1998・9 CD-ROM発売
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。
夢:手元に届いてから実際観るまでに、1年半ぐらいの間があった。 随分時間がかかったよね、興味持ってたわりには。
翔:PCのCD部分が壊れていて、長い間自宅で観ることが出来なかった、ということもあるけど。
夢:ネットカフェでもどこでも、観る気なら観られたでしょうに。
翔:・・・私にとって、この作品は「パンドラの箱」みたいなところがあって、蓋(ふた)を開けるのに躊躇(ちゅうちょ)していた、ということもあったので。
夢:何故?
翔:『眠らない羊』にしても『DOG-FOOD』にしても、田辺さんの作品って、こちらに直接ぶつかってくるものがあまりにも強過ぎる、という感じがするから。 私個人の感じ方だと思うけど。
夢:そこまで‘受け取っちゃう’人も珍しいと思うけど。 まぁ、『羊』読んでPC触れなくなったくらいの人だから、ね。(笑)
翔:友人から、この中に入ってる詩をいくつか教えてもらったんだけど、もうそれだけで辛(つら)くなったりしてたから。(苦笑)
夢:平静でいられる自信がなかった?
翔:うーん、まぁ・・・
夢:翔にしては、えらく歯切れが悪い気がするけど。
翔:・・・でも、負け惜しみじゃないけど、今観てよかったな、という気はする。
夢:時間を置くことで、変化があった?
翔:それはもう、間違いなく。 もちろん、私個人の捉え方として、でしかないけれど、田辺さんの内には、今現在、揺るぎないものとして存在してるものがあり、絶対に捨てられないものがある、と、そう確信してる自分がいるから。
夢:うん。
翔:それは何か、と言ったら、この作品に顕(あら)われている「田辺誠一」という人間と背中合わせの関係にあるもの、なんじゃないか、と。
夢:?
翔:以前の田辺さんの創作作品って、「受け取って欲しい!」という、強い願いの上に乗せられていたような気がする。 「作品」として顕(あら)わにされた「自分の感情」を、全面的に受け止めてくれる人を、真剣に捜(さが)していた、という感じがする。
夢:・・・そう言えば、翔は、以前よく、「田辺さんは、‘応(こた)えて欲しい’と思ってるんじゃないか」って言ってたよね。
翔:「受け取る」ということは、「背負う」ことだよね。 その人の痛みや喜びを、自分の中に取り込まないと、受け取ったことにはならない。
夢:うんうん。
翔:田辺さんにとって、「受け取ったよ」と応えてくれる人が多ければ多いほど、そのフィールドが高ければ高いほど、嬉しい・・というか、救われたような気持ちになったんじゃないか、と。
夢:うーん・・・・
翔:でも、今の田辺さんは、たぶん違うんじゃないかな。
夢:え?
翔:今の彼は・・・何だろう・・・・ そう・・「与えたい」と思ってるんじゃない?
夢:「与えたい」?
翔:自分が好きで「形」にしたものを、表に出すことが、ただ嬉しいし、楽しい。 そういう「自分」を、ただ人に与えられる環境にいるだけで幸せになれる自分がいる。 だから、見返りはいらない・・と。
夢:相手が受け取ろうと受け取るまいと、そんなことは問題じゃない?
翔:発信した以上は、何かしら返って来ないと不安になる、ということはあるし、応えがないと、何とか応えを引き出したい、と思ったりするんだけど、でも、受け取るか受け取らないか、は、受け手の気持ち次第でいいはずだ、とも思うんだよね。
たとえ何も返って来なくとも、発信し続けることで、自分の中に生まれてくるものや、発見や、そういう、「自分にとっての何か」が、間違いなく生まれているはずだから。
夢:・・・・・・・
翔:田辺さんが、実際どういう気持ちか、というのは、分からないけれど、たぶん、作品の中で探していたものの答えが、もう見つかってる、と、そんなふうにも思ったり。
夢:探し物が見つかった?
翔:・・・・と言うか、表に吐き出さなくても、ちゃんと身体内で消化できるようになった、そういう基礎体力がついた、と言うか。
夢:・・・・ふ~ん・・・・・
翔:そこに至るまでの‘紆余(うよ)曲折’というのは、実は、彼の出演作品の中にも、色濃く跡を残していて、感想をトークしていると、ちょくちょくそういうものにぶち当たっていたわけだけど。
夢:・・・・ああ、うん。
翔:いろいろな作品に出会って、真摯(しんし)にぶつかって、そうしていくうちに、少しずつ変わって行ったんだろうし、特に、『ハッシュ!』という、たぶん田辺さんにとって「特別」な作品と出逢い、結婚をし、前にも増していろいろな人格の役柄がオファーされ、そして今の彼がある・・・・ そのステップを、ちゃんと見届けられたから、「もう大丈夫」という気持ちになったのかな。
夢:「パンドラの箱」を開けても?
翔:はい。
夢:・・・・そうかぁ・・・・・
翔:たぶん、今、彼が作品を創るとしたら、以前とはちょっと違った方向に向かうような気がする。 シャープさが影を潜めて、ひょっとしたら物足りなく思ったりするかもしれないけど、私は、今の田辺さんは、それでいいような気がする。 というか、今の彼は、以前のような形のままでは「創る必要がない」と思ってる、と、そんなふうにも思えるんだけどね。
夢:う~ん・・・・
翔:もちろん、これらは、「私(翔)としてはこう受け取った」というパーソナルな感想でしかない、ということを、改めて訴えておきたいと思いますが。
夢:うん。
翔:・・・・いつか、もっとずっと後でいいから、田辺監督に 橋口監督のような作品を創って欲しい、というのが、私の今の正直な気持ちです。