今さら『女王の法医学~屍活師~』感想

昨年(2021年)5月31日にTV東京系で放送されたドラマ。今さらながらの感想です。

2時間ドラマですが、なかなか密度が濃くて、誘拐と心中という二つの事件を解きながら、登場人物それぞれの性格や持ち味、事件への関連性、法医学の現在の立ち位置までしっかり描いていて、面白かったです。

医大生・犬飼一(松村北斗)は、バイトと兄弟の世話に明け暮れ、脳外科志望なのに 一人だけ法医学研究室配属となってしまいます。
研究室のメンバーは、教授の丹羽(石坂浩二)、助教の高嶺(新実芹菜)、検査技師の林田(小松利昌)、そして准教授の桐山ユキ(仲間由紀恵)。
大学内で「女王」と称されるユキに「救助犬のほうがよっぽどマシ」としょっぱなから悪態をつかれ、ワンコ呼ばわりされる犬飼。

そんな折、シートベルト不着用が原因でパトカーに追われていた車が 駐車中の車に激突し、運転していた男が死亡するという事件が。
パトカーの過剰追跡ではないことを証明したい警察から解剖を依頼されたユキは、遺体の手に小さな歯形を見つけて解剖するのをやめ、車の中にインスリン注射器があったことを県警の村上刑事(田辺誠一)から聞いて、子供が関わる事件性を指摘します。
やがて、身代金の受け渡しに犯人が現れなかった誘拐事件の発生と、誘拐された子供が見つかっていないこと、その子が小児糖尿病であることを知らされると、ユキは改めて遺体と向き合い、事件の手掛かりを求めて解剖を始め、頭の擦過傷が不自然なことに気づきます。
そこから、被害者・警察・解剖医それぞれの事件解決までの姿がポンポンとテンポ良く描かれるのですが、中でも、誘拐された病気の息子を案じて憔悴する母親・坂木菜々美(梅舟惟永)の姿は、観る側に事件の重みを感じさせてくれたし、それが、次の心中事件の、自分の娘が心中することが信じられない(理屈じゃなくて感覚的にそんなことをする娘じゃないと知っている)藍田早智恵 (山下容莉枝)の わが子を深く信じ愛する姿に重なって、この二人の存在が、それぞれの事件における真実性(ドラマとしてのリアリティ)の深まりに繋がっているように思われました。

大学教授の川越克久(湯江タケユキ)とその秘書である藍田満里(中田クルミ)の心中事件。
娘が心中などするはずがないと訴える早智恵が、事件性がない死亡なので司法解剖は出来ないが 死因究明のための承諾解剖としてなら行える、とユキに言われた後の、「解剖すれば本当のことが分かりますか?」という問い、それに対して「やってみなければわかりません。でも、やらなければ何もわかりません」と答えるユキとのやりとりが重かった。解剖というのは遺体を傷つけること、亡くなってなおメスを入れられることに対する重いためらい、それでも真実を知りたいという母親の一途な願い‥
結局、解剖では一酸化炭素中毒ということまでしか分からず、睡眠剤を注射して眠ったまま亡くなったと思われる、という結果になり、やはり心中なのか、と自分を何とか納得させ、あきらめようとする早智恵。
ユキは、「心中とは断定出来ない。私が分かるのは死因だけで、ここからは警察の捜査ですから」と言い、その言葉につられるように、村上は、念のため関係者に当たってみる、と早智恵に約束します。

とは言え、すでに心中として収まりかけている事件を掘り返すのは 簡単なことじゃない。
苦肉の策で、課長(阿南健治)をしれっとダシに使っちゃう村上と、それにホイホイ便乗するユキがなかなかおちゃめで、いいコンビぶりでしたw

そこから、改めて、村上(と彼にくっついて行動するユキ)による事件の洗い出しが リスタート、夫と距離があって冷め切っているように見える川越塔子(かとうかず子)や、川越に代わって学部長有力候補になった本郷(利重剛)など、いかにも怪しい人たちが出て来たり、不倫の証拠写真の存在、SNSへのリークなど、ざわつく出来事が事件に絡んで来たり。
それらが、ただ、視聴者を欺(あざむ)(真犯人=新井(松澤匠)を見つけ難くする)役割を担っていただけでなく、直接二人の死に手を下したわけではない人間たちの、罪とは言えない程の悪意や猜疑が、事件の引き金となり、解明を困難なものにし、間違った方向に向かわせようとする、という深みもあって、必死で踏みとどまりながら、何とかして正しい解決に繋げようとするユキたちの懸命の努力に、観ているこちらも彼らの背中を押したい気持ちになりました。

一方で、ミステリーとして観た場合、殺人の動機はともかく、その実際の手口に、ちょっと甘いんじゃないか、緩(ゆる)いんじゃないか、う~んこれでいいのか?と考えてしまう部分もあって、そこがとても残念でしたが。

「真実が分かって救われました。これからは前を向いて生きていきます」早智恵が、犬飼に頭を下げる。見送るワンコに、ユキが言います、「解剖して真実が分かっても確かに誰も生き返らない。でも、法医学は死んだ人のための医学じゃない。死んだ人の最後の想いを聞くことで生きてる人を救うことも出来る」と。
事件の正しい解決とともに、法医学への理解を一歩深めたであろう犬飼の 今後の成長を予見させるようなシーンになっていたように思います。

エピローグ。ユキと村上の間に横たわる近寄りがたい距離、その鍵を握るであろう村上の弟の存在‥いったい何があったのか?すごく興味を惹かれるところです。
今年3月に続編が放送されていますが、その辺は明らかになったのだろうか。
未見の私、それを確認するのを楽しみにしています。


登場人物について。
桐山ユキ(仲間由紀恵
「女王」と呼ばれ、誰にも心を許さない、ちょっと近寄り難い、カチッとした、でも奥に熱いものを抱えている、といった独特の空気感。そこに、・・なんだけどね~という話し方とか、辛いもの好き(ワサビチョコバーがツボでした)の理由とか、ユキという人間の味付けが魅力的で、仲間さんの持ち味にぴったり。それだけでも見ごたえがありました。

犬飼一(松村北斗
ドラマにたまに出てくるワンコ系癒しキャラとは一線を画す、自立した芯を持ってる青年、という感じがしました。動き過ぎない、はしゃぎ過ぎない、キャピキャピしない、落ち着いている、この空気感は魅力的。
ドラマ的には、ユキとのバディ感を出したいのかな、二人をそういう立ち位置にさせたいのかな、という意図も感じられましたが、私は、あまりベタベタしない このくらいの距離感のほうが好きです。
欲を言えば、もう一色(ひといろ)、犬飼一というキャラクターに差し色が欲しかった気がしますが、それは今後に期待したいところです。

丹羽嗣仁(石坂浩二
法医学研究室の教授ですが、車椅子で、その理由は何なのか、も知りたかった。
部下を信頼していて、一歩下がったところから全体を見ている感じ、困った時には手を差し伸べてくれる感じが、なんとも素敵でした。

高嶺霞(新実芹菜)・林田匡(小松利昌)
誤解されやすいユキの良き理解者。林田は崇拝者とも言えるのかな。ユキとワンコの距離感を縮めてくれるクッションの役割もあり、しかも有能。二人とも使えるキャラで、いい味出してました。

安村泰介(西村元貴)
村上の部下ですが、キビキビ動いて、村上の信頼厚い右腕、という感じ。で、ユキに乗せられて暴走気味になる村上のことを心配している‥って言うより、大事な村上を使い放題してるユキにやきもち焼いてるように見えなくもない。(いや、もちろん勝手な妄想ですがw)
村上・安村、二人のシーンをもっとくれ~、と心の中でつぶやいていたことを告白しておきますw

村上衛(田辺誠一
何やらユキと因縁があるらしいですが、今回はそのあたりは詳しく描かれず。
短髪無精ひげがやたら似合って、最近ちょっとビジュアル枯渇気味の田辺オシにうるおいを与えてくれた。(同じ刑事なのにエビちゃん(海老沢芳樹@刑事7人)とえらい違いで、それもまた田辺ファンの醍醐味なのだよね~)
仲間さんとの相性も良し。これは絶対続編来るだろ、と思ったら、案の定‥で嬉しかったです。

ユキと村上の距離感。
安易に恋愛に発展しそうもない、村上の弟をめぐる何かが二人の距離を縮めることを許さない、そのもどかしさが私にはとても魅力的に感じられました。
冷め切っている、というより、それぞれが持つ熱をこれまでさんざんぶつけ合って、少し凪(なぎ)な今の状態に辿り着いた、という感じ。(でもまたいつ爆発するか分かんない危なっかしさがある)

田辺さん、それでもまだ村上のキャラをきちんと掴んでいない感じがします。少しずつ村上の芯が出来上がって行く様子を見たいので、続編‥は叶ったのでw、さらに3・4・5‥と続いて行ってほしいです。
エビちゃんも、参加4年目にして本当にしっくりして来て、揺らがない芯が出来た感がある。時間をかけて作り上げて行くタイプの俳優さんだと思うので、村上もぜひ大事に育てていって欲しいものです。


『女王の法医学〜屍活師〜』
放送2021年5月31日 20:00 - 21:54 月曜プレミア8
原作:杜野亜希「屍活師」 脚本:香坂隆史 演出:村上牧人
チーフプロデューサー:中川順平(テレビ東京
プロデューサー:黒沢淳(テレパック)、雫石瑞穂(テレパック
制作:テレパック 製作:テレビ東京 BSテレ東 テレパック
出演:仲間由紀恵 松村北斗SixTONES
小松利昌 新実芹菜 阿南健治 西村元貴
山下容莉枝 中田クルミ 利重剛 松澤匠 梅舟惟永 湯江タケユキ かとうかず子
石坂浩二 田辺誠一 他
公式サイト