怪 -KWAI-(赤面ゑびす)(talk)

2000・7・20放送 (WOWOW)/トーク2002.7.9
★このトークは、あくまで翔と夢の主観・私見によるものです。

   夢:これ、翔は、「ある意味、一番京極らしかった」って言ってたけど?
   翔:実は、もう『福神ながし』(第4話)まで観終わっているんだけど、この『赤面ゑびす』が、一番「京極夏彦色」が強かったような気がした。 ゑびす島が、まさに「京極ワールド」そのもの、という感じがして。
   夢:具体的に、どういうところが?
   翔:京極さんが、物語の舞台に選ぶ場所って、現実と どこかかけ離れている、言ってみれば「京極箱」の中、というイメージがある。 今回で言えば、現実と少し離れた場所にゑびす島を置くことで、島を、思いっきり特異な世界にすることに、成功している。
  現(うつつ)と幻(まぼろし)、その橋渡しを又市たちがしている・・・又市たちが、特異な世界に足を踏み込んで行く過程が明確になっている。
   夢:・・・・ふ~ん・・・・・
   翔:因習とか祟り(たたり)とか因縁とかいう部分で、たとえば横溝正史金田一シリーズで用いた舞台設定と似ていると言えば似ているけど、横溝さんが、あくまで現実の世界から あの独特の舞台を構築しているのとは違って、京極さんは、もっと自由に空想をふくらませて、新しい特異世界を作り出そうとしている。
   夢:うーん・・・・?
   翔:金田一シリーズだと、どれほど陰惨な事件でも、どこか、現実に起こりうる、という、現世界と確実に繋がっている部分があって、だからこそ、怖い・恐ろしいという共感を呼ぶわけだけど、京極さんの場合、現実的な設定であるようでいて、どこか、「絶対にありえない」部分を内包している、と、そんな気がするんだよね。
   夢:・・・・うん。
   翔:その「ありえない」部分が、今はありえなくても、ひょっとしたら、いつか、どこかで現実のものになるかもしれない、という‘危(あや)うさ’が、人を惹きつける、魅惑するんだ、と、そんなふうに思う。
   夢:・・・・・・・・
   翔:ゑびす島の古い言い伝え。 それに縛られている島民。 百年以上も外部との交流が途絶え、小さな島の中で、深く深く降り積もり、淀み、濁り、腐りかけた「時間」。 閉鎖的な「異空間」・・・・
理不尽な因習に捕われたのは、六部(祈祷師)に祟られた島民ばかりではなく、六部の子孫である甲兵衛(本田博太郎)もまた同じだった、というあたりに、すごく惹かれた。
   夢:甲兵衛の描き方、というのは、1話の「弾正」や2話の「長二郎」と違うよね。
   翔:・・・たぶん、「追い詰められた苦しさから逃れたい、そのために事件が発生する」、という根本のところは同じなんだろうとは思う。
   夢:うん。
   翔:だけど、弾正や長次郎は、たとえ一瞬とはいえ「抗(あらが)い、勝った」という気持ちを持ったかもしれないけど、甲兵衛は、どれほど抗っても、「勝ち」を味わえたことは、一瞬たりともなかったんじゃないか。 けっきょく、加害者でありながら、最大の被害者でもあった、というあたりが、私がこの作品を好きな理由にもなっているんだけど。
   夢:本田博太郎さんの演技も、かなり影響してた?
   翔:ああ、もうそれはもちろん! すでに何かが壊れている、その上に、少しずつ積もって行く「狂気」・・・というのが、観ているこちらにも、ヒシヒシと伝わって来たからね。 最初から、百介に「恐い」と思わせる何かを持っていたし。
   夢:弾正あたりも恐かったけど?
   翔:弾正と甲兵衛は、百介との距離がまったく違うでしょう? 弾正は、話に聞くだけだけど、甲兵衛は、すぐ隣にいるわけだから。
   夢:あ、そうか。
   翔:実際に眼で見、肌で感じる恐怖、というものが、視聴者代表の百介をゑびす島に放り込むことによって、より リアルに感じられた、という気がするんだよね。
   夢:うんうん、それ、すごく分かる気がする。 百介が、甲兵衛と一緒に食事するシーンなんか、こっちまで、かたずを飲んであそこに座ってるような気持ちにさせられたものね。
   翔:又市と再会して、百介がどれだけホッとしたか・・・
   夢:うん。
   翔:あれほど「現実的でない世界」であるにもかかわらず、百介が味わった閉塞感や恐怖が、妙に生々しかった・・・どこかで味わった、あるいは、これから味わうかもしれない、と、観ているこちらが感じてしまう‘何か’があったような気がする。
★    ★    ★
   夢:博太郎さんは言うに及ばず、共演者が豪華なメンバーで。
   翔:火野正平さん、西崎緑さん、上杉祥三さん、小日向文世さん、六平直政さん、仁科貴さん・・・・
   夢:火野さんには、思い入れも深い?
   翔:やはり うまいよね。 さらっと演じているんだけど、しっかりした歯ごたえがあって、嘘にまぎれて本音がにじんで来るところなどは、さすが!と思ったし。
   夢:西崎さんも、きれいだったよね。
   翔:彼女、いったい何歳(いくつ)なの~!?(笑)
   夢:(笑)
   翔:西崎さん演じる寿美と、小日向さん演じる吟蔵は、甲兵衛によって引き裂かれた夫婦で、でも、甲兵衛の一番の理解者でもあったんだと思う。 けっきょく、この二人を斬ってしまったことで、甲兵衛の最後の箍(たが)が外れてしまった、とも言えるんじゃないかな。
   夢:うん。
★    ★    ★
   夢:・・・・・で、肝心の又市さんは?
   翔:うーん・・・今回、前回よりさらにワキにまわった感がありますね。
   夢:田辺・又市ファンとしては、せめてもうちょっと見せ場を作ってくれ~! ってな心境ですが。
   翔:そうだね。 まぁ、前にも言ったけど、又市たちの立場としては「物語の主人公」にはなれないわけだし、特に今回は算盤の徳次郎(火野)がいたから、目立たないようにしていた、ってこともあるのかもしれないけど。
   夢:・・・・う・・ん。
   翔:ただ、殺しの表現は、すごく練れて来たな、と思った。 レーザーも、だけど、お札を貼った相手の額に、人差し指をグッと押し込むところ、それを、障子の裏から影で見せるあたり、「かっこいい!」と思ったし。
   夢:うん。
   翔:あと、おぎん(遠山景織子)を、又市の鈴が操っている、みたいなシーンがあったのも、嬉しかった。 又市の「力」というものを、しっかり見せられていない、と、いまだに思うので。
   夢:その辺、4話に期待するもの、大きいよね。
   翔:そうだね。
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