな、と思った。
  夢:え?
  翔:私って、元来、残虐シーンをまともに観られないし、今回も、辻斬りのところは、半分目をつぶっていたんだけど、小面つけて能装束まとった鬼が獲物を捕まえるまでの動きが、それこそ「能」を観てるようで、そこだけは、しっかり凝視していた。
  夢:なんか、すごく独特だったよね。
  翔:首をカクッと動かす、後ろにスーッと動く・・・・人間じゃないようなその動きに、見入ってしまいました。
  夢:うん。
  翔:夜鷹(よたか)を殺(あや)めるところなんか、手前の板壁がフレームのような役割をしていて、まるで一枚の絵を見ているようだったし、紅葉の中で殺すシーンも、残虐ではあるけど、独特の美意識のようなものがあったな、と。 人がどんどん斬られて行く、その最中にこんなこと思っているのって、ほんとに不謹慎だと思うけど。
  夢:でも、その辺の美しさっていうのは、作り手も、十分計算してたと思うけどね。
  翔:あと、今回好きになったのは、隠れ家の中、ボロボロの障子の前の又市と勘兵衛(嶋田)のツーショット。
  夢:え? なんでまた・・・(笑)
  翔:なんでだろう? 囲炉裏の前に座っている又市の姿が、妙にツボにはまってしまったかな? 真面目一方の勘兵衛があーだこーだと絡(から)んで来る、それを適当にあしらって楽しんでいる又市が、なんだか微笑ましかった、ということもあるかもしれないし。(笑)
  夢:なるほどねぇ。
  翔:ただ、どうしてもしっくり来なかったのは、長二郎の始末を頼んだのが、公儀だったってこと。
  夢:え?
  翔:ご公儀って、又市たちと一番縁がないような気がする。 仕事としては成功したわけだから、きっと、仕事料もたっぷり入るんだろうけど、上の人間と繋がっている又市って、なんだか想像出来なくて・・・・
  夢:うーん・・・・
  翔:でも、それはそれとして、ストーリー的には 後味がよかった。 どうしてか、と考えたら、結局、仕掛けが、すごく「心地良いだまし方」になっていたからかな、と思う。
  夢:心地良い?
  翔:そう。 「恐ろしい」「怖い」という他に、本来、妖怪や物の怪(もののけ)が持つ、陽気なだましのテクニックを使って、人間をたばかる、という。
  もちろん、その手妻(てづま)は、人を殺めるために使われているんだから、けしてほめられたものじゃないのも確かなんだけど、それにしても、出来るだけ、一般人の身体も心も傷つけないように、という配慮がなされているような気がして、全体的に、心地良い、という印象になったのかもしれない。
  夢:それって、狸だからじゃないのかな。
  翔:あ、うん、そうだね、きっと。 狸だから、全体的に、どこかユーモラスな雰囲気になったのかもしれないし、それをまた、谷啓さんという、狸役にぴったりの俳優さんがやっていたのが、大きな要因になってたかもしれないね。(笑)
  夢:うん。(笑)