今さら『消えた初恋』感想

昨年(2021年)10月9日 - 12月18日テレビ朝日系で放送されたドラマ。今さらながらの感想です。

いや これ すご~く楽しかった!そしていろいろと考えさせられました。

一番最初に感じたのは、これはまさに「ドラマによって描かれた少女漫画だな」ということ。
漫画を原作にしたドラマは数えきれないくらいたくさんあるけれど、その空気感だったり世界観だったりをきちんと実写の中に落とし込むことに成功している作品はそれほど多くない。薄っぺらい背景(バックグラウンド)しか表現出来なかったり、ナマの人間臭さみたいなものが画面から伝わって来てしまったりして、心地よく「(ドラマが作り出す)漫画の世界」に浸ることが出来ない、ということも多くて。
数か月前(2022.5-NHKに放送された『17才の帝国』というドラマで、アニメ原作ではなかったにもかかわらず「これはアニメだ!」と強く感じさせられたことがあって、そのことにいたく感動してしまったことがあったけれど、この『消えた初恋』もまた「少女漫画でしか描けない‘嘘’を三次元化すること」におおいに成功していて「これは少女漫画だ!」と自然に思うことが出来て、そのことが何だかすごく嬉しかったです。

なぜそれが出来たのか。
原作を読んでいないので、どこまで原作の持ち味を練り込んだかは分からないけれど、
少なくともこのドラマにおいては、脚本の巧(たく)みさ、演出の誠実さ、演じ手の素直さ、が、いい意味で、(生身の人間が演じることによる)漫画的嘘っぽさの破綻(はたん)を免(まぬが)れていて、安心して観ていられたからではないか、という気がします。

登場人物がみんなピュアで素朴で一途で純粋で‥いやいや実際の高校生はこんなもんじゃない、と言われればそれまで。でも、最初からそんなリアリティを目指していない。男だとか女だとか、そういうものに囚(とら)われることから解放されていて、なんだかみんな妖精みたいで、そういう世界観がドラマの中でちゃんと成立していて、観る側をすんなりその世界の中に引き込んでくれる、その無理のなさが心地良くて。

まず第一に、脚本が良いのだなぁ、と思う。
消しゴムの勘違いは、青木が橋下さんは井田を好きだと思い込み、井田は青木が自分を好きだと思い込み、橋本さんは青木が自分の好きな人(あっくん)を好きなんだと思い込む、という、超複雑な感情のもつれを生むんだけど、そんな中、彼らやその周りにいる人たちのセリフひとつひとつが優しさや思いやりに溢(あふ)れ、どれもこれもキラキラしていて、心に沁みて。

以下、翔厳選、心に響いたセリフ集。ちょっと長くなりますが、お付き合いください。

1話▶「気持ちはちゃんと自分で伝えないと意味ねえから。いいかげんなことはしたくないんだ」
2話▶「お前は優しいな。だから‘俺なんか’って言うなよ」
3話▶「恋愛とか分かんねえし、こういうの初めてだし、まさかの男だし‥でもおまえいい奴だから、忘れたんじゃなくて、どう接すればいいのかって考えてた。不安にさせてごめん」
▶「人を好きになるのにやばいなんてことないよ。その気持ち大事にしなきゃだめだよ。だからいっしょにがんばろうね」
4話▶「俺、青木にひでえこといっぱい言った。友達失格じゃん・・そりゃあ青木もなんも言わねぇわ」 「違うよ、大事だから友達だから言えなかったんだよきっと」
▶「つまりおまえに本当のことを言えなくした犯人は‥俺だ。青木‥ごめんな」 「普通にやばいって思うでしょ。俺が井田のことそう思ってたら」「じゃあその“普通”が間違ってるだろ‥別におまえが誰を好きだろうと、青木は青木だろ」
5話▶「真剣に好きだって言われて、応えたいって思ったんだ。そういう理由でおまえとつきあうのはだめなのか?」
7話▶「俺は誰かの為に頑張ってる青木のこと、すげえいいと思ってるから」
▶「橋下さんと付き合うって正直あんまイメージ出来ない‥ごめん。でも俺、橋下さんのこと友達として好きだよ。もったいないことしたな、今まで俺ら‥」 「これからもっと知ってもらえるように頑張っていい?」 「おう、かかってこい」
▶「これからは困ったことがあったらなんでも相談しろよ。つきあうってよくわかんねえけど、ふたりでよく話し合ったり助け合ったりするんじゃないのか。少なくともおれはお前が困ってたら助けたい」
8話▶「青木のこと気持ち悪いなんて思うわけないだろ」
▶「何十年もこの仕事してると、いろんな生徒に出会うんだよね。みんなそれぞれいろんな個性を持っている。教師っていうのは、そういった個性を見守って行くことが仕事なんじゃないかって‥」
▶「そうやって線引きされたくねえんだよ。ただ教えてもらって嬉しかったんだ、初めて出来た先輩っていうか兄ちゃんみたいで‥」 「それは‥知らなかったから‥だって最初は‥」 「俺、最初から変わってないよ」
▶「正直青木くんのこと簡単には理解出来ないけど、でも約束破る理由じゃなかった、ごめん」 「俺だって誰でもいいわけじゃない。井田が好きなんだ」
▶「見事にバラバラだな。ここは味噌がうまいんだぞ。‥ま、いいか。何が好きだろうと人の自由だしな」
9話▶「こっちは真剣なんだ。おまえ俺と本気で付き合う気ねえだろ。だからそんなこと出来るんだ」
▶「ちゃんと自分の気持ち青木に伝えたのか?浩介のほっとけない病じゃないよな。おまえ困ってる人に弱いから。向こうはおまえのこと好きなんだから、同情だったら青木に失礼だろ」 「同情‥ではないな、俺も青木といて楽しいし」 「それって、青木の‘好き’と同じか?お前の‘楽しい’は、俺とかバレー部のみんなと一緒にいる時の‘楽しい’と一緒じゃないのか。ちゃんと自分の気持ち考えた方がいいって。中途半端な気持ちだったら青木も浩介も辛くなるだけだと思うよ」
最終話▶「井田だけ試合の時パスもらえなかったらどうしようって‥そんでめちゃくちゃ部費払わされて部費のために週7でバイトしてグレて退学になったらどうしようって‥とにかく井田の周りがいい奴でほんとによかった。ありがとう」
▶「やっぱり青木はすごいな、自分の気持ちがちゃんとわかって正直に言えて。おまえが照れたりあせったりしてるの可愛いから‥青木のそういう顔見るといつも胸が苦しくなる‥ただの友達とは思えない」
▶「板チョコ‥しかも食べかけだし。普通はみんなケーキとかもっとクリスマスっぽいの用意すんのに‥」 「いいだろ、みんなと一緒じゃなくたって」 「そうだな」

‥これでもだいぶ削ったんだけど、長かったですねw
で、文章起こししていて思ったのだけど、「ありがとう」とか「ごめん」とか、そういう言葉がどの登場人物からも自然と出てくるんですよね。相手を理解しようとする気持ち、リスペクトする気持ちがちゃんとある。
その上で、男が男を好きになる、という展開以前に、恋とは何か、好きになるってどういうことか、友情とは何か、その、人間対人間の基本的な繋がりを、漫画独特の嘘っぽさ(ありえなさ)のオブラートに包んで、甘酸っぱく、しかししっかりと描き出しているから、いい意味でナマっぽさがない、いやらしさがない関係性を生み出すことが出来ている気がします。
マイノリティ(少数派)に対する容認・肯定に無理がないのは、登場人物のほとんどが、
相手がどんな人間であっても否定をしていないから‥誰が何をしようと、その人の持つ本質(本来の姿)を好もしく思い、認めているから‥なんだと思います。異色のカップルやら、一直線の委員長やら、しっかり者の副委員長やら、ああいう個性満載のクラスなら、なるほど、どんな人でもどんと来いだよなぁ、と。w
みんなまっすぐで、おおらかで、グチグチしてなくて、悩みや疑問にきちんとぶつかって行く。生徒たちがみんな役にストンとハマって、絶妙な軽さを醸し出していて、悪人が出てこないせいか雑味がなくて屈託なく笑える。そんな空間に入り込んだ居心地の良さに存分に浸れるドラマ。それが一種の爽快感にも繋がり、癒しにもなっている、というのが、このドラマの心地良さの所以(ゆえん)なのではないか、と。
それは、もちろん俳優さんたちが役を掴むのがうまかったということもあるけれど、演出側が、そういう世界に彼らをうまく導いて作り上げた空気感でもあった気がします。


キャストについて。
いやあ、これはまた、うまいことキャスティングがハマったなぁ!と感嘆符つけたいくらい。
青木(道枝駿佑)×井田(目黒蓮)×橋下(福本莉子)×相多(鈴木仁)というカルテットが本当に魅力的で、彼らのことがどんどん好きになってしまって困ったw

青木想太(道枝駿佑
道枝くんは、漫画的感情の出し方、みたいなものをちゃんと心得ていたように思えたし、全体を引っ張って行く主役としての底上げ力みたいなものも感じられて、すごく安心感がありました。フワ~ンとした優しい空気感が独特で、甘さもあって、これからもこういう役で使われて行くことが多いんでしょうが、いずれ、ちょっと陰のある役も観てみたい気がします。
(以後、何となく「なにわ男子」への興味が湧いて来た翔なのであったw)

井田浩介(目黒蓮
青木が「普通じゃない自分」にジタバタするのに対して、井田は万事おおらか‥と言うか、いい意味で鈍感w。感情を大っぴらに表現出来る青木役の道枝くんと違って、あまり自分の気持ちをストレートに出せない受け身の役なんですが、目黒くん演じる井田は 青木への視線がいつもまっすぐで、何があっても動揺しなくて、すべてを包み込む懐の大きさみたいなものがあって、とても良かったです。
(以後、何となく「Snow Man」への興味も湧いて来た翔なのであったww)

二人の関係が、甘過ぎずベタつかずスキッとしていたのは、青木(道枝)と井田(目黒)の立ち位置が、“恋愛”という重さに引きずられないところに絶妙に留(とど)まっていたから。それは、脚本と演出の上手さはもちろん、道枝×目黒という演じ手の味わいが、役の中にうまく溶け込んだからでもある、という気がします。

橋下美緒(福本莉子
実はこの役がとても大事だったように思います。
青木がいて、井田がいて、そこに女子が絡む、というドラマだと、橋下さんが三角関係の一角を担う、という形になるのが普通なんじゃないか、と思うのですが、序盤で青木が橋下さんにあっさり振られ、以後、二人の関係が片想い同士の友情に発展して行く、その過程がとても自然で、可愛かった。
このドラマを、窮屈なBLというジャンルに押し込めてしまわず、もっと自由な世界のお話に出来たのは、道枝くん、目黒くんの持ち味のおかげでもあると思うのですが、福本さんが橋下さんを超絶前向きでシャキシャキした女の子として演じ、観ている側に嫌われないキャラになっていたことも大きかったんじゃないでしょうか。

相多颯人(鈴木仁)
相多くん、好きだったなぁ。この人がいたから、青木は青木のままでいられたような気がします。青木が井田を好きだと知る前も、知った後も、まったく変わらず自然体で青木の友達で居続ける。かと言って、二人を心配し過ぎて先回りして手を差し伸べたり、余計な口出しをすることもない。
橋下さんが自分のことを好きだと全然気づいてなくて、まったくの無反応で、それでもめげずにアタックし続ける一途な橋下さんがとっても可愛かったです。

周囲にいる同級生やバレー部の生徒たちも、皆キャラが立って面白く、魅力的。
豊田(望月歩
井田と同じバレー部員で、井田のことを何くれとなく心配してくれている。最初、彼も井田が好きなのか、と思ったのですが、他校に彼女がいるということは、そうじゃなかったのね。望月くん、『17才の帝国』や『元彼の遺言状』で印象的な役をやっているのを観て、最近気になってる俳優さんです。
(望月くんや鈴木くんは『3年A組~今から皆さんは、人質です』にも出てたんだなぁ。改めて、あのクラスって、若手俳優の宝庫だったなぁ!と思う)
2年3組の学級委員長(西垣匠)、副委員長(倉島颯良)、万事芝居がかったカップル(前原瑞樹・平田玲奈)、井田と青木を応援してくれたバレー部部長・鈴木(石田泰誠)と部員たち(渡邉甚平・長谷部光祐)‥
練習試合に来た他校のマネージャー・ココミちゃん(大原優乃)の意中の人が、井田じゃなくて谷口先生だった、というのも、いいエピソードだったなぁ。(私と好みが一緒だわ、と一方的に親近感が湧いたw)
とにかくもう出てくる生徒たちみんな可愛くて可愛くて、思い出すだけでニヤケてしまう(←あぶないおばさんw)

そんな可愛い生徒たちに対する大人たちがどういう立ち位置にいるか‥というのも、なかなか重要だったんじゃないかと思います。この漫画的世界観を壊さないためには、大人たちもちゃんとその空間に息づいていないといけないわけで。

クラス担任・谷口先生には、こういう見守り系の役はお手のもの(最近では『雪の華』とか『あんのリリック』とか)と言ってもいい田辺誠一さん。ココミちゃんから告白され、彼女の想いをやんわりと退(しりぞ)けたり、青木と井田のことを知っても態度を変えずにいたり、生徒たちを理解しているけれども、距離感はちゃんと保たれている、いい先生なんだろうな、というのが伝わってきました。

林間学校の鬼教官(丸山智己)が実はスパルタ嫌いだったり、井田の母(松下由樹)がシンデレラを演じた青木のファンになっちゃってたり、と、大人たちが生徒たちと敵対する立場になっていない、というのも嬉しかった。

このドラマの中で、唯一、ちょっとトゲのある感じだったのが、谷口の教え子で教育実習に来た岡野(白洲迅)。青木と井田の関係に驚き、色眼鏡で見てしまうような、常識にあてはめて考えてしまうような役で、彼を兄のように思っていた青木が彼の言葉に傷ついてしまったりもするのですが、結局は、自分の偏見を素直に認めて、二人を理解しようとする、とてもいい人で、岡野・青木・井田が並んでラーメンを食べるシーンは、ほっこりしました。
(田辺ファンとしては、白洲くんと一緒だと『刑事7人』って感じなのですが、職員室でのやりとりなど ちょっとそんなイメージを残しながらも良い師弟関係になっていて微笑ましかったです)


エピローグ。新学期、恒例の席替えで、4人はまた近くの席に。テストの時消しゴムを忘れた青木が井田に借りるとそこには‥「アオキ♡」。 ——うん、いいオチでしたw

毎回30分、観やすくて面白かったですが、この続きはどうなるんだろう、このタッチのまま、もっと二人の関係が深まって行ったら、脚本は、演出は、そして若き俳優たちはどういう表現をするんだろう、という興味が湧いてしまって止められない‥w
これはもう、ぜひ続編を!


『消えた初恋』
放送:2021年10月9日-12月18日 毎週土曜23:30 - 0:00(オシドラサタデー)
原作:ひねくれ渡 作画:アルコ 『消えた初恋』
脚本:黒岩勉 監督:草野翔吾 宝来忠昭 音楽:富貴晴美
主題歌:Snow Man「Secret Touch」 なにわ男子「初心LOVE」
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子テレビ朝日
プロデューサー:神田エミイ亜希子(テレビ朝日) 尾花典子ジェイ・ストーム) 伊藤 学(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ 製作著作:テレビ朝日ジェイ・ストーム
出演:道枝駿佑(なにわ男子) 目黒蓮Snow Man
福本莉子 鈴木仁 望月歩 大原優乃 
西垣匠 倉島颯良 前原瑞樹 平田玲奈 石田泰誠 渡邉甚平 長谷部光祐
白洲迅 丸山智己 松下由樹 田辺誠一 他
公式サイト