『妻たちの新幹線』感想

『妻たちの新幹線』感想
1時間13分という短い時間でしたが、
ドラマの中にドキュメント部分をうまく混ぜ込んで
全体をそつなくまとめた、という印象を受けました。
ドラマとしては、もうちょっとメリハリが欲しい気がしましたが、
ドキュメンタリーとしては、淡々とした進み具合だったことによって、
かえって伝わって来るものがあったような気がします。

登場人物の中で私が一番好きになったのは、十河国鉄総裁(伊東四朗)。
「おまえの好きなようにやれ。あとは俺が何とかする」
と、技師長になった島秀雄中村雅俊)の背中を力強く押してくれたり、
事故の時には被害者の家を一軒一軒頭を下げて回ったり・・
そんな明治男の気骨と気概を持った人でありながら、
一方で、病気の妻(加賀まりこ)を心配して、
妻の手と自分の手を赤い紐で繋いで寝ている、なんて、
すごく素敵な人だな、と。
夫である伊東さんと妻である加賀さん、二人が醸す熟成した空気感を
もう少し長く味わいたかったです。

島一家。
父・秀雄(中村)や母・豊子(南果歩)は、てっぱんの「いい人」で、
中村さんも南さんも適役。

私はむしろ、立派な父親に劣等感を抱く息子・隆(溝端淳平)の方が、
感情移入出来ました。
溝端くんが持つ きちっとした雰囲気がうまく役に乗っていたので、
隆が頑張っていい仕事をするようになるその過程を
こちらも、もうちょっと深く描いて欲しかった気がします。

島の娘・久美子を演じた真野恵里奈さん、
しゃきっとした気持ちの良い空気感を持っていて いい感じ。

技術屋たちの中では、池内万作さんが印象に残りました。
無理なく空気に溶け込んでいて、違和感がまったくない。
こういう「無理のなさ」ってとっても大事だと思うのですよね、
特に、こういったドキュメンタリードラマにおいては。

そしてもう一人気になったのが、
いつも総裁の健康を気遣っている人。
調べたら、演じていたのは蟹江一平さんでした。
こういう斜め後ろに控えているような役にも魅力を感じます。

田辺誠一さん。
こういうドラマに出演しているのを観て いつも思うのですけど、
この人は 昭和の空気に それほど違和感なく入り込めるんだなぁ、と。
特にNHK名古屋放送局制作だと、
『最後の戦犯』といい『気骨の判決』といい 今回といい、
それが顕著なのはなぜでしょう。
途中、ちょっと浮ついてハラハラしたところもあったんですが、
(私には 少し無理しているように感じられた)
全体を通しての雰囲気は、とても良かったように思いました。

ドラマの中のどんな役であれ、
‘仕事をしている男の姿’に惹かれる私としては、
今回の石澤が、仕事に実直な 出来る男 として描かれていたのが
嬉しかったです。


NHK名古屋放送局テレビ放送60年記念『妻たちの新幹線』     
放送日時:2014年10月25日(土)19:30-20:43(NHK総合
原案:�癲橋団吉「新幹線をつくった男 島秀雄物語」
脚本:大森美香 演出:佐藤 譲 制作統括:青木信也(NHK名古屋放送局制作部)
音楽:村松崇継 制作:NHK名古屋放送局
キャスト:中村雅俊、南 果歩、溝端淳平真野恵里菜藤井美菜田辺誠一中原丈雄
加賀まりこ伊東四朗 他  『妻たちの新幹線』公式サイト