リング0(talk)

2000・1・22公開
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

  翔:映画館で映画を観るのは本当に久しぶりだった。 
  夢:やっぱりTVやビデオで観るのとは違う?
  翔:全然違う。 やはり、あの大スクリーンの前で、余計な雑念に惑わされないで、その世界に浸れる、って、すごい。 田辺さんが、ビデオじゃなくて映画館で観て欲しい、と言っていた意味が、改めて良くわかった。
  夢:あたしはちょっと前に観に行ったんだけど、初めて田辺さんを映画館で観た、というだけで、感動しちゃった。(笑)
  翔:今まで何本もの映画に出てるけど、全国的に展開された、いわばメジャー映画は、田辺さん自身初めてだったわけだし、だからこそ私たちみたいな地方に住んでいる者も、観る事が出来たわけで・・・・
  夢:でも、翔は、観ようかどうしようか迷ってたよね。
  翔:田辺さんを映画館で初めて観る、その記念すべき作品が、『リング0』でいいのかどうか、という、妙なこだわりがあったから。 でも、田辺さんをスクリーンで観たいという想いに負けました。(笑)
  夢:一応ホラーだったわけだけど、「怖い」という感じはしなかった。
  翔:私も。 怖いのはあまり好きじゃなくて、でも、夢が「怖くない」と言ってたから、安心して観ていた。 『リング』も『らせん』も『リング2』もビデオで観たけれど、怖いというより、怨念がビデオに乗り移ったり、遺伝子の話になったり、という、原作からの興味の方が強くて、ホラー映画という感覚で観ていなかったし。
  夢:原作の「レモンハート」っていうタイトルがぴったりの、ラブロマンス。
  翔:そして、一種のファンタジーでもあったと思う。 仲間由紀恵さんの貞子が、美しさと昏さと、怯え(おびえ)とが交じり合って、出色の出来。 迎え撃つ(?)田辺さんの遠山は、とにかくやさしい。 
  夢:貞子にあんな眼で見つめられたら、遠山くんじゃなくてもクラッと来ちゃうよ~、と思わなかった?(笑)
  翔:思った。(笑) 貞子の大きなキラキラした瞳が、「助けて、助けて!」って必死に訴えてくる。 もう、遠山は、気になってしかたない。 謎の美少女に惹(ひ)かれ、どんどん深みに嵌(は)まって行く。 
  あのアイコンタクトがあったから、周りの人間が皆、貞子を気味悪がっても、遠山だけは、彼女を信じることが出来たんだと思う。
  夢:ガラス越しに手を重ね合わせるシーンは、ホントに切なかった。
  翔:自分の不可思議な力を考えた時、はたして遠山にすがってしまっていいのか、貞子には迷いもあったと思う。 だけど、遠山なら分かってくれるんじゃないか、この人ならきっと・・・と、おずおずと手を差し出す。声にならない声で、「ア・イ・シ・テ・ル」とつぶやく。
  夢:そして、遠山もまた、その手に自分の手を重ねて「ア・イ・シ・テ・ル」と・・・・
  翔:私がこのシーンを好きなのは、二人が、お互いを深く愛している、というところまで辿り着いていない、まだ、本当に「恋」の入口に立ったばかりの、だからこそ求め合い、ひかれあう‘想い’の純粋さ、みたいなものが、表現されていたから。 声に出して言ってしまったら、壊れてしまうんじゃないか、と畏(おそ)れている、ふたりの「おののき」までが、手に取るように理解出来た。 
  夢:切ないね、ホントに。
  翔:演出ももちろんだけど、仲間・田辺コンビが、「恋の始まり」の危うさ(あやうさ)や深さを、心を込めて演じていて、印象に残るシーンになりました。     
  夢:あと、貞子が気絶して、遠山の家で目を覚ました時、遠山が、「うなされてたよ」って言うじゃない。 その時の遠山くんの声が、すごくやさしくて、きっと、貞子の一生で一番安らげた瞬間だったんじゃないか、って。
  翔:私もそう思う。 そのシーンが、最後の最後、あんな形でリピートされるなんて・・・
  夢:井戸に突き落された貞子に、遠山の声が聞こえてくる。 これ以上ないくらいのやさしい声で「貞子・・」と。 気がつくと、貞子は、遠山のベッドで横になり、そんな彼女の顔を、遠山が、心配そうに覗き込んで言う、「うなされてたよ」・・・・
  翔:一瞬、悪い夢を見ていたのか、と、ホッとするんだけど、現実はやっぱり深くて暗い井戸の底、なんだよね。
  夢:この時の貞子の絶望、って、いったいどれほどのものだったか。
  翔:遠山の存在がなければ、かえって、あれほど哀しい絶望にはならなかったんじゃないか、とも思うんだけど。
  夢:・・・・と言うと?
  翔:どれほどの悪夢にうなされても、遠山が救い出してくれる、と、一時的にでも、貞子は信じた。 遠山の、やさしさ・温かさを知ってしまった。 だから、彼を失ったことで、絶望も増幅してしまったんじゃないかと。
  夢:うーん。
  翔:貞子は、あの井戸の中で、何度、遠山の「貞子・・・」というやさしい呼びかけ、「うなされてたよ」という心配そうな声を聞くことになるんだろう。 だけど、目が覚めるたび、現実を知り、絶望に囚(とら)われる。 その繰り返し・・・永遠にその繰り返し・・・・・
  そう考えたら、彼女の思念が、井戸の中で形をゆがめて行ってしまったのも、仕方のないことだったのか、という気がして、『リング』に続いて行く物語の、根っこ部分を見せ付けられた気がした。
  夢:そう・・ 映画が終わった時、これから続けて『リング』・『らせん』が始まるんじゃないか、みたいな気分になったものね。
  翔:そうだね。 まぁ、全体的には物足りない、突っ込み不足のところもあって、貞子が劇団員たち(を含む世間)に追い詰められることになる起因(原因)の部分が弱い気がしたし、もっともっと貞子を覆い尽くすような「集団の人間が生む恐怖」みたいなものが表現されないと、ラストの井戸の中の貞子の「怨念」に繋がる部分が、いくら「遠山との純愛」という切なさがあるとはいえ、十分な説得力を持たせられなかったんじゃないか、という物足りなさはあるんだけど。
夢:・・・・ああ、そうか、確かにそうだね。
  翔:それから、ひとつ、どうしても納得出来ないところがあって・・・・
  夢:え?
  翔:遠山の最後の笑顔の意味は何だったのか。 また、貞子はなぜ、遠山を殺してしまったのか。 いくら考えても解からない。
  夢:ああ、でも、それ、あたしも思ったよ、なんで貞子が遠山を殺さなきゃならないの、って。 たぶん、「もうひとりの貞子」が関係してるのかなって思ったんだけど。
  翔:う~ん・・・・謎です。
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  夢:さて、「私の一番」ですが。
  翔:ラストの「貞子・・・・」という一言にも胸を熱くさせられたんですが、やはり、ガラス越しのシーンかな。
  夢:あたしもです。
  翔:サラサラと流れるように進んでしまうストーリー、貞子の周りの人間の恐怖の爆発や、もうひとりの貞子の存在に対する違和感、遠山があまりにも「いい人」過ぎること・・・・
  確かに、物足りない部分もいろいろあったんだけど、貞子と遠山の関係を想う時、 同年代の俳優さんで、あの「純愛」を素直に表現出来る人が他にいるだろうか、と考えると、遠山もまた、田辺さんが演じる意味があった役だったんじゃないかと思いました。
夢:うんうん。
翔:ラスト、井戸の中の貞子のシーンに、ラルク・アン・シエルの主題歌がかぶって流れるんだけど、すごく余韻が残る幕切れになっている。 これから映画を観る人には、ちゃんと曲が終わるまで、席を立たないで、その余韻に浸ることをお薦めしたいと思います。