『君と100回目の恋』感想

『君と100回目の恋』感想

最近、タイムリープと言われるような、
時間移動を題材にした映画が多いような気がします。
この映画もそのひとつで、
そういう意味では、新鮮味がないかもしれないのですが‥
でも私は、この映画の、いい意味での少女まんが的空気感みたいなもの
(少女まんがが原作というわけではないのですが)
が、何だか心地良かったです。

他のドラマや映画の感想でも何度か書いたことがあるのですが、
たとえば、少女まんがとか、今回のタイムリープものとか、
あり得ない話だったり、ファンタジーだったり、を映像化する場合、
観る側に(ドラマ上の)リアルなものとして受け入れてもらい、
かつ共感してもらうのは とても難しいと思います。
でも、この映画では、
登場人物たちも、彼らを取り巻くすべてのものも、
出来る限り 嘘 を感じさせず、違和感なく画面の中に存在させる、
それを観る側に(ドラマ上の)リアルなものとして納得させるための
引き込み方というかアプローチというか、
そういうものが ほぼ成功しているように私には感じられました。

そのあたりはやはり、
月川翔監督をはじめとするスタッフの力が大きいのかもしれないですね。
少女まんが風な映画の作り方を心得ている、というか。

葵海や陸たちの居場所‥大学構内であったり、自宅であったり、
海辺のライブ会場であったり‥がそれぞれにとても魅力的だったし、
小道具(葵海の目覚まし時計がかわいかった)
衣装(赤いワンピはちょっと気になったけど)にもセンスが感じられたし、
もちろん音楽も良かったし、
何よりもメイン5人のキャラが粒揃いで、
非常に良いバランス(それこそ少女まんが的な意味で)だったことに、
とても好感を持ちました。


葵海を演じたMIWAさんは、女優さんではないので、
確かに演技という点では少し物足りないところもありましたが、
彼女の独特の話し声がまるで声優さんのそれのようで、
とってもチャーミングで、かわいらしくて、
私としては思ったよりすんなりと受け入れられたような気がします。
何よりも、あの伸びやかな歌声には引き込まれました。

陸の坂口健太郎くんは、少女まんがに出て来る男の子の
ある種の堅さ(不器用さ)みたいなものを持っていて、
そのちょっと古風な雰囲気が、役と非常に合っていたように思います。
陸という青年が持つ味わいを自然にきちんと作り出せる人、
と言えばいいか。
伯父さん役の田辺誠一さんとどこか似ていて、
二人が一緒にいるシーンは 観ていて和(なご)みました。

直哉の竜星涼くんは、つい最近『賢者の愛』(WOWOW)で知って興味を持った
俳優さんですが、今回のキャラはあの時とまったく違っていたのでびっくり。
少女まんが的二枚目の端正な雰囲気を持ちつつ、
出しゃばらない、目立ち過ぎないところが良かったです。

里奈の真野絵里奈さん。
彼女の美しさと強さと一種の透明感が、とても魅力的に感じられました。
でも、どんなに魅力的でも里奈は主人公ではなく、
天然で人なつっこい葵海を引き立てるキャラに終始する、という、
その立ち位置の破たんのなさにも納得。

葵海・陸・直哉・里奈という4人の繋がりは、
長年少女まんがを見続けて来た私みたいな人間からすると、
懐かしさの感じられる まさに定番、という感じで、
目新しさはなく、若干の物足りなさが感じられたのも確かなのですが、
一方で、心穏やかに物語に委(ゆだ)ねられるような安定感・安心感が
あったようにも思います。

それと、5番目の見守り人・鉄太に泉澤祐希くんを持ってきたことも
とっても大きかった気がします。
他の4人とのバランスがすごく良いのですよね。
もっとおちゃらけたお笑い系の人が入ってもおかしくはないんでしょうが、
そうすると鉄太だけナマっぽくなってしまって、
せっかく4人が生み出したきれいな水彩画的空気感を
ぶち壊すことにもなりかねなかった。
キャスティングした方はよく分かってらっしゃる、と思いました。


ストーリーとしては、
正直、ずば抜けて面白い、というところまでは行かないし、
葵海の事故を絶対に止められないというのは無理があるだろう、等々、
ツッコミどころはいろいろあったのですが、
音楽と、それを残すアイテムとしてのレコードが、
葵海と陸の繋がりを示すものとして非常に重要な役割を果たしていて、
最後の葵海の「食べちゃっていいからね」という言葉の意味を考えると、
じんわりと温かい気持ちになりました。

また、死、というものを必要以上に哀しいものとして描かない、
お涙頂戴にしなかったところも好感が持てました。
過去を繰り返す(事故に直面する)ことで陸は傷つき続ける、
身体はそのままでも、心がどんどん疲れ果てて老いて行くような、
そんな陸をこれ以上見たくなかった葵海の選択‥

だけどそれは、決して哀しいだけの別れじゃない。
チョコレートのレコードを食べる、というのは、
葵海との想い出を陸の体内に溶け込ませ 沁み込ませること。
だから、彼女との想い出は死なない、彼女は死なない、
陸の中でずっと生き続けることになるのかな、と。


そんな二人をそっと見守る大人たち。
葵海の母(堀内敬子)のふわんとした温かさだとか、
大学教授(大石吾朗)の学生の昼寝くらい大目に見てくれそうな感じwとか、
こちらも少女まんが的心地良いゆるふわ感で、
メイン5人の色味を壊さず邪魔しない、程良い立ち位置に終始していて、
好感が持てました。

そしてもう一人、陸の伯父である俊太郎(田辺誠一)。
陸と葵海を子供の頃から見守り続け、
さらには、特別なレコード(時間を戻せる)を持っていた人。
この人が営む海辺の喫茶店「HASEGAWA COFFEE」が、
レトロな雰囲気でとても良かった。
ゆる〜い感じでのんびり商売しているふうなのも、
訳ありのレコードを隠し持っていたことも、
実は10年前、彼もまたそれを使って病気の妻を救おうとしたことも、
今日はカレーで次の日はカレーうどん食べるみたいなところもw
何だか妙に田辺さんの持ち味にフィットしていて、
観ていて微笑ましかったです。

亡くなった奥さんの写真が西田尚美さんで、
つい最近『とげ』(オトナの土ドラ)で二人は夫婦を演じていたばかりだったので、
思わず笑ってしまったのですが、
いやいや、それ以上に、
この映画を観始めた時から どこか空気感が似ているとずっと思っていた
ハチミツとクローバー』のこれはまさに逆バージョンではないか、
なんてことに気がついた時には、何だかほっこりしたりして。

で、スピンオフ小説『君と1回目の恋』を、
田辺さん以下の映画キャストに脳内変換して読み始めているワタシ。
脚本担当の大島さん、映画の俊太郎by田辺に触発されて
この小説書いたのかしらん、なんて、
思いっきりファン目線の都合のいい楽しい想像をしつつw
ゆっくり味わいながら読ませてもらおうと思っています。


『 君と100回目の恋 』     
監督:月川翔 脚本:大島里美 音楽:伊藤ゴロー
エグゼクティブプロデューサー:豊島雅郎 プロデューサー:井出陽子
制作・配給:アスミック・エース
出演:miwa 坂口健太郎 竜星涼 真野恵里菜 泉澤祐希
太田莉菜 堀内敬子 大石吾朗 田辺誠一 他
カメオ出演 SUPER BEAVER
公式サイト