『真田十勇士』(舞台)感想

真田十勇士』(舞台)感想

一部ネタバレしています。
特にこれから舞台をご覧になる方はご注意下さい。

2014年に上演され好評だった舞台の再演。
脚本:マキノノゾミ、監督:堤幸彦、主演:中村勘九郎、ということで、
観てまいりました。
正直、キャストの半分ぐらいの俳優さんしか知らなかったので、
十勇士がごっちゃにならないかな、と不安だったのですが、
知ってる俳優さんはもちろん、
知らなかった俳優さんたちもしっかりキャラ立ちしていて、
ワーッといっぺんに出て来てもちゃんと誰か分かって楽しかったです。

ただ、全員が揃うまでの前半は、
一人一人の個性が紹介される場でもあるので、
どうしても話が広がって行かないもどかしさはあるし、
(「十勇士」とか「八犬伝」とか 登場人物の多い作品をつくる場合
メインキャストをしっかり描こうとするとそうなるのは仕方ないんだろうけど)
ところどころに入るお遊びの部分(俳優が素に戻るところ)が、
私自身の中でうまく消化出来なくて、ちょっと戸惑ってしまったりもして‥
いや、PERFECT HUMANとかランニングマンとか、
某大河「真田丸」ネタとか、
笑わせられたり楽しいシーンもいっぱいあったんだけど、
小ネタが多くて「十勇士の物語」に集中出来ない場面もあったように
私には感じられたので。

それと、特に前半 気になったのは、
「物語」を動かす中心になる人物がいない、ということ。
佐助(中村勘九郎)も才蔵(加藤和樹)も主人公というキャラではないし、
その主君の真田幸村加藤雅也)は「たまたま」名前が知れ渡っちゃった
だけで、実は本人には大した力もない、ということで、
誰に(どこに)自分の気持ちを重ねたらいいのか戸惑って、
何となく焦点が定まらずにうろうろしちゃった感があったのですよね。
キャラとしてはちゃんと旨味が出てるんだけど、
戦国時代の終焉に最後の花火を打ち上げようとする男たちの
人間としての魅力が十分には伝わって来なかった
(私には感じられなかった)と言えばいいか。
彼らのバックボーン(何を背負って戦っているのか)から生まれる
矜持だとか、戦さに寄せる特別な気持ち だとか、
あるいは逆に、そういうものを持てないゆえの空虚感だとか、が、
それぞれのキャラに もっと乗って来ると、
さらに魅力が増したのではないか、という気がしました。
(まぁそれも、私個人の好みの問題かもしれないんだけど)


でもね、
そんな前半のいくらかの物足りなさは、後半になると吹き飛びますw
それまで感情移入するような場面が少なかった分、
幸村とその息子の大介(望月歩)が心を通じ合わせるシーンには
グッと来るものがあったし、
幸村にしっかり芯が通ることによって、
彼を中心に十勇士がまとまる、という構図がはっきりして来て、
そこらあたりから こちらも気持ちが入って行きました。

まぁとにかく、
戦闘シーンが ものすごく見ごたえがあるんですよね。
段差のある岩場やら、空中やら、舞台の奥やら客席やら、
あらゆる空間を立体的にうまく使っていて、
敵味方なく めちゃくちゃ豊富な運動量で がむしゃらに動き回る、
グワーッと迫ってくるような熱量が半端なくて、
これでもかこれでもかと続く全員総出の殺陣の連続に
ぐいぐい惹き込まれてしまいました。
舞台上であれだけ大勢の人が激しく動いて
あっちでもこっちでも剣を激しくぶつけ合い切り結んでいるのに、
無駄に立ってるだけの人が見当たらない、
誰一人 計算臭さが感じられないのには本当にびっくり。
どんな段取りになってるんだろう、どんな稽古をしたんだろう、
と、のめり込んで観入ってしまいました。 
で、この場面観るだけでも価値がある、と思ってしまいました。
中でも、
客席にまでせり出した高い岩場での佐助と久々津宗介(山口馬木也
の一騎打ちは、どっちも頑張れ〜っ!と応援したくなりました。
あと、登場シーンのほとんどが逆さ吊り状態の仙九郎(石垣佑磨)には
本当にごくろうさま、と言いたいですw


淀殿浅野ゆう子)の幸村への想いとか、
火垂(篠田麻里子)の才蔵への想いというあたりは、
どうしても、書き込み不足・表現不足で弱くなってしまった感否めず、
この二組には、それぞれに、
もう少し「想いの深さ」や「切なさ」が欲しかったように思ったので、
個人的にはそこがちょっと残念だった気がしますが、
まぁ そもそも 愉快・痛快チャンバラごっこ的舞台(いい意味で)なので、
あんまり甘いテイストを入れ込むことが出来なかった、というのも
仕方ないことだったかもしれません。
一方で、佐助を追い回すおみつ(田島ゆみか)はいいキャラだったなぁ。
あのぐらいマンガチックな方が、ストレートで分かりやすい。
もうけ役でしたね。


演出効果を狙って画像を使うのは新感線などでもおなじみですが、
今回は映画畑の堤さん演出ということもあってか、
かなり多用しています。
それがうまい具合に機能していたところもあるし、
そこまで丁寧に画像で見せなくても‥と思ったところも
正直あったように私には思えました。
分かりやす過ぎるような気がしたのですよね。
舞台って、観る側が想像力で補う部分がけっこうあったりするんだけど、
で、それがまた楽しかったりするんだけど、
今回はそういう楽しさを封じられた気がして、ちょっと寂しく感じました。


終盤、佐助と才蔵が戦う場面、
え〜っそんな展開になっちゃうの!?と思ったのですが、
結局は気持ちの良いエンディングになって、
最後には「楽しかった」という気持ちが強く残った舞台になりました。
おそらくそれは他のお客さんも同様だったのでしょう、
気持ちよく自然にスタンディングオーベーションの流れになって、
劇場全体が温かい空気になったのが、
なかなか心地良かったです。


新国立劇場・中劇場について。
私は新国立劇場は初めて。
中劇場は、すり鉢型で 列ごとの段差が大きいので、
前に座っている人が気にならず、舞台も観やすかったです。
今回は、通路や階段を使う演出も多く、
12列目(中央通路から3列目)の私の席からは、
何度か、すぐ目の前に勘九郎さん達を観ることが出来、
ちょっとドキドキしました。w


          9月25日(日)12:00- 12列20番台 新国立劇場(中劇場)

スペクタクル時代劇『真田十勇士     
脚本:マキノノゾミ 演出:堤幸彦 
音楽:ガブリエル・ロベルト 殺陣:諸鍛冶裕太
演出助手:松森望宏 舞台監督:小川亘 制作進行:児玉奈緒
プロデューサー:松村英幹 企画・製作:日本テレビ
出演:中村勘九郎 加藤和樹 篠田麻里子 高橋光臣 村井良大 駿河太郎
荒井敦史 栗山航 望月歩 青木健 丸山敦史 石垣佑磨
野添義弘 奥田達士 渡辺慎一郎 田島ゆみか 荒木健太朗 横山一敏
山口馬木也 加藤雅也 浅野ゆう子 他
公式サイト